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   スガキョータロー。  彼は、私にとっては、ただのクラスメイトでしかなかった。 『須賀京太郎です、家事全般と世話焼きが得意です。あと、家ではカピバラ飼ってます。クッソ可愛いです。よろしく』  自己紹介で笑いを取っていた彼は、私のすぐ前の席であった。  隣の見ず知らずらしい男子に、くっだらねー、と言われて、『いいだろ別に、それくらいしか話すことないんだから』と笑いながら返していた。  それくらいの印象しかなかった。  要するに取るに足らない程度の存在である――こと私にとっては。 『大星淡。よろしく』  それだけ言って席に着く。担任の先生が戸惑っているのが見えた。カンジワルーイ、お高く止まっちゃって、そんな言葉も微かに聞こえる。気にも留めないから、別にいいんだけど。  私は、貴方達とは違う。  故に、僻み妬み嫉み大いに結構。  その代わり、私に関わらないで欲しい。と、そう思った。  関わったところで。  悲しい思いをするのは、私だから。 『よう、大星――だよな?』  と、言った側から――いや言ってないけど。  前の席の男子――スガキョータロー、といったか――が、身をこちらに向け話し掛けてきた。 『なに、何か用?』 『いや、別に用って訳じゃねーけどさ』  睨む。用もないのに、一般人が私に話し掛けていいと思っているの? 許されざるよ。 『用がないなら話し掛けないで。目障り耳障り鼻障り』 『んな邪険にするなよ……って、匂うか? 俺』  と、学ランをくんくんと匂い始めるスガ。挙句、風呂には入ってんだけどなあ、なんて素っ頓狂なことまで言い出す始末。 『あー、もう放っといてよ。何? アンタ、馴れ馴れしくない?』 『そうだ、思い出した』  しぴっ、と私を指差す。へし折ってやろうか。 『いてえ!』  へし折ってやった。 『何すんだいきなり』 『こっちの台詞なんだけど? いきなり人を指差しておいて』 『あー、それはまあ、悪い。それでさ』  謝り方が足りない。申し訳なさがゼロである。信じられない、この私を誰だと思って――。 『少し前、麻雀の大会に出てたよな?』 『……………………』  どうやら。  私が誰だかはわかっていたらしい。 『そうそう。去年さ、テレビ中継に出てただろ? 俺、たまたま見てたんだよ』 『…………ふーん』 『それでさ、自己紹介してる時、もしかしてって思ったんだよ。いやー、道理で』 『それで』  ピシャリと言葉を遮る。 『それがどうしたの?』 『いや、まあ。どうって言われても、それだけなんだけどな』 『……あっそ』  てっきり麻雀を教えてくれだとか言われるのだと思ったが、そうではないらしい。拍子抜けするが、そちらの方がめんどうくさくなくて都合が良い。むしろ今はっきりと聞いておこう。 『打つの?』 『ん?』 『だから。打つの?』 『打つって、何を?』  今までの会話で察せないらしい。これは相当に鈍感である。 『だから、麻雀。打つの?』 『ああ、そーいう』  ようやく理解したらしく、スガはポンと手を叩く。 『いや全然』 『………………』  何だコイツ。  じゃあなんで私に話し掛けてきたの?  意図が掴めない。 『麻雀のルールも知らないのにテレビ中継なんて、さぞ面白かったんでしょーね』  皮肉を言う。大方、チャンネルを回してたらたまたま目に入っただけだろう。  もういいや。  これ以上、こいつと関わるのは時間と労力の無駄だ。 『いや、それが全然ルールわかんねえから面白くもなんともなかったんだけどさ』  当たり前でしょ、と心の中で毒づく。もう視線は明後日の方に向けていた。本当なら今ここで寝た振りでもして無視したい気分である。 『ただ、大星が楽しそうに麻雀打ってるの見てたらすげー面白くてな』 『………………』  否定は、しない。  あの時の私は、打つことが楽しかった。  でも高校に上がったからには、それではいけない。  楽しい麻雀じゃなく。  勝てる麻雀を打たなきゃ。  その為には、今までみたくヘラヘラしてちゃあ駄目なんだ。  ――だから。 『だからさ、さっきの自己紹介。あれ、お前らしくないなって思って』  カチン、と、トサカに来た音が脳内で聞こえた。 『……入学初日に、初対面の男子に、そんなこと言われるとは思ってなかったよ』  そんな、無責任なことを、言われるなんて。 『あんたに、一体! 私の! 何がわかるのよ!』 『何を知ってるって、常に自信満々ってところとか?』 『………………………………は?』 『あぁ、あと麻雀が強い』 『………………………………ん?』 『それと、髪の毛がサラサラで綺麗』 『きれ』  復唱しようとして言葉が詰まる。  綺麗、だって――?  なにを、言っているんだ――この男子は――スガ、キョータローは。 『今の時点だと、それぐらいかなー……おいどうした、鳩が豆鉄砲喰らったような顔して』  誰がそうさせたと思って――! 『笑ったら可愛いんだから、勿体ねえぞ?』 『かわっ!?』  一気に顔の熱が上がったのがわかった。なに、なんなの、こいつは、私は――どうしちゃったの? 『って、どした。顔赤いぞ?』 『っ!?』  顔が。  近い。 『あ、あ、あわ――』  睫。  唇。  瞳。 『あわああああああああああああ!!!!!!!!』 『へぶぅっ!?』  気が付いたら私は。  その男子の頬を、平手で張って。  無我夢中で、教室を飛び出していた。 『馬鹿じゃないの!? 馬鹿じゃないの!? 馬鹿じゃないの!?』  口ではそう言いつつ、脳裏には彼の心配そうな顔が常に浮かんできて。  目一杯走って、走って、走り疲れて、廊下の端にへたり込んで。 『……なんなのよ、もう!』  暴れる心臓を手で抑える。 『……すが……きょーたろー……』  覚えたばかりの名を、小さく復唱する。  脳の奥が揺れる音が、聞こえた。 『ってえ~……なんだよ、アイツ……』 『よお、お前、すげーな』 『え? 凄いって、なにが?』 『なにがって、お前、大星を口説いてたじゃん。初日からお熱いことで』 『……口説いてたぁ? 俺が?』 『口説いてたよ、ガッツリ……って、自覚なしかよお前』 『まさか。俺はただ、思ったことを思ったまま言っただけだぞ?』 『……あぁ、もう、お前がそう思うんならそれでいいやもう。疲れた』 『? なんだってんだ……?』  ツンツンたまにデレなあわあわがもっとはやることを祈りつつカン  続かない。  

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