鳴沢美佐子 温泉編


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車が停まったのは、温泉街の奥まった位置にある和風旅館の前だった。
男に促されて助手席から降り立った美佐子は、雪を残した周辺の景色を眺めやった。
白い世界。肌を刺す空気も下界とは別段の冷たさと清浄さを湛えている。
(……本当に、来てしまった)
日常とは隔絶した場所であることを強く感じさせられて。
本当に、これでよかったのか、と行程の車中で何度も繰り返した自問を、
今一度胸にわかせる。
宿から、男の従業員がひとり出てきて急ぎ足に近づいてきた。羽織った半被には
『永島旅館』と屋号が記されている。
丁重に頭を下げた従業員に車のキーを渡すと、男は宿へと向かって歩きはじめた。
美佐子も、その後を追う。
足取りに、どうしようもなく竦むものを感じても、そうするより他にはしようがなかった。

「いらっしゃいませ」
待ち構えていた従業員たちが声を揃え、一斉に頭を下げた。
その後ろから、和服姿の女性が進み出る。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
しっとりとした声で歓迎を表して、優雅な身ごなしで頭を下げる。
「ああ、また厄介になるぜ」
横柄に男は応じて、女将に皮のバッグを手渡す。
「ご案内いたします」
女将が先に立ち、男が後に続く。それに美佐子が従う。
俯き加減、男の影に身を隠すようにしながら。 

けっこうな距離を歩いて。
小さな庭をつっきる渡り廊下の先の部屋へと、女将はふたりを案内した。
「この部屋に来るのも、久しぶりだな」
大きな座卓の前に胡座をかいて、男が言った。茶を用意する女将に、
「急な話だから、ふさがってるかと思ったが」
「突然いらっしゃるのは、いつものことじゃないですか。
 今回は前日に御電話をいただいただけ、マシです」
男の自侭さを責めるような眼を向け、その後に笑いを浮かべて、
「……と言っても、実のところ、この部屋は滅多に予約がありませんの。
 最近は、蛙田さん専用のようになっていますわ」
「ま、どこもかしこも不景気だからな」
美佐子は会話には加わらず、ベランダのそばに立った。
話を聞くまでもなく、高価な部屋だということはわかった。
たったふたりの客には広すぎるほどの部屋。しかも寝室は襖で区切られて別にあるようだ。
驚いたのは、専用の露天風呂が備わっていることだった。
植樹で囲まれた中に、小さな岩風呂が拵えられている。ベランダから降り立てば
そこが浴室というわけだ。横手にはカランとシャワーも設備されていた。
一泊いくらするのか、と主婦らしい感覚が働く。
宿泊の目的を考えれば……ふざけた浪費だと思えて。
しかし、他の客室からは隔離された環境には、安堵を感じてもいた。 

「本当に頭が痛いですわ。いっそ、いつも景気のいい蛙田さんに
 年間で借り切っていただきたいくらい」
「勘弁してくれや。そりゃあ、いくら俺でもパンクしちまう」
「フフ。そうすれば、もう少し足繁く通っていただけるでしょう?」
「なるほど。で、それは女将としての考えかよ? それとも…」
「……あら?」
女将は、チラリと窓辺の美佐子の方をうかがった。
「いいってことよ」
男が笑う。
「隠すことでもねえや。それとも、今回は最後まで、客と女将の間柄で通すか?」
訊きながら、男の手が伸びて、正座した女将の和服の臀を撫でまわした。
ウン、と女将は軽く眉根を寄せて、
「……相変わらずですのね。趣味が悪いわ」
詰るように言ったが。男の手を払おうとはしなかった。
「そういうことでしたら、蛙田さん。まずは、そちらの綺麗なお連れの方を紹介してくださいな」
「ああ、そうだったな。おい、美佐子」
「…………」
美佐子は、背後の雰囲気が変化したことを感じとって、身構えて窓の外を眺めていたのだが。
「突っ立ってないで。おまえもこっちに来い」
重ねて呼ばれれば、仕方なしに振り向いて、静かに卓へと寄った。
男の対面に座る。
「どうぞ」
女将が美佐子の分の茶を淹れて差し出す。持ち上げた臀には、男の手が貼りついたままだった。
「……すみません」
美佐子は、頭を下げることで、男の行為から目を逸らすと、湯のみを口へと運んだ。 

「美佐子、鳴沢美佐子だ」
男が紹介する。あまりにもぞんざいな態度は、完全に美佐子を自分の情婦扱いしたもので。
しかし、それが少しも間違いではないのだ、と美佐子は恥辱を噛みしめた。
いまの自分は、男に脅迫されている被害者ではない。この旅行にも自らの意思で
同行したのだから。
「美佐子、さん。本当にお綺麗なかた……」
ホウとため息ついて、女将は美佐子の暗い表情を眺めた。
その言葉には真情がこもってはいても、それは美佐子の羞恥をいっそう刺激するだけだった。
情婦として紹介された後に容貌を褒められて、素直に喜べるわけもない。
また、そんな屈託を別にしても、ひどく居心地が悪かった。
目の前にいる女将こそ、美佐子が気後れするような美貌と艶めきに満ちていたから。
女将が、スッとかたちよく頭を下げた。
「永島佐知子でございます。当旅館の女将を務めております」
あらためて名乗ったあとに、艶然たる笑みを浮かべて、
「そして……こちらの蛙田さんに、お情けを頂いている女ですわ」
衒いもなく、そう言ってのけた。
「と言っても、可愛がっていただけるのは、蛙田さんが、こちらにいらした時だけなのですけど」
「そりゃあ、しょうがない」
チラリと向けられた恨めしげな目を、男は受け流す。
「こんな山奥まで、そうしょっちゅう来れるかよ」
「それにしても、今度はずいぶんと間が空いたじゃありませんか」
「そうだったか?」
「とぼけて。憎らしい。……でも、無理はありませんわね」
佐知子は、再び美佐子を見つめて、
「こんな綺麗なかたを、手に入れられたら。山中の姥桜に目もくれなくなってしまうのも」 

「いや、年はおまえとそう変わらんはずだぜ。
 これで18になる娘がいるんだからな」
「あら? うちの久美子と同い年?」
驚いたように、マジマジと美佐子の美貌を凝視する佐知子。
「とても、そんなふうには見えませんわ」
感嘆されて、美佐子はますます身の置き場もない気持ちになる。
なにを言っていいのか、という以前に、どんな感情をわかせればいいのかも解らない。
向き合っている美しくしとやかな女性は、男の情婦だ……自分と同じ。
どぎつい言葉ではあっても、他に言いようがないだろう。
そんな女同士が対峙する状況。どう対応すべきか途方にくれてしまう。
一番強く感じるのは、やはり羞恥であったが。
一方では、目の前の女の艶やかさに、不穏な情動も生じる。
しかし、男は、そんな美佐子の困惑など知らぬげに、
「未亡人てのも、おまえと一緒だわな。それに、小さいながら喫茶店の
 女主人ってのも、通じるところがあるか」
店のことを言われるのは、辛かった。佐知子の前では。
その大事な生業を放擲して、男とこんな場所に来ている自分であれば。
「そうですの……」
しかし、佐知子が反応したのは、美佐子もまた寡婦であるという情報だった。
切れ長の瞳に、共感と同情、そして憐憫の色が揺れる。
「……あなたも、とんだ人に見こまれてしまいましたのね」
そう言った声に滲んだ深い感情に、思わず美佐子は目を上げた。
佐知子は柔らかな笑みをたたえて、美佐子を見ていた。
美しい微笑だったが、その奥の心は掴みがたい。
……不思議なひとだな。
それが、ようやく美佐子の中にまとまった佐知子の印象だった。 

「えらいいわれようだな。俺としちゃあ、閨寂しい女に功徳を
 施してるつもりなんだが」
「……そんなことはない、とは言えないのが、情けないところですわ」
佐知子は、自嘲に少しだけ口元を歪めて、
「女というのは悲しいものですね」
そう、美佐子に訴えかけた。
「………………」
また美佐子は、なんと言っていいのかわからずに。
そっと目を伏せることで頷きにかえた。
「……いけない、私ったら。すっかり腰をすえてしまって」
我にかえって立ち上がる佐知子。
女将の顔に戻って、男に食事の時間などを確認したあと、
ごゆっくり、と言い残して部屋を出ていった。
急に静けさに包まれる室内。
「さて、と」
煙草をもみ消した男が身じろぐ。
ビクリ、と美佐子は身構えて、鼓動を跳ねさせた。
しかし、ウンと伸びをついた男は、あてていた座ブトンをふたつに折ると、
それを枕がわりにして寝転がってしまう。
「久しぶりに、長時間運転したんで疲れたぜ」
ひとりごちて、目を閉じる。
そして、嘘のようにあっという間に眠りに入ってしまった。
卓の向こうで鼾をかき始める男を、美佐子は唖然と眺めるいしかなかった。 

……結局、男は夕食の時間まで眠り続けた。
その間、放り置かれた美佐子は、ベランダの藤椅子に移って、
窓の外を眺めることで過ごした。
見るべきものなどない。露天風呂のために景観は犠牲にされているのだから。
ただ視線の向け先として、外を選んだだけだった。
なにをしているのだろう……? そんな疑念がわく。
家族に嘘をついて、遠い温泉宿にやってきて。
していることは、男の高鼾を聞きながら、まんじりともせず座りこんでいるだけ。
かといって、ひとり部屋を出る気にもなれなかった。
旅館の中で、顔見知りに会わないとも限らない。美佐子は滞在中は極力部屋から出ずに
過ごすつもりだった。
どのみち、そうなるのだろうと予測してもいた。
湯治や観光が目的の旅ではない。
ただ日常から遠く離れた場所で、男とふたりきりになって……たっぷりと愛欲に
まみれること。それだけが、ここへ来た理由だったから。
しかし。男は着くなり昼寝を始めてしまった。無論、美佐子には一言の断りもなく、
寝ている間、どうしろという指図すらせず。身勝手というよりは、美佐子の存在など
忘れてしまったかのような態度。
嬲っているのかもしれない。その熟睡ぶりをみれば、本当に疲れているのかもしれない。
いずれにしろ、男はほしいままに振る舞い、美佐子はそれに従うしかない。
いまは待つしかなかった。
男が目覚め、自分に気を向けてくれるのを。飼い犬のように待つしかない。
屈辱と、泣きたいほどの惨めさに胸を灼いて。
それでも……次第に強まる焦燥に、美佐子は何度となく男の寝顔をうかがわずにはいられなかった。 

「ここの料理は悪くない」
旺盛な食欲を発揮する男が言うとおり、夕食の膳に並んだ料理は
どれも素晴らしいものであった。
美佐子も、その味わいには感嘆しながらも、食は進まなかった。
それに気づいた男が、どうした? と訊いてきた。
「全然、食ってないじゃないか」
「いえ……充分いただきました。美味しかったです」
素っ気なく美佐子は答えて、箸を置く。
「なんだよ? ずいぶんツンケンしちまってさ」
「そんなことは……ないわ」
「そうかねえ」
ジロジロと美佐子の顔を眺めまわしながら、男が空になったグラスを差し出す。
美佐子は無言で、ビールを注いだ。
「ふん。いい女の酌で飲むのは格別、と言いたいが、どうにも色気がないな」
「…………」
「フフ、やっぱり、来るなり放っておかれたのが、気にいらないらしいな、美佐子ちゃんは」
「別に……」
「こりゃあ可哀想なことをしたか。昨日のトチ狂いようからしたって、美佐子が
 どれだけ餓えてるかは解ってたのになあ。宿につきゃあ、すぐにもブチこんでもらえると
 期待してたんだな? それがすっかりアテが外れたんでオカンムリなわけだ」
「…………」
「俺としちゃあ、いくら旅先だからって、陽も高いうちからおっ始めるのもどうかと思ったんだがなあ」 

その言葉に、美佐子が男を睨みつけた。
「いつも、昼間から私を呼び出していたくせに」
いまさらなにを、と反射的に男を責めて。
直後、口にした言葉の意味を自覚して、カッと羞恥に頬を灼いた。
「ふうん……」
皮肉な笑みを浮かべる男から、視線を逸らす。
つまるところは、それが本音であったのかと。自分自身に突きつけられた気がして。
「ま、そう焦るなって。時間はタップリあるさ」
男のいたぶりにも、項垂れることしか出来なかった。
男はコップのビールを乾すと、やおら立ち上がって、
「まずは、ゆっくり湯につかろうじゃないか」
その場で服を脱ぎ捨てると、さっさと庭へと向かった。
「先に入ってるぞ」
そう言い置いて、引き戸を開け放ったまま、降りていってしまう。
「………………」
美佐子は座ったままで、そちらを眺めた。
視線の先で、男はもう湯の中につかって、いかにも心地よさそうな顔をしている。
しばしの逡巡の末、美佐子は立ち上がった。 

……素肌に感じる外気の冷たさは、思ったほどでもなかった。
美佐子は長い髪を上げてタオルを巻き、身体にも大判のタオルを
キッチリと巻きつけて、庭へ、贅沢な専用の浴室へと降り立った。
湯船の中から、男が見上げている。
すでに肉体の隅々まで晒した相手ではあっても、一緒に入浴するというのは、
また別の恥ずかしさがあった。
美佐子は、そそくさと湯船に寄ってしゃがみこむと、手桶に汲んだ湯を肩と腰にかけた。
濡れたタオルが身体に貼りついて、悩ましい曲線を浮かび上がらせる。
片膝を立てた姿勢で、豊かな太腿がムッチリと強調される。
含羞に頬を染めて、腰湯を使う美しく熟れた女。その構図の風情と色香に、
見つめる男の相好は自然と緩んだ。
美佐子は湯を含んでズリ下がろうとするタオルを引き上げて、男の視線から
逃れるように、湯の中へと滑りこんだ。
風呂は小型といっても、四、五人は楽につかれる広さだった。
男とは微妙な距離をあけて。しかし、当然ながら、その隙はすぐに埋められる。
男の手が腕を掴んで引き寄せるのには、美佐子は抵抗しなかった。
胡座をかいた男の膝の上に座らされる。
身体に巻いていたタオルを剥がされた。豊かな双つの肉房が湯面に揺れ弾んだ。
「……ん…」
柔らかな肉をギュッと握りしめられて、美佐子は鼻から息を洩らす。
背中は男の胸と密着している。臀は男の股座に乗っている。
触れ合った部分の肌に、灼けるような熱を感じた。
男の手が、荒っぽく、しかし巧緻をひめて乳肉を揉みしだく。
「……ふ……あぁ……」
ビリビリと響く快感に、美佐子ははや上気した顔をゆるゆると振った。 

「相変わらず、いい感触だ」
男が耳にふきこむ。
「若い男の精を吸って、張りが増してるんじゃないか?」
「……いや……」
美佐子はまた頭をふって。そのことは言ってくれるなと訴えたが。
声には、どうしようもなく甘い媚びが滲んでいた。自分でも、そうとわかった。
朱を昇らせた首をねじって、男の口を求めた。
舌を絡め唾を交わしあうと、昂ぶりがいやましていく。
鼻を鳴らして口吻を貪りながら、徐々に硬化していく男の肉体に
美佐子は臀を擦りよせた。
「……ああっ」
はやくも、堪えがたいほどの情感がせくり上がってくる。
美佐子は片手をまわして、自分をそぞろな気分に追いたてる男の肉塊を
湯の中で握りしめた。
焦燥と執着に、思わずギュッと指に力がこもる。一刻も早く、
この逞しいもので貫いてほしい、と。
そのために、そうしてもらうことだけを求めて、ここまでやって来たのだ。
唯や竜之介に嘘をついてまで。
十日以上の空白の末に裸身を重ねあった状況に、美佐子は理性を喪失させつつあった。
この場で跨れ、と命じられれば少しの躊躇もなく、そうしていただろう。
しかし、背後の男は、乳房と秘肉への愛撫で美佐子の官能を煽りたてながら、
美佐子が本当に求めるものを与えようとはしなかった。
「……あぁ……ねぇ」
ムズがるような声を上げて、美佐子は掴みしめた肉を扱きたてた。
まだ焦らすつもりなのか、と恨みをこめた眼で男を見返る。
意地の悪い笑みを浮かべた男の顔を、至近の距離から見つめる。 

と、男が美佐子から視線を外して、部屋の方を見やった。
「……?」
視線の先を追った美佐子が、驚愕に眼を見開く。
室内の明るさを背に立った、白い肢体。
「なっ…」
男とふたりきりのはずの空間に、いつの間にか第三者が闖入していたのだ。
この旅館の女将、永島佐知子だった。
佐知子は素足で石床を踏みしめて、近づいてくる。
しずしずとした典雅なほどの身ごなしは、昼間美佐子らをこの部屋へと
案内した時と同様ではあったが。隙なく着こなしていた着物を脱いだ
一糸纏わぬ姿では、静かな歩みにも、その豊かに張り出した乳房が
重たげに揺れている。しかし、佐知子はそれを隠そうともせず、
落ち着いた挙措で歩み寄ると、岩風呂の縁にしゃがみこんで、
手桶に汲んだ湯を肩から浴びた。
美佐子は、突然現れた自分と同年輩の女の裸身を、呆然と見つめる。
片膝をついた佐知子の、むっちりと実った両腿の付け根の翳りに目が吸い寄せられた。
身体を流した佐知子が再び腰を上げる。
薄明かりの中に立った肢体は、同性の美佐子にさえ息苦しい思いを感じさせるほどの
官能美に満ちていた。あくまでも白い肌は濡れ輝き、なめらかな身体の線の中に
胸と腰が豊かに張り出している。弱い照明の投げかける陰影がその肉感を殊更に強調して、
美佐子の目に迫った。
異常な状況も忘れて、眼前の女体に見惚れていた美佐子に、佐知子が目を合わせた。
フッと、花が綻ぶように笑う。恥じ入るでもなく、ごく柔らかな笑みだった。
「失礼しますね」
そう断って、細いつま先を湯に沈める。
ハッと呪縛から解けて、美佐子は慌てて男の体から降りて、湯船の隅へと逃れた。 

佐知子に背を向けて、身を屈めるようにして肩までを湯の中に隠して。
「……どうして…?」
美佐子が震える声で、男に説明を求める。
「まあ、おまえだけを構うってわけにもいかねえんだなあ。
 ここに来たからには、佐知子にも餌をやらなきゃならねえからな」
「そん、な……」
「いいじゃねえか。親睦を深める意味でもさ」
そう言ってのけた男の奸悪な表情に慄然とする美佐子。
単に、一緒に入浴するだけのことではないのだと、気づかされて。
滞在中、男が佐知子をも抱くのだろうとは予測していた。
それに対して、暗い感情―もう誤魔化しようもない、女としての嫉妬が胸を灼いても。
どうすることも出来ない。
まさか、その感情を露わにして男に迫ることも出来なかった、たとえ、
そうしたところで、なんの意味もないだろうが。
それでも、せめて今夜は、ふたりで過ごせるものと思っていた。
誰はばかることなく痴情に耽溺して、溜まりに溜まった鬱屈を解放できるものだと。
しかし。男は、自分と佐知子を同時に嬲ろうというのだ。
信じられない行為だった。
男の毒に染められて、その良識を大きく変容させられた美佐子ではあっても。
それだけは受け入れられなかった。
すぐに、風呂を出て部屋に戻ろうと思ったが。
すぐ後ろにいる佐知子の存在が、美佐子の行動を逡巡させた。
男の膝に乗って快楽に身悶えていた姿を見られたという羞恥が、身をすくませる。
湯の中に沈めた身体を上げて、佐知子の目の前を通り抜けることがためらわれた。
と、かすかに湯面が揺れた。
そして、美佐子の背に押しつけられる柔らかな感触。
ビクリと戦慄いて、反射的にふりかえる美佐子。
けぶるような笑みをたたえた佐知子の美しい面が、そこにあった。 

「な、なにをっ……」
美佐子の狼狽には構わずに、佐知子は両腕を美佐子の胴にまわして抱き寄せた。
さらにふたりの身体は密着して、美佐子は背に豊満な肉房をハッキリと感覚する。
「は、放して」
震える声で美佐子は訴えた。
腹にまわされた腕の力は強いものではないのに。何故か抗いの動きを封じられてしまう。
「キレイな身体……しなやかで滑らかで」
陶然たる囁きを耳に吹きこまれて、美佐子はビクリと反応してしまう。
湯の中で触れ合う佐知子の肉体は、あくまでも柔らかで。
それを意識すれば、羞恥に頬が火照った。
「は、放してください」
「どうして? 仲良くしましょうよ」
故意にか偶然か、佐知子の吐息は美佐子のうなじを嬲って、危うい痺れを投げかけてくる。
「そんな、こと……女同士で、こんな」
「蛙田さんは、こういうのがお好みなの」
「そんな……」
佐知子の言葉は、このような戯れは初めてではないと仄めかしていた。
背後から美佐子を抱きすくめるかたちにも、どこか慣れたものがある。
「私、もう恥とかいうものは忘れてしまいましたのよ。あなたは、どうなの?」
返答に詰まる問いかけ。
そして、美佐子の腰を抱いた佐知子の腕が滑る。
「あっ、いや」
掌で、重い肉の実りを持ち上げるようにして。やんわりと、細い指を食いこませた。 

「逆らえないわ」
佐知子は、美佐子の耳朶を軽く噛んで、また敏感な反応を引き出しながら、そう囁く。
「あのひとが望むなら、私もあなたも、その通りにしなくてはならない。
 そうでしょう?」
「そんな……アッ」
指先が美佐子の胸の頂きをくじる。巧妙な弄りに、乳頭はみるみる充血を増した。
「敏感なのね」
反応を愉しむように佐知子が言う。
「可愛いひと」
「あ、やっ」
不意に首筋に唇を寄せられて、悲鳴を上げる美佐子。
佐知子に触れられる部位から、妖しい感覚が総身に走って、抵抗の気力を奪おうとする。
しかし、
「だ、ダメ」
腹を撫でていた佐知子の手が下方に滑って、叢に達したときには、
我に返ったような激しい抗いを示して、柔らかな腕の拘束から身体を逃がした。
「逃げないで」
「いやよ、こんな…」
追いすがる佐知子の腕を払って、立ち上がろうとするが、
「そうイヤがるなよ」
いつの間にか近づいていた男が、美佐子の二の腕を掴んで逃走を封じた。
「せっかくの女将のもてなしじゃねえか」
「いやっ」
男は美佐子を羽交い締めにして、その肢体を佐知子の前に晒させた。 

「そうですよ。蛙田さんのお連れの方には、いつもサービスさせていただいてるんですから」
すかさず、佐知子が身体を重ねていく。
今度は前から美佐子の腰を抱いて、揺れる乳房を美佐子の胸に押しつける。
ともに見事な量感をほこる二対の肉果が押しくらして、その美しいシェイプを歪ませた。
その感触に、美佐子はヒッと喉を鳴らしたが。
「……柔らかい」
行為をしかけた佐知子の方は、うっとりと呟いて、さらにその肉の心地を味わおうとするかの
ように、微妙に上体をくねらせ、乳を擦りつける。
「……やめて、やめてください」
必死の拒絶。だが、美佐子の声は弱い。落ち着き払った佐知子に気圧されている。
「やめないわよ。もっと、美佐子さんの可愛い姿を見せてもらうわ」
悪戯っぽく、佐知子が笑う。
スッと顔が近づく。わずかに突き出した唇で美佐子の口を狙って。
「いやっ」
美佐子が懸命に顔を逸らして逃れれば、深追いはせずに鎖骨のあたりに唇を這わせた。
「ああぁ……」
チュッチュと音をたてて、血の色を昇らせた美佐子の首や胸肌を啄ばむ佐知子。
「……綺麗な肌…」
また、賛美の言葉を洩らす。そして、小さく覗かせた舌先で、チロチロと舐めずった。
「アァッ」
繊細な刺激に、大袈裟なほどの感応を示して、美佐子は喉を反らした。 

「お、おねがい。やめさせて」
このまま深みに誘われることを恐れて、美佐子は背後の男へと懇願する。
「そう、嫌がるなって。“仲間同士”の親睦を深める機会なんだからよ」
「そうよ。そんなに嫌われては、私も立場がないじゃありませんか」
そう言って、佐知子は美佐子の横顔に頬を擦り寄せる。
「私たちは、お仲間でしょう? ともに蛙田さんの女。奴隷と言ったほうが、いいかしら」
「そんな……」
「そうでしょう? 私もあなたも、同じ肉マラで、さんざん泣かされて、
 骨抜きにされた女じゃあありませんか」
「……っ」
思わず美佐子は抵抗も止めて、間近にある佐知子の面をまじまじと見つめた。
あっけらかんと卑猥な言葉を吐いた口に、笑みを浮かべて。佐知子は潤んだ眼で見つめかえしている。
「ふふ、呆れたかしら? 言いましたでしょ、私、恥や謹みなど捨てているんです。
 蛙田さんに可愛がってもらうためなら、どんな破廉恥な真似でも出来ますわ」
「そん…な…」
「そういう女にされてしまったんです」
微かに自嘲を含んだ佐知子の言葉が、美佐子の胸を刺す。
自分もまた、その男によって変貌を強いられてしまっていたから。
永く眠らせていた“女”を目覚めさせられ、未知なる快楽を植えつけられて。
貪婪な本性を暴かれた肉体は、意思や理性では御することが出来ずに。
悪辣な男の思うがままに操られた結果として、いまここにいるのだから。 

「仕方のないことよ」
美佐子の心情を読んだように、佐知子は言った。
「美佐子さんも、旦那さまを亡くされている。私と同じ未亡人の身上で」
重なりあった互いの乳房の間に手を滑りこませた。
「……侘しい独り居の中で、あんな快楽を味合わされてしまっては……。
 狂ってしまうのも、無理はないこと。そうでしょう?」
「……フ……あっ…」
美佐子に反駁の余地はなく、余裕もなかった。
ただ歯を食いしばって、佐知子の手の蠢きが与える刺激に耐えようとする。
「感じやすいのね」
クスリ、と笑って。佐知子は、色を濃くして硬く屹立した美佐子の乳首を捏ねまわして
肉の反応とこらえきれぬ嬌声を引き出す。
「……こんな身体を持っていて、女であることを忘れて生きるなんて、どだい出来っこないのよ。
 美佐子さんも、それはもう解っているのでしょう?」
「…………」
佐知子は、美佐子の肩越しに男を見やった。
「ひどい男よ。下劣で、悪趣味で、いやらしくて。目的のためには手段を選ばない」
「えらい言われようだな」
「……どうせ、このひとも、卑怯な手でものにしたのでしょう? 私の時のように」
「さあて、どうだったかねえ」
空とぼける男を軽く睨んでから、佐知子は美佐子へ視線を戻して。
「……お互い、悪魔にとりつかれたようなものですね」
深い同情を、その顔に浮かべながら。
しかし、美佐子の胸乳にあてた手指はやわやわと蠢き続けていた。 

「今度は、悪魔よばわりかよ」
男が、せせら笑う。
「最初の時から、死ぬほどヨガリ狂って、そのデカい臀をふりたくってたくせによ。
 しまいにゃあ、両手両足で俺にしがみついて、もっともっととせがんだのは、
 誰だったのかねえ」
「……だから、悪魔なのよ」
男の侮辱も、佐知子は軽い嘆息で受け流した。諦めがうかがえる冷静さ。
「一度でも、あんな思いを味あわされて……もう、離れられるはずがないじゃない」
そうよね? と美佐子の顔を覗きこんで、同意を求める。
美佐子には、また答えようがない。
ああ、このひとも自分と同じなのだ、と佐知子に対する痛ましさを感じはしたが。
それは、いまさらな感慨であったろう。無意味なことだった。
佐知子にしても、同情を求めたわけではなかった。
「……本当に、このひとはヒドい男。でも……」
そう言いながら、また美佐子へと顔を寄せる。
慌てて横を向いた美佐子の形のいい耳朶を甘噛みしながら、
「牡としては、最高。こんなに逞しい獣は、そうはいないわ」
その牡獣に貪られてしまった自分たちは、けっして逃れることは出来ないのだと。
「それは……わかるでしょう? 美佐子さん」
「あ…や……あぁっ」
乳房を弄う手に、力がこもる。
掴みしめた肉果に、佐知子は口を近づけた。
「や、やめ……ヒアァッ」
無力な拒絶は、悲鳴にまぎれてしまう。
佐知子の舌の舐めずりが、鋭すぎる刺激を走らせる。
混濁へと引きこまれる中、肉の感覚だけが研ぎ澄まされていく。
すでに馴染みとなってしまった、失墜の徴候。 

美佐子の敏感すぎる反応を喜ぶかのように、乳房への愛撫に熱を入れる佐知子。
縦横に、淫猥に、桃色の舌がそよぎ、豊かな性感を宿した熟肉を攻めたてた。
「ヒァ……や、あ、ああ」
同性からの執拗な責めに、なすすべもなく爛熟の肉体を晒す美佐子の口から
洩れる声はひっきりなしになって。
ああ、また負けてしまうのだと。恥知らずなこの身体は、
こんな異常な行為さえ諾々と受け入れて、快楽を享受してしまうのだと。
そんな形ばかりの嘆きを免罪符に、美佐子は崩れていく。
その脆すぎるほどの屈服を見てとって、佐知子はさらに核心へと迫った。
巧緻な手管で熟乳を揉みしだいていた手の片方を下ろして。
荒いあえぎをつく美佐子の鳩尾から、滑らかな腹部へと撫でおろして。
湯の中で、海藻のようにそよいでいる黒い叢の下へと指先を潜りこませた。
「ああぁっ、いやぁ」
「フフ、ここも、こんなにして」
コリコリ、と繊細な肉の突起を弄くられて、美佐子が甲高い叫びを上げ、
濡れ光る肢体をビクビクと戦慄かせる。
「いや、やめ、て、そこはっ」
「いやよ。もっと、その可愛い声を聞かせてほしいわ」
昂ぶりに上気した美貌に微笑を湛えながら。
佐知子は、その細い指に技巧の限りを尽くして、美佐子の女を攻撃した。
膨張した肉芽を爪弾き擦りたてながら、わななく女肉を抉る。
「アアアアァッ」
同性の指の凌辱を受けて、恥辱と歓悦の声を張り上げる美佐子。
「熱いわ……美佐子さんの中」
「い、あ、だめ、だめっ」
「それに、こんなにからみついて、締めつけて」 

あさましいほどの肉の反応ぶりを、いちいち美佐子の耳に囁きながら。
佐知子は美佐子を貫いた二本の指に淫靡な動きを演じさせる。
根元まで挿しこんで、蕩けた肉襞を擽りたてれば、
美佐子はただヒィヒィと啼いて、喉を反らした。
そうしながら、嬲られる女肉はいっそうの収縮を示す。
「すごい……指が食いちぎられそう」
感嘆する佐知子。
「こんなに綺麗で。身体はこんなにいやらしくて。これでは、
 蛙田さんが、ご執心になるのも無理はないわね」
「おまえだって、いつになく張りきっているじゃないかよ?」
美しい熟女同士のレスボスの絡みを、愉しげに眺めていた男が口を挟んだ。
「ええ。だって、こんなに素敵なひと、これまでにいなかったわ」
うっとりと、自分の愛戯に悶え狂う美佐子の面を見つめながら、佐知子が答える。
同じ男の寵を争う相手。しかし、不思議なほど嫉視や敵意といった感情はわかない。
それよりも、自分と同年輩で境遇もよく似た美佐子への共感が強かった。
そして、そんな美佐子を自分の手で快楽に啼かせることに、
痺れるような喜悦を感じていた。
「うれしいわ」
胸にどよもす歓喜を、短い言葉にして。佐知子は、美佐子の口唇を求めた。
「い、いやっ……む、うぅ」
快楽に蕩けさせられた美佐子の、か弱い拒絶を無視して唇を合わせる。
柔らかな感触に、また佐知子の昂揚は増した。
しかし、美佐子は唇を引き結んで、舌の侵入だけは許すまいとする。 

「……ねえ、舌を吸わせて」
佐知子は甘くねだって。舌先で、閉ざされた唇をなぞるように擽る。
しかし、美佐子は細かく首を横にふって、拒んだ。
「どうして? おかしいわ、私の指はこんなに喜んで受け入れてくれてるのに」
悪戯っぽく笑った佐知子には、余裕がある。
すでに、美佐子の肉体の脆さを知ってしまっていたから。
はかない抵抗を喜びながら、ひときわ攻め手を強める。
「ムーーッ! フ、ウ……ア、アアッ」
果たして美佐子は、呆気なく佐知子の指に屈して、肢体をのたくらせ、
切羽つまった声を迸らせた。ほどけた口に、すかさず佐知子がふるいつく。
「フウ、ムム……」
舌を絡めとられた刹那、美佐子の視野は白く発光した。
初めて知る同性の口舌は、熱く柔らかだった。
美佐子の舌に巻きつき口腔を擽る蠢きも繊細で。
流しこまれる唾液さえ、甘く感じられて。
わずかな間に、美佐子は抵抗の意思を溶かされて、舌を委ねてしまう。
執拗に、佐知子は美佐子の口唇を貪った。
ともに類まれなる美貌の熟れた女どうしが、艶麗な裸身を擦りよせ、
ピッタリと唇を重ね合わせて、濃厚な口舌の戯れに耽る。
ふたりとも、昂奮に面を上気させ、うっとりと眼を閉じて。
かすかに隠微な音を響かせて、舌を吸い合う。
甘い唾のやりとりにつれて、なめらかな喉が波打つ。
その痴態を仕組んだ男は、妖しくも艶めかしい絵図を、
至近の距離から目を細めて眺めていた。 

「……ああ、いやぁっ」
従順に佐知子の口舌を受け入れていた美佐子が、やおら口の繋がりをほどいて、
激しく身もがいた。
濃厚なキスの間にも、性感の源泉を攻め続けられて、
快感が限界に近づいたのだった。
「ふふ、イクのね、美佐子さん」
「い、いやっ、やめ、もう」
最後に残った自意識のかけらが、同性の手で極限の恥辱を晒すことを
拒絶しようとするが。それは遅すぎる抵抗だった。
なにより、美佐子の肉体こそが、目前の悦楽を欲して走り出してしまっている。
湯の中で、腰がのたうちくねって、咥えこんだ佐知子の指を離すまいと食いしめる。
「いいのよ、イって。私の指で、天国に昇るところを見せて」
濡れた瞳を輝かせて、佐知子が促す。
とどめとばかりに、美佐子の秘肉を責める手の動きが激しさを増す。
「ああ、いやよ、いや、そんな、いやぁ」
狂おしく頭をふりたくって、泣き喚く美佐子。
しかし、意思の制御を離れた身体は、一心に絶頂へと突き進んでいく。
グッともたがった腰が、苛烈な挿送を与える佐知子の手へと叩きつけられる。
「ああ、いやっ、イッ…ちゃ、あああ」
ブルル、と総身に断末魔の震えが走った。
跳ね踊る乳房を、佐知子がギュッと掴みしめて。
ビンビンに勃起した乳首をギリッと噛んだ瞬間に、
「アアアッ、イッく、アアアアーーーッ!」
女叫びがつんざき、美佐子の裸身は、大きく湯を跳ね散らしながら、
弓なりに反りかえった。 







 

 

 

 

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