誕生日、それは自分だけの特別な日。
 人は一人では生まれることが出来ない。だから家族は大切な存在と言える

京太郎父「19歳の誕生日おめでとう。京太郎」

京太郎母「はい。これ私達からプレゼント」

 長野から東京に両親がやってきて、共に過ごす2月の朝。
 階段を降りてリビングに行くと、そこにはテーブルの前に父親と母親が
待ち構えていて、その上には大きな包みがあった。

京太郎「父さん、母さん。ありがとう」

 京太郎が包装紙を解くと、その中にはとても綺麗に折りたたまれた
黒いスーツとビジネスバッグが入っていた。

京太郎父「お前もあと少しで二十歳になる。必要だと思ってな」

京太郎父「俺とお母さんからの贈り物だ。ちゃんと着こなせよ」

京太郎「ありがとう。大切にするよ」

 年を取り、老けが目立つようになってきた両親を抱きしめながら京太郎は
この二人の子供として生まれてきたことのありがたみをかみしめていた。
 何不自由なく育ててくれたその愛情に感謝してもしきれない。

京太郎母「さぁ、ご飯食べましょうか」

京太郎母「お父さんも京太郎も仕事と学校あるでしょう?」

京太郎父「そうだな。お前は座っていなさい。私がよそおう」

 テーブルの上に朝食を置き、全員揃って頂きますを言おうとした瞬間...

『ピンポーン!』

京太郎母「こんな朝に誰かしら...」

 家族と囲む清々しい朝食の時間を妨げられた京太郎は、若干苛立ちながら
インターホンの受話器を取った。時刻は午前九時十分である。

京太郎「どちら様ですか?」

宅配便「お客様にお届け物です」

京太郎「誰からのお届け物なんですか」

宅配便「はい。三尋木様から須賀京太郎様に車のお届け物です」

宅配便「諸々の手続きは全て三尋木様が終わらせていますので」

宅配便「お受け取りだけになりますが?」

京太郎父「京太郎、誰からなんの用件だ」

京太郎「えっと、いや...その...」

 言えない。

 去年の夏、神奈川で知り合ったあるやんごとなき身分の大人の女性と
お知り合いになって、熱く燃え上がったワンナイト・ラブを過ごした。
なんて、真面目一直線&息子を溺愛する二人には到底言えない。

 でも、あの夏の淫らな夜は悪くはなかった。
 あの人、三尋木さんとはそれっきりだったけど、いつか機会があれば
また会いたいな、とは思っていたけれど...

 まさか、こんな形で再会するなんて予想外にも程がある。 

宅配便「どうかなされましたか?」

京太郎父「...京太郎、ちょっと代わりなさい」

京太郎「あっ、待って!」

 気持ちの良い朝が、良からぬ事態にどんどん発展していく。
 受話器越しに事情を説明する宅配便業者の話を聞く父親の顔がどんどん
緊張と憤怒に塗り固められていく。

京太郎父「色々と言いたいことはあるが、とりあえず表に出ろ」

京太郎「はい...」

ただごとではない様子の夫と息子におっかなびっくりしながら、その後を
着いていく京太郎の母。
 三人が玄関の前で目にした光景...それは...

 玄関の前にデデン!と置かれたSUBARUのスポーツカー...そして

咏「よっ、京太郎。誕生日おめでとう」

 これまたとんでもなく豪奢な着物に身を包んだ華麗な女性がいた。

咏「突然の来訪の失礼、お許し下さい。京太郎君のお父様とお母様」

咏「私、こういう者でして...」

京太郎父「...私の愚息が、お世話になったようで」

 頭を下げながら、お互いの名刺を交換する咏と父親のやりとりを見守る
京太郎。住所もなにも教えていないのにどうしてここに?という疑問は
さておき、これから何が起るのかが京太郎にとっての一大事だった。

京太郎「う、咏さん...どうしてここに?」

咏「あん?お前の誕生日を祝うのに理由なんかいるかよ?」

咏「ただ神奈川から手紙寄越すのも味気ねーし、だったら...」

咏「直接お前に会って、プレゼント渡した方が断然良いだろ?」

京太郎母「確かにそうね」 

頷く母親に冷や汗と動揺を禁じ得ない京太郎。
 侮っていた、大人の女性(アラサー予備軍)を....。
 目の前にいるのは迫り来る怒濤の火力、三尋木咏。圧倒的火力で周りを
焼け野原にすることに定評のあるプロなのだ...

 逃げられない、完全に詰んでしまった。

京太郎父「三尋木さん。私の息子とはどういう関係ですか?」

咏「いや~。理由が理由でして...言葉にするのは難しいといいますか...」

咏「恥ずかしいな...ええ、この際ぶっちゃけます!」

咏「私から京太郎君に対して一方通行の一目惚れです」

咏「うっは~、言っちゃったよ言っちゃったよ~。参ったね~」

京太郎母「あらやだ、可愛いわね。お嬢さん」

京太郎(外堀があっさりと埋まった?!)

 可愛く悶絶する咏さんに早くも母さんが陥落してしまった。

京太郎父「三尋木さんと言ったね?」

京太郎父「京太郎とはどこで出会ったのかな?」

咏「去年の夏、東京でお会いしました」

咏「で、その時に私の家の事情に巻き込んでしまいまして」

咏「お恥ずかしい話ですが、その時に惚れてしまいました...」

京太郎父「神奈川の三尋木といえば、地元では有名だろう」

京太郎父「でもいいのかい?息子はまだ未成年だ。困難の方が多いぞ?」

咏「全部解決した上で、今日、ご挨拶にお伺いした次第です」

咏「モノで釣る...って見方も出来なくはないかもしれませんが」

咏「真剣です。お父様、お母様。私とご子息のお付き合いを認めて下さい」

京太郎父「...分かった。煮るなり焼くなり好きにすると良い」

京太郎父「ただ、この愚息のやんちゃを大目に見てやってくれないだろうか」

京太郎父「世間知らずで君に不都合をかけることがあるかもしれない」

京太郎父「その時は、大人として君が息子を導いてやって欲しい」

咏「わかりました。では、これで失礼させて頂きます」

クールに去って行く咏さんの背中を両親と見守りながら、これから一体
俺はどうなってしまうんだろうと、頭を悩ませながら俺は家の中に入ろうと
した。しかし...

京太郎父「おい、京太郎。あの子をエスコートしてあげなさい」 

 財布からカードと札束を無造作に引き抜いた俺の親父は現実逃避を
許してはくれなかった。

京太郎父「変な女よりも余程信用できるし、なによりも気に入った」

京太郎父「カードの番号は7123だ。上手くやれよ?」

京太郎父「さ、母さん。後は若い二人に任せるとしようか」 

京太郎母「そうね。じゃ、京太郎。ビシッと決めてきなさいよ」

 いつの間にか、誕生日プレゼントの入った箱を俺に押しつけた母親。
 なにをどうすればいいのかを教えてくれないまま、二人は家の中に
引っ込んでしまった。

咏「ヤベーヤベー。車の鍵渡すの忘れちゃったぜ!」

咏「あり?京太郎、お父様とお母様は?」  

京太郎「家の中ですよ」

咏「そっか。あ、あとこの車は名義お前になってるから好きに使っていいよ」

咏「でもまぁ、ちょっと派手すぎたかな?」

京太郎「そうですね。一人で乗るには派手すぎかな?」  

咏「だよなぁ」

京太郎「咏さん。お時間は?」

咏「三日休める。それ以降は知らんし」

京太郎「じゃあ、ゆっくり二人で過ごせますね」

京太郎「行きましょうか、神奈川に」

 未成年に高級車や彼女なんて荷が勝りすぎてやいないだろうか?

 だけど、取って嬉しい責任なら、いくらでも取りたいのが男の性

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ニヤリと笑った咏さんは、

颯爽と車に乗り込み、エンジンをかけた。

咏「ははっ。よそ見すんなよ京太郎?」

咏「お前の隣は私だけなんだからな!いいな!」

 軽快な音を立てて、二人を乗せた車は未来へと走り出す。 

京太郎「まずは百貨店に寄って服でも見ましょうか」

咏「まさかお前、私に洋服着せるのか?」

京太郎「咏さん綺麗だから洋服も似合いますよ」 

 ハンドルを握り、大切な存在を隣に感じながら三尋木咏は勝ち誇る。

咏(計画通り...)

 その微笑みは満開の桜の如く、見る者全てを魅了するほど美しかった。

 カン

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最終更新:2017年10月12日 21:31