鳴沢美佐子15


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「幻想だよ」
そして、男が嗤う。
「おまえさんも、この女の本性、少しは見てるはずだろ? 四発も搾られた夜によ」
「なっ…!?」
そんなことまで、美佐子は男に話しているのかと。
またひとつ、竜之介の絶望が深まる。
「おら」
いきなり男が腕を伸ばして、美佐子のコートの襟を掴んで。
そして、強く引き寄せた。
「いやっ」
美佐子が低く叫んで、はだけられたコートの前を慌てて合わせる。
だが、その一瞬に、唯と竜之介の目には確かに焼きつけられた。
黒いコートの下からあらわれた美佐子の白い乳房。その頂きの尖りまでも。
「まあ、ほんのお遊びだけどな。こいつは、こういうことが出来る女だってこと」
「き、貴様がっ! 無理にやらせてるんだろうが!」
「指示はしたけどな。無理やりでもないさ。で、この女は素直に受け入れた。
 言ったろ? 遊びさ。こういうことも楽しめる女だって認めてやればいいだけのこと。
 ボーヤには、それが出来ないから、こいつを繋いでおけなかったの」
「そ、そんなことで」
「好きなんだよ。そんなことがよ。恥ずかしいこと、いやらしいこと、大好きなの、この女は。
 なんでも快楽にしちゃえるのよ」
「……そんな……こと…」
「別に、悪いことじゃあねえだろ? 楽しんじゃいけないのか?」 

「楽しいの?」
口をはさんだのは唯。
肩を抱くようにしてコートの襟を引き合わせ、羞恥に染まった顔を伏せている美佐子を見つめて、
「おかあさん、楽しいの? こんな時に、そんな格好でいることを、楽しんでるの?」
「……唯…」
美佐子は顔を上げられない。嗚咽にむせび、かぶりを横にふりながら、
「……赦して……ゆるして……」
弱りきった声で、そう繰り返すだけ。
「私はっ」
刹那沸騰しかけて。ゴクリと喉を鳴らした唯は、また感情を喪失したような声音に戻って。
「……私は、好きにすればいいと思う。
 おかあさんにも、楽しいことを求める権利があるっていうなら、そのとおりだと思うから。
 でも。
 こんなのは、ないと思う。こんなやり方は酷いと思う。
 隠して、騙して。挙句に、こんなかたちで事実をつきつけて。
 あんまり、私やおにいちゃんを馬鹿にしてる。
 そのことは……私は絶対に忘れない」
淡々と言葉を紡ぎながら。
しかし、唯はその瞳から大粒の涙をひとつ零した。
「唯は……おかあさんを赦さない」
「……唯…」
唯は濡れた眼を竜之介に向けて。
「おにいちゃん……帰ろう?」 

竜之介の顔に迷いの色が浮かんだが。
「……ダメだ」
それを払うように頭をふった。
「ダメだよ、唯。こんなのは、違う。こんなことは、本当じゃない」
必死に言い募る言葉には、もはや確信はない。
ただの未練が言わせているのだと、唯は気づいたから。
「……そう」
唯は静かに立ち上がった。
「じゃあ、唯は先に帰るね」
それだけ言って。テーブルの向こう側には目もくれずに、唯は背を向けて歩き出す。
「……唯……」
咽ぶ声が、その背を追っても。
唯の足取りは揺るがず、振りかえることもなく去っていった。
「ほう……」
男は感嘆した表情で唯を見送って。
「……で? おまえさんは、まだ事実を認める気になれないと?」
「あたりまえだ」
「……どうにも、困ったねえ」
少しも困ってはいない。望み通りの展開だったから。
「おい、美佐子」
ふいに男は美佐子を呼んだ。美佐子が泣き濡れた顔を上げる。
「酷い面になってるぞ。手洗いにでも行って直してこいよ」
啜り上げながら頷いて、美佐子が腰を上げる。
自分でも化粧の崩れが気になったのか。少しでも、この場から逃げ出したかったのか。
片手で口元を覆い、片手でコートの前を掴んで、足早に出口へと向かった。 

「さてと……」
ふたりきりになって。男が竜之介へと身を乗り出す。
「いくら言っても、わかってもらえないとなるとだ」
男はポケットからルーム・キーを取り出すと、竜之介の前に置いた。
「あとは、こうでもするしかないようだな」
「……なんだよ?」
竜之介は訝しげに、卓上のキーと男を見比べた。
「この上の階に部屋を取ってある。スウィートだぜ」
「それが…」
「ちなみに、俺と美佐子が初めて結ばれた思い出の部屋でもあるんだけどさ」
「だから! それがなんだってんだよ!?」
「おまえ、先に部屋に行って隠れてな」
「はっ?」
「美佐子には適当に言っとくからよ。いまのうちに潜んでろ。俺たちも後から行くから」
「な、なんで、そんなこと……それに隠れるって」
「そうすりゃ、見届けられるだろ。真実が」
「真実……」
「おまえ、まだ信じられないんだろ? 美佐子が嘘をついてると思ってんだろうが?」
「そ、そうだよ」
「だからさ。おまえが隠れて待ってるところに、俺は美佐子を連れてく。
 美佐子は、おまえが覗いてるなんて知らない。俺とふたりきりだと思ってる」
「…………」
「なら、そこでおまえが見るのが、美佐子の真実の姿ってことになる。違うか?」
男の言わんとすることを理解した竜之介は、ジッと卓上のキーを見つめた。
「どうする?」
「…………」 

男の自信に満ちた表情が、竜之介を逡巡させる。
ここまで言えるということは、やっぱり……と弱気が頭を擡げた。
それを見透かしたように、男が笑う。
「フフ……まあ、ここで帰ったほうが、おまえさんのためだとは思うがね。
 わざわざ、痛い思いをすることもないやな」
見えすいた挑発。しかし、竜之介はそれに乗ってしまう。
引っ手繰るように、テーブルの上のキーを掴み上げていた。
まともじゃない、と遠くで冷静な自分が叫ぶ。
どうにでもなれ、とか、毒食わば皿まで、とか。そんな言葉が浮かんでいた。
自棄っぱちでしかないと、自分でも悟っていたということだが。
それでも。ここで諦めることも出来なかったから。
竜之介は、選択してしまった。 

(……俺は……なにをしてるんだ……?)
そんな自問を繰り返す。
暗い部屋にうずくまって。
(……俺は……なにをしようとしてるんだ……?)
キング・サイズのベッドが置かれた部屋。広い窓からは夜景が望める。
しかし、竜之介はドアのそばにしゃがみこんで、薄く開いた隙間から、
明るいリビング・ルームをうかがっている。
まだ、そこには誰もいない。舞台に役者は登場していない。
ひとりきりの観客席で、竜之介は待っている。

男に指定された客室は、呆れるほど豪奢な部屋だった。
だだっ広いリビング。見るからに高価な調度。
どんなやつが、こんな部屋に泊まるのだろう? と竜之介は一瞬考えてしまって。
現に、この部屋のキーを自分に渡したのは誰なのかと思い至って、苦い気持ちになった。
『俺と美佐子が初めて結ばれた思い出の部屋でもあるんだけど』
……自分には、美佐子のために、こんな部屋を用意することは出来ない。
「……ああっ! うっさいうっさい!」
こみ上がる敗北感を無理やりにふり払って。
本来の目的を果たすために、部屋の中を見まわした。 

『寝室が三つある。どれでもいいから、そこに入れ。
 俺たちは、リビングで“お話し”すっからよ。
 おまえは、美佐子に気取られないようにして、覗いてな』
男の指示通りに……というのが、気にはいらなかったが。
とにかくも、手近の一室に忍びこんで。
ドアの隙間からの視界を確認して。それで準備は整った。
だが、それから三十分近くも待たされることになる。
ジリジリと待つことの苦痛に、いったい自分はなにをしているのか? という自省が生じる。
それは……真実を見極めるためだ、と自分に言い聞かせる。
美佐子は、真実を隠している。もちろん、なにか理由があるに違いない。
だから……こんなことをしてでも、俺は本当のことを掴まなくちゃならないんだ。
美佐子を、あの男から救い出すために。
(本当に、そう信じてるのか?)……問いかける声が聞こえる。
あたりまえだ。
(本当に、信じてるのか?)……声は消えない。
………………。
(本当に、おまえの思うとおりなら……何故、あの男がこんなことをする?)
……………………。
(あの男は……なんて言っていた?) 

竜之介は、男の言葉を思い出す。

『もしもだ。俺と美佐子のやりとりで、すべてが嘘だと判明したら。
 美佐子が、やっぱり俺に脅されて、仕方なく従ってるってわかったら、だ。
 そん時には、好きにしろよ。正義の味方よろしく颯爽と現れて、俺を叩きのめしゃあいいさ。
 だがな。
 俺たちのアツアツぶりを見て、嫉妬に狂って乱入するなんてのは、カンベンしてくれよ』

(絶対の自信がなくて、あんなことは言えない。こんな状況は作らない)
……違う……あいつは、まだ俺を騙そうとしてるんだ……。
(おまえは、ハメられたんだ)
…………………。
(正確には、罠だと解っていて、飛びこんだんだ)
…………………。
(おまえは、大馬鹿者だ)
……それでも……それでも、俺は本当のことが知りたい。 

ドアの開く音が聞こえて、竜之介は、ハッと息をつめた。
気配が近づいてきて。
竜之介の視界に、男と美佐子の姿が現れる。
沈痛な顔を俯けて、足元も覚束ない美佐子の腰を男が抱くようにして。
男が、竜之介の潜んでいるドアの方を一瞥する。一瞬、目が合う。
竜之介はギクリと緊張し、男はかすかに口元を歪めた。
男は部屋の中央で美佐子から離れると、ソファに腰を下ろした。
美佐子は、茫洋と佇んでいる。黒いコート姿。
「いつまでも、辛気臭い面してんじゃねえよ」
だらしなく、ソファにもたれながら、ぞんざいな言葉をかける。
「仕方ねえだろ? いつまでも隠しておけることじゃねえんだから」
「……でも…」
美佐子が顔を上げて、男を見る。いまだ涙を含んだ弱い声が、かろうじて竜之介にも届いた。
「……あんな……かたちで……あの子たち……どんなに……」
「そりゃあ、ショックだったろうがね。だが、ひとつも嘘はついてねえよな?
 全部本当のことだ」
「………………」
美佐子は否定しない。
竜之介の存在に気づいてはいないのに。
美佐子は、男の言葉を否定しない。 

「おまえも、スッキリしたんじゃないのか? これでもうガキ共の手前を
 つくろう必要もなくなったんだからさ」
「……そんな…」
「人間、自分に正直に生きるのが一番よ」
軽く美佐子の傷心を笑い飛ばして。男は顎で、美佐子を差し招く。
美佐子は従順に、それに応じて。男の前に立った。
竜之介に背を向けるかたち。黒い裾から伸びた白い脹脛が眩しい。
美佐子の陰で男が動いて。
バサリ、とコートが床に落ちた。
(…………っ!?)
いきなり、白く豊麗な尻が、竜之介の眼に飛びこんでくる。
美佐子はコートの下には、なにも身につけていなかったのだ。
いま、唯一裸身を隠していたコートも奪われて。
全裸に黒いハイヒールだけの姿となって。
しかし、美佐子は慫慂として男の前に立っている。
わずかに横に逸らした顔に羞恥の気ぶりを表しても、男の目から肌を隠そうとはしていなかった。
「……まあ、なんだかんだ言いながら、だ」
「あっ……」
美佐子が鼻にかかった声を上げて、肩を震わせる。
「こんな格好で、ガキどもの前に出て。それで、こんなに乳首をビンビンにしてるってのは
 どういうことよ?」
「……あ……ふっ……」 

「脚を開けよ」
男が命じる。美佐子が、ヒールを横に滑らせて、張りつめた太腿を広げる。
そのあわいに男の手が潜りこむ。チュプリと濡れた音がたつ。
「あぁっ」
「ビショビショじゃねえかよ」
「あっ、あ、あぁっ」
男の手が蠢くたびに、美佐子が舌ったらずな声を迸らせる。
そして、チャプチャプと隠微な音が響く。
「そんなに感じちゃってたのか? 素っ裸にコート一枚で、娘たちと向かいあってるのが、
 そんなに楽しかったのかよ」
「んあ、ち、ちがう、そんな」
美佐子が左右に首を打ちふって、男の言葉を否定する。白い背に束ねた髪が揺れる。
「恥ずかし、くて……死にたい、くらいに……」
ブルブルと内腿の肉づきが震えている。美佐子は上体を前へと倒して、
男の肩にしがみついて体を支えた。自然、臀を後ろへと突き出すかたちになる。
茫然と見つめる竜之介のほうへと。
「恥ずかしくて、でも、それが快感だったんだろ? 娘たちの前で、こんな格好でいる
 自分が、たまらなかったんだろ?」
「いやっ、そん、な、ちがう、私」
美佐子は頭を振り続ける。
しかし、男の指を受ける秘肉は濡れそぼっている。
豊満な臀が、くなくなと淫らがましく踊る。
竜之介は、それを見ていた。 

男が突然嬲りを止め、手を離した。
「……あ…」
美佐子が、惜しげな声を洩らして、男を見る。
「後悔してるってんなら、別に、いいんだぜ。いまからでも、娘たちのところへ帰っても」
「……もう……遅いわ」
悲しい諦念のこもった呟き。
「唯には……見下げはてられてしまったから……」
「確かに、なかなか手厳しかったな、おまえの娘は」
「………………」
「……また、お通夜みたいな面になっちまってよ。たったいままで、フンフン鼻鳴らしてたのが。
 忙しいねえ、おまえも」
気のむくまま、といったふうに男は美佐子をいたぶっている。そしてまた、
「酒を作れや」
ソファにそっくり返って、横柄に命じた。
頷いた美佐子が、床に落ちたコートに手を伸ばしたが。
「いらねえよ」
男の言葉に、少しだけ眉を寄せて。
裸のままで、バー・カウンターへと向かって歩きはじめた。
それは、竜之介の隠れるドアの前を横切ることとなる。
竜之介は、思わず後ろへ身をそらした。
狭い視野の中を、裸の美佐子が近づいてくる。豊かな双乳が弾んで揺れている。
息をつめる竜之介の前を、通りすぎて。グラスや氷の音が死角から聞こえて。
グラスを手にした美佐子が再び、ドアの前を横切った。
高いヒールを履いた美佐子の足の運びは、自然と艶麗な臀を左右にうちふる動きになって。
クイクイと蠢く白い肉の悩ましさに、竜之介は、こんな状況でありながら、つい生唾を呑んでしまう。 

酒のグラスを受け取って口をつけた男は、
手持ち無沙汰なようすで目の前に立つ美佐子を、目顔で隣りに座らせる。
柔らかなソファに白い肢体を沈めた美佐子は、やはり裸が落ち着かないのか、
腕を抱いて身を竦めるようにした。
だが、男が肩に手をまわしてくると、ごく自然な動きで身体を預ける。
男が酒を含んだ口を寄せる。
美佐子は首を傾げて、それを受け入れる。
唇が合わさり、美佐子の喉が動いて、口移しされる酒を飲みこむ。
そのまま唇は離れず、濃厚なキスになっていく。
美佐子は男の首に手をまわして、自分から積極的な口吻をしかける。
男の胸に押しつけられた乳房がたわむ。
やがて、男が口を離しても、美佐子はさらに求めるように唇を差し出す。
その横顔は上気して、薄く開いた眼はけぶっていた。
しかし、男は美佐子の求めには応じず、情感に水を差す。
「さっきの話だがよ。本当に後悔してるんだったら、戻ったほうがいい」
「……どうして? いまさら、そんなことを」
昂ぶりをはぐらかされた美佐子は、恨むように言った。
「ふん。俺としちゃあ、いまさら家にも戻れないから仕方なく俺といる、なんてのも
 面白くないんでね」
「そんなっ」
美佐子が顔を泣きそうに歪めて、男の胸にすがりつく。
「どうして、そんなこと。私の気持ち、わかってるはずよ」
「美佐子の気持ち、ねえ……」
「そうよ。私、もうあなたとは離れられないの」
美佐子の言葉には必死の気合がこもっていた。
真情からの言葉としか、聞こえなかった。 

「そいつは、もう何度も聞かされたがね。でも、家族と離れるはめになって
 悲しんでる美佐子を見てると、気持ちも変わったんじゃないかってな」
「そんなこと…ないわ。……それは、あの子たちと離れることになってしまったのは、
 悲しいけれど……。でも、あの子たちも、もう大人だから。私がいなくても……」
どこか弁解がましい述懐に続けて、
「でも、私にはあなたがいないと……あなたなしでは、もう……」
切々たる口調で訴えて、媚びた眼で男を見つめる美佐子。
「嬉しい科白だがな。どうも、いまだに信じられないところもあるんだな」
「そんな…」
「だって、そうだろ? 俺が店に通いつめてた時は、いくら口説いても、
 まったく、とりつくしまもなかったじゃないか」
「それは……ごめんなさい、あの時は蛙田さんのこと、なにも解ってなかったから」
「ふうん。じゃあ、いまは俺のことを理解してるってわけだ?」
「そうよ。そのつもりです」
「その上で、俺に惚れてると」
「そうよ」
打てば響くといった調子で答えながら。美佐子の手は男の上着の内側に潜りこんで。
シャツの上から男の胸を撫でまわしていた。
「ハッキリ言ってみろや。俺のことが、すきかよ?」
「すきです」
その言葉も、少しの逡巡もなく紡がれて。
確信に満ちた声は広い部屋に響き、一隅の暗闇にも届いた。 

「フフ、そう正面切られると照れるね」
まったく照れてはいない顔で、男が笑う。
その首に、白い腕がからみついて、美佐子が男へと身体をすりよせる。
「おいおい。ついさっきまで愁嘆場を演じといて、もうその気になってんのか?」
「……忘れたいの。なにもかも……」
男の顎先に唇を這わせて、美佐子は乞い願った。
「泣けるセリフにも聞こえるが…」
男の手が美佐子の乳房を掴んで、やんわりと揉みしだく。
途端に美佐子は艶めいた声を洩らして、顎をそらした。
「……これだからな。娘との涙の別れも、前戯がわりにしちゃってんじゃねえのかよ」
「ああ……ひどいわ」
甘く拗ねるような声。
「どうだかねえ。だいたい、向こうで散々ヤリ狂ってよ。昨夜だって、
 朝まで俺を寝かせなかったくせにさ。つくづく底無しだな、おまえも」
「あぁん、あなたが、蛙田さんが、美佐子をこんなにしたのに」
「こんなに? いつでもどこでも発情する、ド淫乱な女にって、ことか?」
「ああ、ひどい」
「違うのかよ?」
「……そうよ。私、淫乱なの。いやらしいことが好きなの」
でも、と美佐子は潤んだ眼を男に向けた。
「あなたは……そんな私をゆるしてくれるんでしょう?
 私が、どんなに淫らでも、受け入れてくれるんでしょう?」 

「ああ。そうだな」
倣岸にうなずく男に、歓喜の声を上げて、抱きつく美佐子。
顔をぶつけるような勢いで、男の唇を求める。
美佐子の昂ぶりに、ようやく男も応えて、熱っぽく舌をからめながら、
美佐子のくびれ腰を抱き寄せる。
美佐子がうれしげに鼻を鳴らして。片手をおろして、男の股間へと差し伸べる。
高くズボンを盛り上げたものを、ギュッと握りしめた。
「……あぁっ」
口吻をほどいて、うっとりと男の顔を見つめた。
「もう、こんなになってるわ」
男の性急な漲りに特別な理由があること―男の意識の半ばは、寝室の薄く開いたドアへと
向けられていることなど、知るよしもなく。
美佐子は淫猥に手を動かして、男の欲望の象徴を確かめる。
「フフ。固くてデカいのが、すきだろ?」
「あぁ……すき……」
美佐子は男の腰へと屈みこんで。忙しない動作でベルトを外し、
ズボンと下着を剥き下ろした。
巨大な肉塊が、その禍々しい姿を現す。
「はぁ……」
何度目の当たりにしても。その凶悪なまでの威容は、美佐子の魂を痺れさせずにはおかない。
白い指が、野太い幹に巻きついて。吸い寄せられるように、顔が近づいていく。
「おい、まだシャワーも浴びてねえぞ」
即尺など、いつものことなのに。今日はことさらに釘を刺す男。 

「いいの……すきなの、男の匂い、蛙田さんの」
陶然と呟いて。その言葉のとおりに、男の叢に鼻先を埋めるようにして、
強い性臭を吸いこむ美佐子。
「ああ……牡の臭い……」
たっぷりと、その臭気を堪能して。ますます淫情に頬を火照らせて。
「ああ、すき、すき」
愛しくてたまらないといったふうに、チュッチュと巨大な肉のあちこちに
キスの雨を降らせて。
唾液をのせた舌を伸ばして、ペロペロと舐めずりまくる。
張り出したカリ首をこそげるような舌の動きも、ユルユルと扱く手の力加減も、
すべて男から仕込まれた技巧だ。懸命の奉仕に掌中の男肉がますます漲りを強め、
ビクビクと脈動するのが嬉しくて、美佐子はいっそう行為に熱をこめていった。
「本当に、美佐子はコレがすきだよなあ」
「すき、すきよ、あなたの…すきぃ」
うわごとのように繰り返しては、毛まみれのふぐりにまで舌を這わせる美佐子。
「とか言ってよ、ホントはチ○ポなら誰のでもいいんじゃないのか」
「あぁん、そんなことないです、美佐子がすきなのは、蛙田さんのだけ」
「ふん。竜之介の若いチ○ポにも、そうやってカブりついたんだろうが」
「アァ……それは言わないで、もう、彼のことは……」
「若僧のチ○ポはイキがよくて美味かったろ?」
「いやぁ、嬲らないで……あなたがいけないのよ」
甘い恨みをこめて、上目に男を見る美佐子。
「美佐子をこんなにしておいて、急に放り出すから……だから、私…」
「熟れマ○コの疼きに耐えられなくて、竜之介を誘惑したってか。
 罪な女だねえ。そりゃあ、竜之介も往生ぎわが悪くなるってもんだ。
 コッテリした年増の肉を味合わされたあとじゃなあ」
「……もう、言わないで……」 

泣くように美佐子が懇願しても、男はなおも竜之介に拘った。
「“今日のところは”帰るって言ってたぜ、竜之介のやつはよ。
 まだ、おまえを諦めちゃあいねえんだな」
「……どうして……」
憂鬱な色を浮かべる美佐子。
あれほどのザマを見せたのに、何故、竜之介は愛想を尽かしてくれないのかと。
「そりゃあ、それだけ深く美佐子のことを愛しちゃってるからだろうよ。
 それと、熟れたマ○コの味が忘れられないんだろうな」
「……私は、もう……戻れないのに……」
「すぐに、またやって来るだろうぜ。美佐子さんを返せ、ってな。
 こうなりゃ、俺たちがこうやって愛しあってる現場でも見せてやらにゃあ、
 ケリがつかんかもなあ」
「そんなっ、イヤよ、そんなことは」
本当にやりかねない男だから、美佐子は必死に拒絶する。
……まさか、いままさに実演中だとは思いもせずに。
「それだけは、ゆるして。私、そんなことは絶対にできません」
「そうか? おまえの色ボケぶりは、もうバラしちまってんだから、
 いまさらたいしたことでもないと思うがねえ。
 ……ハハァ、さては美佐子、おまえ、口では思い切ったって言いながら、
 まだ、あのガキに未練を残してるんじゃねえのか?」
「そんなっ、どうして、そうなるの? 美佐子には、もう蛙田さんだけなのに。
 身も心も、あなたに捧げるって誓ったのに」
どうして解ってくれないのかと、身をよじるようにして哀訴する美佐子。
剛直を握りしめた手にこもる力が、もどかしさを示していた。 

しかし、男は冷淡な眼で見下ろしている。
(……ああ……この眼が……)
美佐子の背にゾクゾクとした痺れが走る。
自分の淫らな本性を見透かす冷酷な視線。そこにこもる悪辣な意志。
肉体の逞しさとともに、美佐子を支配する男の魔力の源泉だった。
その眼に見据えられると、美佐子は自分の意志など喪失してしまう。
そんなものなど、いらないという気持ちになる。
屈服すること、隷属の身に堕ちることが、こんなにも甘美な愉悦ならば、と。
「……じゃあ、実際にやれとは言わねえけどよ。ひとつ、竜之介に見せてる気になって、
 おまえの覚悟を聞かせてみろや」
「……え…?」
男の眼に魅入られていた美佐子は、我にかえって聞き返した。
「おまえが、竜之介のことは忘れて、身も心も俺のものになったってことをさ。
 そこに竜之介がいるつもりで、見せつけてやれっての」
「……そんな…」
例のごとく悪趣味な男の趣向に、言葉を詰まらせながらも。
美佐子は、男の口元に浮かぶ笑みに、ホッと深い安堵を感じる。
本気で、自分の忠誠が疑われているわけではなかったのだと。
しかし同時に、この俗悪なプレイが自分への試しでもあるのだと理解して。
ならば、男の意に沿わなければならないと思い定める。
自分には、この男しかいない。しかし、男には自分の他にも女がいる。
そのうちのひとりは、美佐子もすでに見知っている。
同性の眼から見ても極上の女だった。
負けたくなかった。同じ……性奴として。
負けるわけにはいかなかった。男に飽かれ捨てられてしまったら、
本当に生きていけない、いまの自分だから。
嫉妬と対抗心、そして、男の寵を少しでも自分に引き寄せなければという
切迫した思いに促されて、美佐子はまたひとつ堕落の階梯を下りていく。 

美佐子は男の股間に埋めていた顔を上げて、なにもない空間を見やった。
「……竜之介…くん……」
慄く声を発したとき、キリキリと胸を刺す罪悪感。
そして……ジンと腰の奥に感じる痺れ。まぎれもない官能の疼き。背徳の愉楽。
「……竜之介くん……見て……」
そう言いながら、美佐子は空間に、かつて愛した若者の姿を思い描いた。
できるかぎり、明確に。そうすることで、この黒い愉悦がいやますことを
牝の本能で悟っていたから。
「竜之介くん……私を見て。いまの、美佐子の本当の姿を」
幻視の竜之介へと語りかける美佐子は、自分の頭上で、男があらぬ方向に目を向けて、
愉しげな笑いを堪えているのには気づかない。
「ごめんなさい、美佐子は、このひとのものになったの。
 もう、あなたのところへは帰れない……ううん、帰りたくないの」
裏切りに、美佐子は酔う。醜悪なひとり芝居に没入していく。
「私は、本当は淫らな女だったの。このひとに、それを気づかされたのよ。
 あなたには……ふさわしくない女なの」
「気取るな」
短く、男が横槍を入れる。
言われて、美佐子も自分の言葉の欺瞞に気づく。
「……そう……ちがうわ……」
美佐子は、男の巨大な肉塊に顔を近づけ、愛しげに頬を擦りよせた。 

「……美佐子は……これが、すきなの。大きな……ペニスが、すきなの。
 これがないと、もう生きていけないの」
瞳がとろめき、息が荒ぐ。
「ねえ、スゴイでしょ、蛙田さんの……オチン…チン……とっても大きくて、
 ゴツゴツして……それにスゴク硬くて、熱いの。
 この、すごいペニスで犯されると、本当に美佐子は狂ってしまうの。
 他には、なにもいらないって、思えてしまうの」
自分の言葉に、自家中毒をおこして。美佐子は恍惚の境にさまよう。
ほとんど自動的に口から言葉は溢れ出る。
「美佐子は、いつも、このチ○ポのことばかり考えているの。
 考えるだけで、体が熱くなって、オマ○コがグショグショになっちゃうの。
 ずっとずっと、このチ○ポに貫かれていたいの」
旅先での調教で、何度も無理じいに言わされた卑語が、
いまはなんの躊躇もなく口から出た。
「このスゴいオチ○ポで、オマ○コを突かれると、死にそうに気持ちがいいの。
 美佐子の中がいっぱいになって」
淫情に霞んだ双眸で、流し目に空想の竜之介を見やりながら、
「硬い先っぽで子宮を潰れるくらいに突き上げられて」
黒光りする亀頭に、キスを注ぐ。
「……この、エラで、ゴリゴリってオマ○コを擦られて」
高く張り出した肉傘のくびれに、舌をからめる。
「いっぱいいっぱい、してもらうと、本当に……おかしくなっちゃう」 

美佐子の片手は、すでに自分の股間に伸びている。
横から男の股間へと首を差し伸べて、ソファに膝這いになった姿勢で。
腰をくねらせ、高く掲げた臀をふりながら、媚肉に二本の指を挿送して、
グッチャグッチャと淫靡な音を奏でていた。
「あぁ、蛙田さんのセックスはすごいの。とても、逞しくて。
 美佐子の感じるところが、全部わかってるの。
 だから、蛙田さんにされると、美佐子、すぐにイッちゃうの。
 何回も何回も、天国に昇ってしまうの。
 でも、どれだけ美佐子がイッても、終わらないのよ。
 蛙田さんは、本当にすごいの」
口に舌に、自分を狂わす逞しい牡の肉を味わいながら、夢中で自涜に耽る美佐子。
爛熟の女体に刻みこまれた、この世ならぬ快楽の記憶に打ち震えながら。
「い、いつも……最後には、美佐子、気持ちよすぎて、気が狂いそうになって、
 もうゆるしてって、おねがいするの、でも、蛙田さんは、ゆるしてくれ、ない、
 美佐子、本当に、なにも、なにもわからなくなってっ、気絶、する、までっ」
軽い絶頂を迎えたのか、突き上げられた豊臀がビクビクと戦慄いた。
それでも、美佐子は止めない。女肉を抉りたてること、巨大な肉塊を扱きたて舌を這わせること、
あからさまな言葉で自らの淫蕩な性を暴きたてること。
それらの行為のすべてから、灼けつくような快楽を貪ることを。 

「アアァ、だから、だから、もう、私、このひとじゃないとダメなの。
 竜之介くんじゃ……ダメなの、もう、ダメなのよ」
その時、不意にこみあげた涙を、美佐子は不思議なものと思った。
「ごめんなさい……ごめん、ね……」
自分でも意味のわからない涙だったから。惜別か、慙愧か。それとも至福か。
「美佐子は、こんな女だったの……」
それらが渾然となって、感極まったということだろうか。
「こんなにも、淫乱で、恥知らずな、女なのよ」
ならば、それは随喜の涙だ。ヨガリ泣きの副産物だ。
「……牝なの……美佐子は、色キチガイの雌なの」
それこそが、肉の快楽に狂った雌獣には相応しい。
「でも、蛙田さんは、そんな美佐子を受け入れてくれる。
 このひとのそばでは、私はただの牝でいられる」
そうでしょう? と、すがるように男を見上げる美佐子。
「そうとも」
鷹揚に男がうなずく。
「俺の前では、おまえは、いやらしい牝でいればいい。
 立派な母親だの貞淑な女だの、余分な皮を被ってる必要はねえんだ。
 ただの蕩けた肉でいりゃあいいんだ」 

「あぁ……うれしい……」
深い感激に、また美佐子の眼が潤みを増す。
家族との訣別に流した涙は、真実のものであっても。
いま、その横顔に浮かぶ解放の悦びもまた、偽りないものと見えた。
すべての桎梏を剥ぎとられて、白い肉だけの存在と成り果てて。
その上で、美佐子は力強い牡への隷属を選んだということ。
「すき、すきよ」
せくり上がる情感に衝かれて、何度もその言葉を繰り返して。
言葉では、とうてい足りないと、恋い慕う牡の肉体へと唇を被せた。
狂おしく頭をふって、憑かれたようなフェラチオに没入する。
熱く溶け崩れた女肉を攪拌する指の動きも、どんどん狂的になっていく。
そして、それだけの戯れでは我慢できなくなる。いつものとおりに。
「……お、おねがい……」
ゼイゼイと息を荒げて、火照った面を上げて、美佐子が懇願する。
「して……犯して。また、美佐子を狂わせて」
「ふふ。竜之介にも、ちゃんと言わなきゃ」
「ああっ、竜之介くん、見ていて。私、これから、してもらうの。
 蛙田さんのスゴいチ○ポ、グショグショのオマ○コに、いれてもらうから」 

叫んで、もう一刻の猶予もならぬとばかりに、急いた動きで男の腰を跨ぐ美佐子。
しかし、向き合った座位のかたちで繋がろうとする美佐子の腰を男が押し止めて、
「逆だよ。竜之介のほうを向くんだ」
そう言われれば、もはや否やもなく。クルリと向きを変える美佐子。
ヒールをソファに踏ん張って、逞しく肉を実らせた太腿を左右に大きく開ききって。
片手に掴んだ剛直の上へと、臀を落としていく。
「……あふぁ……」
溶解した雌肉に、硬い肉鉄を感じると、とろけた声を上げて桃色の息を吐いて。
ズブリと、ぬかるんだ音をたてて、先端が埋まる。
「ふ…んっ……く……」
美佐子は眉根を寄せ、口を引き結んで。いきむような声を洩らしながら、
さらに腰を下げて、長大な逸物を呑みこんでいく。
真っ赤に充血してベットリと蜜に塗れた肉ビラを巻きこみながら、凶悪な肉塊が
美佐子の体内へと埋まっていって。
「……んあっ……おふぅ……」
ついに根元までが嵌まりこむと、肉奥を打たれる衝撃に、美佐子はギュッと眉間に皺を刻み、
生臭いおめきをついたが。
「…あ、はぁ……」
すぐに、うっとりと眉を開いて、甘美な愉悦の声が半開きの口から溢れ出た。
「ああ……入って、るぅ……奥まで、いっぱいに……」 

片手が下腹に伸びて、愛しげに撫でまわした。
「竜之介、くん、見える? 見て、美佐子の中に蛙田さんのものが、いっぱいに、
 入ってる、入ってるの、奥まで、ずっと深くまで……」
夢うつつに美佐子がのたまうとおり、結合は完全。そして隠すところなく、そのさまは晒されている。
M字に大きく開かれた両腿の付け根、濃い翳りに縁取られた女肉は、引き裂けそうなほどに
広がって、身に余るような巨大な肉を根元まで咥えこんでいる。
「あっ、ああ、いっぱいなの、美佐子の中が、蛙田さんで、いっぱいに、
 ふあぁ、美佐子の中、全部、オチ○ポになってる」
「ハッハ、そりゃあいいな」
美佐子の背後で男が嗤う。これまでにもないほどの錯乱と耽溺を示す美佐子に、
ついにここまでこの女を堕としめてやったのだという満足を味わう。
そして、もうひとつの目的であった復讐も、完璧な経緯を辿っているのだ。
美佐子の肩越しに、ドアの向こうの暗闇を見やった男の眼は、
この上ない愉悦に輝いていた。
男の首に美佐子の白い腕がまきつく。
「ああ、蛙田さん、キス、キスしてえ」
串刺しにされたまま、上体を必死にねじって男の口を求める美佐子。
粘い汗を光らせる脾腹を大きく喘がせながら、口吻を貪って、
「あぁ、すき、すきよ」
飽きもせず、求愛の言葉を繰り返す。
「捨てないでね、ずっと、美佐子を可愛がってね」
啜り泣くような哀切な声で、何度も訴える。 

「ふん。捨てられたくなかったら、せいぜい尽くすこった」
あくまで男の答えは冷酷だ。そんな冷たさこそを、美佐子が求めていると
了解しているから。
「おら。このデカい臀をふって、少しは楽しませろや」
デンと自分の腹に落とされた美佐子の豊臀を手荒く叩いて、行為を促す。
甘ったるい悲鳴を上げた美佐子は、後ろにねじっていた身体を戻し、
わずかに前屈みとなって、男の膝に両手をついた。
「フッ……あ……」
ゆっくりと臀をもたげる。深々と美佐子の体内に突き刺さっていた肉槍が、
白く粘っこい淫汁にまみれた剛茎の部分を現す。
「ヒアァッ、いいっ」
ミッチリと隙間なく肉孔を埋めた肉根が、その硬いエラで膣襞をこそげながら、
抜け出ていく感触が、火花の散るような快感を生んで美佐子を喚かせる。
「ああ、ゴリゴリって、中を、あひっ、ああ、たまんない」
雄根の長大さを味わうように、ジワジワと臀を引き上げて。
その魂まで痺れるような刺激に耐えかねたように、ズンと臀を落とせば、
「おおうっ!」
今度は燃え盛る子宮を吐き気がするほど突き上げられて、身体がバラバラになるほどの
甘美な衝撃が脳天まで突き抜ける。
あとは、身体が勝手に動いた。踏ん張った両の脛に筋肉を浮き立たせて、
腰が快楽だけを求めて跳ね踊る。
「ひあっ、い、うむ、いい、気持ちいい、すご、んああ」
瞳は恍惚に霞み、だらしなく開いた口からは喜悦の啼きとヨダレが吹きこぼれ、
血の色を刷いた白い総身の肌は脂汗にヌルヌルと輝いて。
「あ、いい、素敵、すてきよ、蛙田さん、スゴイ、ああ、いいっ」 

美佐子は狂う。際限なく狂乱を高めていく。
その豊満な裸身をダイナミックに男の上で躍らせて、快楽を貪り続ける。
臀の動きは、上下へのストロークに加えて、前後左右へとのたくり蠢いて、
快楽のスポットを硬い肉鉄へと擦りつけようとする。
揺れ弾むふたつの乳房を、自ら握りしめて、搾るように揉みしだき、固く屹立した
先端を指先が押し潰す。
「あ、もう、すご、イイッ、ち、チ○ポ、スゴイ、いいのっ」
途切れなく溢れ出る嬌声には、恥もなく脈略もない。
ただ、肉体が感じる愉悦を訴え吐き出そうとするだけ。
時折、男が腰を突き上げれば、たちまち絶息するような叫びを迸らせて、
オルガの波が総身に駆け抜ける。
「あ、また、イクッ、イクイクッ」
それでも、美佐子は余韻に浸ろうとさえしない。ガクガクと痙攣する肉の震えを
そのまま次の悦楽を求める動きに繋げて。
呆れるほどの貪婪さで、肉の愉悦だけを追い続ける。
潤み蕩けきった瞳に、理知の輝きは微塵も残っていない。
解けて乱れた髪が、汗に濡れた美しい面にベットリと貼りついている。
どこにも……かつての美佐子、良き母として、貞淑な寡婦として、
平穏な日常を過ごしていた鳴沢美佐子の面影はなかった。
ひとは、ここまで変わりえるものだろうか?
ありえないような変貌……ならば、これこそが美佐子という女の真実であったのか。
本人さえ気づかずにいた本性を、暴かれてしまったがゆえの、この姿であろうか。 

……そうなのかもしれない、と彼は思った。
痴悦のなかで、美佐子が叫んでいる。
「あなただけよ、あなただけなのっ」
その男だけが、美佐子が肉体の奥深くに抱えていた真実を見抜き、
その餓えを満たしたから。
だから、美佐子はその男の膝下に跪くことを選んだのだと。
……だって、美佐子が叫んでいる。
「しあわせ、しあわせよっ」
その顔が、本当に至福に輝いている。
それは、彼も認めざるを得ない。
納得、ではない。ただ絶対的な真実に押し潰されて。
それに異を唱えることさえ出来なくなっているということだった。
いずれにしろ。
自分が愛した美佐子は、もうどこにもいない。
それだけは解った。麻痺した思考にも、その変えようのない事実だけは
しかと刻みこまれた。闇の中で。
もう……いいな。
すべては見極めたから。彼は暗がりから、光りの中へと進み出る。 

明るい光りの中心では。
淫欲の饗宴が、ピークを迎えようとしていた。
「あっ、い、また、またクル、スゴイのが、ああ」
幾度もの絶頂を味わった美佐子は、最大級の波涛が迫るのを感じて、
男へと懇願する。
「ねえ、きて、一緒に、美佐子と、一緒に」
「ふふん」
男は、静かに開けられた寝室のドアを一瞥して、口元を歪めると、
断末魔の震えを刻みはじめた美佐子の臀に手を伸ばして、
「こっちは、放っといていいのかよ?」
先日、旅先で穴を開けたばかりの後花にズブリと指を挿しこんだ。
「ヒアア、そこは、い、いや、ダメ」
「んなこたあ、ねえだろ。もう、こっちもイケるようにしてやったろ?」
「あ、あ、あとで、そこは後で、いまは、このまま、いっ、おねがい」
「まずはマ○コでイカせてくれっってか」
「そう、オマ○コで、あ、いく、いっちゃう、から、きてえっ」
「勝手にイきゃあ、いいさ」
「いやぁっ、出して、中で、熱いの、かけてほしいの」
背後の男へと顔を向け、それでなくても、いまわのきわの切迫感に満たされた美佐子は、
ゆっくりと近づいてくる気配に感づく余裕などなかった。
「ああん、もう、いっちゃうから、おねがい、おねがいよ」
ひたすらに男の熱い奔騰を乞い求めて、泣き喚く。
「もうダメ、もうダメ、いっちゃ、早く、早くぅ」 

「よし。じゃあ、竜之介にちゃんと断るんだ。美佐子のイクところ、見てくださいってな」
「ああっ、言います、言うから、だから」
「ほら、ちゃんと前を見て。竜之介を見て、言うんだよ」
男に肩を押されて、美佐子は狂乱の中で忘れ去っていた想像上の竜之介へと
快楽に眩んだ目を向け……
「…………っ!?」
竜之介が立っていた。虚ろな眼を美佐子へと向けて。
美佐子は眼を見開いて。信じられないものを見るように、虚像ではない竜之介を凝視した。
目前のエクスタシーを掴みとろうとする腰の蠢きが緩んだ。
……だが、それは一瞬のことだった。
フッと、美佐子の面から硬直がとける。
替わって浮かんだものは、かすかな諦念と、こよなき歓悦。
「竜之介くん、見て」
陶然と、美佐子が囁く。淫奔なのたうちが苛烈になる。
「見て、私、これから、イクの、蛙田さんの、熱いのを、子宮にかけてもらって、
 イクの、見て、見ていてね」
竜之介は見ている。感情を喪失した眼を、目の前で狂態を演じる牝へと突き刺している。
「あああっ、いく、いっちゃ、きて、きてえっ、いっくうっ!」
「おらっ!」
低く吼えた男が、腰を大きく突き上げて、美佐子の最奥で欲望を爆発させる。
「あああああーーーっ!!」
限界まで背を弓なりにそらした美佐子の喉から、絶叫がつんざいて、
総身の肉という肉が、凄まじいまでの激烈な痙攣を刻む。
脈動する牡肉を食い締める女陰が何度も収縮して、ビュッビュと女精をしぶく。
凄絶なる歓悦のダンス。
絶頂の果て、悦楽の深底へと美佐子が逃げこむのを、竜之介はただ見つめていた。 

やがて、淫猥な舞踏を演じた白い肉体から、力が消える。
男の胸へと崩折れる美佐子。
抱きとめた男は、この男にしては優しい手つきで、美佐子の身体を横へとどかせる。
結合が外れて、ソファに仰向けにされた美佐子の女陰から、ドロリと男の欲望が零れた。
脱げた片足のヒールが床へと転がった。
男は、傍らのテーブルからグラスを取って、渇いた喉を潤す。
そして、佇む竜之介へと顔を向けた。
「見届けたかよ?」
「………………」
竜之介はかすかに頷いた。頷いたように見えた。
その視線は、放埓な姿で横たわる美佐子の白い裸身へとあてられていた。
男は満足げに笑うと、立ち上がって残った着衣を脱ぎ捨てた。
「おい」
美佐子に屈みこんで、背の下に腕を差し入れ抱き起こす。
「…………」
うっすらと眼を開けた美佐子は、男の体に両腕をまわして、胸に顔を擦りよせた。
男に抱かれて、フラフラと立ち上がる。片足に残ったヒールを雑な動作で脱ぎ捨てた。
歩き出そうとした男だったが、美佐子の腰が抜けているのに気づくと、
チッと軽く舌打ちして、両腕に美佐子を抱き上げた。
美佐子は男の首に両腕を巻きつけて、ギュッとしがみつき、男の肩に顔を埋めた。
男が寝室へと向かって歩き出す。竜之介が出てきた部屋へと。
やがて、ふたりが部屋の中に消えて、ドアが閉ざされる。
最後まで、美佐子は竜之介を見ようとはしなかった。
「…………………………」
すべてを見届けて。
竜之介もまた、歩き出した。この部屋を出るために。 

……俺は、泣いたのかな?
エレベーターを降りて、ロビーを歩きながら、ボンヤリと竜之介は考えた。
よく覚えていない。
いまは、涙は流れていなかった。
さほど遅い時間でもないのに、ホテルの前には人気がなかった。
冷たい夜気が、火照った頬を刺した。
わけもなく足を止めて、ボーッと立ち竦む竜之介。
その視界のすみで、赤い影が動いた。
植えこみの前から、立ち上がって、こちらを見ている。
「……唯」
意外そうに呟いて、ゆっくりと歩み寄る竜之介。
両手を外套のポケットにつっこんで佇む唯は、
「………………」
少しの間、無言で竜之介の顔を見つめていたが。
「……帰ろう」
やがて、そう呟いた。
「うん」
並んで、ふたりは歩き出した。
「……おなか、すいたね」
「眠いよ」
ポツ、ポツと言葉を交わしながら。
ふたりは家路を辿った。 


……八十八町の閑静な住宅街に、一軒の喫茶店がある。
『憩』という、いささか野暮ったい名前の小さな店だ。
美しい中年の女主人がひとりで切り盛りしていた……のは以前のことで。
しばらくの休業のあとに、営業を再開したいまでは、
ふたりの若い男女が店に出ている。
店は以前より繁盛をみせていた。近辺に相次いで高層マンションが出来たことが
客足に好影響を及ぼしたようである。
新規の客たちの中には、店を運営するふたりを、あれこれと詮索するものも多かった。
仲の良い兄弟のようでもあり、幼い夫婦のようでもある。
特に、いつも接客にあたる若い女性目当てに、店に通いつめる男性客にとっては、
それは切実な問題であったのだが。
聞いても、はぐらかされるだけで、明確な回答が得られたことはなかった。
また、他の興味を抱くものもいた。
店では、このふたり以外の関係者らしき人物を見かけることがないのだが。
まさか、この若すぎるふたりが、経営者ではないだろうにと。
まあ、こちらはさほど気にするべきことでもんなく、実態を知りようもないことでもあった。
その点では、以前からの常連客にしても同様だった。
多くが近所の住人でもある彼等も、どのようないきさつで、このふたりが
店を運営することになったのかは知らなかった。 

プッツリと姿を見せなくなった女店主については。
古なじみの客たちは、当然その消息を知りたがった。
単に店の経営から手を引いただけでなく、家にもいなようだとなれば、
どこでなにをしているのか、と話題にされるのも無理はなかったが。
店を引き継いだふたりとも、母であり母代わりであったその女性の消息については、
一言も口にしようとはしなかった。明らかに、その話題に触れることを厭うようすが
見えたので、いつしか彼女についての話は店では禁忌と認識されていった。
……それでも。それだからこそだろうか。確証もない噂が飛び交った。
一番多かったのが、『彼女は男を作って、家族を捨てて出奔した』というものだったが。
いかにもな、この手の噂を、消えた彼女をよく知る人ほど信じようとはしなかった。

……再開後の『憩』は営業時間を午後九時までと延ばしていた。
その閉店時間を三十分ほど過ぎた頃。
店の清掃を終えた唯は、カウンターの中の竜之介へと声をかけて、住居へと戻った。
遅い夕食を準備する。手馴れた作業。短時間で支度を整える。
……ふたり分の料理を作ることにも、もう慣れた。
食事をして、風呂に入って、眠る。定まったパターン。
でも……今夜は違う。
唯はテーブルの端に置かれた郵便小包を見た。今日、届けられたものだ。
ビデオが届いた日の夜は、少しだけ違った夜になる……。 

……リビングは灯りが落とされて。
テレビのモニターの輝きだけが光源となっている。
ソファに座った竜之介が食い入るような眼を向けている画面では、
今日届けられたビデオが再生されている。
月に二度ほどのサイクルで送られてくるビデオ。
収められているのは。

『うあああっ、効く、この、浣腸、効っく、あ、あうう』

(……おかあさん、どんどんマニアックになってるなあ)
胸中に呟いた唯は、画面には背を向けている。
竜之介の脚の間に座りこんで、剥き出しになった屹立へと口舌の愛撫を与えていた。
ビデオの届いた夜の習慣となった行為。
楽しいとは思わないが、イヤでもなかった。
もともと唯から進んではじめたことだった。 

最初に、そのビデオが送られてきたのがいつなのか、唯は正確には知らない。
小包はいつも竜之介宛になっていた。
唯が、そのビデオ・テープの存在を―同時にその内容を―知った時には、
すでに竜之介の手元には数本のテープがあった。
深夜、ビデオを観ながら自慰にふける竜之介の姿を唯は目撃する。
怒りや嘆きより強く、その時の唯にわいた感情は、“やっぱり”という納得だった。
表面的には以前の快活さを取り戻したように見える竜之介が、しかしその内には
埋めがたい空漠を抱えていることを、そばにいて感じていたから。
唯は、竜之介がひとり寂しい行為を演じる現場に踏みこんだ。
そして、うろたえる竜之介には有無を言わせず、おっ立てたものを掴んで口に咥えたのだった。
奇異な行動だとは思わなかった。とにかく、ひとりで画面に向かって
自涜に耽る竜之介の姿の、惨めさだけは看過できなかったのだ。
「……いいよ。ビデオを見てて」
驚倒して、すぐには反応もできない竜之介にはそう言って、
唯は生まれてはじめてのフェラチオに挑んでいった。
背後から響く、母の痴れ狂った声を耳に聞きながら。
……以来、ふたりでの行為が習慣となった。
竜之介はいつも始める時には、ひどく複雑な表情で唯を見たが。
特に抗おうとはせず、唯のするがままに任せている。 

拙いかぎりだった技巧も、回数を重ねれば、それなりの練達を見せている。
ふたりで過ごす夜、暗いリビングには奇妙な安寧の空気さえ漂うようになっている。
だが、余裕が生まれれば、唯の中に冷静に状況を顧る心理も生じて。
おかしなことをしているな、といまさらな感慨を抱く。

『いいの、きて、このまま、お尻、犯してぇっ』

聞いてるほうが恥ずかしくなるような言葉を、画面の中の母が喚き散らしている。
竜之介の眼は、それへと釘づけになっている。
その昂ぶりは、唯の口の中のものにハッキリとあらわれている。
不毛だな、と、唯は思う。
竜之介とは、いまだ体を重ねたことはない。どころか、キスさえしていない。
この行為が―美佐子の痴態を収めたビデオを観ることで昂ぶった竜之介の欲望を、
手と口であやし、遂情へと導くことだけが唯一の性的な接触である。
不毛だな、と唯は思って、しかし、この習慣を止める気にもなれない。
この夜を心待ちにしている部分さえある。
どこか、よそよそしい礼儀正しさを身につけてしまった竜之介が、
唯一無防備な姿を見せてくれる時間でもあるから。 

『ウウ……ムゥ、ぁああ、い、イイ、お尻、お尻がぁっ』

ただ、その場に、映像というかたちではあっても、母が介在することには、
無論心楽しくは思っていない。
どうやら、竜之介は母のビデオを観ることでしか、勃起できない状態にあるらしい。
心因性のものに違いなく、原因に関しては自業自得だろうとも思うが。
他には若い欲求を吐き出す機会も持てず、毎回溜めこんだ欲望を驚くほど大量に
噴き上げる姿を見ると、可哀想だとも思ってしまう。
去ってのちも、竜之介を呪縛し続ける母を恨めしく思って。
しかし、竜之介を癒すために、唯からすれば嫌悪しか感じない映像を
供用するしかないという事実には、忸怩たるものがあった。
あるいは。
画面の中で獣のような狂態を繰り広げる母、それを観てペニスを屹立させる竜之介、
その竜之介のペニスをあやす自分。
この奇怪なかたちこそが、現在の自分たちの“家族”としてのありかたであるのかと。
どれほど歪んでしまっても、完全には断ち切れない関わりこそが、“家族”としての
絆であるのだろうかと。
そんな想念も胸にわいて。馬鹿げているとは思いながら。
忌々しいことには、奇妙に腑に落ちてしまう部分もあるのだった。 

母のことは、まだ赦せていない。
たまに電話がかかってくる。
電話の向こうの母は、いつもおずおずとした態度で。こちらの暮らしぶりのことを
いろいろと気遣ってくる。
唯は最低限の言葉で、それに答える。
弾まぬ会話の最後には、決まって母は“逢いたい”と申し出る。弱々しい声で。
それは、唯はキッパリと跳ねつけて電話を切る。
だから、あの訣別以来、一度も実際に顔を合わせてはいない。
その、週に一度くらいの電話でのやりとりと。
あとは、ビデオの中での姿で、唯は母の現状を知ることになっている。
とりあえずは、元気でやっているのだな、と確認して。
それには素直に安心を感じてもいる。

『あああっ、スゴい、灼ける、お尻、美佐子のお尻が、ヒイィッ』

……まあ、ほどほどにね、と思わないではないけれども。 

母を赦せては、いない。
しかし、訣別の時に叩きつけたような激しい怒りを抱いてもいなかった。
唯なりに、さまざまに考えるところはあったから。
あの時……自分は、母の竜之介への裏切りを詰った。
では、母が竜之介を裏切らなかったとしたら?
ある日突然、自分に突きつけられる事実が、母と竜之介が想いを結びあったと
いうことであったなら?
自分は、それを素直に赦せたのだろうか。
そんなはずはないのだ。その時にも、裏切られたと感じて、母を呪ったはずだ。
私の想いを知っていたはずなのに、どうして? と。
だが、それは当たり前の主張になるのだろうか?
実際に、母と竜之介の仲を疑ったこともあった。
だが、その度に“そんなことはありえない”と自分の不安を笑っていた。
何故、簡単に“ありえない”ことと片づけられたのか。
それは、母を“女”として認めていなかったからだ。
母は母でしかない、自分を脅かす“女”としての部分などないものと、
決めつけていたからだ。
さらに深層を探れば。たとえ、母が竜之介になにがしかの思い入れを持ったとしても。
母親として、娘である自分に譲ることが当然ではないか、と。
そんなズルい感情さえ、なかったとは言いきれない。
ならば、自分もまた罪を犯していたのだ。母に対して。 

しかし、現実の推移は、唯のそんな自省さえ、後づけのものにしてしまった。
唯が、自分の間違いを認めるより先に、母は“女”としての生身の姿を晒して。
竜之介を捨てて、別の男のもとへ走った。
それもまた、“女”としての業によるものだとしても。
母が、竜之介に対してした仕打ち、それだけは赦せない。赦せる日が来るとも思えなかった。
(……でも…)
思い出すことがある。
(……おかあさん……泣いてた…)
母が、自室で昏倒しているのを見つけた日。
濡れた髪を乾かす唯の手を握って、涙を零した美佐子。
あれは、どんな思いが流させた涙であったのか。
美佐子が竜之介と想いを交わしながら他の男へと心を移した、その経緯の詳細を
唯は知らない。この先も、多分知ることはないだろう。
また、全てを知ったとしても、母の行いを赦す気にはなれないだろうと思う。
ただ、そこに至るまでに、母なりの苦悩があったことは察することが出来た。
現実に、深い懊悩を抱えるようすを見せる母を、心配した日々があった。
しかし、その心配も、どこか気軽なものがあった気がする。
たとえ、悩みがあるとしても、母ならば大丈夫だろうと、どこかで高をくくって
いたように思える。
ならば、母が懊悩の末に辿りついた結論を、一方的に責めることも出来ないのだろう。
それが……。

『いいいく、いくっ、また、いっちゃ、あああっ、イクッ』

……肉欲に盲いて、快楽に逃げこむという選択だったとしても。 

画面の中の狂宴が佳境にさしかかり、唯の口中の竜之介の肉体も一段と漲りを増す。
唯も、それに合わせて口舌の動きを激しくしていく。
(……まだヴァージンのくせに、こんなことだけ上手になっちゃって)
なんだかなあ、と自嘲する。
下着に濡れを感じる。
疼く、という言葉の意味を、最近の唯は理解してきた。
前回の行為の時には、竜之介に迫ってもみた。
ビデオを、母の姿を見ながらでいいから、抱いてくれと求めてみた。
竜之介は驚いて、そして激しく拒絶した。
そんなことはダメだ、そんなことは出来ない、と。
……“こんなこと”はさせてるくせに、勝手な言いぐさだな、と思いつつ。
それでも、唯は嬉しかった。
その時の竜之介は、間違いなく唯を見ていたから。
だから、いまは竜之介の欲望を吸い出すことに没入する。 

……と。
髪に、柔らかな感触。
「……キモチいいよ、唯」
低い悦楽のうめき。
ドキンと、唯の鼓動は跳ねた。
髪を撫でられることも、名を呼ばれることも、これまでにはなかったから。
上目づかいに竜之介を見上げる。
しかし、竜之介の視線は相変わらず、画面へと向けられていた。
(……勝手だなあ)
呆れつつ、しかし落胆は感じなかった。
竜之介の手は、唯の頭にそえられたまま、優しい撫でつけを続けている。
変化は兆している。
すべてが変わり果ててしまっても。それが終着ではないのだ。
すべては、人も、その関わりも、変わり続けるのだ、と。
そんな、いささか大雑把な悟りに力を得て、唯は竜之介にとどめをさしにかかった。
……やがて、画面の中の美佐子が怪鳥のような叫びを迸らせて。
同時に竜之介も盛大な吐精を遂げた。
大量の熱い奔流を、唯はすべて呑みこんで。
満足げな顔を上げて、背後へとふりかえった。
視線の先、四角い画面の中では。
大きな白い臀を向けてしゃがみこんだ美佐子が、パックリと開いた肛門から、
精液まじりの軟便をひりだしていた。
こよない法悦にひたる、至福の笑みを、唯へと向けて。

     ………………(終) 






 

 

 

 

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