適当妄想

「適当妄想」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

適当妄想」(2012/05/18 (金) 03:27:02) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

作者:AbM5o1Oa   ----   僕はとうとう、あの伝説の作曲家、ハルトシュラー氏の居場所を突き止めた。  幼い頃に耳にしたあの旋律。それだけを頼りにたどり着いた先は、なにやら妙な感じの建物だった。  ドイツの辺境にそびえたつ館。しかしそれはまだ未完成のようにも見える。梁や柱が外に飛び出したりしているのだ。  扉には東洋の「カンジ」……だったか。「創作発表板」と刻まれたプレートが下がっている。  僕は興奮を押さえきれず、少し乱暴にベルを鳴らした。  それから少し待つ。  館の外壁を見上げたとき、僕はハルトシュラー氏の経歴をふと思い出した。  性別、年齢、一切不明。彼(彼女?)はほとんど人前に姿を見せず、ただただ作品を発表し続けた。  だがその期間は非常に短い。わずかに二年だ。  一説には既に亡くなったとも言われているが―――僕は突き止めた。  彼は死んでなどいない。この館に、名前を「創作発表板」と変えて住んでいるのだ。 「……遅いな。」  僕は待った。しかし扉は開かない。  もう一度ベルを鳴らす。そこでようやくそれが壊れていることに気づいた。  なんだか出鼻をくじかれた気がする。扉を叩くと、妙に鈍い音がした。  まさか、と思い扉に手をかける。  確信した。  この扉、鉛で出来てる!  だがしかしどうやら鍵はかかっていないらしい。鍵穴は無いのだ。  途方にくれ、足元に視線を落とす。そこには文字が彫られていた。  “苦しみに耐え、結果によってのみ語れ。”  最初は意味がわからなかった。だけど、すぐにわかった。  この扉は「産みの苦しみ」なのだ。  ハルトシュラーは作品のみを発表し、自らは表舞台に出なかった。  それはつまり、彼は作品だけ、作品によってのみで、自己を語っていたのだ。  “望みを得たければ、何かを成せ。”きっとそういうことなのだ。  「ハルトシュラー主義」について考察した文献の一説を思い出し、僕は嬉しくなった。どうやら想像以上の人物らしい。  僕は荷物を置き、扉に肩を当て、足に力を込めた。  重い。だがびくともしないわけじゃない。  顔を真っ赤にして、扉を押す。  扉が少しずつ、動き始めた。  だが想像以上に辛い。  押すのをやめてしまおうか。  もっと楽な方法があるはず。  わざわざこんなことしなくたって、僕の望みは――― 「―――得られない!!」  僕は思わず叫んでいた。  その瞬間、勢いよく扉が開いた。  突然のことに僕は対応しきれず、バランスを崩して、無様に床にすっころんだ。  どうやら鼻を打ったらしい。ジンジンする。 「……間抜けじゃの。」  床に這い蹲る僕の耳に、上方から声が飛び込んだ。  きっとこの館の主に違いない!しかし、僕は疑問に感じた。 「じゃが、よく諦めずに―――」  聞こえるのは、女の子の声なのだ。 「―――目的を成したの。」  立ち上がり、服の埃を払いつつ、恐る恐る視線を上げる。  階段の上に、静かにその少女は佇んでいた。  不思議な威圧感を持つ少女だった。  美しいが、恐ろしいような少女だった。  赤ん坊にも、老婆にも似た少女だった。  思わず僕は目を奪われ、言葉を失った。  そんな僕の様子を見て、少女は僅かに笑う。 「……やはり、間抜けな面をしとるの。」  それが僕と、最初から最後まで謎だらけの少女、S・ハルトシュラーとの出会いだった。
作者:AbM5o1Oa   ----   僕はとうとう、あの伝説の作曲家、ハルトシュラー氏の居場所を突き止めた。  幼い頃に耳にしたあの旋律。それだけを頼りにたどり着いた先は、なにやら妙な感じの建物だった。  ドイツの辺境にそびえたつ館。しかしそれはまだ未完成のようにも見える。梁や柱が外に飛び出したりしているのだ。  扉には東洋の「カンジ」……だったか。「創作発表板」と刻まれたプレートが下がっている。  僕は興奮を押さえきれず、少し乱暴にベルを鳴らした。  それから少し待つ。  館の外壁を見上げたとき、僕はハルトシュラー氏の経歴をふと思い出した。  性別、年齢、一切不明。彼(彼女?)はほとんど人前に姿を見せず、ただただ作品を発表し続けた。  だがその期間は非常に短い。わずかに二年だ。  一説には既に亡くなったとも言われているが―――僕は突き止めた。  彼は死んでなどいない。この館に、名前を「創作発表板」と変えて住んでいるのだ。 「……遅いな。」  僕は待った。しかし扉は開かない。  もう一度ベルを鳴らす。そこでようやくそれが壊れていることに気づいた。  なんだか出鼻をくじかれた気がする。扉を叩くと、妙に鈍い音がした。  まさか、と思い扉に手をかける。  確信した。  この扉、鉛で出来てる!  だがしかしどうやら鍵はかかっていないらしい。鍵穴は無いのだ。  途方にくれ、足元に視線を落とす。そこには文字が彫られていた。  “苦しみに耐え、結果によってのみ語れ。”  最初は意味がわからなかった。だけど、すぐにわかった。  この扉は「産みの苦しみ」なのだ。  ハルトシュラーは作品のみを発表し、自らは表舞台に出なかった。  それはつまり、彼は作品だけ、作品によってのみで、自己を語っていたのだ。  “望みを得たければ、何かを成せ。”きっとそういうことなのだ。  「ハルトシュラー主義」について考察した文献の一説を思い出し、僕は嬉しくなった。どうやら想像以上の人物らしい。  僕は荷物を置き、扉に肩を当て、足に力を込めた。  重い。だがびくともしないわけじゃない。  顔を真っ赤にして、扉を押す。  扉が少しずつ、動き始めた。  だが想像以上に辛い。  押すのをやめてしまおうか。  もっと楽な方法があるはず。  わざわざこんなことしなくたって、僕の望みは――― 「―――得られない!!」  僕は思わず叫んでいた。  その瞬間、勢いよく扉が開いた。  突然のことに僕は対応しきれず、バランスを崩して、無様に床にすっころんだ。  どうやら鼻を打ったらしい。ジンジンする。 「……間抜けじゃの。」  床に這い蹲る僕の耳に、上方から声が飛び込んだ。  きっとこの館の主に違いない!しかし、僕は疑問に感じた。 「じゃが、よく諦めずに―――」  聞こえるのは、女の子の声なのだ。 「―――目的を成したの。」  立ち上がり、服の埃を払いつつ、恐る恐る視線を上げる。  階段の上に、静かにその少女は佇んでいた。  不思議な威圧感を持つ少女だった。  美しいが、恐ろしいような少女だった。  赤ん坊にも、老婆にも似た少女だった。  思わず僕は目を奪われ、言葉を失った。  そんな僕の様子を見て、少女は僅かに笑う。 「……やはり、間抜けな面をしとるの。」  それが僕と、最初から最後まで謎だらけの少女、S・ハルトシュラーとの出会いだった。 ----

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。