適当妄想


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

作者:AbM5o1Oa  

 僕はとうとう、あの伝説の作曲家、ハルトシュラー氏の居場所を突き止めた。
 幼い頃に耳にしたあの旋律。それだけを頼りにたどり着いた先は、なにやら妙な感じの建物だった。
 ドイツの辺境にそびえたつ館。しかしそれはまだ未完成のようにも見える。梁や柱が外に飛び出したりしているのだ。
 扉には東洋の「カンジ」……だったか。「創作発表板」と刻まれたプレートが下がっている。
 僕は興奮を押さえきれず、少し乱暴にベルを鳴らした。
 それから少し待つ。
 館の外壁を見上げたとき、僕はハルトシュラー氏の経歴をふと思い出した。
 性別、年齢、一切不明。彼(彼女?)はほとんど人前に姿を見せず、ただただ作品を発表し続けた。
 だがその期間は非常に短い。わずかに二年だ。
 一説には既に亡くなったとも言われているが―――僕は突き止めた。
 彼は死んでなどいない。この館に、名前を「創作発表板」と変えて住んでいるのだ。
「……遅いな。」
 僕は待った。しかし扉は開かない。
 もう一度ベルを鳴らす。そこでようやくそれが壊れていることに気づいた。
 なんだか出鼻をくじかれた気がする。扉を叩くと、妙に鈍い音がした。
 まさか、と思い扉に手をかける。
 確信した。
 この扉、鉛で出来てる!
 だがしかしどうやら鍵はかかっていないらしい。鍵穴は無いのだ。
 途方にくれ、足元に視線を落とす。そこには文字が彫られていた。
 “苦しみに耐え、結果によってのみ語れ。”
 最初は意味がわからなかった。だけど、すぐにわかった。
 この扉は「産みの苦しみ」なのだ。
 ハルトシュラーは作品のみを発表し、自らは表舞台に出なかった。
 それはつまり、彼は作品だけ、作品によってのみで、自己を語っていたのだ。
 “望みを得たければ、何かを成せ。”きっとそういうことなのだ。
 「ハルトシュラー主義」について考察した文献の一説を思い出し、僕は嬉しくなった。どうやら想像以上の人物らしい。
 僕は荷物を置き、扉に肩を当て、足に力を込めた。
 重い。だがびくともしないわけじゃない。
 顔を真っ赤にして、扉を押す。
 扉が少しずつ、動き始めた。
 だが想像以上に辛い。
 押すのをやめてしまおうか。
 もっと楽な方法があるはず。
 わざわざこんなことしなくたって、僕の望みは―――
「―――得られない!!」
 僕は思わず叫んでいた。
 その瞬間、勢いよく扉が開いた。
 突然のことに僕は対応しきれず、バランスを崩して、無様に床にすっころんだ。
 どうやら鼻を打ったらしい。ジンジンする。
「……間抜けじゃの。」
 床に這い蹲る僕の耳に、上方から声が飛び込んだ。
 きっとこの館の主に違いない!しかし、僕は疑問に感じた。
「じゃが、よく諦めずに―――」
 聞こえるのは、女の子の声なのだ。
「―――目的を成したの。」
 立ち上がり、服の埃を払いつつ、恐る恐る視線を上げる。
 階段の上に、静かにその少女は佇んでいた。
 不思議な威圧感を持つ少女だった。
 美しいが、恐ろしいような少女だった。
 赤ん坊にも、老婆にも似た少女だった。
 思わず僕は目を奪われ、言葉を失った。
 そんな僕の様子を見て、少女は僅かに笑う。
「……やはり、間抜けな面をしとるの。」


 それが僕と、最初から最後まで謎だらけの少女、S・ハルトシュラーとの出会いだった。


ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。