「あちゃー…… また失敗しちゃった」
「ちょっと陽子、いい加減にしてよね」
「そうですよ、失敗作処分する身にもなって下さい」
そう言ってメガネを掛けた一番小柄な女の子――凛子が陽子の作ったチョコを食べ始める。それにならって二人も渋々ながらも失敗したチョコを口にし始めた。

一月十七日、バレンタインデーまで一ヶ月を切り、憧れの恭介君にバレンタインチョコをプレゼントしようと計画する陽子は友人である佳奈美と凛子を誘い最高のチョコをプレゼントすべく血の滲むような努力をしていた。
受験生である彼女たちだが偶然にも大学は推薦で決まっており学校に行く必要が無く、一ヶ月丸々篭ると言う大胆な特訓を行っている。
学校でも指折りの美貌を持ち家も名のある会社の娘なのだがどうも恋愛に対しては奥手な為、このバレンタインを利用して一気に距離を縮めようと考えていた。
佳奈美と凛子も高校生活最後のイベントと考え、いい思い出を作ろうと陽子の申し出を受け今に至る。

だが、申し出を受けていざ陽子の家に来ると二人は一日目にして後悔し始めていた。
家の財力を使い最高級のチョコレートなどの食材を揃え、家にある立派なキッチンを使っているのだが肝心の陽子の腕が壊滅的に酷いのだ。
壊滅的にと言っても元々の食材が良い性か食べれないと言うほどではなく形が悪い程度で、味は寧ろ市販のお菓子より美味しいため捨てるのも勿体無くとりあえず食べて処分しようと三人は決めていた。
そして彼女の努力は大量の失敗作を生み初日にして5kg全てのチョコを使ってしまったのだ。

「初日から飛ばすわねぇ陽子……」
「たはは……。買ってきた分のチョコ全部使っちゃった」
「たははじゃないですよ、さっさとこの失敗作の山を食べちゃいましょう」
佳奈美や凛子の嫌味を苦笑いで返した陽子は明日作る分を執事に買ってくるように頼み、努力の結晶を食べ始めた。

「口の中甘ったるくてやってられないわよ……」
既に半分以上のチョコを消費したのだが、流石に限界が来たのか佳奈美が愚痴を言い始めた。
朝から作り始めてチョコしか食べていないのだから当然と言えば当然である。
「陽子、紅茶かコーヒー貰えないかしら?」
「メイドさんに言って貰って来るよ、どっちがいい?」
「あたしコーヒーがいい」
「私は紅茶を貰います」
「了解、じゃあ言ってくるね」
陽子が飲み物を貰いに出て行くと佳奈美と凛子はまたチョコレートを口にし始めた。
「はじめからこれじゃあ先が思いやられるわね」
「今日でこれだけ食べたんですから一ヵ月後がとても怖いです」
「今の体型とさよならね。バレンタインが終わったらダイエットしなきゃ」
チョコが大量に食べて少し膨らんだお腹を摩りながら佳奈美と凛子はため息を付いた。

「うぷっ……もう食べれません」
特訓が始まって一週間が経ち、今日もまた失敗作の山をコーヒーや紅茶で流し込みながら食べていた三人だが今日の分を何とか食べ切り凛子は用意された自分の部屋で休んでいた。
陽子の腕は相変わらずだが作るのが楽しくなって来ているのか作る量だけは日に日に増えて来ている。
どれだけの量を食べたのか考えたくはないが体は正直で凛子が初日に来ていたスカートはフックが閉まらなくなっていて、今は安全ピンで留めている。
「まだ二週間以上あるのに一週間だけでこんなに太るなんて……」
お腹を触ると大きく膨らんでいる上にふにふにとした脂肪の感触が伝わってくる。お腹以外にも二の腕や顎なども初日よりは柔らかくなっているようだ。顔も少し丸くなった気がする。
「これから晩御飯もあるから少しは消化しないと」
流石にチョコだけで一ヶ月を生活できるわけも無く、一日三食も屋敷の人に出して貰っている。
お客様なのだからと毎日高級レストランで出てくるような料理を出して貰っているため残してはいけないと凛子と佳奈美はそれをも食べている。太る要因はどうやらチョコだけではないようだ。

食べたチョコを消化すると言っても特にすることが無く仕方なく屋敷内を探索する事にした。流石に一週間も屋敷内で過ごしているためほぼ全ての部屋を回ったのだが広い屋敷は運動するには持って来いだった。
部屋を出たところで調度隣の部屋に居た佳奈美と出会う。どうやら彼女も同じ事を考えていたようだ。彼女も同じく陽子の努力によって余分な脂肪を体に蓄えていた。三人の中で一番量を食べている為体重の増加は彼女がトップであった。
ここに来た日に持ってきた服は全てタイトな服しか無く、この一週間で出来た体ではお腹を隠しきれず臍が顔を覗かせていて、Gパンはチャックとボタンが閉まらないのでそのまま開けている。
「凛子も散歩?」
「えぇ、少しお腹の中消化しないと晩御飯が食べられませんから……」
日に日に増えるチョコの量と高級レストランクラスの食事により彼女たちの胃は段々と大きくなっていく。チョコを作るだけ作り食べるだけ食べると言う生活のため彼女たちはほとんど碌な運動をしていない。だから歩くと言うだけでも彼女たちには億劫だった。
「チョコ以外にも色々食べてるからねぇ。この一週間でどれだけ太ったんだか考えたくも無いわ……」
「さっき陽子に聞いたら体重計買ってきてくれたって言ってましたよ。計ってみます?」
「現実から目を背けたくないから風呂上りに計ってみるよ」
「何の話してるのかな?」

陽子の突然の乱入で会話が一旦途切れる。どうやら陽子も軽く運動に出ていたようだ。
陽子も例に寄って一週間前より確実に太くなっていた。流石に屋敷に住んでいるだけあり佳奈美のように合う服が無いと言うわけではないが、お嬢様には似合わないゆったりしたジャージを着ていた。
そのジャージもよく見るとこの一週間で太った体に合わないのか太ももを中心に大きく膨らんでいる。どうやら陽子は下半身を中心に太っているようだ。
「誰かさんがあたしたちを拉致して強制的に太らせてるって話よ」
言ってチャックの閉まらないお腹をポンと叩く。十八歳の少女とは思えないはしたなさだが周りには三人しか居らず嫌味を言うにはこれくらいの恥ずかしさはどうと言う事は無かった。
「うぅ……わたしも一緒に太ってるんだからお相子じゃない。それにわたしだって好きで太ってるんじゃないですよ」
「あなたが太るのは当然ですよ、寧ろ私たちが太るのが納得出来ないって話です」
二人に口で勝てる訳が無く、彼女たちが太ってきている責任が自分にある為陽子はそれ以上何も言えなかった。彼女に出来る事は一刻も早くうまくチョコレートを作る事であった。

「まぁチョコ以外にも美味しいもの食べさせて貰ってるし悪くは無いわね」
流石に言い過ぎたと思ったのか、普段人をからかう様な嫌味しか言わない佳奈美がフォローし始めた。
「そうですね、それにまだまだですけど初日の頃よりはうまくなってますし」
「うぅ…… そう言ってくれる嬉しいです」
「だからこれ以上あたしたちがコニシキレベルまで太る前に早く上手くなりな」
バンッと背中を叩き、励ますと踵を返した 。
「さぁて明日の特訓の為に栄養付けて今日はもう寝ますか!」
「栄養はもう十分過ぎるほど付いてると思いますけどね」
三人は笑うと食堂へと足を向けた。

特訓から二週間、丁度半分が過ぎ一日に作るチョコの消費量が10kgに届く所まで来ていた。
三日前に凛子のスカートがついに破れてしまい次の日には佳奈美のシャツのボタンが弾け飛んでしまったので、流石に着られる服が無くなって来た事に焦りを感じた二人は屋敷内を散歩するだけでは足りないと近所のデパートまで服を買うついでに運動しに出かけることにした。
先日届いた体重計で量ると見事に60kgの大台を超え佳奈美に至っては70kgに届いていた。
陽子は恥ずかしいと体重を量るのを拒んだが見た目からすると彼女も60kgは軽く超えているだろう。

執事が車で送りましょうかとの誘いをダイエットも兼ねてからだと断った二人だが家を出て半分を過ぎた所で疲れ果てていた。
たった二週間程で20kgは軽く太ってしまったのだから無理もない。
「ふぅーっ、もう歩けない」
「元陸上部員が情けないですよ。後半分です、頑張りましょう」
「もう引退して半年以上経つんだから関係ないよ。それにここ二週間ほとんど運動してこなかったから体力ガタ落ちしてるに決まってるでしょ……」
「多分それだけが原因じゃないと思いますけどね」
そう言う凛子も限界が来ていた。陽子の家からデパートまで歩いても30分かそこらで着く距離なのだがもう30分は過ぎている。

「ジュース買って来ますから飲んだら行きますよ」
「どうせだったらそこのファーストフードの店入ろうよ、歩いたらおなか空いちゃったし」
「あなた自分の体型一度見たほうがいいですよ? 今日日70kgオーバーの女子高生なんて滅多にいないですよ」
「このぐらいならまだすぐ取り返せるから大丈夫、それに男の子はぽっちゃりした娘が好きってよく言うじゃない」
「どう考えてもぽっちゃりって感覚は最初の一週間で通り過ぎてると思いますが……」
話しているうちに凛子のお腹が可愛らしく鳴り、途端に凛子の顔が赤くなる。
「今日だけですよ……」
「あははっ、まぁ取り合えず食べに行こう」
食欲には勝てないのか結局二人はデパートに着く前に腹ごしらえするのであった。

所変わってここは屋敷、更に言うならキッチンの隣の倉庫である。ここにはこの屋敷で使われている食材の他に現在陽子がバレンタインの練習に使うチョコも保存されている。
最初は使うたびに買いに出ていたのだが今は大量に買い込んでおり保管場所としてこの倉庫を借りている。
凛子達はまだ帰って来ていないのでまだ午後の分のチョコ作りは始まっていないのだが何故か陽子は倉庫の前に立っていた。キョロキロと周りを確認し、
「誰も居ないよね……」
辺りに人を居ないが居ないのを確認すると陽子は倉庫の中へと入っていった。

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