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全国決勝前───咲は一人、休憩室で佇んでいた。 難敵との幾戦を重ねて、早決勝。 ここで来て姉という壁に当たる緊張に、胃が破れ千切れそうだ。 猶予は幾許も無い。どうしようもなく響く心臓の音は、咲のコンディションを着実に落としていた。 「どうしよう。やっぱり、怖いよ」 最後という最後に、皆が味わったであろう恐怖感が侵食する。 噫。それは、なんて────孤独。 「ジュース飲みに誘いに来たら……おいおい、『宮永咲』はそんな程度で夢を諦めちまうのか?」 「き、京ちゃん!?」 そんな静寂な空気をかき乱すかのように、何気なく彼はやって来た。 幼なじみで、同じ部の唯一の男の子で。周りは夫婦だの何だのとチヤホヤしてきたけど、そんなつもりは無かった。 むしろ、どこか距離を置いていた気がする。彼が忙しすぎただけかもしれないし、彼を好む他の女の子に配慮していたかもしれない。 「隣、座るぞ。」 うん、と静かに答えを返すと彼は無作法に、遠慮なく近くに座ってきた。 コイツは俺の奢りだ、と言って渡してきたジュースを飲むと、少しだけ楽になった気がした。 そんな様子を見ると、彼は安堵しておもむろに語りだした。 「俺が始めて咲を麻雀部に誘った時のこと覚えてるか?  あの頃は、同じ幼なじみのお前があんな特技を持ってるなんて知らなかった。  結構昔から見てきたけど、お前の家の事情とか何も知らなくて、自分の中じゃ大恥だった。  それでも俺は、お前を麻雀に誘った。これって、何かの縁なのかもしれないなって思ったけど、違うかな?」 柄にも似合わない事を感慨深く言い始めて、何か不審にさえも思った。 でも、私はなんとなく理解した。これが彼なりの気配り、心配してくれているんだと。 「───うん、多分これって運命なんだって思う。宿命、と言ってもいいかもしれない。  男の子の京ちゃんが、麻雀に勝手にハマって、知ってるって言っただけで強引に誘うなんて。  ……きっかけは、全部京ちゃんのせいだよ。まったく。」 オイオイ全部俺の責任かよ、と彼は笑い半分に悩みだした。 だけどそれが環になり部長、染谷先輩、優希ちゃん、そして───原村さんにも出会えた。 色んな強敵とも出会い、和を結んだ。アレ程嫌っていた麻雀が、私をここまで変えてくれた。 「俺は、俺はさ。自分が楽しく麻雀が出来ればそれで良いと思っているんだ。  でもお前たちの豪運や天賦の才能を見て、己の弱さに絶望した時もあった。  男一人というのもあって、孤立していたのもあったんだがな。  けど、そうやって戦ってきたお前たちも同じ悩みを抱えていた事に、この大会で気付かされた。  孤独感、劣等感、不快感、責任感───みんながみんな、そんな不安と戦っていたんだ。  それでも、精一杯勝ち続けて、ここまで実ったんだ。  だから俺は、逃げていただけなのかもしれない。己の非力さを認めないでいただけかもしれない。」 彼の内に秘めた不安を聞いて、ここまで自分が影響を与えていた事を知った時は心底驚いた。 それはもう、決勝で姉と当たる不安も忘れてしまう程に。 「本当の強さは、楽しめる心が無ければついてこない。  ───お前たちの麻雀を見てると、強くなれそうな気がしたんだ。  だからよ、その、なんだ。……悩むな、楽しんでこい!」 「なんだそれ」 ふふ、と笑うと彼は「ああ、参ったな。変なキャラになってんのかもな」と言わんばかりに焦る。 初めて出会ったあの時も、麻雀を誘ったあの時も、こうして一人不安を抱えてる今も、本当に突然やってくる。 白馬の王子様、と言うには少々頼りないが、それでも私を元気づけるには十分すぎる言葉だった。 「京ちゃん、ありがとう。」 ふと。 気付けば私は、彼の身に乗り出して頬に口づけをしていた。 彼の赤らめる顔を見ると、自分も紅潮して決勝どころじゃ無くなりそうな気がしたので、すぐさま決勝卓へ向かった。 休みも取れたし、勇気も貰った。よし、そろそろ本気で楽しまなくちゃ――― #comment

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