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837 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 15:04:07 ID:53lT04M4
813のシナリオを中心に書いてみた ※グロ注意…かな
『タコスのソースは赤い色』
急に足場を失ったような気がした。
いつもより少し早く部室に着いた優希は元気よく部屋の中へ飛び込むつもりだった。しかし僅かに開いた扉から見える光景が優希の足をその場にとどめていた。
京太郎と咲が部屋の中央で抱き合っていたのだ。
まるで恋人同士だった。二人はやがて密着した状態から少し離れ、お互いに見つめあう。そして顔を近づけたところで優希は我に返り、一歩後ずさった。
そのあとの行為を見ることなく、優希は急いで、しかし二人に気づかれないようにその場から逃げた。なぜ気づかれないように逃げたのか、優希にもわからなかった。
気がつくと優希は自分のベッドの中にいた。枕が幾分湿っていた。
「夢…?」
違うことはわかっていた。壁掛け時計は午後七時を指している。あのあと無我夢中で自宅にたどり着いたのち、布団にもぐりこんだらいつの間にか眠ってしまったのだ。
「起きたく…なかったじょ…」
ひどく体がだるい。ベッドの中から部屋を見回すと電気はついておらず、鞄は床に放り投げられていた。カーテンも閉め切られている。暗く、狭く、ばらばら。
自分の気持ちが外に出てきたようで嫌になり、優希は再び目を閉じた。視界がさらに暗くなる。
「ご飯…食べなきゃ…」
思いついたように言うと優希は気を奮って階下に降りていった。しかしその日はどうしても夕飯を摂る気になれなかった。
おかしい、と和は思っていた。一昨日の放課後、優希が部活を休んで以来、彼女の顔を見ていない。どうやら昨日は学校まで休んでいるようだった。
「どうしたのでしょう…」
和にも薄々その答えはわかり始めていた。優希が学校を休むほどのこと、それはあの二人に関係しているに違いないからだ。
お見舞いに行かなくちゃ、そう思い和は優希の家へ向かった。ただ何と声をかければ良いのかわからなかった。わからないまま優希の家が近づいてくる。
838 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 15:09:50 ID:53lT04M4
優希の母に断わりを入れて、優希の部屋へ向かう。ノックをするが返事はない。
「優希、私です。入りますよ」
そう言ってからドアを開ける。中からどんよりとした空気が流れ出てきて和の肌に当たった。親友がどれだけ苦しんでいるか、それだけでわかるような気がした。
その時和の中に一つの感情が芽生えたが、それはすぐに消えてしまい、彼女は意識することができなかった。
部屋の灯りはついておらず、カーテンも閉まっている。ベッドで優希がうずくまっているのがなんとか認められた。
「電気、つけますよ」
「つけないで」
返事はすぐに帰ってきた。すこし鼻声だった。
「…椅子、借りますよ」
和は優希のキャスター付きの椅子をベッドのそばに持ってきて、腰を下ろした。優希は動かない。
「どうしたんですか優希。風邪ではないようですけど」
「…言いたくない」
「どうしてですか。私たち親友じゃなかったんですか」
優希の背中がぴくりと動いたのが和にもわかった。和はそれが嬉しかった。
「…須賀君と…宮永さんのことじゃないんですか?」
優希は起き上がって和の顔を見た。少し見上げる格好だ。その目は驚きを表していた。
「そのくらい…わかりますよ。私たち、何年親友やってるんですか」
「………のどちゃん…」
「今まで辛かったでしょう」
優希は唇をゆがめた。悟られまいと次には上下の唇を折りたたんだ。
本当に気の強い娘…
そう思いながら和は優希の表情を見ていた。必死に何かを我慢し、ぐっとこらえているような表情だった。和は椅子を立ち、優希のそばに寄った。
吐き出させなきゃ…
和はうつむく優希の顔を両手で包みこむように支え、目じりに溜まったものを親指でぬぐいながらごく素朴に、静かに言った。
「かわいそうに」
優希を解き放ったのはこんなにも簡単で、素直な同情の言葉だった。堤防が壊れたダムのように優希は涙を流し続けた。しゃくりあげながら泣く優希を和はそっと優しく抱きしめた。
階段を駆け上がってくる音が聞こえる。おそらく優希の母親だろう。それくらい優希の泣きかたは激しかった。
839 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 15:15:10 ID:53lT04M4
優希の母が部屋から出て行き、優希もだいぶ落ち着いてきた。カーテンを開けると日差しが取り込まれた。暗がりに身を寄せようとする優希の隣に和は腰かけた。
「私…恋愛なんてしたことなかったから…どんなふうにアプローチすればいいかわかんなかったんだじょ…」
「私だってわかりませんけど…恋愛の仕方なんて人それぞれですよ」
「言い訳がしたいんじゃないじょ…ただ…次からどんなふうに二人に接していけばいいのかわかんなくて…」
いつもの強がりには聞こえなかった。その答えは和にもわからなかったが一刻も早く元の元気な優希に戻ってほしいと願いながら和は言葉を探し続けた。
「…買い物、行きませんか?」
「え…?」
「買い物ですよ。気分転換です。外の空気を吸えば何かいい案が見つかるかもしれませんし。」
自分のために休日を捧げてくれる和の優しさが嬉しくて、優希は元気よくうなずいた。
親友といってもこれまで優希が和に頼ることは、彼女の性格からほとんどなかった。しかしいざという時、自分を助けてくれる友人がいることに優希は安堵を覚えた。
840 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/08/22(土) 15:20:46 ID:53lT04M4
優希にいつもの笑顔が戻っていった。アクセサリーショップで珍妙な品に目を凝らしたり、服屋で試着したりするうちに、優希は明るさを取り戻しつつあった。
大通りを歩いている時、優希が少し声を抑えて言った。
「のどちゃん…今日はありがと」
「何言ってるんですか優希、水臭いですよ」
その時だった。少し前の路地から男女が出てきた。男女は優希と和にに気づかず、二人の前を遠ざかってゆく。その後ろ姿は間違いなく京太郎と咲だった。
「あ………」
声を出したのは優希だった。優希は強烈な吐き気に襲われ、そばにあった格子状の排水溝に向かって嘔吐した。あの時の情景が頭の中でちらつく。
「ぅえ…ぇほっ…」
「優希…!優希!」
饐えた臭いが広がる。激しく嘔吐するものの、出てくるのは黄色を帯びた液体ばかりだった。
何も食べていないのだ…!あの時から…
優希の目に浮かぶ涙を目にして和は胸が痛んだ。親友がこんなにも苦しんでいるのに、自分には彼女の背中をさするくらいしかできなかったからだ。
私が…私が外に連れ出したばかりにこんな…!
異変を感じ取り、野次馬が集まってくる。中には心配そうに声をかけてくる者もいる。
和は背中をさすりながら前方を見た。二人はまだこちらに気づかずさらに遠ざかってゆく。
和の中にまたも一つの感情が浮かび上がった。先ほど優希の部屋に入った時の感情を、今度ははっきりと認識することができた。
ようやく嘔吐が治まり、呼吸を整えている優希を見た和は、背中をさするのをやめ、すっくと立ち上がった。その目は前方の二人を見据えていた。
違う…私のせいじゃない…
「…のどちゃ…だめ…」
気づくと優希が和の袖を力なく掴んでいた。優希はうつむきながらも必死に首を左右に振っている。
「大丈夫です…」
和は優しくその手を放させると、近くにいた者に優希を頼み、前方の二人に向かって走って行った。
「だめ…」
優希がそう言った瞬間、前方で大きなどよめきが起こった。数瞬後に咲の悲鳴がこだましたがそれもすぐにかき消された。かき消したのは和の持つ狂気だった。
おわり
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