固茹で卵な半熟卵プロローグ


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作者:◆gGWjPaYNPw

「ちっ、今月も収入無しか……」
俺はそう言って、舌打ちらしい物ををする
どう見ても、エラしか動いてねぇのは愛嬌だ
こうして街の中を歩いて何をしてるかと言うと、道端に落ちてる小銭目当てって奴だ
自販機を見付けたら、取りあえず下を覗くのは最早日課だ。悪かったな、俺なりの生きる努力だよ
「おっ、ラッキー、500円玉じゃねぇか」
遂に収穫ゲット
しかし、目立つ容姿のせいで俺には誰も近付かない
まぁ、仕方ねぇ
なんせ、人外だからな俺は
ポケットに手を突っ込んで、小銭を確認する
「良し、取りあえず何時ものは買えるか……」
そして俺は、行き付けの鑑賞魚店の暖簾をくぐった
一気に俺にはとても良い匂いが立ち込める
そう、水の匂いだ
「親父、何時ものくれ」
「あいよ、アジョ中さん、何時ものスイミー徳用パックですな。1980円になります」
レジの音がチンとなり、俺は小銭を全て吐き出した
「毎度あり~」
俺はそして店を出て、河原に向けて歩き出した
そう、俺はアジョ中
一応人外と呼ばれる化物の一人だ
俺の容姿は魚の上半身に頭の所で鰻の様に正面を向き、胸鰭から両腕が生えていて、腰から下は人間のオスの下半身だ
魚の種類はどうも一定しないらしい
人によって、鯉だの鮭だの鯛だの鮪だのカサゴだのシーラカンスだの、果てには外なる神と繋がってんじゃねぇかと言われてっけど、まぁ、俺には知ったこっちゃない
力はそこそこ有るんじゃねぇか?
あんまり派手にやると、警官辺りに問答無用で撃たれっから、ならず者以外にはやらんけどな
そんなこんなで河川敷に着いた俺は、鯉の餌たるスイミーの袋を開けて、中身をバリボリ頬張った
「…………ふぅ、たまには伊勢海老を食いてぇぜ。こう、活きた奴を頭からバリボリってよ」
河川敷で寝そべりながら、懐の寒さに溜め息らしい物をつく
やっぱり、エラが動いてる様にしか見えんだろう
「トーナメントで勝ち進めば、賞金得られたんだがなぁ……」
ふて寝だ、良し決めた。生憎こちらは魚だ、一週間程度の絶食は平気だ。しかも今はスイミーがある。一ヶ月は余裕で過ごせるぜ
飛んで来た新聞紙には、連続殺人事件がトップを踊っているが、俺には関係ねぇ
そう思って俺は、その新聞紙をアイマスクにして、瞼の無い瞳を閉じた
端から見ると、死んだ魚の目にしか見えてねぇだろう


起きたら河川敷に居た筈の俺は、あの忌々しい家の門前に紛れ込んでいた


あの化物め、今度はどんな用事だ?チクショウめ
「ちっ、迷い家か…」
俺は、そのムカつく門扉を開け、中に入って行く
扉を無造作に開けると、あの化物の弟子が待っていた
「いらっしゃいませ、アジョ中さん。お師匠様がお呼びです」
「テメェもご苦労なこったな、倉刀」
「そんな事は有りませんよ」
この兄ちゃんは物腰柔らかな青年だが、こう見えて長生きらしい
やっぱり、俺にはどうでも良い事だ
「お師匠様は書斎にいらっしゃいます」
「また、何時もの『創作』か」
「はい」
俺は、勝手知ったる他人の家をずかずかと進み、奴の部屋の扉を開いた
「ハルトシュラーてめえ、いきなり呼び出すんじゃねぇ!」
ガン!!
ノックもせずに歩いて行ったら、扉のすぐ前で壁に激突しちまった
「痛って、テメェ!人を呼んどいて、この仕打ちは何の積もりだ!」
あんにゃろう、見えない壁を『創作』してやがる
良く見ると、見えない壁が連なってるだろう予想面に、ハルトシュラーのサインが入ってやがる
「………私の『創作』を邪魔するな」
こちらも見ずに、この迷い家の主、ハルトシュラーが吐き捨てやがった
その瞳はスターサファイアを連想させる神秘的な青、髪の色は良く分からねえ、金色にも銀色にも見える
何よりその容姿が、10~12歳前後に見えやがる
コイツは俺なんかの比じゃねぇ、超弩級の化物だ
外見に惑わされた倉刀なんかと一緒にすんな。なんせ、俺は魚だからな
「良いからこの壁消しやがれ、この化物」
「知ってるだろう?私の能力は『創作』だ。『壊す』事は出来ん」
やっぱり、こちらを見ずに言いやがった
本当にムカつく野郎?女?まぁ、どっちでも良い
倉刀はどっちもイケるから、一粒で二度美味しいとか抜かしやがるしな。流石昔の武家だ、衆道にも通じてやがる
「壊すもん『創作』しろよ!テメェが俺を呼んだんじゃねぇのかよ?」
やっと羽根ペンを片手に机の上で書いてた物から顔を上げて、俺を見やがった
「……そうだったか?ちょっと、記憶に無いが」
これだよ、これ
コイツは有り余る能力を持つが故の、傲慢を隠さない
だから、俺はコイツが嫌いだ


俺がギリギリと歯軋りらしきもの、やっぱりエラが動いてる様にしか見えないが、をしていると、ハルトシュラーが何やら書いてたやたらにゴツいノートをパラパラ捲り、顎に手を乗せて小首を傾げる
倉刀辺りなら、お師匠様~っつってダイブしかねねぇな、ありゃ
そして青い目がピジョンブラッドすらかくやとする赤目に変わり、羽根ペンを使って、空中に何かを書き出した
そう、『創作』だ
みるみる内に書き出されたそれは、黒板消しだ。そして最後にハルトシュラーのサインをする
すると、線画だったモノに色が乗り、実体化する。そして空中を飛んで見えない壁の予想壁面を、キュッキュッキュッと消し出した
全てを消し終わると線画に戻り、ハルトシュラーのサインが霧消して消滅する
本当に器用な能力だ。俺みたいに、腕力に効かせる必要が無い
「…これで良いか?」
俺は頷いてやっと部屋に入り、扉を閉めて交渉しだした
「あぁ。で、何の用だ?前みたいに、『他の創作物』に干渉すんのはやだぜ、俺」
まぁ、ちょっと知らない奴は、過去に潜ってみな
奴は『創作』の為なら、何でもやりやがる
「安心しろ、そんな事は無い。ちょっと、失せ物を探して貰うだけだ。報酬は300万」
300万……暫く遊んで暮らせんな
俺は素直に頷く
「汚ねぇ金じゃないならやるぜ」
「安心しろ。お前がそんな外見に関わらず、そういう事が嫌いな事は知っている。きちんと、私の『創作物』から得られた著作権料等の収入からだ。何なら、会計簿見せるぞ?」
「外見は余計だ、こら」
だから嫌いなんだよ、コイツ
コイツは男女問わず虜にする容姿を持ってやがる
そう、俺の下半身すら反応させやがる
だから嫌いだ
だって、それすらコイツの『創作』の可能性がある
コイツ自身、多分自分の容姿が何なのか、知らないか忘れてる可能性が高い
だから、無邪気に誰彼構わず虜にする
本当にムカつく奴だ
「で、捜しモノって何だ?」
「あぁ、この本のページが一枚紛失してな。ちょっと、探して来て欲しい」
そう言って、一枚破れた部分のページを俺に見せた
「てめ、そんなのゴミとして燃やしたんじゃねぇのかよ?」
「あぁ、それは無い」
「何でだ?」
「何でもだ。良いから行って来い。多分お前にしか出来ん」
「倉刀や美作が居るだろうが」

「いや、奴らじゃ無理だ。腐っても弟子でな。『創作』しか出来んのだよ」
「ふん…テメェ、後で憶えてろよ?」
「さぁな。私は『創作』以外に興味は無い。忘れてるかもしれん」
コイツの場合は本当に忘れる、さっきもナチュラルに忘れてやがった
悪気が無いのが頂けねぇ、憎むに憎めん
「で、何処に行けば良いんだ?」
「あぁ、街に出ていけば良い」
コイツは、必要最小限しか言わない
何があるか判らんが、俺は頷いた
書斎から出た俺を丁重にもてなして、倉刀は俺をさっさと玄関口に追い出した
そして、部屋に突撃して行くのが見えたが
「お師匠様!是非とも私と愛の結晶を『創作』い…」
ガン!
どうやら、また見えない壁を『創作』したみてぇだな
倉刀が伸びてるが放っておこう、依頼のが先決だ
奴の依頼はいけすかないが、背に腹は代えられねぇ
ここはきっちり仕事かまして、伊勢海老食い放題をやっちゃるぜ
え?何で潜らないのかって?
寒いんだよ、馬鹿野郎
人の肉体部分のせいで、体温奪われんのは死活問題なんだよ
夏場なら行くがね、今は冬だ
しかも、冬の伊勢海老のが身が締まっててうめぇ
まぁ、俺の好物は置いといて、取りあえず街に戻るとしようか
そう思って、迷い家の門扉を潜って出た先は、一面の樹海だった
「………何処だよ?ここ」
………俺は、ハルトシュラーが大嫌いだ
アイツは、ろくな事しねぇ

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