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  京太郎「腹減ったな、早く学食に」 玄「あ、京太郎くん!」 京太郎「く、玄さん?」 玄「よかったぁ。お昼まだだよね?」 京太郎「はい、まぁ……」 玄「えっとね、今日もお弁当作って来たんだ」 京太郎「え?」 玄「一緒に食べよう」ニコ 京太郎「あ、ああ。ありがとうございます。なんか毎日すみません」 玄「そんなのいいよ。だって……恋人なんだもん///」ポッ 京太郎「あ、はい………………ハァ」 京太郎「ああ、わかってる。うん。メシもちゃんと食べてるから」 京太郎「うん、うん。そっちもカピにちゃんとエサやってくれよ。冬季休みには帰るから。うん、じゃあまた」 京太郎「ったく、いい加減息子離れしろっての」ピッ 玄「京太郎くん」 京太郎「うわぁ!? 玄さん、驚かせないでくださいよ」 玄「ごめんね。話し声が聞こえたから。それで……」 玄「誰とお電話してたのかな?」 京太郎「誰って、なんで?」 玄「えと、気になっちゃって」 京太郎「? 母親ですよ。最近連絡しなかったからって向こうから掛けてきて」 玄「あ、そうなんだ。お義母様に」 京太郎「もういいですか?」 玄「あ、ごめんね? 引き止めちゃって」 玄「冬休み……か」ボソ 京太郎「!?」ゾクッ 玄「京太郎くん、京太郎くん」ユサユサ 玄「起きてください。朝ですのだ」 京太郎「ん、ん~玄さん?」 京太郎「え!? 玄さん、なんで?」 玄「えへへ、京太郎くんに朝ごはん作ってあげようと思って」 京太郎「えっと部屋、鍵とか掛かってましたよね?」 玄「アパートの管理人さんに言ったら、鍵開けてくれてね」 玄「『まるで通い妻みたいですね』って、えへへなんか照れちゃうね///」 玄「あ、ご飯もう出来てるから。着替え終わったら言ってね? 洗濯もしちゃうから」 パタパタ 京太郎「俺の…………休日」ガクッ 京太郎「もう、無理だ……」 ケータイ電話を開いてフォルダを確認する。 未開封の電子メールが27件。見てる間にまた1件、また1件と増えていく。 差出人の名前を確認する必要もない。 端末を操作し、新たに文章を作成。内容はこれから会えないかとうい旨。 おそらく確認を取る必要もないだろうがそれでも最低限の義務感がそうさせた。 すぐに返答が帰ってきた。内容を確認し端末を閉じて立ち上がる。 身支度を整えてアパートを出る。 2人で歩いた河原。夕映えが水面を朱に染めている。 玄「京太郎くん!」 呼ばれる声に振り返る。頬を上気させながら玄さんが駆けて来るのが見えた。 玄「どうしたの? こんな時間に」 疑問を投げかけつつも、その表情は俺と会えた嬉しさに色付いている。 玄「えへへ、京太郎くんから会いたいなんて珍しいね? これからどこかご飯でも、あ! なんだったら私が作っても」 京太郎「玄さん」 玄さんの言葉を遮るように少し語気を強めて名を呼ぶ。 玄「京太郎くん? どうしたの? 顔、怖いよ……」 京太郎「玄さん、俺たち。別れよう」 玄「え……?」 僅かな静謐。なにが起きたのかわからない、と表情が雄弁に語っていた。 玄「なに、言ってるの? ねぇ、嘘、だよね?」 俺の腕を掴み揺さぶってくるのを、ただ黙ってみていた。 玄「私、なにかしちゃったのかな? 悪いところがあるなら直すから、ヤダよ。そんなこと言っちゃヤダァ!」 俺はゆっくりとした動作で乱暴にならないように注意しながら玄さんの手を解かせる。 京太郎「すみません。玄さん、もう限界なんです」 玄「限界って、な、なにが……?」 唇がわななき、声に嗚咽が混じりだす。眼窩には水滴が溜まり決壊寸前だった。 京太郎「毎日弁当作ってきたり。朝、目が覚めてた部屋にいたり」 玄「え? え? だって、それは、京太郎くんのために……」 京太郎「違うでしょう? 自分の為でしょう?」 玄「そんな、違うよ!?」 京太郎「玄さん。あなたは、"重いん"ですよ……」 その一言に玄さんは全身が硬直する。瞳が上下左右に小刻みに動く。雫が白い頬に軌跡を引く。 俺は視線を逸らし、黙って歩き出す。 玄「ぁ、待って!」 懸命な声。まるで親に置いて行かれまいと追い縋ろうとする童女の哀叫。 鈍い物音。おそらく脚を縺れさせ、玄さんが転んだ音。 振り返りそうになる自身を必死に制御し、ポケットに突っ込んだ拳を強く握り絞めながら歩を進める。 玄「お願い、待って、待ってよぉ……」 背後から聞こえる制止の声は、誰にも拾われることなく落ちて消えた。 なにもする気が起きない。 ベッドに凭れ掛かり無言のまま天井を見詰めていた。昼過ぎにのそのそ起き出し、なにも食べずに無為に時間だけを消費していた。 あの離別から3週間ほどが経った。あれから玄さんとはプライベートでは会っていない。 学校や部活で会っても、最低限の事務的な会話をするだけでそのときですら視線を交わそうともしない。 最初の3日は着信と電子メールが嵐のように送られてきたが、しばらく経つ内に数を減らし1週間後には途絶えていた。 予想以上に俺は堪えていた。自分から投げ捨てておいて、勝手に落ち込むなどなどなんて身勝手だろう。 それでも愛した恋人の喪失は重く辛く、俺の心を軋ませる。 瞼を下ろし視覚を遮断。世界を拒絶しても痛みは変わらない。 今になって実感出来る。俺は本気で玄さんを愛していたんだと。 起こしていた上半身を床に横たえる。指先に固い感触。 それがケータイだと理解するのに5秒かかった。 半ば無意識に端末を弄り、写真フォルダを開示。俺と玄さんが2人で映っている写真が縮小されて整列されている。 俺はその一枚一枚を開き、閲覧していく。 その行為のあまりの女々しさに内心で自嘲が沸く。そしてまた痛みが襲う。 痛みから逃れるために思い出に縋り、また痛みを感じる。そしてまた別のものに縋る。負の循環構造。 気付くと、電話帳が開かれ『松実玄』の文字が浮かんでいた。 今更、なにを話そうというのか。俺は自分を皮肉気に鼻先で笑い端末を閉じる。 しかし指先は俺の意思に反して通話を開始していた。あるいは俺の根底にある想いがそうさせたのか。 僅かな呼び出し音。出るはずがない。だが、回線は留守電登録に移行することなく奇跡的に通話は繋がった。 玄「はい……」 短い、躊躇いの空白。 京太郎「玄さん。元気、か?」 玄「うん……」 怯えを含んだ声音。戸惑いが舌を粘つかせる。 玄「京太郎くんは?」 京太郎「ああ、うん。変わりないよ」 なんとも間の抜けた会話だ。部活では顔を合わせているのだ、互いの近況など知らぬ筈がない。 恋人だったときは無限に会話が続いたのに、今となっては続ける言葉が一つも見当たらない。 電話越しに小さな、すすり泣きが聞こえた。 京太郎「玄さん?」 玄「あ、えへへごめんね? 泣くつもりなんてなかったんだけど、京太郎くんの、声、聞いたら……ふええ」 すすり泣きは本格的な泣き声に移行しつつあった。 玄「こんなんじゃ、京太郎くんに、重いって、愛想尽かされるのも、無理ない、よね?」 今尚、自分へと向けられる愚かしいまでの直向きな愛情に想いが込み上げる。 京太郎「玄さん。俺たちまだ」 玄「待って!」 激しい拒絶の声。ケータイが声を再現しきれず割れたような電子音を響かせる。 玄「それ以上言われたら、もしかしたらって。まだ戻れるかもって、思っちゃうから、だから……」 玄さんの言葉に俺は二の句を詰まらせる。 一時の思いでよりを戻しても、いずれまた俺たちは互いに傷付けあう。ならいっそもうこれっきりにするべきなのか? 感情では惹かれあっていても理性がそれを拒絶し、理性的な思考には感情が従えない。 胸中を荒れ狂う激情の乱流。 沈黙の真綿が首筋を締め上げる。 玄さんの言葉を身の内で反芻する。玄さんは俺への想いを断ち切れないでいた。 なら俺はどうなのか。 心なんて、たかが数百種の脳内物質と電気信号の集合体。恋愛感情も種の生存本能、性欲の延長に過ぎない。 三文小説のチープな言葉を借りれば他に女なんていくらでもいるし、前向きに考えれば痛みを伴う失恋を忘れて新しい恋を探すほうが建設的だ。 つまり松実玄という1人の女性に固執する理由など、理論上まったく存在しない。 それでも俺は玄さん以外の女性を愛したいとは思わなかったし、他のそういった相手を探そうとも思えなかった。 電波によるか細い繋がり。これを逃したら、もう本当に俺たちは終わってしまうのかもしれない。 京太郎「玄さん、今どこですか?」 玄「え? 今、家だけど」 京太郎「今から行きます」 玄「ふぇぇ!?」 京太郎「自分勝手だってわかってます。酷いことしたって、切り捨てたのは俺なのに」 京太郎「けど俺は、あなたに直接会って謝りたい」 玄「わからないよ。私があなたを許せるか、あなたが私を受け入れられるかも」 京太郎「それでもいい」 回線を切りながら俺は立ち上がり、自分で自分の両頬を張る。 自室をとび出すし、玄さんのいる松実館へわき目も振らずに駆け出した。 カン?  

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