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作者:ID:2N9ghSlS

「師匠ってどんな本を読んでいるんですか?」
 僕はある日の夕暮れ、安楽椅子に腰掛け優雅に読書をしているハルトシュラー
にそう訊いた。
 彼女の椅子の脇では床から積み上げられた様々な本たちが絶妙なバランスをと
りながらそびえている。
 彼女は本を閉じず、横目で僕を見た。
「読みたければ読んでかまわない。ただし、気をつけることだ。」
 僕は彼女のその言い方が気にかかったが、構わずに礼を言って、積み上げられ
た一番上の本を手にとった。
 変な本だった。
 装丁こそ立派だが、中の紙は大きさも質もバラバラで、そこら辺の紙をかき集
めて無理矢理本にした、という印象だった。
 中を見ると、どうやら手書きらしい文字が踊るページと、なにやら『特売日!』
『二割引き!』等と書かれた、雑多なものの写真が印刷されたページがある。
 僕は師匠に訊いた。
「この本は一体?」
「『チラシの裏』だ。この世で最もくだらない文たちが記されている。」
「へぇ。」
 僕は本を閉じ、また新たに本をとった。
 開くと、今度はしっかりと本らしい本だった。
 が、奇妙なことに、ページごとに書かれている内容がてんでバラバラだ。
「『誤爆の本』……落丁の憂き目に会ったページのみを集めた本だ。」
 師匠はそう言った。
 僕は新たにもう一冊手にとる。
「これは?」
「『雑談の本』。日常の他愛のない会話たちを書き記した本だ。」
「ではこの本は?」
「『空中人魚の本』。ラブストーリーだが、少し独特だな。」
「色んな本があるんですね。」
「それが私の図書館だ。」
 ハルトシュラーは僕が質問をしている最中、自身が読んでいる本から終始目を
離さなかったが、僕がまた新たに一冊本を拾い上げると、突然本を閉じてこちら
を見た。
「その本は――」
 彼女の口調は穏やかだった。
「――読まない方が良い。」
「どうしてですか。」
 僕は手に持った本を見た。いたって普通の本だ。
「いや、読んでもいいが――」
 彼女は頭を振った。
「――かなり、精神にクるぞ。」
 僕は緊張で鼓動が高鳴るのを感じた。
 唾を飲み込んで、恐る恐る本を開く。
 最初の一頁を読んで、僕は師匠の言葉の意味を理解した。
 そこには、こう書かれていた――


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