例のアレができるまで
今回は、ファースト記に札幌圏で一躍有名となった
必殺コンボタイプのデッキ
アドライズハリケーンが
どのようにして考案、制作されていったのかをつらつらと書いていきたいと思います。
序章
火単速攻 みちるロック
2強と呼ばれた2つのデッキによって、ベーシック環境が動くことがない中、
多少のエラッタ発表を経て発売されたファーストエキスパンション。
カードリストから見えるコンセプトは「地・水・風の強化」「火の停滞」
だれが見ても明らかなこの意思表示により、強化された属性を活用したデッキが多数登場しました。
もちろん筆者もファイリングしたファーストのカードを毎日のように眺め、
何か新しいデッキを作れないかを日々考えていたのですが・・・
まだカードプールが狭いゲームなことも災いし、なかなかそう良いデッキは思いつきません。
というのも
- 地や風は以前よりはるかに強くなったが、それでも火単と並べる殴り合い性能を保持していない。
- 水は大庭 純の登場により新たな方向性を見いだせるが、動き出すまでが遅すぎる。
新たな要素の参入した属性は結局火単には苦渋を舐めさせられている状態が続いていたからです。
色々試しては見るが、やはり火単の万能性には先手をとっても厳しく、うまくいきません。
その時ふと、ベーシック環境中期で
バルドールサイクルというデッキを作成した事を思い出します。
このデッキは必要なパーツが場に揃うまでは兎に角耐えつつデッキを掘り進めていくだけに集約し、最終的には
ムースで復活させたデッキから大量にカードを引いて、
バルドールの能力に当てて「一撃のもとに勝利する」というコンセプト。
常勝するようなデッキではなかったものの、火単相手でもそれなりの成果を上げていました。
なぜこのデッキが強力なカードが追加された現在のデッキよりも、勝てていたのかと。
思えば、
- ほぼノンキャラクターのため、キャラクターへの除去カードを基本的に無駄とさせている。
- 同時に自身はキャラクターの展開が必要ないため、防御にすべてのエネルギーを費やせる
- 決め手が相手の場や手札にさほど依存しない
キャラクターがタップインしてくる本作において、キャラクターの展開が必要なデッキはそれだけで火単に対して不利を背負っていたという事がわかったのです。
「ノンキャラクターのデッキを作ろう」このコンセプトはそれなりに早い段階で決定しました。
転機
そして初期に作り上げたのがベーシックでも制作した
ミントブルーの後継機です。
兎に角除去やアタックを抑える事に集中する。
勝ちに行くのは相手が息切れしてからで良い。
ファースト発売後最初の大会においてこのコンセプトは他の属性にも有効であったことも幸いし、店舗でのカジュアルな大会ながら上位入賞したことでそれなりに満足のいくものとなりました。
が日を追うごとに勝率が悪くなっていき、1週間ほど過ぎたあとに遅まきながら気づきます。
「このデッキは火単に有利ではない」
主なコンセプト部分は2ターン目以降には使用できる
駆逐、
守護、そして
ミントの複数回起動。
これらによるコントロールは全て
ユーティによるエネルギーブーストにより成立しています。
そしてその
ユーティは所詮ナビゲーター。しかも配置すると自身がダメージを負うリスクを抱える。
加えてノンクリーチャーデッキであるために、相手は手札に除去を抱えていることが多い。
この状態を、火単へナチュラルに搭載されている
プリシアが解決してしまっていました。
勝手に3点食らっていくならキャラクター展開を後回しにし、ナビゲーター除去をメインボードから狙う。
遅延力のあるデッキにも関わらず、この戦術に対して干渉手段が4枚の
剣を捨てて…のみ。
しかもこれは
失敗ほかの対象になる上、サイドボードからは
守護対処も兼ねて対策カードが投入される。
さらに致命的だったのは、なんとか遅延に成功してもその後は
玉蘭による妨害が待っているのです。
要するに火単の速攻要素こそが倒すべき相手だと考えていたが、最も対処すべきは相手のナビゲーター
環境の最善を一番に対応できていたのもまた火単側だったということです。(ひどい話だ)
かなり悩みました。サイドボードでナビゲーター対処を増量してみたもののそこにエネルギーを浪費させられて本末転倒ななることが多く、解決にはならない。
「ナビゲーターを対処しつつ速攻を止められないものか」
そんなムシのいい話を脳内で考えながらカードを眺めていたとき、1枚のカードが目に止まりました
転機が起こった瞬間でした。
構築
どの種類のカードであろうと手札を全て捨て、手札の分だけ自らの手でクラッシュしなければならない。
もし、手札の枚数よりも場の枚数が少なければ相手は丸裸になる。こんな凄まじいカードがあったのかと
とはいえ、このカードはリミッタースペルである。HPが10以下でないとプレイを宣言できません。
その仕様もあり、他のプレイヤーも目を背けていたことも頷けます。
しかしもう心は決まっていました。
「このカードを最速でプレイしよう」
即座にそう考えられたのにはきちんとした根拠があります。
ミントブルーの経験です。
このデッキは2ターン目に
駆逐や
守護をプレイするための3エネルギーを必要とするため、
ナビゲーターサーチカードを多めに積み、
ユーティによるエネルギーブーストを行っています。
この際、1ターン目に自分で3点のダメージを負い、次のターンにはHPが半分になっていることもザラでした。
ならば
「ライフの損失を自ら早めて10点以下してしまえば良い」
おあつらえ向きに
バトンタッチ!という理想にピタリとハマるカードも見つけました。
空のナビゲーターには自分も対象にできる
ミントもあるので微調整もできます。
ミントブルーに
バトンタッチ!をフル投入し、ダメージを負うように対戦してみると
たった3ターンでHPが10を割ってしまうことが多発。想定は確信に変わり、構築が開始されました。
ミント、
ユーティ、
バトンタッチ、
減点ハリケーンこの16枚はコンボパーツのため固定枠、
そして本作の必須枠
失敗は4枚なので、20枚が決定。
ナビゲーターも計16枚は最低限必要なことから、最低でもあと8枚投入するので残りは22枚。
まずはナビゲーターの選出に取り掛かります。
減点ハリケーンがきれいに決まれば相手は何もできないので、特別キャラクターは必要としません。
そもそも除去を大量に積んでいる火単にキャラクターでのシステムは愚の骨頂。
ならば必要なのはエネルギー量。そしてナビゲーター自体のサーチ。
ウィンディ、
シャロン・エステル、
長内エミリ、
女神さま降臨!!この16枚を投入してみます。。
ネクロ・セラ みちるロックでも自ら使用したエンジンであり、信頼度が高かったので。
残りは14枚。ナビゲーターは足りている想定なのでキャラクター以外を選ぶことになります。
まず、前提として減点ハリケーンは相手の手札>場でなければ効果が薄い。
火単は性質上手札をどんどん使うため、その状況になりにくいことは既に判明しています。
ならば、相手にドローさせるカードを使用することで状況を作れるのではという発想が生まれました。
ここから「相手もドロー」するカードの選出に入ります。
まずは自身のパーツ集めにも繋がる
知恵のサークレットが候補に挙がり、これを投入します。
しかし、これだけでは相手に7枚以上展開されると壊滅させられないため、カードを眺めていると
画期的、かつ最高のカードを発見できました。
しかもこれまでプレイヤーから見向きもされなかったそのカードの名前は
ピッチコストでプレイすることにより1エネルギーで相手の手札を2枚も増やし、ナビゲーターも破壊する。
場のナビゲーターが1枚減るということは相手の展開も多少抑えられ、手札>場を作りやすい。
さらに手札が2枚増えているので結果的に3枚分の価値になる。
ミントブルーの際に障害となったプリシアや玉蘭へのナチュラルな対策カードにもなる。
このデッキにおいてこれ以上ない性能であり、このデッキの完成度を大幅に引き上げることに成功しました。
このカードを発見したことから方向性が定まり、残り6枚となる構築の速度も上昇。
チャムナファイアーは少し重い混乱として使え万能性があるものとして搭載、残りの2枚はコンボパーツを集める際にも便利で減点ハリケーンを使用したあとに結果的なロックを行える
占いを発見したため投入することにしました。
また、単に必須枠として搭載されていた
失敗がピッチ打ちによりコンボパーツも兼ねることも判明。
フィニッシュ手段が欠けていたが、
混乱で自発的に手札から落とせ、デッキを修復できるので実質ループコンボが可能になる
ムースと、相手はほぼロック状態なので
ミントがあれば良いだろうと判断しました。
初期型・減点ハリケーンデッキ
ひとまずのレシピが完成し、後日の小規模大会に向けスパーリングすることに。
実践
しかし急遽大会があるという情報が入り、サイドボードもロクに考慮せず制作したその日に出場することに。
結果から言えば小規模とはいえ優勝してしまいます。
平均4ターンで相手の手札、場が空になるので対処のしようがなくなる想定は間違いではありませんでした。
しかし改善点は多数見受けられ、このデッキを見て興味を持った知人達にもアドバイスをもらえました。
1.占いは減点ハリケーン後にも非常に強力なので、余裕があるなら増やしても良いレベル
2.ノーガードで攻撃を受けるのは良いが、今後は調整されることが想定される
3.ナビゲーターブーストは十分なので、色要求する長内エミリの存在意義が曖昧
4.フィニッシュまでが遅いので復帰の恐れがある。
せっかくナビゲーターブーストしつつのHP10以下なので氷川流十徳封神剣の採用はどうか
占いは単純に4枚へ増量です。2ターン目には6エネルギー出せることが多いので楽に打てます。
2については相手の計算を狂わせる手段が必要ということで、多少の除去は必要なのではという意見をもらい考えたところ、
泥酔というコンセプトにも完全合致したパーツを発見したため、サイドボードにこれを4枚積むことに。
この過程で風属性の必要性が上がり、ウィンディによる属性変換があるとはいえ不安なので万能な
モナコをシャロンの代わりに投入します。
いざとなればバトンタッチでの属性変更も可能であることも理由の一つ。
4については目からウロコであり、即座に採用することにしました。むしろなぜ気付かなかったのかと。
そしてサイドボードも含めた70枚が完成です
アドライズハリケーン (ファースト発売初期)
このレシピ完成後は地域の大会で勝利を重ね続け、個人的にメタられてしまうほどになることができました。
サイドボードは不十分ながら抜くパーツがあまりないため、存在を見せる程度でしかないレベルでしたが、本州のとある人物からもコンタクトがあり評価を得ていただいたりもしました。
しかし、扱いは自分では気づかないが難しいようで、他に使用したというプレイヤーは聞いていません。
当時はまだネット環境が現在ほど普及していなかったとはいえ、様々な情報が流れている中このレシピを拝見することはなく唯一無二の存在に思えて満足感があり、間違いなく自分のF&CTCG人生において輝いていた時期だったように思います。
その後
ファーストエキスパンションからセカンドエキスパンション発売までの間が短く、実のところ「アドライズハリケーン」は短い生涯で終わっています。
原因は
槇村 智子登場による水デッキの繁栄。
天敵となる
小早川 瑞穂が場に登場しやすくなってしまい、
大失敗もサイドから飛んでくるそれだけならまだしも、
大庭 純がいることで計算しづらいフィニッシュ力も高い。
それは、デッキ自体
三好 育桜井 若葉というナビゲーターを獲得し、若干の強化を図れたものの50枚全体で一つの目的へ向かっているという、コンボデッキならではの弊害でした。
大会出場8回 32戦28勝という成績を残し、アドライズハリケーンはその幕を下ろすことになります。
あとがき
自分は札幌圏でしか活動していないため、本当にこのレシピが唯一無二であったかは知り得てません。
100%同様のレシピではなくとも、同コンセプトのデッキは他の誰かが思いついていてもおかしくないものなので、文中に「唯一無二」とは書いたが、実際に日本全国でそうだったかはわかりません。
(当時は若かったためそう思った・思いたかったのは事実だけども)
その部分はご了承頂きたいと思います。
筆者は文章力がないので読みにくいとは思いますが、なんとなく書きたくなったので残しておこうと思います。
色々と公式がひどい尖ったTCGでしたが、当時は本当に楽しかったのも事実ですから。
最終更新:2023年09月14日 17:40