黄金と水銀の夜


「ただいま。……なぁ、カールよ」


「おかえり。どうかしたかね、獣殿」


夕食時も過ぎ去り、時計はそろそろ十時を示そうとし始めたころ。すっかり辺りの暗くなったあけぼの荘の104号室の玄関口で、彼の王はコンビニ袋を隣に置き、スニーカーの靴紐を解いていた。


百獣の王を想わせるような黄金の長髪を一纏めに結び、黄金率によって形作られたとまで賞される身体にアデ○ダスの白ジャージを纏った絶世の美男子。モデル雑誌の正面を飾るカリスマモデルが何億集まろうと霞んで消えさるような神々しい王気(オーラ)を発する彼こそ、紆余曲折(ゲームにすると大体1ルートくらい)あってこの世界の旧神を討ち果たし、神座にて新たなる法を流れ出させた男、ライハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ=メフィストフェレス……の、触覚である。詳しくは割愛するが本体はグラズヘイム最深部にて色々アレなことをやっていたりするかもしれない。


「卿は私の愛車が何処に行ったか心当たりはないか?」


「……愛車? ああ、カインの一代目に作らせていたアレか。知らんよ。私は今日一日ずっとマルグリットが出演した番組の編集に精を出していたのだ」


声をかけられただけで(感動のあまり)卒倒してしまいそうな神性を有する黄金のジャージマンの問いかけを、顔を向けることもなく軽く一蹴したのは、圧倒的な存在感を放つ彼とは対照的に、注視しなければその輪郭さえあやふやになってしまいそうな黒い長髪のジャージマンだった。


人類史上に幾多もの名を残した『元・宇宙最強』の変質者、カール・クラフト=メルクリウス……の、本体である。魔人の集団を作り上げた黒円卓副首領は今、ちゃぶ台の上に置かれた三台のPCの画面と、安アパートには不釣合いな大画面薄型テレビを交互に見ながら、画面を流れる映像を編集していた。その全てのディスプレイに、柔らかな金色の髪をした美少女がドアップで映っている。


「あぁマルグリット……やはり貴女はどのアングルから見ても美しい。どんなに愚凡なカメラマンが撮ろうとも、どんなに愚図な司会者が進行しようとも、どんなに愚昧なプロデューサーが練った企画だろうとも、貴女という華が添えられるだけ万事が神域にまで昇華される……」


「カールよ。卿が気持ち悪いのは最早言っても直らんだろうから無視するが、日がな一日アイドル(女神)を見つめるだけでは本当にただのニートだぞ?」


「私を廃業に追い込んだ男が何を言う」


「仕事ならいくらでも紹介しよう。卿の友として、私にはこの現状が看過できん。なに、コミュニケーション能力に些か問題のある卿でも出来る仕事が……」


「職場はグラズヘイム以外で頼む」


「…………」


「…………」


「……ハーゲンダッツを買ってきたのだが、どれにする?」


「クッキー&クリームを所望しよう」


  • 獣殿はハーゲンダッツどの味が好きなんだろうか -- 名無しさん (2012-05-30 00:17:52)
  • ↑全種類じゃね?「私は(ハーゲンダッツ)総てを愛している!」 -- 名無しさん (2012-05-30 00:23:28)
  • この世界黄金が天かよwww -- 名無しさん (2012-07-15 14:48:23)
  • にしてもニート起用せんといかんとかどんだけグラズヘイム人手不足なんだよw -- 名無しさん (2012-08-15 09:56:09)
  • ↑ 全並行世界規模の仕事をこなしていると考えればいくら居ても足りんだろう。 -- 名無しさん (2012-08-15 10:01:50)
  • ↑2 ↑の言う通り、そもそも並行世界を掌握していた元凶なんだからw -- 愛の伝道師? (2012-08-15 11:11:28)
  • おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。なんという至福。なんという輝き。 -- 他化自在天喇叭 (2013-03-21 13:10:17)
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