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  三年生「京太郎」のこぼれ話 ーーここは東京白糸台。 いつもとお同じ時間、いつもと同じ様にして昼休みを告る鐘の音が鳴った。 狭い教室に押し込められていた学生達の何人かが仲の良いグループで机を並べては弁当を広げ、また別の何人かは学食や購買へ向かう為に教室を出てす行ったりと、それぞれの目的を元にしたグループを作って動き出す。 そして、そんな流れに習う様にして俺もまた教室を出て学食へと足を向けるーー。 1 / うれしい! 「ーーきょうたろ~♪」 学食へ向かう途中、階段を降りる京太郎は背中越しに呼び止められて振り返った。 そこには階段の踊場から長い金の髪をなびかせながら見下ろす少女ーー京太郎の部活の後輩である大星淡が大きく手を振りながら立って居た。 「…………」 「え、ちょっと何、その面倒臭そーな顔は!?」 「……オホンッ」 やばい顔に出てたか、と京太郎はあからさまな咳払いをして誤魔化した。 一見失礼に思われるなこの反応だが、実はそれも仕方のない話しだったりする。 何故なら彼女は、身近な存在の中で一番キカンボーなちゅっとばかし……いや、かなり困ったちゃんな少女、と言う認識を京太郎からされているからだ。 勿論、だからと言って憎たらしく思ってる訳ではない。 良く言えば純真無垢で天真爛漫な愛らしい後輩なのだ。 ただ、物事には必ず反面が存在する様に彼女の”自由(らしさ)“を悪く言ってしまえば、その場の思い付きやノリから生まれる発言で周りを振り回す事も多くて、何よりも自分が一番の被害者だと自覚してるだけに、京太郎からすると真面目に相手をすると無駄に疲れる事はお墨付きだった。 かと言って、話し半分や適当に相手をしても良い方向に転ばなかったりもするから質が悪かった。 「……うん、どーした淡。また下らなっーー何か面白い事でもあったのか?」 「……あ~れぇ~今さぁ、何か言いかけたよね?」 「いや、それは気のせい……だろ?」 「その間が気になるなぁ~?」 危うく本音が口から滑りかけるも咄嗟に止まり、さも何事もなかったかの様に満面の笑みを浮かべる京太郎。 その変わり身の早さとはぐらかしっぷりに淡は少し唇を尖らせるも、まあいいや、と溢してから一段跳ばして階段を下るとすぐ目の前で屈む様にして京太郎の顔を見上げた。 「ねね、ちょお~と聞きたいんだけどさ。聞いちゃっていい? ねぇねぇ、聞いちゃってもいいよね♪」 にやにや、と笑みを浮かべながら楽しそうに体を揺らす淡。 体に習う様にして後ろで組まれた腕が揺れてーーふわりーーと少しの間を開けて柔らかい金糸の様な髪が舞う。 「…………」 無駄に絵になる奴だな、と本人の前じゃあ絶対に言わないだろう事を京太郎は無意識に思った。 勿論、喋らなければな、と皮肉が加わるのはお約束だ。 「とりあえず言ってみろ。質問に答えるかどーかの判断はそれから決める」 「えェェーーーッ、それって答えない場合もあるじゃん」 「そりゃそうだろ。もし質問の内容が誰にも言いたくない事だったら黙秘権を行使するのは当然だ」 ちなみにお前を限定対象に答えない場合もある、とさも当たり前に告げる京太郎。 「あ、それ何かズッコイ感じだ!?」 「ハッハッハッ、何もズルくなどないよ大星君!!」 「きょうたろー汚い!!」 「 オイオイ、賢いと言ってくれたまえ」 「汚い京太郎ッ!! 便座の裏側の黄ばみ。用を足すときに跳ねてコビリ付いた便器の汚れ……落ち ないシミは正に汚点。さ、流石は京太郎だね……ッ!!!」 「うん、お前の発言が一番汚い……と言うか一瞬だけ背景”ざわざわ“してたけど何だったの?」 ……ざわざわ……ざわざわ…… 「……さて、それよりもだ。俺はまず学食に行きたいと言うか、その途中なんだ。悪いけど話しの続きはそれからだな」 「よお~し、なら早く学食に行こう!!」 京太郎が言うや否や、淡は単身階段を駆け下りて行った。 質問を受ける側が二重な意味で置いてきぼりな展開である。 「……ハイハイ。お供させて戴きますよお姫様」 ハア、とため息を吐いてから、少し遅れて京太郎も学食へとへと向かうのだった。 「んで、聞きたい事って何なんだよ?」 言って、つるつる、とうどんをすする京太郎。 「ん、はふはふ……あのね、前々から思ってたんだけどさ……きょうたろーはどんな女の子がタイプなの?」 京太郎の正面に座って同じ様にうどんをすする淡。 手元のうどんから視線を反らさず、可愛いらしい小さな口で一生懸命に太い麺を食べる仕草はどこか小動物を思わせた。 「……ハッ?」 「いや、ハッ、じゃなくて、きょうたろーはどんな女の子が好きなの?」 「どんなってお前、そんな事が聞きたかったのかよ……」 「もう、全然そんな事じゃないよ!! これってけっこー大事な事なんだよ!?」 箸を止め、謂うならば死活問題ってヤツだよね、と付け加えて言う淡の表情は何故か知らないがドヤ顔。 京太郎は不思議と腹パンをしたくなる衝動に襲われたが、そこは大人な自制心を以てやり過ごした。 「だからね、例えば綺麗より可愛い系の方が良いとか、髪が長い娘が好きだとか、もう彼女にするなら金髪で麻雀が強いお前が誰より一番。つまりはオンリーワン……好きだ淡、俺と付き合ってくれ。二人で夜の街に溶けて消えてしまおう……とかさぁ?」 ニヘヘ~、とだらしなく顔を緩ませくねくね身悶えし出す淡。 長い髪もその動きにつられてタコの様にうねっているのが堪らなく不気味だ。 時間も残り少ないし触ると危険だからと京太郎は黙って箸を進めた。 「やだ……そ、それはまだ私にはちょっと早いしアブノーマルだよ~……もう、きょうたろーは大人だなぁ♪」 「……さて、ごっそさん」 「で、でもでも、これで私も高校100年生から諸々の卒業ーーって、何でもう食べ終わって戻ろうとしてるのッ!?」 「そりゃあ、お前がトリップしてる間に食べたからな」 「あぅ……で、でも質問の答えも聞いてないし、先に戻ろうとしなくてもいいじゃない!!」 「いや、長くなりそだったから……それに、食べ終わったなら早く教室に戻らないとさ、もう休み時間10分もないし……」 言って京太郎は時計に指を向けた。 「ーーげっ!?」 向けられた指の先を淡の視線が追った途端、今までの不埒な妄想でどこか熱を帯びていた表情は一変した。 それはまるで砂時計の砂が落ちるかの様に、サァー、と瞬く間に赤から青へと色を変えていった。 「ま、じゃあな。先に戻るからのんびり食べてくれよな?」 「ちょっーーす、すぐに食べるからちょっと待ってて!!」 言うやうどんを懸命にすするり始める淡。 元々、学食に付いた時点でかなり出遅れていた二人にのんびりと談笑する時間はなかった。 それだけに、出来たばかりの状態からほぼ手付かずのうどんはいまだ熱々で急いでかっ込めるほど冷めてなどいなく、案の定ーー。 「あ、熱っ……熱いよぅ……」 「だろーな。つーか、学年とクラスが違うのに待っても意味ないし、三年の教室が一番こっから遠いのに待つのとか嫌だぞ?」 ちなみに、学食から一番近いのは一年の教室だったりする。 つまり京太郎からすれば待つと言う行為には何のメリットもない。 「あ、あわあわ、あわわわわ~~!?」 水を片手に一生懸命うどんをすする淡。 何が彼女をそこまで焦らせるのか、もう不釣り合いなぐらい必死である。 そして、やはり熱いのか若干の涙目である。 「聞いてないな。よし、頑張りたまえ大星君」 邪魔しちゃ悪いや、と京太郎は有難い気遣いと共に教室へと戻るのだった。  

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