「こちそうさま~。」
突如、上から姉の声が響いた。どうやら腹の限界より少し先に、スパゲティが無くなったようだった。
そして、コップをとり、口の中をジュースで洗い流す。
ゴクッ…。
「ふぅ…。ジュースなら液体だからまだ入りそう。」
「いや、姉ちゃんもうやめなって。姉ちゃんの腹、もうパンパンで今にも破裂しそうだよ。」
いい加減、心配になり止めに入った俺をよそに、平然とグラスのジュースを飲み干してしまった。
「ゴクッ…ゴクッ…」
静まりかえった部屋に、姉の喉が鳴る音が響く。姉の腹はもう膨らむ余地を残していない。
ここからは、詰め込めば詰め込むほど、ただひたすら内圧が高くなる一方だろう。
「ハァ…ハァ…、お腹いっぱ~い!」
温かいパスタを大量に頬張って来たせいで、姉のTシャツは汗でしめっている。
「ハァ…ハァ…、ちょっと休憩。」
姉はそのまま寝そべり、頭をベッドのふちにもたれかけ、目を閉じて安らいだ表情を見せた。
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  • (521さんより挿絵をいただきました。)

緊張感の無い表情とは対照的に、重鈍な緊張感が張りつめた姉の腹部。
「すごいね。ちょっと見せて貰っても良い?オナカ。」
「ん?うん。…良いけど、あんまり押さないでね。…苦しいから」
「押さないよ!今押したらそれこそ大変な事になりそう。」
姉は、目を閉じて寝そべった姿勢のまま、Tシャツをブラジャーの下一杯までめくりあげた。

それは凄い光景だった。
小柄な姉の肋骨は小さく、胸板も薄っぺらい。俺の両手でがっしりと掴めそうなくらいの大きさだ。
この中に、小さな肺と小さな心臓が入っているのだろう。勿論、小さな姉の体には十分な大きさなのだろうが。
…しかし、肋骨の中央にあるはずのみぞおちが無い。みぞおちは普通、窪んでいるものだと思う。
それが、こちら側にポッコリと張り出しているのだ。
ちょうどYの時を逆さにした形状の肋骨の下からみぞおちが張り出し、
そのままドーンと勢いを帯びてへその下まで一気に繋がった曲面のラインが目を覆っても見えるくらい
俺にとってはまぶしく露呈されている。
へその下は逆傾斜面になっていて、上からは見えない。
そのラインはそのまま姉のハーフパンツの中に吸い込まれている。
くびれなど全くない。まるで、巨大なナスビのように丸い姉の腹。
ちょっと触ってみた。…硬い!
その表面は先日以上にカチカチに硬く張りつめ、弾力も有るのか無いのか分からないくらいだ。
とてもじゃないが強く押す気にはなれない。
こんな状態では元々小さいであろう肺も心臓も、中で下から胃袋に突き上げられ、
ギュウギュウに圧迫されている筈だ。
こんな腹の中では、内臓によって営まれる生命活動に支障は出ないのだろうか。
しかし、姉の顔は若干苦しそうだが、実に満足そうな不思議な表情だ。
食べ物全てを内包しているが故の抱擁感というか、不思議な優しさを感じる。

俺はふと視線を落とした。ハーフパンツの上に、ちぎれた紙帯が落ちているのが目に付いた。
俺はそれを拾い上げ、そっと姉の腹に巻き付けた。
「…!!…でけぇ!」
思わず声を上げてしまった。さっきまで握り拳一個分の隙間が空いていた筈の帯は、
今では巻き付けても10cm以上の間が開いている。姉のウエストは、
もはや自分などとは比較にならないくらい驚異的に膨らんでいるのだ。
「んっふふ。何センチくらいあるんだろうね~。」
姉もそれに気が付き、面白そうに見下ろしている。
「多分今がいちばん膨らんでる時だよ。これから徐々にしぼんでいくと思うけど。」
俺はテーブルの脇においてあったメジャーを取り、姉の腹に巻き付けた。
結果は、何と82cm。こんな小柄な姉なのに、男ならあと3cm足らずでメタボリック症候群が
疑われるような寸法になっているのだった。
「あはは。すごぉい。」
俺は、参考までに自分の腹も計ってみた。
結果は、76cm。
みぞおちのあたりに若干の膨らみは見えるが、ウエストはたった6cmしか変わっていなかった。
時間が経ったのでさっきほどは苦しくないが、
それでも自分なりにはとてつもない量を食べたつもりだ。
俺の腹筋はもうピンピンに張って、悲鳴をあげている。
今の姉とは6cmの差があるが、無理に広げたら、それに到達する前に腹筋がちぎれてしまうだろう。
苦しい今の俺は、そんな事を考えるだけでも吐き気がこみ上げてくる。

俺は、自分のシャツをまくり上げて、姉の隣りに並んでみた。
真横に並んだ、姉の腹と自分の腹。
それは6cmという数字ではピンと来ないかも知れないが、
まるで大人と子供のような、絶望的な差だった。
腹の高さが違うのだ。それと、圧倒的な丸さが産み出す堂々とした威圧感。
7ヶ月くらいの妊婦と、そうでない痩せ形の人が並んで「妊婦はどっちですか」
と問うているようなものだ。あまりにも違いすぎて、比べる意味が無いくらい別物だった。
「あはは。翔のお腹、おもちゃみたいにちっちゃ~い。それでお腹一杯なの~?可愛いね~。」
姉は俺をからかった。
俺はその一言に、妙な興奮を覚えた。
「もう一杯一杯だよ。これ以上詰め込んだら、死んじゃうよ!」
「じゃあ、今あたしのオナカの中に入ってるのと同じくらい詰め込んだら、死んじゃうの?」
「うん。破裂しちゃう。」
「やってみよっか。…う…オエッ!」
姉は顔をこちらに向けて口を近づけ、俺の口に口移しをするそぶりを見せようとした。
…!!まさか、ゲ…
「…冗談だよ。いまの翔、すっごく苦しそうで面白い顔してたよ。」
姉はまた笑い出した。
「それに、今はもう、吐こうとしても吐けないもん。胃が痙攣しようにも、
パンッパンに張っちゃってるから、全く無理だと思うよ。」
確かにそうだ。嘔吐を催すには、胃が痙攣、収縮して、内容物を食道に押し戻す必要がある。
胃袋が痙攣しようとする力よりもずっと強い内圧が掛かっているという事だろうか。

「今の姉ちゃんの体重って、どのくらいになってるんだろう」
「そうだねぇ。…ちょっと翔、体重計を持ってきてくれる?」
俺は、洗面台の下にしまった体重計を引っ張り出し、姉の前に置いた。
「…よいしょっと。あ、重っ!!」
姉はベッドの縁に掴まり、よろけながらゆっくりと立ちあがった。
妊婦でもないのに、自分の腹を相当重く感じているようだった。
前屈みで、背筋を伸ばす事が出来ない。腹の内容物の重みで、その腹は
まるでスイカがまるごと入ってるんじゃないかと思うくらい丸く垂下している。
わずか5cm程度の体重計の段差を登るのも辛そうだ。
…僅かに軋み音を立てながら、デジタル式の体重計は51.5kgを差した。
「ごっ…ごじゅういってんごっ!?」
俺は驚いてしまった。元が47kgだから、8、9、0、1…実に4.5kgもの増量だった。
まさか小柄な姉が、俺と同じ50kg台に突入して来るとは思わなかった。
「あっはは。すごぉい。これが食べる前だったら私、おデブちゃんだね。
…まぁ、今は見ての通り、おデブちゃんだけど。」
姉は体重計の上に乗ったまま腹を丸く大きくさすって、ポンと叩いた。
すると、叩いた時の衝撃で「ドンッ」という鈍い音が響いた。
小さいけれど、凄く迫力のある低音だった。
この腹の中身がガスや空気だったら「ポン」とか、もっと軽い音が出たに違いない。
しかし、液体と固体がぎっしり詰まって肉樽と化したその腹から、
まさにその事を証明するかのような重低音が響いたのだった。

俺が驚かされた音は、それだけではなかった。
体重計から下りて、ベッドの縁に戻ろうとした姉から突然、
「ビイィィイッ!!」という悲鳴のような音が響いた。
最初は俺も、何の音だか分からなかったのだ。するとまた、
「ビッ!…ビィイイ…!」
「あははごめん翔。おなら出ちゃった。臭い?」
姉は笑いながらこう言った。俺は何が起きたのかまだ分からなかった。
「へっ!?何?今の…もしかして、おならなの?」
「そうなの。一杯食べたあとはいつも出ちゃうの。こっそり出そうと思っても無理なの。」
「で、出ちゃうって…それ以前に、おならの音じゃないし!
もしかして、オナカの中が物凄く高圧になってるから?」
「うん。そうみたい。…もう慣れたけど。」
「なんか俺、スッゲービックリした。ビックリって言うか、その…ちょっと興奮しちゃったっていうか。」
「なに言ってんの。そんな事言ってるとホラ、また出るよ。」
俺は姉の、尻の前で手招きする仕草に誘われ、姉の後ろに先回りして座った。
俺の視界の中央に、ベッドの縁に立つ姉の小さな尻が入った。
細身なのに脇腹がパンパンに張っていて、Tシャツも背中がピンピンに張っている奇妙な後ろ姿。
部屋は一瞬水を打ったような静けさになり、そして…
「ビッ…ビ…ビィイイ!!」
「あっはっはっは。ごめ~ん。臭かったでしょ?」
俺は、モンスターの悲鳴のような音が響いて来たその小尻の中心から目を離せないでいた。
「ん?どうしたの翔。なんかおかしいゾォ~。」
「あ、あ~…凄い音だったから、ビビって動けなくなってた。」
「コラ!もう、そう言われるとまだ恥ずかしいんだから。」
「ごめん。でも、臭くはなかったよ。」
「そう?あ、でもおならの後は、ちょっと楽になるんだよね。」

それにしても、オナラが出ると言う事は、腸が活発に活動しているのか?
あるいは、腹圧が上がって行き場を失ったガスが噴出せざるを得ないのだろうか?
姉の腸内は今、どのようになっているのだろうか。俺は気になって仕方がなかった。
「姉ちゃんの腹の中って今、活動してるの?」
「ん?さあ~よくわかんない。食べちゃったあとはただ待つだけだから。
でも、待ってるうちにどんどん消化されるって事は、動いてるんだと思うよ。」
「ちょっと確かめても良い?」
俺は、ベッドの縁に座った姉の腹に側頭部をくっつけ、聞き耳を立ててみた。
「どお?翔…なんか聞こえる?」
聞き耳など立てる必要は無かった。
「ゴポゴポゴポ…ギュルルル…ゴポゴポゴポ…ギュルルル…」
力強い音が鳴り響いている。姉の消化器官は、圧迫感のある腹膜ドームの中で
まさに生命活動そのものを繰り広げていた。
先程までスパゲティーだったそれらが、呻き声をあげながら姉の腹の中でこね回され、
押し潰され、吸い込まれていくのが、まるで手に取るように聞こえてきた。
その様は、野生の生き物が、自らの生きるために獲物を喰らい、胃袋の中で消化して、
己の体やエネルギーを生み出す源へと変えてしまう、逞しいそれと少しも変わらない印象を放っていた。
その音をまじまじと聞いていると、まるで俺自身が消化されているかのような恐怖感を覚えた。
「すっごい音が聞こえるよ。さっき飲み込んだあのスパゲティーの塊も、
同じように溶かされちゃってるのかな?」
姉は俺の頭に手を置き、優しく撫でながら言った。
「そうねえ。この中から無事に出られた物なんて今まで無かったからね。
翔も気を付けないと、うっかりこの中に入ったら、溶けちゃうよぉ~!」
姉はまるで、オバケの話で子供を脅かす時のような声を立てた。

気が付けば俺は、腹がパンパンに膨らんだ姉と交わす言葉を愉しんでいた。
それは姉も同じだったようだ。それは、いきなり赤の他人が
客観的に見ればただの変態姉弟としか思えない領域へと入っていった。
「ねぇ姉ちゃん。胃袋ってさぁ、人体模型や図鑑とかで見ると、確か
こんなカタチしてるよね。左右も対称じゃなくってさ。」
俺は手でその外形を空中に描いてみせる。
「そうだよねぇ。」
「でも、今の姉ちゃんの腹は丸く全体が膨らんでるよ。
今の姉ちゃんの胃袋って、この腹の中で一体どんな風になっちゃってるんだろ。」
「さあ。あたしにも分かんないよ。」
「そんなに苦しくなるまで詰め込んで、最後の方ってちゃんと味わってるの?美味しいの?」
「うーん、最後はもう根性で詰め込んでるかな?」
「そんなにまでして詰め込む理由って何?」
「あたしが、あたしの胃袋をいじめてるの。太りたくない時なのに、この子ったら
ちゃっかり栄養を吸収しちゃうんだから、そのお仕置きをしてみたのが始まり。
でもこの子、しぶとくて全然降参しないんだもん。
それで、お腹がこんなにおっきく膨らんじゃったから、私も何か興奮しちゃって。」
「凄いよね。俺がそんなに詰め込もうとしたら、内臓をこらしめるどころか
死んじゃうよ。今、姉ちゃんの腹の中には、俺の致死量の食べ物が入ってるんだよね。」
「致死量って、なんかウケる。ただのスパゲティだよ。んふふ。
でも、そうだよね。こん中に翔の致死量が入ってるって考えると、あたしもなんか興奮するなぁ。」
「ねえ、その腹を使って、俺を脅迫してくれない?さっきみたいに。」
「う…ん。いいよぉ。」
俺は姉にちょんと押し倒され、ベッドに横たわった。
姉はその上に、四つん這いになってゆっくりよじ登ってくる。
「ホーラ翔、逃げないと、このお腹の中の食べ物に、殺されちゃうよぉ…。」
姉の硬く張りつめた重い腹が、俺の腹の上をしごきながら通過していくのを感じた。
姉の腹が、俺の腹を直接圧迫する。俺はさっき食べたスパゲティが逆流しそうな苦しさを感じた。
今の姉は、この程度の圧迫では全然苦しくないのだろうか?
俺は、自分が限界を感じているのを悟られないように心掛けた。
「あ、いいねぇ。…で、どうやって殺しちゃうの?」
「さてねぇ。…この中身を全部翔の中に流し込んであげようかしら。あ、でも
これはあたしのだから誰にもあげたくないなぁ。せっかく食べたんだから。」
そうこうしているうちに、姉の腹は俺の顔の方に近づいている。
「ほらほら。このまま翔を、押し潰しちゃうゾォ。重いよぉ。息も出来ないんだから。」
「あ!…ホントだ。これで口塞がれたら息が出来なくなっちゃう。つーか、重っ!」
「へっへっへ~。ごじゅう…何キロだっけ。えっと、52kg!頭蓋骨も潰れちゃうかもよ。
命乞いしなくていいのぉ?あっはは。もう翔がオナカの下に隠れちゃって、全然見えないんだけど。
おーい、生きてるかぁ?…おっ、頑張ってるねぇ。」
俺は、両手を使ってその重い腹を持ち上げた。
本当に顔面の上から大玉のスイカを持ち上げるくらいの重みを感じた。
しかし、おならの後だからか、先ほどよりいくらか柔らかさを感じる。
先日のケーキの時のような、鈍い柔らかさだ。
その温かさと皮一枚の柔らかさが、(言葉ではいじめている)姉の、
俺への密かなる優しさを表しているかのようだった。

顔面を横に向けて息をすると、嫌でも耳が腹にぴったり密着する。
そして、俺の耳の中に繰り返し響いてくる姉の中の、猛獣のような音。
「ゴポゴポ…ジュルルル…コポ…」
おそらく腕力で比べたら、姉よりも俺の方がずっと上に違いない。
しかし、この腹の中から響いてくる音は、全く敵わないという絶望感を感じるほど
強そうで、猛々しく、逞しかった。
どでかく膨らんだ胃袋が収縮して、今頃はこの中で消化液とまぜこぜにされた
大量のスパゲティの残骸が、極太く拡がった腸内に送り込まれていることだろう。
今の俺は、姉の腹によって恐怖を感じるほど圧迫されている。
そして、この腹の皮一枚の向こうでは、スパゲティが同じく被害者として
残虐な扱いを受けているだろう。その重みを利用して俺を苦しめている訳で、
腹の皮の向こうとこっちで同時に虐めをやってのけている姉に驚きを覚えた。
「ああ…姉ちゃん…。もう駄目。俺、この腹に負けました。どうか命だけは助けて下さい!」
「当たり前じゃない翔。アンタ、年上のあたしに敵うと思ってたの?…ホラ、助けてあげるから。
…よっこらしょ…っと。」
姉は尻を下げながらぐっと上半身を引き起こし、四つん這いの姿勢からゆっくりと上体を起こして着座した。
重そうなその腹は、再び骨盤の器の中に収まるようにして支えられた。
姉自身、筋力がそんなにある方でないので、重くなった自分自身の腹をやっとことで取り回している様子だ。

「参ったよ。…だって、腹の中から聞こえてくる音が凄くて…怖くて。」
「あっはは。翔ったら、臆病だね~。」
「だって姉ちゃん、さっきのスパゲティを、この中で凄く非道い目に遭わせてるんでしょ?」
「非道い目って。だって、あたしのオナカはいつまでも食べ物を温存しておくような
保存庫じゃ無いんだよ。あたしに食べられたら最後、この中をぐるぐる駆け巡って、
最後には要らないモノとして出しちゃうんだから。」
姉は座ったまま手を伸ばし、尻をさすった。
「変わり果てた姿にしちゃって、ココから全部捨てちゃうんだよね。」
俺は姉の尻の方に視線を向けた。
ズッシリと乗っている重みのせいで、その尻は布団の中に深く沈み込んでいる。
「そう。変わり果てた姿。想像したくないでしょ。」
「しかも、食べてる時よりもずっと凄い勢いで出しちゃうんでしょ。」
「アハハ。やだ~翔ったら。だって出さないと、次のもの食べられないじゃん。
実は、この大食いダイエットするまで、便秘でちょっと困ってたんだ。
今は面白いくらいスルスル出るんだから。快適だよ。」
「確かに、4.5kgも詰め込んだままだったら、次のモノが入らないかぁ。でも、もしそれを
溜め込んだたまま次の大食いが出来るとしたら、どうする?」
「うーん、そしたら、そのまま大食いするかな。…でもさぁ、テレビでやってた大食いの人なんて、
フツーに一食で9kgだよ、9kg!あたしなんかの倍は入るってことだよね~。」
「じゃあ姉ちゃんは、出来る事なら20kgでも30kgでも行きたい?」
「うわぁ、そこまで行くとさすがにコワイねぇ。でも、面白そう。」
俺はあらためて姉の膨らんだ腹を見た。華奢で薄っぺらい胸板の直下に大胆に膨らんだ腹。
まるで、ここまでは肋骨で、この下は骨が無いですよと自己主張しているようだ。
「これって、姉ちゃんの腹膜というか、骨格の限界で容量が決まってるんでしょ?
胃袋や腸がフリーになったら、まだ詰め込めそうな感じがするんだけど…。」
「うーん、多分そうだと思うけど。」
「もし姉ちゃんの体に肋骨が無くて、口とか喉がゴムみたいに自由に伸びるとしたら、
俺なんか、丸呑みされちゃうのかな?」
「あっはっは~。しちゃうかもね。あたしのオナカの中に、翔がまるごと一人入ってるなんて
想像しただけでもコーフンしちゃうね~。ホーラよしよし、泣かないの翔。
苦しくないように、すぐに溶かしてあげるからね。って、オー怖っ!」
姉は腹をさすりながら、まるで子供をあやすようなおどけた口調で話し掛けた後、
ブルッと身震いして細い肩を小さく揺すった。
俺は、姉の中に入る自分の想像と、俺が腹の中に入っている事を想像している姉とに
興奮を覚えてしまった。

「でも俺は、ゴムみたいに伸びるのよりさっきみたいにカッチカチに硬くなった腹が好きだなぁ。」
「なんだぁ、翔は硬いのが好きなの~。じゃあ、お望み通りまたカッチカチにしてあげる。
ちょっと、テーブルの上にあるオレンジジュースを取ってちょうだい。」
「え、いいけど、どうする気?まさか…」
「さっきガスを出しちゃったから、また少し余裕が出来たの。だから、その分詰め込むの。」
俺はドキドキしながらジュースをペットボトルごと手渡した。
ボトルの中には、まだ半分くらいのジュースが残っている。
姉はそれを受け取ると、キャップを開け、そのまま勢いよくラッパ飲みを始めた。
俺はすかさず姉の腹に手を添えた。
「ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ…ゴクッ」
飲み込む音に合わせて小さく脈動する腹。その腹が、既に大きく膨らんだ状態だと言うのに
更に膨らんでいき、その膨らみに合わせて徐々に硬く硬く張っていくのを手で感じることが出来た。
元々腹周りは痩せていて肉が付いていないないせいか、血管が浮き出て膜のようになった腹は
中のジュースによって冷やされ、ひんやりとして来るのを手のひらから感じた。
姉はジュースのボトルを口から離した。なんと、中身は空っぽである。
「あはは。ぜ~んぶ入っちゃった~。」
「入っちゃったって、どこに?」
俺はその言葉に反応し、わざと野暮な質問を投げかけた。
「どこって、決まってるじゃない。あたしの、オナカの中だよ。」
「オナカの中に入れちゃったの?」
「そうだよ。」
「なんか、『食べる』とか『飲む』とかより、『オナカの中に入れちゃう』って表現の方が
エッチっぽいというか、そそられるね。」
「本当?…あっはは、確かにそうだ~。あ、笑ったら…ゲップ、出ちゃいそう。」
俺はすぐさま姉の口元に顔を近づけた。
「…ヴォエエエァ!!」
「凄いゲップだ。よく吐かずにゲップだけ出せるね。…あ、匂いするよ。オレンジジュースと、
ミートソースの混じった匂い。」
「そりゃそうだ。当たり前じゃん。」
「でも姉ちゃんのオナカの中に一度入ったガス、吸っちゃった。」
「あ、コラ、それあたしの空気だよ。返せ~。」
「無理だよ。あ、それはそうと、また体重が増えてる筈だよ」
姉は、また体重の計測をした。ジュースのせいで重くなった姉の体は、52.2kgを差した。
「あはは。ついに52kg超えしちゃった。人生初かも。」
「そりゃそうだ。つーか、51なら有るの?」
「うん。夏休みの最後、51kg台だったから。」
「重っ!…その時に大食いしてたら、俺の体重追い越してんじゃん。」
「そうかもね。あの時はオナカにお肉が付いちゃって、おへそなんて隠れて見えなくなっちゃってたんだから。
だからダイエットしようと思ったんだけどね。でもその頃はまだ、今ほど沢山入らなかったからな~。」

「それにしても、姉ちゃんのオナカ、また凄くカチカチになっちゃったね。」
「うん。カッチカチ!」
「どのくらいの圧力なんだろう。」
「分かんないけど、陣痛の時の妊婦さんの子宮って、0.05気圧とか、0.1気圧とかって聞いた事有る」
「もしそれと同じくらいだとしたら、どのくらいだろうか。胃の内容積が4Lの球だとして…」
俺は姉に電卓を借りて、計算してみた。数学が好きなので計算は得意だった。
しかし、その計算結果に関しては全く想像が付かなかった。
「…凄いよ姉ちゃん。今の姉ちゃんは食べ物を胃袋全体で、最低50kgから100kgくらいで締め付けてる計算だ!」
「え~?うっそ~。…そんなに?うそだ~。」
どうも姉にはピンと来ない数字だったようだ。
「本当だよ。だって、ホラ、数字見てごらんよ。」
「ホラって言われてもよく分かんないよ。100kgの締め付けって、どのくらいの力?」
「…だから、0.05気圧から0.1気圧だって。」
姉は少し怪訝そうな顔で、まるく張った自分の腹をさすりながら見下ろしている。
「そう言われても分かんないって。翔は分かるの?」
「…正直、俺も分かんない。締め付けられた事無いから。」
「でしょ?…なんなら、この中に入って、締め付けられて見る?」
姉の顔がいたずらっ子の笑みに変わった。
「ホラ、里穂姉ちゃんの、オナカの中に入れてあげるからさっ。」
「無理だよ。例え入ることが出来たとしても、締め付けられて窒息しちゃいそう。」
「じゃあ窒息しそうになったら出してあげるから。あ、でも口からは戻ってこないでね。
あたし、吐くの嫌いだから。出る時は、こっちからだよ。」
姉は挑発的に尻を叩く。
「んな殺生な!そんな所から出されたくないよ。」
「うふふ~。…だって吐くの気持ち悪いし、第一、一度手に入れたものを奪い取られる感じがしてイヤ。
オナカの中に入れちゃったものは、あたしだけのものなんだから。
あ~、好きな物でもなんでも、ぜ~んぶこのオナカの中に入れちゃいたい!食べ物も、翔も、み~んな。
…あたし自身もこの中に入りたいな。」
自分自身を自分の胃腸の中に入れるなんて、姉らしい無茶な発想だった。
姉の中では、胃袋は姉自身でもあり、姉とは違う獰猛な別人格でもあるようだった。

「…あぁ、俺、何だかよく分かんないけど、姉ちゃんのオナカの奴隷になりたい気分。」
俺はもう一杯一杯で、自分でも何を言ってるのか分からなくなって来た。
「えっ?何で?」
姉はちょっと不思議そうな顔をした。
「何でっていうか、…敵わないから。それに、受験勉強も上手く行くか分からないし、
姉ちゃんの腹の外で独立して浪人生になって、不安な人生を送るんなら、
俺、姉ちゃんの腹の中に吸収合併されてもいいや。」
「そぉかぁ。いいよ、家来になっても。…あたしのじゃないのね。あたしのオナカの家来。
でも、受験勉強は頑張りなよ。翔なら賢いし、出来るよ!
なんだったら、こんな姉ちゃんでよければ勉強教えてあげるから。」
「ホント?うれしい。これからも毎日のように来ちゃおうかな。」
「いいけど、これからは食費もちゃんと出すんだよ。お小遣いの半分で良いから。
これだけ一杯食材買うと、結構掛かってバイト代だけじゃ大変なんだ~。
あと、バイキングの食べ放題レストランにも付き合ってよ。一人じゃ行く気がしなかったんだ。」
…どうやら二人だけで共有する秘密の趣味は、今後も続きそうだった。

-終-

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