シリーズの前口上
 映画を見るのには体力が要るてえ事は、学生時代、夜な夜な新宿昭和館、池袋の文芸地下とオールナイトに通っていた頃から、知ってはおりましたが、大病後は到底映画館通いは難しくなりました。おまけに地方に転出してから、行くにも小屋が無い有様で。尤も東京だって、かつての地元西武線の「薬師東映」も「野方西武座」も、とうに無い・・・
 年齢をとると話がくどくなります。老人が名作を見直すのはお茶の間で発泡酒をチビチビ飲りながらビデオという事になります。ところが思わぬ再発見がある「あの時僕は若かった」モノを知らな過ぎた、という事で、いっそ愉快なン。

 例えば超人気シリーズ「バック トゥ ザ フューチャー」(I)で、事故に遭った主人公が助けられて母親(当然まだ娘時代の)に惚れられる寝室のシーン。顔を赤らめて、「カルヴァン!カルヴァン.クラインでしょう。パンツにそう書いてあるもの」と、お袋さんが言うセリフ。多分リアルタイムで劇場で見た時、周りの誰も笑った記憶がないが、アメリカじゃ、大笑いの場面じゃないの。超ビキニのブリーフブランド名も知らなかったんだな。観客は劇中のチャックベリー出現以前の人々と同類だった訳ですな。今じゃ、あたしでもCK柄のTシャツ着てるン。



 Vol.1         【MOTHRA
 前置が長うございました。第一回目は「モスラ」に登場した江口書店の話。
先日まとめて買った特撮ビデオを端から見ていて、「モスラ」に及んで、"ありゃザ・ピーナッツと一緒にモスラの唄(意味不明)完璧に歌えるわ!「唄」ってスゲエ"なんて、ウダウダ飲んでたら、東京湾に入ったモスラが渋谷に接近する寸前、思わず飛び起きたね。国道246沿いに江口書店の大きな看板。ホンのワンカットで、勿論ミニチュアなんだけど・・・いや、逆にミニチュアセットをわざわざ作る時に何故「江口書店」を一生懸命作ったのよ!?スタッフの誰かが、江口書店の常連だったのだろうか?結局モスラは破壊しなかったので、名物古本屋はその後も多くの人に愛されたとさ、めでたしめでたし。というような事ではなくて、
実写なら、バックに写っちゃっていた、というようなケースもあるが、わざわざ江口書店を丁寧に組立てたのは謎だな。まあ古本好きにしか記憶に残らないね。当時中学生のあたしの脳にもハナから記憶されなかったハズ。

 「ラドン」しかり、勿論「ゴジラ」もだが、初期の特撮物には、戦争、原爆の影が色濃く出てるな。「ラドン」も「モスラ」もエンディングで平和の訴え。
売り物は所詮派手な戦闘破壊シーンなんだけどね。
「モスラ」戦車やミサイルなど、「サンダーバード」並によく出来ているので感心したな。自衛隊も良く闘っている。今こんな攻撃許可出せる首相いるかな。
 いよいよメタモールフォーセス=東京タワーで繭を作るんだが、綺麗なデザインで涙が出たね。シュールでダリの絵みたいだし、お蚕さん健気な感じだよ。
繭は日本人の原風景なんだね。生糸は主力産業だったんだ。モスラが暴れるのを休止して一瞬シーンとしたシーン。あの繭の輝きは敗戦の日の太陽を連想させたね。あの暖かくも神秘的、神聖なる繭に米国(?)製のレーザー砲が攻撃してる図は、ナイロンストッキングの攻勢を暗喩したものであろうな。
 東京タワーに繭!!ともかく心に残る絵だ。ジクソーパズルにでもして売り出してくれないものかな?3000ピースで、夜毎じっくり楽しむ。
 しかし、悪徳外人(ジェリー伊藤)はピーナッツ扮する美小人を、何故日本に持ち込んだのか。カーネギーホールの方がよかろうに。必然性が欲しい所だぞ。
結局愛すべきモスラは日本では結局決着つけず、ニューヨーク(らしき)街にまで場外乱闘に行くのだから・・・プロレス並に「悪い外人」という図式が欲しかったのか。「悪い日本人」は皆無の時代か。でも「外人」や「原住民」が多数登場して、全編何となくワールドワイドな雰囲気は出ているな。
 志村喬・フランキー堺・香川京子がブンヤ(新聞記者)を熱演。TV局関係者じゃないのが「時代」を感じるが、この根性は見習って欲しいやな。ナリチュー(「成り行きが注目されます」)原稿書いてる皆さんガッツ出しつくれィ。

 [卵]-[ラドン]の変化より[卵]-[幼虫]-[繭]-[蛾]の方がイメージが数段優れていて、歌と踊りもブロードウェイミュージカル風で結構でした。各所のモブシーンもスケールと当時の熱気を感じる。罪なく楽しめる娯楽名作であるな。


 ラスト、アメリカ(?)人のみなさんが、自分たちの街を破壊した蛾や原住民に拍手を送るのだから、「地球愛」を感じるね。人間中心の「ヒューマニズム」なんてものを超越した東洋思想、それも日本人独特の精神の発露という所だね。
 "人間至上主義"が戦争や大気汚染を引き起こして、この星に棲むすべての生き物を圧迫しているン。モスラに拍手していた国のお偉い方々、「京都議定書」の方も頼みますよ。



モスラのデータはこちらを参照
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD20383/index.html
※[モスラ]原作は中村真一郎・福永武彦・堀田善衛。深読みにも耐える部分があちこちに残っているハズ。読書子には各作家の作品からの投影など、思い巡らすも一興かと。モスラと「橋上幻像」の関連とかね。



■第二回目は「網走番外地」をもう一度見るまではシネマせん!!


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