5,
「ふぅ… よいしょ……。」
この何日かでずいぶん重たくなった体をやっと起こしてベッドから立ち上がる。
毎晩毎晩殺人的な量のエネルギーを食べさせられているおかげで、あたしの胃袋は鉄みたいに頑丈になった気がする。
四日前のあたしと違って、今なら満腹感で動けないようなことにはならない自信がある。……。
「…ちっともうれしくないよ… それ…。」
自分の体に目を落としてみると、なんだか情けなくなってくる。
牛みたいに膨らんで、今にも服を破きそうな胸。
ぶよぶよとせり出したお腹。
それをさらに上回るくらいでっかいお尻。
股をやや開いて立っているハズなのに太ももとか完全にくっついて……
ああ、あたし下半身太りタイプなんだ… 気付かなかったよ… 今まで…。
だってお腹パンパンだったし…。
そうだね… お腹に溜まってた栄養が全身に行き渡ったんだね… ははは…
体型のバランスって大切だなぁ…… ははは…… はぁ…。
「こんな恰好で地獄に帰りたくないよぅ…」
地獄ではスマートな体つきが自慢だったのに… これじゃなんか豚の魔物みたいじゃん…。
でも、このままここにいたらもっとヒサンな事に…。

「あれ? でもちょっとまてよ…。」
よく考えたらここにいる限り食料の心配はしなくていいって事だよね。
そうだ… このままあいつを… ユウをあたしの手駒にしちゃえば…。
「そっか… まだ捨てたもんじゃないわね人間界…。」
あいつにいいように扱われるのがイヤならあいつをいいように扱ってやれば良い。
負けるなプラン、前向きに前向きに…。
「フフフ… 今夜が勝負ね……。」
あたしの笑い声に合わせてお腹と胸がぷるぷる揺れた。 


「ふぅん…立てるようになったってことは、俺の心を食べる準備ができたって事、だよな…。」
夜になって、ユウは部屋に入ってくるなりそんな事を言った。
「もちろん準備はできたけど、でもちょっと待って。」
「何?」
少しキョトンとしてるユウにあたしはゆっくり語りかける。
「あたしね、思ったんだけど… このまま地獄に帰るよりも、ここに居ついちゃおうかなーって…。」
「…元から帰すつもりはないけど。」
「そう、それでね、そのためにはあなたをあたしの思いどーりにした方がいいなって。」
「…強気だな。」
あなたも十分気が強いけどね。
「でもね… あなたの心は濃すぎるのよ。今までみたいにたくさん食べてたら食べすぎでおかしくなっちゃいそう。だから、今度から一回の食事で食べる量はあたしが決めるから…」
「やだ。」
―――そうくると思った―――
「見てよコレ。」
あたしはお腹をむにむに擦って見せた。
「食べすぎであたし、こんなに太っちゃったの。だからこれ以上太らないように… ね…?」
「いいよ別に。」
…え?
「お前が肉の塊みたいに肥え太っても、俺にデメリットなんか無い。いや、むしろその方がオモシロイかな…。」
「えっ… ちょっと…」
「俺がお前の言うこと、聞くわけないダロ? いきなり何かと思ったら、そんな強気な“お願い”初めて聞いたよ。バカだろお前。」
え… そんな… でも…。
「強引に何かしてくるかと思ったのにね、ただのお願いか。」
「ホ… ホラ… あのっ… じゃあさっ… 夜中にイイコトしてあげるからっ… ホラ… だからっ!」
「うん? そうだな…、俺はそんなのよりお前がひぃひぃ言ってる顔を見る方がよっぽどいい。」
えーーっと… えーーーーっと…
「で、でもっ… ほらっ胸とかたぶん人間には無いくらい大きいよっ!!」
特大サイズの胸を両手で寄せ上げてユウに見せる。
「あ、あとっ… きっと抱き心地とか最高だし…っ… だから…!」
「色仕掛けはもういいよ」
「ひざまくらとかしてあげるよっ!?」
「いい必死だ。却下」
「ひっ…」
たぶん必死で笑いをこらえているユウに駄目出しされた。
「まあ… 今のは面白かったかな…。」
「え… じゃ、じゃあ…」
「―――今日の分ダ。」
「ひぃっ… あっ… きゃあっ!」
“ズデン!!”  “ズズ… ドクン… ドクン… ドクン…”
ユウがあたしを押し倒したと思ったら、あたしの口に大量のエネルギーが流れ込んできた。
「……っ… う… んんっ…… ゴクン… ゴクン……………
  ………っぷは! …はぁ… はぁ… ぅ… げぷ……」

あたしがお腹いっぱいになったところでユウは口を離した。
「…ふぅ…。…くそ… まだ治まらないな…。」
少し不機嫌なユウの声。
「え… げぷ…… 何が?」
「………クソ……。」

それだけ言ってユウは部屋を出て行った。

まだ治まらないって…。
これだけあたしに食べさせて、まだ治まらない心があるの?;
日頃どれだけストレス貯めてるのよ…。情緒不安定にも程が…。
あ、器が小さいのかな、あいつ…。いやそんなことより…。
「うーーー… どうしよう……」
男なんだったら女の子の誘い(悪魔だけど)くらいホイホイ乗るもんでしょ、普通。
いやだ… このままじゃあたし、大変な事になっちゃう…
なんとかしなきゃ…うぅ……。

6,
「ふぅー……… ふぅー………」
あたしは薄暗い部屋に横たわっている。
あれから何度か、ユウを負かしてやろうと思ったけど、何一つうまくいかなかった。
どうしたらいいかわからない。第一、何をやればいいのかもわからない。
「う…… はぁ…… はぁ………」
あたしがもっと位の高い悪魔だったら、攻撃魔法でぶっ飛ばすことくらいできたのかな。
「げぷ…… はぁ…… ぅ……」
結局、あたしはユウに敵わなかった。
あいつにされるがまま、毎日毎晩大量のエネルギーを食べさせられて、もう二か月が経った。
「暑い…… 苦しぃ………」
もうあたしは別の生き物になっていると思う。あたしの体についた贅肉は、服を破るだけで収まらず、もうこの部屋を半分以上占領している。
もちろん、立ち上がることなんてできない。ゆっくり、寝がえりをうつように転がらないと移動もできない。
それ以上は… よく解らない。あたしの顔の位置からは、どの姿勢でも山のようなおっぱいと、大きな肉の塊しか見えないし。
まぁ、その肉の塊も“あたし”なんだけどさ…。体重? 知らないよ…。

「…もう… いいや……」

思わず声が漏れた。
このままあいつのオモチャでいいかもしれない。
死んだら死んだで、いいかもしれない。
このまま地獄に帰る…よりは…。
もう、考えるのもめんどくさい。


「随分大きくなったねー…。女の子なのに、キモチ悪い。」
ユウが、何を言っているか。いつ部屋に入ってきたのかも、どうでもいい…。
「うわ、毎日見てるケド、今日はさらに汗が凄いね…。臭い…。部屋も… お前の体温で真夏みたいだよ…。」
ユウの声が霞んで聞こえる。
「この辺… もう何の生き物だかわかんないな…。はは… 柔らかい。」
ユウが汗まみれのあたしのお腹をべちゃべちゃ触っているのを感じる。
でもその姿はあたしからじゃ見えない…。
「ねぇ… プラン…。」
…何だろう…。
「お前は… 本当に面白いオモチャだよ…。」
…そう… よかったわね…。
「こんな遊び方… 人間にやったら犯罪だからね…。日頃… 外で貯まった鬱憤を晴らすにはもってこいだ…。社会に対して、いい顔をしているのも疲れるよ…。」
あたしには… いい顔をしてくれないのね…。
「便利だね… 悪魔って…。本当に…。」
今日はよく喋るのね… いつもは無理やり食べさせてくるだけなのに…。
「今日も俺のストレスを食べてくれ…。」
そう言うユウの顔もやつれて… というか、痩せて見える。
そう言えば、何日か前から… こんな顔してたかも…。
こいつも… 疲れてるのかな…。

「わかった…… 食べさせて……」

いつの間にか目の前にあったユウの顔にそう返事をして、あたしはどす黒いエネルギーをユウの口から吸い出す。

“ゴクン…… ゴクン………”
最初は、あまりの多さで苦しいだけだったこのエネルギーも、今は何ともない。
“…ゴクン…… ゴクン…… ズ… ズ…… ゴクン……”
おいしい。   これで…    いいんだ…    これで…

    ――――――トクン――――――

「!?」
ショックでボンヤリしていた頭が一気に覚めた。
あたしの口の中に、心のエネルギーじゃない何かが入ってきた。何これ。
甘いような… 少ししょっぱいような… 温かい物…。
「!!!!???…ガッ… ゲホゲホッゲホ!!! が… ああっ… ゲホ!!!!」
突然ユウが苦しみだした
。あたしから飛びのいて、床に倒れると、そのままあたしの横でのたうち回っている。
「がっ… あっ…… ゲホゲホゲホ!!! …はぁ… はぁああっ… ぐ…。」
何だろう? 何でいきなり……

    ――――!! もしかして…!!――――
あたしは口の中で脈打っていた、温かいものを飲み込んだ。
それはゆっくり食道を伝って… あたしのお腹の中に消えていった。

そしてあたしはそのまま寝がえりをうって、ユウの上にのしかかった。
“ズシ…!”
「!? が… ぎ…あぁあああああ!」
あたしの体の下で、ユウがもがいているのを感じる。
「う… あ…… プラ…ン……?」
「ふふ… 今あたしが… 何を食べたか…… わかる?」
あたしの胸とお腹の肉に押しつぶされているユウに、ゆっくり言い聞かす。
「ゲホ…、なんだ… ょ……」
「それはね――――あなたの“魂”」
「!?」
ふふ… ふふふふふふ!! そりゃそうよね!!
毎日毎日あれだけ沢山、自分の体の中のエネルギーをあたしに食べさせてれば自分の中身、それも本体が出てきちゃっても仕方ないわよね!!
ユウが最近痩せてるように見えたのは生命力が枯渇していたから!
声が霞んでいるように聞こえたのは本当に“掠れて”いたから!!
「あなたの… 命は…… げっぷ…… もう… あたしのお腹の中よ。」
「…!? …あ…  な  ……ぅ……?」
「もうあなたは…… げふ…… あたしに… 逆らえないわよ。」
キターーーーーーー(゜∀゜)ーーーーーーー!!!!!!
形勢逆転!! とうとう!!! ついに!!!!
「う…… 返…せ…… 吐き…… 出せ……」
「あらあらぁ~? そんなこと言ってるよゆうあるのぉ~?」
「え…… あ……? …う…ぁ… あぁあああぁああ…!」
みるみるユウの体が干からびていく。
手は骨と皮だけに、顔は骸骨みたいに、眼は充血して、髪は白く……。
「悪魔はオモチャだとか… ゲプ…、そーゆーこと… 言ってるから… こんな目に… ゲフ… あうのよ。」
そう言って、あたしの下でそろそろ本気でつぶれかけてるユウに微笑みかけてみた。
「ゥ…… 重…ィ…… ドィ……テ…… ク………。助……。」
ユウ涙目。
…勝った。


7,
「暑~い。汗かいちゃった~。拭いてちょうだーい。」
「自分で…… 拭ケ… ばイイ… のニ……」
「あれれ? いいのかな? あたしにそんなこと言って~」
「…ク… ソ……」
もうユウは完全にあたしの道具だ。
真っ白に燃え尽きた(肉体的に)体で、あたしの言った通り働くユウを見ていると本当に楽しい。
「ぶっちゃけもう人間には見えないよね~。生けるシカバネって感じ?」
「う… ルサ… い…。」
白ーくなった針金細工みたいな体で、充血した眼を半開きにしたその姿はまさにスケルトンみたいだ。
「あなたはあたしに逆らっちゃいけないの。あなたの魂はあたしのお腹の中にあるんだから。」
そう言ってあたしはユウに買わせた特大のベッドの上で大きなお腹をむにむにさすった。
「殺さなかっただけ感謝しなさいよ。あたしの優しさであなたは今生きてるんだからね。」
魂を抜き取っただけだと、体の方は死なないらしい。
こいつの魂を食べたあたしは、こいつの体が生きるか死ぬかの決定権を持っている。

「クソ…… この…… デブ……」
「あなたがこんな体にしたんでしょ~?」
丸太のように太くなった手足。クッションみたいなお尻。ど~んと前にせり出したお腹。
その上に乗っかっている、牛… というより妊婦のお腹くらいのサイズがある二つの胸。
この前体重計とかいう道具で重さを測ったら400㌔超えてた。正直、一人だともう動けない。
もう悪魔っていうより肉牛の魔獣ですって言った方がいいかも。角も生えてるし。
「一生あたしのお世話をさせてあげるから感謝しなさい。」
「ウ…… クソ…… ハァ… ハァ……」
あたしの脇の下の汗を拭いていたユウが倒れこんできた。
まぁ、それだけ痩せてれば体力も無くなるわよね。
人間の仕事や生活はちゃんとできてるのかな?
「不健康極まった体ね。」
「ハァ… ハァ… お前…… モナ……」
うるさいな。
「ま、せいぜい憎悪や絶望を感じるがいいわよ。あたしがぜ~んぶ食べてあげるから。」
「………!……。……ふん……。」
もう地獄になんて帰る気ないし、このまま一生吸い取ってやるわよ。
あたしの下僕としてね。

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