【5】

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---- 妖精は足元にあった小さな石を拾い上げました。 ジークリンデは側にあった大きな大きな石をかかえ上げました。 自分の半分もある大きな石です。 それを見て妖精はわらいました。 「はっはっはっ、オマエ、水切りをやったことがないのか? おおきければいいって  わけじゃないぞ?」 「あら、やってみなくちゃわからないわ」 そういってジークリンデは石を頭の上にかかえ上げました。 「まあオマエがそういなら仕方がない、いちにのさんで、いっしょに投げるぞ」 「わかったわ」 ジークリンデと妖精は、湖のまえへと立ちました。 「それじゃあいくぞ、イチ、ニの―――」 「さん!」 かけ声といっしょに、ジークリンデは持っていた石を妖精にむかってほうりなげました。 妖精は石にあたって、そのままいっしょに湖へと沈んでいきました。 とつぜんの出来事に、他の妖精たちとジークフリードはあっけにとられていましす。 「ジーク、どちらが飛んだかしら?」 ジークリンデの声に、ジークフリードははっとしました。 「相手は投げる前に落ちちゃったよ」 「そう、それじゃあもう一回といきましょう」 ジークリンデは足元にあった小石をひろいます。 「イチ、ニの、サン!」 湖に向かって投げると、石は水面を切っていきました。 そのままジークリンデは立ちつくしていましたが、しばらくするとジークフリードたちの ほうに向きなおっていいました。 「どうやら相手は、恐れをなして水中に逃げたみたいね。この勝負、あたしの勝ちだわ」 その声を聞いて、木々がざあざあとざわめきます。 妖精たちは足をふみならして怒りました。 「ふざけるな、今のが勝負になるか!」 「そうだそうだ、きたないぞ!」 怒る妖精たちにむかって、ジークリンデはすました顔でいいました。 「勝負をきめたのはあなたたちよ、でもルールは私の好きにさせてもらうわ」 それをきいて妖精たちはさらに大きく足をふみならします。 「とんでもないやつだ、とんでもないやつだ」 「きたないなさすがニンゲンきたない」 ジークフリードは妖精たちの剣幕に、さらに顔を青くさせました。 風にゆれる枯れ木のようにふらふらになっています。 ジークリンデは妖精たちにむかっていい放ちます。 「じゃあ今のはなしで、もう一度勝負といきましょう。今度はかくれんぼでどうかしら? ルールはあなたたちが好きにきめていいわよ」 妖精たちは顔をみあわせました。 「よし、いいだろう。ただし、俺たちが勝ったらお前等をただじゃおかないぞ」 「ええいいわ、好きにしなさい」 その声を聞いて、妖精はいいました。 「ようし、今から俺たちがこの森に隠れるから、全員見つけ出してみろ」 「ええ、いいわ」 「オマエはダメだ、お前がさがせ!」 妖精はジークフリードに指をむけました。 「日が沈むまでに、お前一人でオレタチをさがして見ろ! いいな、わかったな」 そういうが早いか、ピョンピョンと飛び跳ねて、森の中へと隠れてしまいました。 あとには、ジークリンデとジークフリードがいるばかりです。 ジークフリードは泣きそうな声でいいました。 「お姉ちゃん、どうしよう。ボクかくれんぼなんてやったこと無いよ」 「本ばっかり読んでるからよ、ジーク」 姉はしれっとした顔で弟にいいました。 「お姉ちゃん、落ち着いてる場合じゃないよ。日が暮れる前にはやく探さないと」 「あわてないでジーク」 そういってジークリンデは懐から火打石を取り出しました。 「私は探せないけど、手助けは出来るわ。いい、ジーク? 狐狩りは追うものじゃないの」 そういいながら火打石を打ち付けます。 「狐が追われたところを仕留めるの、それが作法よ」 枯れ柴に火がつき、またたくまに火が広がりはじめました。 やがてごうごうと、森中が燃えさかっていきます。 ジークリンデとジークフリードは湖の中へと逃げました。 やがて、お尻に火がついた妖精たちが湖へと走って逃げてきます。 「あっちっち」 「あっちっち」 ざぶんざぶんと、つぎつぎに湖の中へと飛び込んできます。 ジークリンデは妖精たちを指差していいました。 「妖精たち、見つけた」 妖精たちは、その声を聞いて青ざめました。 みんなブルブルとふるえています。 「ニンゲンとはなんて恐ろしい事をするんだ」 「おそろしいなさすがニンゲンおそろしい」 「馬を返すからどうか許してください」 妖精のひとりが、どこからか立派な馬をつれてきました。 おおきな身体に、足が六本もあります。 「これがお探しの馬です。返しますから、ひどい事はやめてください」 「あらあら、ご丁寧にどうもありがとう」 ジークリンデはジークフリードを馬に乗せて、手綱を握りました。 馬がひとなきすると、すごい勢いで駆けだしました。 あっというまに、湖の反対側へとつきました。 黒い男は、ふたりと馬を見て、とてもよろこびました。 「おお、よく見つけてくれた。さすがだな」 そういって一緒に馬にまたがります。 「それでは私も約束を守るとしよう。君たちの家へと案内してくれないか」 「ええ、もちろんよ」 馬を走らせようとする姉を、弟がとめました。 「まって、お姉ちゃん。その前におじいさんの場所へいかないと」 「あらジーク、そんなの後でいいでしょ。お母様とどっちが大切なの」 ジークリンデは、そういって馬の腹にひと蹴りいれました。 馬はひとなきすると、すごい勢いで駆け出しました。 野をこえ、川をこえ、山をこえ、見慣れた城へと帰ってくることが出来ました。 ふたりが城の中へ入ると、母の横で父も寝込んでいました。 「まあなんて事、お父様も病気になってらしたなんて」 愛するむすめの声を聞いて、ハルトシュラーはベッドから飛び上がりました。 「おお、むすめよ! それにむすこよ! 大丈夫だ、私はいま治ったぞ。無事だったか二人とも」 「もちろんよお父様。それに、男をつれてきたわ」 黒い男はハルトシュラーにお辞儀をしました。 「おお、おお。おまえか、久しぶりだな」 「お久しぶりです、領主様。まさか、あの時のご子息達とは」 「再開の言葉はあとだ。妻を見てやってくれないか」 「もちろんですとも、失礼致します」 そういって黒い男は奥様の身体に触ります。 そして一つの瓶を取り出しました。 「これを三日三晩、食事に混ぜて食べれば良くなりましょう」 「おお、そうなのか!」 ハルトシュラーは飛び上がらんばかりに喜びました。 「妻が治れば万歳だ。これでむすこたちの性格が治れば万々歳だな」 「はて? それはどういうことでございましょうか?」 黒い男は、ハルトシュラーに子供が生まれた時の話を聞かせてもらいました。 「なるほど、わかりました。どうやら一緒に飲ませたために薬が混ざったようですな」 「どういうことだ?」 「私が渡した赤の薬草は勇敢な男の子を、青の薬草はおしとやかな女の子を生み出す  秘薬でございました」 「なんと、わたしのせいだったか」 ハルトシュラーは両手を上げて嘆息しました。 黒い男は懐から赤い袋と青い袋を取り出します。 「大丈夫でございます。もう一度お子様に薬を飲ませれば、勇敢なご子息と  礼節を知るご息女となりましょう」 「何と、それはまことか!」 ハルトシュラーと黒い男がそうやって話をしていると、馬のいななきが聞こえました。 外に出てみると、ジークリンデが馬の手綱を握っています。 「ああ、むすめよどうしたのだ。もう旅には出なくていいのだぞ」 「お父様、話は聞かせてもらったわ」 ジークリンデはニッコリとほほえみます。 「わたしは今のわたしが気に入ってるの。ジークみたいに閉じこもるようになるのは  性にあわないわ。もっともっと、世の中を見てみたいの」 ジークリンデは、城のみんなに手を振っていいました。 「じゃあね、お父様、お母様、ジーク、それにみんな! 世間を楽しんできたら  またもどってくるわ!」 そういって馬にムチをいれ、どこか遠くにへと駆け出していきました。 可哀そうに、ハルトシュラーはまた倒れてしまいました。 ジークリンデがどこへ行ったのかは、誰もわかりません。 もし、あなたの街でお転婆なむすめさんをみかけたのなら、 それは、旅の途中のジークリンデなのかもしれません。 ―――END ----

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