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  カタンカタン。 規則的に洗濯機が回り続けている。 「よぅ、咲」 「京ちゃん、お帰り」 「なぁ、お前今日どこか行ったのか?」 「ううん、私は別に」 「せっかく東京に来たのに…具合でも悪くなったのか?」 「そんなんじゃないけど…」 インハイ初日が終わった夜。 どこか堅い咲の空気。 京太郎はいつもの軽口が何となく阻まれ、暫くの間沈黙が続く。 「そう言えば今日優希のヤツ、タコスのハシゴしててな。 休養日の方が疲れるってどんだけ…―」 コツン。 「咲?」 「すー、すー」 弱々しく京太郎の肩にもたれ、咲が小さな寝息を立てる。 カタンカタン。 規則的に洗濯機は回り続ける。 「おね―…ちゃん…」 猫みたいに甘えながら身体を擦りつける咲。 未成熟な柔らかさに京太郎は全身が硬直する。 な、何考えてんだ?俺は。 相手は咲だぞ!?和でも風越の美人さんでもない―… 「おね―…ちゃん…」 弱々しく再度漏らした咲の呟きが、京太郎の硬直を解いた。 引き寄せられる様にゆっくりと手を伸ばす。 「ふぇ?」 咲が目を覚ますと、京太郎が息がかかりそうな距離で固まっていた。 「…京ちゃん?」 「ご、誤解するなよ?!コレはそうゆうアレじゃない」 「?」 慌てて飛び退く京太郎に咲が小さく首を傾げる。 「あー、な、何の話してたんだっけか?」 「観光?」 「そうだ、咲は別に具合悪い訳じゃないんだよな?」 「うん」 「―…まぁ勝ち進めばまた機会もあるかもな」 「うん」 モチロン観光の機会だ、断じて咲の頭を撫でる機会じゃない。 京太郎は胸中で自分に言い聞かせる。 洗濯機の方を向いたまま、何故か咲の顔は見れない。 「うしっ」 息が整うと、京太郎は逃げる様にその場を去った。 「~~~っ!?!」 京太郎の背中が見えなくなってから、咲は大きく息を吐いた。 息がかかりそうな近さの京太郎の顔が脳裏に甦る。 だ、大丈夫だよね? 私、別に変じゃなかった…よね? 咲が何度も問いかけながら顔を上げると 洗濯機のガラス越しに真っ赤になった自分が写る。 そうだ、私は…― 「…私は」 咲は自分に言い聞かせる様に声に出す。 「私は、そんな用事でここに来た訳じゃないから」 洗濯機が静かに終わりを告げた。 了  

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