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32 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/15(金) 04:57:09 ID:ZNGTxvZh 京太郎に手を伸ばそうとするタコス 「ロンだ」 後ろから突き刺さる声。それはまぎれもなく仇敵、咲のものだった。 振り向くとそこには和、部長、そして咲がいる。 驚愕するタコスに咲は、まるで追い討ちをかけるかのようにこう言った。 「リーチ、一発、おっぱい、年増、そしてドラ京太郎──倍満だ」 「うそ──だじぇ」 愕然とするタコスを京太郎は振り返らない。 「じゃ、じゃあタコスもロン! ロン! ロンだじぇ!!」 泣きながら、声を嗄らして叫ぶタコス。その声はむなしく校庭にこだました。 「ドラはな――」 咲の声は冷たく、そして鋭利だった。 「──役じゃねぇんだよ」 砂煙だけがあたりを舞っていた。 39 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/15(金) 22:06:41 ID:gDJX1w8E →32 取られた。 何度も部屋で自問自答を繰り返すタコス。 「京太郎をポン・・・京太郎をチー・・・」 取られる前になくべきだったのか。先に手役を完成させるべきだったのか。 「無理だじぇ」 今さら負け分は戻ってこない。 部室にはあれから顔を出していなかった。行ける訳がない。あそこには咲がいるのだ。 以前は確かに前を向いて歩いていたタコス。 今は顔を伏せ、人目をはばかるようにして町を歩いた。人の顔を見ることができなくなったのだ。 静かに学校へ行き、誰よりも早く家に帰った。いつまでそういう生活を続けるのだろう。ベッドで 寝返りを打ち、なんど自問しても答えは出なかった。 ──直撃食らって男を取られたのよ。 囁きが聞こえる。 その声は学校の誰からも聞くことができた。いつも笑顔だった購買のオバさんが、隣の席のクラスメイトが、 担任の教師が、そして見ず知らずの他人までもがそうタコスに囁くのだ。 狂っている。 そういう認識はある。赤の他人が自分のことなど話題にするはずがない。その程度の常識はタコスにもあった。 「でも、聞こえるんだじぇ」 目を閉じると小さな子鬼が耳元で囁く。お前はみすみす咲に振り込んだのだと。 不意に電話が鳴った。 ともすればくず折れそうになる体を持ち上げ、ゆっくりと取り上げた受話器からは、聞き覚えのある声がした。 「いま、お時間いいですか?」 原村和だった。 50 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 01:07:18 ID:HpT9gZdR →39 「麻雀を、やりませんか」 震える手で受話器を取ったタコスに、原村和はそう告げた。 「原村・・・さん」 「もう昔みたいに呼んでくれないんですね」 のどちゃん。 本当はそう呼びたかった。しかし、今のタコスにはその力はない。人との交わりを絶って居場所を作っていたのだから。 「もう、麻雀は無理だじぇ」 「そんなことありません」 強く。 原村和は昔と変わらない声でタコスに呼びかける。 「何度やってもアイツには勝てないじぇ・・・。次に負けたらもう」 一番大事な最後の何かも失ってしまう。もう何もかも奪われたのだ。下を向いて生きようと決めていた。 しかし、そんなタコスに原村が言ったのは意外なひとことだった。 「イカサマを仕込みました」 「え・・・?」 「ですから、イカサマを仕込んだんです」 「そんな、自動卓だじぇ」 「部室の全自動卓は磁力で牌を混ぜるタイプです。ですから、それ用にあつらえた牌を用意すれば 簡単にイカサマができるんです。部室の一番ドア側の席。そこに座れば字牌が偏るように調整しました」 何を。 言っているのだこの娘は。 しばらくタコスは原村の真意をはかりかねた。 「でものどちゃん、それは」 「呼んでくれましたね。名前。私も──」 咲を倒したいんです。殺しましょう宮永咲を。私たちの麻雀で。 その娘の声は、甘い誘惑だった。 52 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 02:24:25 ID:HpT9gZdR →50 「今日は公式じゃねーからな。テンイチで行こうぜ」 軽口を叩く咲をタコスは睨みつけた。 テンイチ。千点10円の賭博だ。もちろん公式ではありえない。コイツはこんな麻雀をやっていたのか。 「構わないじぇ」 構わない。負けても大した金額ではない。 「じゃあ、最初は二万五千円からスタードだ」   「え?」 タコスは驚いて思わず声をあげた。今、二万五千円と言わなかったか。 「なんだよ。テンイチってのは一点一円のことだろうが。なぁ原村」 ニヤニヤといやらしく笑う咲。その顔は普段京太郎や部長に見せる顔とはまったくの別人だった。 それでも、それでも最後に笑うのは自分だ。 一度意思決定してしまえば揺るぐことはない。上家の和を見ると、彼女もまた目に強い光をたたえていた。 三人で卓を囲む、いわゆる「サンマ」の状態で勝負は始まった。ジャラジャラと洗牌の音を聞きながら タコスは今までの苦渋に満ちた仕打ちを思い出していた。今日ここでその全てを清算するつもりだった。 機械音とともに牌がせりあがり、自牌を取り終えてオープンしたとき、タコスは思わずため息をもらした。 (さすがだじぇ・・・のどちゃん) 役満大四喜イーシャンテン。 (いける) そう確信した何巡かあとツモった西を招きいれ、迷わずタコスは一索を河に叩き付けた。 「負けるやつは、いつまでも負け続けるんだよタコス」 「な・・・!」 対面に座る咲の口が嘲笑を浮かべていた。 「平和のみ」 最後通牒のようにそう宣言する咲の口はどこまでも暗く、深く、タコスは自分が泥沼に落ちているかのような 錯覚を覚えた。咲の口から流れ落ちる泥はそのまま卓を満たし、タコスの足をとらえて離さない。 (泥が・・・どうして。こんな・・・) 親の三本場。すべて安手ではあったが、それでも三回も振り込んだタコスは、もう肩口まで泥の中にいた。 54 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 02:47:15 ID:HpT9gZdR →52 (くそっ・・・牌が・・・) 牌が寄っているのだ。 確かに和が仕込んでくれたイカサマは一流だった。労せずしてタコスは字牌を揃えることが出来た のだから。しかしそれは一方で咲に数牌を片寄らせるという結果になってしまっていた。 手牌は役満字一色イーシャンテン。 しかしまたしても索子の老頭牌が浮いている。 おそらく咲の待ちもコレのどれかに絞っているはずだ。切ることは出来ない。 (別に役満じゃなくてもいいんだじぇ) 浮いている牌を手役に入れるのだ。幸いある程度面子はできている。 混一色チャンタ三暗子、それに風牌にドラ三・・・。倍満あるいは三倍満まで手が届く。 (まずは親を流すんだじぇ) 欲張らない。負け分は十分取り返せるのだ。 タコスはそのまま字牌の中を河に捨てた。 「通らばリーチ!」 「通しません」 そのとき、ありえない声をタコスは聞いた。 ゆっくりと牌を倒していくのは、まぎれもなく上家の和だった。 「ロン。跳満です」 そんな。 そんな。 何故、和が自分から上がるのだ。 「う・・・」 「嘘じゃ──ありませんよ」 泥が。 これは── 「の、のどちゃん」 「その呼び方は、気に入りませんね」 何が起こっているのだ。 誰かの笑い声が聞こえる。自分以外の誰もが自分を笑っている。狂っている。それはわかっている。 赤の他人が自分のことなど話題にするはずがない。その程度の常識は。 ──直撃食らって男を取られたのよ。 頭の中で小鬼が囁く。 対面で哂っているのは、誰だ。 「誰も、信じられないなタコス」 あれは、悪魔だ。 68 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 10:51:10 ID:TlNBn37s →54 (クズだ。クズだ。コイツらはクズだじぇ!) 口の端に血が滲み、涙で前が見えない。最初の振込みから何度か振込み続け、ようやくそこに思い至った。 何のことはない。和と咲が組んでいるのだ。最初からタコスを陥れるための麻雀だったのである。 (仲間のふりして・・・) 役満の字牌が寄ってくるイカサマの卓。浮いている数牌を切れば咲が、手を変えるべく不用な字牌を切れば和がそれで待っている。それは麻雀という名のリンチだった。 「しかし字牌のトイツ落としとはな。完全に下りちゃつまらねぇよ。アンコにしたらどうだ?」 これ以上ないくらいに嫌みな咲の言葉。 「ハコったらわかってるだろうなタコス」 わかっている。 二万五千点の、本来四人打ちの点数は他でもない、ただいち早くハコテンにするためだけに設定されたものなのだ。 それに気付いたときにはすっかりドロ沼に落ちていた。羽は汚泥にまみれ、二度と這い上がれない状態にまで折れた。 「・・・払うじぇ」 「足りない分はどうするんだ? そうか。京太郎に買ってもらえよ」 「え・・・」 嗜虐的な笑みを浮かべて咲は続ける。 「だから、京太郎に体を買ってもらえよ。なぁ。いくらでも払えるだろう? 好きなんだよなぁ。京太郎が」 (────!!) 息が、苦しい。コイツはどこまでクズなのか。 (・・・殺すじぇ。殺して。引き裂いて。吊るし上げて。切り刻んで。必ず。必ず殺してやるじぇ) 「好きなんだろう? 買って貰えよ。できるよなぁ? 一石二鳥だよなぁ? なぁ和」 浮かれている。 (いや、待て) 直前の咲の言葉がよみがえった。 (さっきの手はアンコを崩してのトイツ落しだじぇ。だから、たぶんコイツらは手牌まで完全にお見通しじゃないってことか) 探せ。そこに何があるか。タコスは不意におとずれた一筋の光明をたぐりよせる。 「もう、無理だじぇ。この半荘で終わりにしてもらいたいじぇ・・・」 「駄目だな。それじゃあガキの小遣いにしかならねえ。今日はとことん付き合ってもらうぜ」 「じゃ、じゃあ・・・」 ボロボロと涙をこぼすタコス。 (どこまでも毟り取るつもりだじぇコイツらは。だから、だからこそ・・・) 「じゃあ、レートを倍にしてほしいじぇ」 みすぼらしく。できるだけ惨めに。できるだけ相手の自尊心をくずぐるように。 「あぁ・・・構わないぜ。倍たぁ、豪儀じゃあねぇか。命の取り合いなら、歓迎だ。三尺高ぇ所にその首上げてやるぜ。お、おい、 どこ行くんだよ。まさか逃げる気か?」 ゲラゲラと嫌らしく笑う咲。あまりにものけぞった姿勢を取ったものだから、彼女には見えていなかった。 「ただの、小便だじぇ」 暗いドロの沼の、その一番底で不敵に笑うタコスの顔に。 その背中が敗者のソレではなかったことに。 79 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 15:35:19 ID:u30arOma →68 大三元字一色イーシャンテン。 タコスの思ったとおりだった。 どうあがいてもこの配牌から逃れることはできない。眼前の欲に囚われた瞬間、さらに深い泥沼へと落ちていく 片道切符。タコスは迷わず白、發を落としていった。 (とすると、この浮いている九萬が咲、中が和の当たり牌だじぇ) 「なんだよ。ベタ降りじゃねぇか」 愉快そうな咲を尻目にタコスは黙々と牌を捨て続けた。しかしわずか二巡目にして和の様子が変わる。 (三枚目の中・・・) 続いて咲にテンパイの気配。さすがに手が早かった。しかし、それでもタコスは切る手をとめない。一直線に 目的のテンパイまで数牌を切り続けた。その打牌は六索。 「てめぇ・・・」 ギロリと咲の表情が変わる。タコスに字牌が寄っているように、咲には索子が寄っている。一番の危険牌だった。 (そんなのわかってるじぇ。でもお前は上がらない。なぜなら・・・) 「リーチだじぇ!」 牌を曲げた瞬間。咲はそれが面白くてしょうがないとでも言いたげな表情をうかべた。 あたり前だった。和の当たり牌の中を所有し、そして和が中を三枚所有している以上、雀頭にすらすることができないのだから。 いわば死に手。当たり牌の中は絶望的なまでに出てこない。 そのことにタコスは気付いていない。そう思っているのだ。 (慢心だじぇ──――そしてお前は宣言する) 「覚えてるかタコス。てめぇと最初にやったときのことを――カンだ!」 途端に咲の手牌から二枚の西が裏返る。 (さすがだじぇ。その強運は) それは咲が最初に部室に来たときの麻雀。彼女は手配のカンから嶺上開花でツモ上がりをして見せたのだ。 残り少ない点棒に倍のレート。ただタコスをハコにするだけなら直撃でいい。しかし咲はそれを選ばないと確信 していた。 タコスのリーチを跳ね飛ばす嶺上開花。この嫌らしい女はそれを一直線に狙ってくると。 しかしそれは。 「タコス。この嶺上牌で死ね」 泥のなかに張り巡らした毒の糸だった。 80 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 15:40:58 ID:u30arOma →79 咲が腕をゆっくりと伸ばす。対面から嶺上牌に延びてくるその手を、タコスはがっしりと掴んだ。 「てめぇ、何のつもりだ!」 「お前はこのまま泥に沈んでいけ」 ──言葉で人を殺せるのならば。 「何!」 「ロンだじぇ!」 驚愕の表情。次の瞬間、咲の目にありえないものが映った。 槍槓。 それも国士無双。 唯一捨て牌以外からロン上がりができる手役だった。一撃必殺の役満はその名のとおり、鋭い槍となって 咲の体を貫く。 「そんな……そんな偶然が」 「偶然じゃないじぇ。手役は字牌だらけ。中を切らずに直撃するのはこれしかないし、咲ちゃんの強運は 必ず西をカンするってわかってから、狙い撃ち楽勝だったじぇ」 もし本当にこの場を支配する強運をもっていたなら。この字牌が片寄る場にあって必ず西を四枚引いてくる。 タコスは咲の強運に乗ったのだ。 捨牌を見ていればすぐにわかったはずだった。見ていなかったのは、勝負に勝ったつもりになっていたから。 「親の役満直撃。ハコだじぇ咲ちゃん」 83 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 17:42:07 ID:u30arOma →80 「咲ちゃん。咲ちゃんのおかげだじぇ。さすがだじぇ咲ちゃん」 見下すように咲の両耳から泥を流し込む。何度も何度も何度も。 その自尊心を踏みにじる。人格を殺して、尊厳を引き裂き、名誉を吊るし上げ、プライドを切り刻んで。 「てめぇ・・・もう一度その名で呼んでみろ。ただじゃおかねぇぞ」 「やめられないじぇ咲ちゃん」 「ブチ殺してやる!」 立ち上がった咲にタコスは雀卓を思い切り蹴り飛ばした。側面が咲の下腹部にめり込む。たまらずその場にくずれた。 「清算だじぇ、咲ちゃん」 つとめて相手の敵意をあおるように、タコスは言った。その挑発に咲は抵抗する術はなかった。 「も・・・もう一度だ!」 「往生際が悪いねぇ咲ちゃん。やるなら、そうだじぇ。レートは十倍だ」 あと一歩。もう少しで。 「この野郎なめやがって・・・」 「払えるのかな咲ちゃんは。そうだ。無理なら買ってもらうんだじぇ」 空気が凍りつく。 「なんだと?」 「だから京太郎に、体を買ってもらうんだじぇ咲ちゃん。いくらでも払えるよなぁ?」 声にならない声が咲の口から漏れる。それは獣のうなり声に似ていた。 「・・・十倍だ。吠え面かかせてやる」 弱った者は徹底的にいたぶり、しゃぶりつくす。それは他ならぬ和から教えてもらったことだった。 既に修羅場と化した部室では洗牌の音だけが響いている。親はタコスというのが条件だった。 「半荘の集中なら天才なんだじぇ。咲ちゃんは本気で勝負しないから負けちゃうんだ。わかるかな?」 咲の応えはない。牌が整い、理牌の小気味良い音に変わっていった。そうだ。必死に理牌するんだとタコスは呪いをかける。 今度は本気。咲の顔にはそう書いてある。負者はいつもそう思うのだ。さっきは手を抜いていたのだと。運が悪かったのだと。 「おやおやぁ、おかしいじぇ~」 沈黙のなか。タコスの声に咲は顔をあげた。 「なんだてめぇ」「いやいや困ったじぇ。今日は──」 タコスの指に押され、パタリパタリと牌が倒れていく。 「──やけに役満がでる日だじぇ」 それはビロードのカーテンのようになめらかに。 「う・・・」 「嘘じゃないじぇ咲ちゃん。またハコだじぇ咲ちゃん」 天和、四暗刻、字一色。それは最後通牒だった。 85 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/16(土) 18:17:21 ID:u30arOma それは簡単なイカサマだった。 最初、和から電話があったとき彼女はこう言ったのだ。 ──それ用にあつらえた牌を用意すれば簡単にイカサマができるんです。 そのすり替えは完璧だった。理屈はわからないが、タコスの席には毎度毎回字牌があつまり、例外はなかった。 結局それはだまし討ちだったのだが、勝負の中でそれを変えることは不可能だった。しかし、そのコンビ打ちに気が付いたとき、タコスの中で別の疑問が首をもたげた。 それでは。 それでは元々あった細工前の牌はどこへ行ったのか。 簡単な問題だった。簡素な家具しかない部室にないのならば、それは倉庫となっているトイレでしかありえない。 果たしてそこには本来の、細工前の牌がそのまま前種類置いてあった。 そこから一九字牌を抜き出して卓に戻ったのである。ネコのぬいぐるみに隠した字牌と握りこんだ一九牌。 いくら咲がリーチ後の嶺上開花を狙っているとは言え、そこまでタコスの運は強くは無い。左手に握りこんだ 牌を、上家がツモる瞬間を狙って不用牌とすりかえ、国士まで持っていったのだ。 しかしそれだけではない。さらに右手で握った未加工牌を手牌に入れ、同じ種類の不用牌を左手に握って処理した。 本来ならすぐにバレてしまうすり替え。しかしこの場は勝負でもゲームでもなかった。咲の必勝が約束された場だったのである。誰もそのすりかえに注意を払うものはいなかった。 結果。白、東、南の暗刻が全て入れ替わり、不用牌として河に捨てられていく。それは次の戦いのための布石だった。 すりかえられた牌は卓内で混ぜられ、ここで「寄る字牌」と「寄らない字牌」に分けられる。 当然、和が細工した牌だけがより厳選されてタコスの手牌に入るのだ。あとは理牌しながら調整すればよい。 幸い、天和まで一つすりかえればいいだけだった。 しかし、その代償はあまりにも大きかった。結局のところ勝負に勝って全てを失ったのだから。 その後タコスの姿を見たものはいない。 女だてらに「坊や」を名乗り、語尾に特徴のある雀士が登場するには、実に10年以上の歳月を待たねばならなかった。 そして京太郎は忘れられていた。                                         おわり #comment

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