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  玄さんの泣き顔が好きだ。 以前、そう言ったときのみんなの複雑そうな表情を今でも覚えている。先生だけが肩を竦めて呆れていたが。 だが俺は別に女の子を泣かせて悦にいる加虐趣味はないし、玄さんが嫌いというわけでもない。 どちらかと言えば部もみんなのことは好きだしその中でも玄さんとは仲の良いほうだと思う。 二回戦先鋒戦終了後、目に見えてヘコんでいる玄さんを見てすぐにでも迎えに行きたかった。 しかし宥さんの手前強くは出れず、次縫として会場へ向かう宥さんの背中を見送ることになった。 それでも俺はジッと待っていることが出来ず、控え室を出た。誰も止めるものはいなかった。 控え室から最短でまっすぐ行けばいずれは出くわすはずだが、玄さんの姿いまだ見えない。 途中、自販機の横の長椅子にうな垂れて座る玄さんが見えた。俺は言葉を捜す。 小銭を取り出し、自販機に投入。ボタンを押して、出て来た商品を受け取る。 京太郎「玄さん」 うるさくならないよう静かに声をかける。 傍らに立っても微動だにしなかった玄さんの頭部がようやく上げられる。 声をかけるまで俺の存在に気付いていなかったのか。 玄「京太郎くん……」 呟きに首肯しつつ、今し方買ったココアを差し出す。 京太郎「ココア、好きでしたよね。それに疲れてるでしょう? どうぞ」 玄「……」 しかしその手は伸びない。 俺は玄さんの前にしゃがみ目線を合わせる。 力なく膝に置かれた手を取り、優しくスチール缶を握らせる。 玄「……」 返事はない。普段の玄さんからは想像できない。 俺は自分の分の缶コーヒーを買足し、 京太郎「隣、いいですか?」 玄「……」 やはり返事はない。前髪に翳って表情は伺えないが拒絶の意も見て取れないため俺は玄さんの隣に腰を下ろす。 玄「ごめんね……」 長い沈黙を破って紡がれた最初の一声は謝罪。 俺は黙って耳を傾ける。 玄「みんなに、先鋒、任されたのに……私なにもできなくて」 自身の言葉で先鋒戦での結果を思い出したのか、小さくしゃくり上げる。 ポケットからハンカチを取り出し玄さんに差し出す。 僅かに戸惑うが、それでも今度は自分から受け取ってくれた。 京太郎「元気ないの、玄さんらしくないですよ」 玄「うん。おねーちゃんにも言われちゃった……」 目元を拭いながら自嘲気味に笑う。 京太郎「宥さんに……」 それだけ呟いて、俺も押し黙る。 玄さんもなにも答えない。 俺はコーヒーの容器を呷る。 玄「情けないよね? 阿知賀のドラゴンロードなんて言われても、実際はこんなもの」 玄「みんなの大事な点棒、いっぱい取られちゃった……」 嗚咽交じりの独白。盗み見た目元は赤く充血していた。 京太郎「そんなこと……」 「ない」っと続けられず、言葉尻は擦れて消えた。 京太郎「大丈夫、ですよ。玄さんはよく耐えました。後はみんながきっとなんとかしてくれますよ」 俺は矢継ぎ早にまくし立てる。 無言が続けば玄さんの意識は内に向いてしまう。そうすれば真面目な玄さんは自分を責め、自責の念で潰れてしまう。 意識を外に向けるために俺は会話を続ける。 京太郎「さぁ、もう戻りましょう? みんなも心配してますよ」 そう促すも、玄さんは動こうとしない。浮かしかけた腰を仕方なくまた下ろす。 玄「京太郎くんは……なんでそんなに優しいの?」 突然の玄さんの問いかけ。 京太郎「そ、れは……チームメイトですし」 かろうじて搾り出す。その言葉に玄さんの瞳にまたも影が差す。 玄「そっか、そう……だよね」 落胆に肩が落ちる。玄さんの真意が汲み取れず、俺の視線と口先が行き場を失う。 京太郎「あの、玄さん?」 玄「私ね、京太郎くんのこと……好き、なのかも……」 不意打ちだった。突然の告白。一瞬呼吸が途絶する。 玄さんは俺とは反対側に顔を背ける。かろうじて見える横顔の頬だけが赤らんでいた。 俺は小さく息をつく。 向けられる好意は確かに嬉しい。だがそれが本当に玄さんの本心なのかはわからない。 だから俺は俺の気持ちすらも誤魔化すことにする。 京太郎「玄さん。今の玄さんは心が弱ってるんです、だから俺の親切を好意と勘違いしただけで」 玄「違うよ!」 張り上げられた声に俺と、そして発した玄さん自身が驚く。 玄「ちが、その違くて、だから……はぁ」 意味を成さない言葉を繰り返し、最後は諦観の溜息。 俺はなにも言えないでいる。 玄「京太郎くんが麻雀部に入った頃、いつも一生懸命で麻雀はまだ初心者だったけど牌や卓の整備とか部室のお掃除とかたくさんがんばってて」 玄「なんか、私が一方的に親近感っていうかシンパシーみたいなの感じてて、気付いたら……いつも目で追ってたんだ」 尻すぼみに消える声。言い終えて、玄さんの頬の赤さが増す。 玄「ごめんね! 突然、こんなこと言われても迷惑だよね? ホントに、ごめんね……」 玄さんの瞳に波紋。目尻には水気が増す。 泣いている貴方はいつも俺の心に沁みこんでくる。 そう感じる自分が嫌いではなかった。 俺は半ば無意識に玄さんの頭に手を伸ばしていた。 墨を流したような美しく艶やかな黒髪を指先でなぞる。 薄い肩が小さく跳ねる。 京太郎「そんなことないですよ?」 ほんの少し、玄さんの瞳に感情の光が戻る。 京太郎「まぁ驚きはしましたけど、その……嬉しかったですし」 玄「っ///」 玄「でも、京太郎くんはおねーちゃんのことが、好きなんじゃ……」 最後は辛うじて聞こえるほどか細い声。俺は今度こそ驚愕に口を開く。 京太郎「宥さん? なんで宥さんが」 玄「だって、いつもおねーちゃんのこと見てるし」 ……………………やっべ。 この状況で実はいつも宥さんのおもちに目が行ってました言えるか? 俺は言えない。 いや、しかし……。 京太郎「えっと、ですね。それはたぶん俺が宥さんのおもちを見てた、ん、だと……思……」 なんで俺こんなことぶっちゃけちゃってるんだろうな? 間抜けにも程がある。 俺の言葉に玄さんは目を丸くする。そして、 玄「ぷっ、あはは、あはははははは」 弾かれたように笑い出した。もはや爆笑だった。 京太郎「ちょ、おおい。そんな笑わなくてもいいでしょうよ」 恨みがましい目を向けるが、俺の気持ちなのど意に介さず玄さんは笑い続ける。 玄「あははは、だってぇ~」 ここまで盛大に笑われてはいっそ清々しい。もう怒る気にもなれない。 俺は肩を落とし、自身からも乾いた笑いを漏らす。 京太郎「はぁ、もういいですよ~だ」 いじけた素振りに玄さんは「ごめんね?」と謝罪を入れてくる。もうどうにでもなれだ。 ようやく笑いが収まってきてのか、目尻に浮かんだ涙を拭いながら微笑んで見せた。 玄「えへへ」 俺は息を呑む。それは試合が終わって俺とここで話し始めてから初めて見せてくれた笑顔だった。 額に手をあて、それから前髪を掻き揚げる。 ようやくわかった。 京太郎「ああ、そうか。この瞬間が好きなんだ」 玄「?」 京太郎「玄さん。俺は……俺が傍にいたいって思うのは他の誰でもない玄さんです」 玄「っ!?///」 京太郎「玄さん、一見しっかりしてるようで結構抜けてるとこありますし意外と泣き虫ですからね」 玄「そんなこと……」 俺の揶揄に拗ねたように唇を尖らせるが、俺は無視して言葉を続ける。 京太郎「自惚れかも知れないですけど、俺が傍にいて支えてあげないとってそう思ったんです」 肩越しに腕を回し、再び玄さんの頭、側頭部を掬うように撫でる。 玄さんの朱に染まる頬を愛おしげに見つめる。 京太郎「泣いたっていいんですよ」 俺は小さく力を込め、玄さんを優しく抱き寄せる。 お互いの鼓動が聞こえそうなほどの距離、吐息は熱を帯びて色付いていた。 玄「京、太郎くん……」 濡れた唇がかすかに震える。 どれだけ悲しくても、辛くても、 京太郎「なぁ玄さん」 これから先もずっと、俺が何度だって笑顔にするよ。だから……。 京太郎「もっと、いっぱい笑って」 カン!  

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