教室の奥の方、高座の脇(わき)に机が積みあげてある。痴雀の目玉がギョロリと藪睨(やぶにら)みのまま最前列に座っている一人の女子大生を見つめた。すると、その女子大生はフラフラと立ち上ると、体をくねらせるようなポーズをとりながら、机のてっぺんによじのぼっていく。それを見届けてから、痴雀の噺がつづいた。
 「……こんな大口を開けたう・わ・ば・み・がいる」
 女子大生がうわばみみたいな大口を開けた。
 「そのうわばみのすぐ真下に鉄砲を持った猟師がいる……」
 目玉がギョロ、キラッ! 彼女のボーイフレンドらしき大学生がヨロヨロと立ち上ると机の真下に立つ。すかさず、黒子(くろこ)が鉄砲代りの棒を手渡すと、彼はそれを構えた。
 なあーるほど。だんだん、“立体落語”になってきたぞ。あのカメレオン目玉には催眠術みたいな力があるわけだ。超能力を持っているとは聞いていたが、そんな芸当もできるわけですかい。ふん。
 「そのうわばみが上から猟師をじいーッと狙(ねら)い、猟師は猟師でそのうわばみに狙いをつけている。両者ともに息を呑(の)んだまま、凍りついたように両方に狙いを定めているわけです。そば清が『あっ!』と思った瞬間、鉄砲がズドンと鳴ったのと、うわばみがパッと頭からとびついたのがいっしょで……」
 机の上から女子大生が下のBFにとびかかった。大口を開けて男の頭にかぶりつくように……。
 「スパッという音立てて、うわばみは猟師を頭から呑みこんでしまった……」
 たしかに、そんな音がしたんだよなその時。いったい、どこがどうなってんだい? 女子大生が男にとびかかった。大口が男の頭に食らいついた。そこまでははっきり見えたよ。でも、スパッという音と同時に、男の体が消えちゃったんだね、これが。おれだって信じられないさ。ほんと。これが俗にいう、“目くらまし”っていう集団催眠術かね? おれもいつの間にかかかってしまったのかもしれないな。でも、これが目くらましなら……。
 「さすがに人間一人を呑んだんですから、うわばみのお腹はふくれちゃった」
 という。女子大生のお腹のふくれ具合は、なんと説明したらいいんだい? 高座の隅で大蛇のような体をくねらせている女子大生のお腹のふくれていることといったら! まるで双子か三つ子の子を孕(はら)んだ、それも臨月間近の妊婦以上にでっかいパンパンした腹をかかえているのも、おれの目の錯覚だというのかい? それともなんですか。その女子大生は演技で想像妊娠でもしたっていうわけですかね。
 「ううっと苦しそうにのたうっておりましたが、そばに生えている赤い小さな草をペロペロッ、ペロペロッと舐(な)めるてえと、いままでこんなに大きかったうわばみの腹がスーッともとにもどってしまった」
 うわばみ女子大生が床の赤い絨毯を歯で食いちぎり、ゴクッと呑みこむとあーら不思議、あんなに張っていたお腹が、風船がしぼむようにへっこんでしまった。
(「落語ワールド」より)


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