298-299

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作者:ID:vGlUUeRs ---- それは、ある朝のこと。 「あれ? いないのかな、師匠。もう朝ごはん作っちゃったのに……」 僕……すなわち倉刀作は、ちょっとばかり困っていた。 せっかく腕によりをかけて朝ごはんを作ったのに、それを食べてもらう師匠が見当たらないのだ。 まあ師匠はまったく行動パターンのつかめない人だから、こういうことも今回が初めてじゃない。 でも、せっかく作った料理は冷めないうちに食べてほしいのが人情というものだ。 特に今日のは自信作だし。 屋敷の中は、探せる範囲内で全て探した。でも見つからない。 「探せる範囲内で」というのは、この屋敷には僕が立ち入りを禁じられていたりそもそも危なくて入れなかったりする区画がいくつかあるからだ。 そういう所に師匠がいたのでは探しようがないので、お手上げとしか言いようがない。 だからその可能性は除外することにして、外を探してみることにしよう。 師匠は用事がない限り屋敷から遠出することはないし、そういうときは必ず僕にその旨を伝えていく。 外にいるとしたら、屋敷の周辺のはずだ。探すべき範囲はそんなに広くない。 というわけで外の捜索を始めてから数分後、僕はあっさり師匠の姿を見つけることが出来た。 「ししょ……」 声をかけようとして、僕は途中でそれをやめてしまった。師匠の様子がおかしいことに気づいたからだ。 いや、師匠がおかしいというか、周辺がおかしいというか……。この場合なんと言えばいいんだ? つまりどういうことかと言えば……。師匠が、二人いたのだ。 それも、銀髪の師匠と金髪の師匠が。 #ref(金と銀.jpg) 僕は、自分の目を疑わざるをえなかった。いったいどうなっているんだ? 生き別れの双子? そりゃまあ、師匠に姉妹がいないなんて断定することは出来ないけど……。 でも双子で髪の色が違うなんてことありえるのか? それとも、師匠が自分をモデルにして作った新しい作品? あるいは魔王の力による魔術的現象? いったい正解はなんなんだ! 「おい、倉刀。何をこんな所で惚けておる」 「はい?」 すっかり思考の海に沈んでいた僕だが、声をかけられて我に返る。 するといつ近づいてきたのか、師匠が目の前に立っていた。 「し、師匠! 今、師匠が二人……!」 口に出してから、ふと気づく。今目の前にいる師匠は、一人だけ。もう一人はどこにも見当たらない。 「何を言っておるのだ?」 僕の言葉に、師匠は眉間にしわを寄せつつ首をかしげる。 「あの、師匠……。今の僕の発言に、本当になんの心当たりもないんですか」 「ない。私はただ、気の向くままにに朝の散歩を行っていただけだ。それ以上のことは、何も起きていないぞ」 師匠にそこまできっぱりと断言されては、弟子としてはそれ以上反論できない。 けど、本当に師匠が何も知らないとしたら……。僕が見たのはいったい何だったんだ? 「そんなことより、朝食は出来たのか?」 「ああ、そうでした。せっかく朝ごはん作ったのに師匠が見当たらないから、探しに来たんですよ」 「そうか、それは手間を取らせたな。では、早く屋敷に戻るとしようか」 そう言うと、師匠は屋敷に向かってさっさと歩き出してしまう。 身のこなしからは特に急いでいる様子が見られないのに、そうとうな移動速度だ。 「あ、師匠! 待ってくださいよ!」 慌てて師匠の後を追いながら、僕はさっき見た光景をもう一度思い返していた。 あれはただの幻だったのか。それとも、もう一人の師匠が本当に存在したのか。 今の僕には答えはわからないし、これからもずっとわかることはないだろう。 でも、それでいい。必死になって答えを見つけ出すつもりはない。 わからない事なんて、この世にいくらでもあるのだから。特に、あの人の周りでは。 これは僕と師匠の生活の中であった、ちょっとだけ不思議な朝の話。 END
作者:ID:vGlUUeRs ---- それは、ある朝のこと。 「あれ? いないのかな、師匠。もう朝ごはん作っちゃったのに……」 僕……すなわち倉刀作は、ちょっとばかり困っていた。 せっかく腕によりをかけて朝ごはんを作ったのに、それを食べてもらう師匠が見当たらないのだ。 まあ師匠はまったく行動パターンのつかめない人だから、こういうことも今回が初めてじゃない。 でも、せっかく作った料理は冷めないうちに食べてほしいのが人情というものだ。 特に今日のは自信作だし。 屋敷の中は、探せる範囲内で全て探した。でも見つからない。 「探せる範囲内で」というのは、この屋敷には僕が立ち入りを禁じられていたりそもそも危なくて入れなかったりする区画がいくつかあるからだ。 そういう所に師匠がいたのでは探しようがないので、お手上げとしか言いようがない。 だからその可能性は除外することにして、外を探してみることにしよう。 師匠は用事がない限り屋敷から遠出することはないし、そういうときは必ず僕にその旨を伝えていく。 外にいるとしたら、屋敷の周辺のはずだ。探すべき範囲はそんなに広くない。 というわけで外の捜索を始めてから数分後、僕はあっさり師匠の姿を見つけることが出来た。 「ししょ……」 声をかけようとして、僕は途中でそれをやめてしまった。師匠の様子がおかしいことに気づいたからだ。 いや、師匠がおかしいというか、周辺がおかしいというか……。この場合なんと言えばいいんだ? つまりどういうことかと言えば……。師匠が、二人いたのだ。 それも、銀髪の師匠と金髪の師匠が。 #ref(金と銀.jpg) 僕は、自分の目を疑わざるをえなかった。いったいどうなっているんだ? 生き別れの双子? そりゃまあ、師匠に姉妹がいないなんて断定することは出来ないけど……。 でも双子で髪の色が違うなんてことありえるのか? それとも、師匠が自分をモデルにして作った新しい作品? あるいは魔王の力による魔術的現象? いったい正解はなんなんだ! 「おい、倉刀。何をこんな所で惚けておる」 「はい?」 すっかり思考の海に沈んでいた僕だが、声をかけられて我に返る。 するといつ近づいてきたのか、師匠が目の前に立っていた。 「し、師匠! 今、師匠が二人……!」 口に出してから、ふと気づく。今目の前にいる師匠は、一人だけ。もう一人はどこにも見当たらない。 「何を言っておるのだ?」 僕の言葉に、師匠は眉間にしわを寄せつつ首をかしげる。 「あの、師匠……。今の僕の発言に、本当になんの心当たりもないんですか」 「ない。私はただ、気の向くままにに朝の散歩を行っていただけだ。それ以上のことは、何も起きていないぞ」 師匠にそこまできっぱりと断言されては、弟子としてはそれ以上反論できない。 けど、本当に師匠が何も知らないとしたら……。僕が見たのはいったい何だったんだ? 「そんなことより、朝食は出来たのか?」 「ああ、そうでした。せっかく朝ごはん作ったのに師匠が見当たらないから、探しに来たんですよ」 「そうか、それは手間を取らせたな。では、早く屋敷に戻るとしようか」 そう言うと、師匠は屋敷に向かってさっさと歩き出してしまう。 身のこなしからは特に急いでいる様子が見られないのに、そうとうな移動速度だ。 「あ、師匠! 待ってくださいよ!」 慌てて師匠の後を追いながら、僕はさっき見た光景をもう一度思い返していた。 あれはただの幻だったのか。それとも、もう一人の師匠が本当に存在したのか。 今の僕には答えはわからないし、これからもずっとわかることはないだろう。 でも、それでいい。必死になって答えを見つけ出すつもりはない。 わからない事なんて、この世にいくらでもあるのだから。特に、あの人の周りでは。 これは僕と師匠の生活の中であった、ちょっとだけ不思議な朝の話。 END ----

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