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プロ御用達の癒し屋、京ちゃん
疲れた…
早く…早く帰りたい
帰れば…あの子が待っている…私の孤独を埋めてくれる
癒してくれる……
ああ、もう家はすぐそこだ
早く、早く中に……!
ガチャっ
私が到着するよりも先に扉が開いた
「あっ、やっぱりそうだ! 足音で分かりましたよ
外は寒かったでしょう? さあ、どうぞ
お風呂沸かしてますから
ご飯を食べて待っててくださいね?
おっと…そうだった
お帰りなさい……野依さん」
私の自慢の癒し屋さん…須賀京太郎君だ
…
…
「理沙!」
彼がわざと言っているのを知っている私は言い直すように求める
むきになるところが可愛いらしいのだ
だから私も強調して言う
「あらら、ごめんなさい理沙さん
ほらほら、早く中に入りましょうね」
「ただいま!」
「はい、コートあずかりますね
今日は鍋ですよ」
「いいにおい!」
「ふふ、ありがとうございます」
ああ…この素敵な微笑を見るために今日も頑張ったのだ
今夜も寝るまでずっと幸せな時間がくる…
…
…
「あがった!」
「髪は?」
「乾かした!」
「はい…もう待ちきれないみたいですね」
「早く!早く!」
急かす私を腕を広げて父親のような慈愛の笑みで迎える年下の彼…
「ほら、おいで…理沙」
「ふぁぁ…」
思わず間の抜けた声が出てしまう…
仕事が終わってからはずっとこの時の事ばかり考えていたのだ
一気に一日分の体のこわばりが抜けた私は倒れこむように
京太郎君に抱きついて体を擦り付ける
「んん…んふぅ…ん……」
「こらこら…」
腕を背中に、足は腰に回してその広い胸に思う様、頬ずりする
男性特有の硬いお腹に体をぴったりとつけると、それだけで心地良いのは
私がそれほど彼を好きだからに違いない
困った顔をしながら私の髪を梳くように撫でてくれる京太郎君
「今日はどんなことがあったの?」
「聞いて…くれる?」
「うん、何でも言ってごらん」
口下手で興奮すると怒ったように喋ってしまう私の悪い癖も
ここでは全く消えて、素直に彼に心中のわだかまりを吐露できる
「解説の仕事……あれ、もう…イヤ
うまく話せないもん…
ちゃんと伝えられなかったら
頑張って打ってる選手達に悪いもん…
なのに、もう私って何やってるんだろうって…
今日の隣の実況の人だって…きっと私のこと……」
途中から涙声になった
一度決壊すると止まらない
京太郎君の暖かさに頭の中の氷も胸の中の氷もどんどん溶けていって…
目から溢れていって…
…
…
「理沙」
こんな情けない愚痴を黙って聞いていてくれた京太郎君が口を開いた
「理沙は一言ずつ、言葉を選んで言ってくれるからちゃんと正しく伝わってるんだよ?
それはとっても大事なことなんだ
むしろ、ぺらぺら喋るよりもよっぽど解説に適してるって俺は思うな
卓の上では状況がどんどん変化していくんだから、喋っている間にもう次の展開が…なんて
よく見るけど、理沙はそんなことない
変化に合わせて解説できるから、それは理沙の強みなんだ
だから…ねっ? 泣き止んで、自信を持って」
「きょうたろうくぅん…」
もう止まらない
涙も、体の擦り付けも
結局、そうやって私は二時間近く、ずっと年下の男の子に甘え続けた
…
…
「もう寝ますよ理沙さん」
私の甘えん坊モードが終わると、
京太郎君もお父さんモードから世話好き少年モードになってくれる
さすがにあれだけ泣いてすっきりしたら、私だって15歳の子に甘えるのも少し恥ずかしくなる
「寝る…」
「はい、おやすみなさい」
電灯を消して一緒の布団に入ってくれる京太郎君
腕枕があたたかい…
その体温のまどろみに、今日はちょっと欲が出てきた
京太郎君の方に体を向けてリクエストをする
「子守唄…」
「ん?」
「唄って…」
苦笑する声が聞こえたけれど、
すぐに京太郎君は私の背中をそっと触れるぐらいに優しくぽんぽんと叩きながら
唄ってくれた
「ねむれよい子よ にわや まきばに……♪
とりも ひつじも みんなねむれば……♪」
この優しい歌声を今夜の夢のお土産に持っていこう…
また良い夢が見れるね…
それも今夜は特別に素敵なのが…
ありがとう、京太郎君…おやすみ
「つきは まどから……♪
ぎんのひかりを そそぐこのよる……♪」
カンッ