鳴沢美佐子8


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「なるほどねえ」
男が、感心と呆れをない交ぜにした口調で言った。
「しかし、よくもまあ、咄嗟にそんな嘘八百を並べられたもんだな。これだから、女はコワイ」
「…………」
嘲けりが耳元に吹きかけられる。
美佐子は唇を噛んで、それに耐えた。
前夜、唯たちについた嘘。しかし、まったくあの場での思いつきだったわけでもない。
いずれ、自分から持ち出して予防線を張っておかなくては、と漠然と考えていた口実だった。
大事な家族に、最愛の者たちに対して、そんな偽りを用意していたこと、
そして、実際にそれが役に立ってしまったことが、悲しくて情けない。
自分は、いったいなにをしているのだろう?
「美佐子がそうまでして作った貴重な時間だ。俺もせいぜい張り切らないとな」
「そんなことじゃ、ない、わ」
美佐子が背後に振り向く。男の顔はすぐそこにあった。
美佐子の息が弾むのは、服の前をはだけて、裸の胸を男の玩弄にゆだねているからだ。
男の車の中。後部座席で。深く座った男の両脚に尻を挟まれるようにして。
着衣の乱れは、いまのところ上だけ。いまさら、背後の男に対して恥じるほどの姿でもないが。
それでも、美佐子が羞恥と焦慮に炙られてしまうのは、状況のせいだった。
車は前日と同様に、八十八学園の校門前に停められていた。 

昨日よりも時間は遅い。午後三時を三十分ほど回ったところだ。
下校時間ということである。すでに、校門から出てくる生徒の流れが出来ている。
美佐子は、努めて窓の外を見ないようにしながら、男に訴えた。
「そんなことじゃない。こんな、毎日のように呼び出すのは、やめてと言ってるの」
美佐子の胸には、昨日の突如飛び込んできた唯に激しく詰問された時の、血の気の引くような
思いがまざまざと蘇っていた。
「ふむ。一応は誤魔化したが、これ以上疑われたくないってか」
「そ、そうよ」
「フフ、ガキどもに気づかれないように、上手いことやっていこうと」
「そういう意味じゃ…アッ」
男の勝手な言いぐさに激しかけた声は、乳房に這う指が軽く力を強めただけで、
鼻にかかった息に変わってしまう。
そのザマを嗤って、
「俺はそうしてもいいんだぜ」
「……え?」
「だから。逢うのを控えてもいいっての」
男は意外な言葉で美佐子を驚かせたが。そのまま口を美佐子の耳に寄せて、
「けどよ。おまえは、それでいいのかよ? 俺との逢瀬が減って、我慢できるのか?」
「……な、なにを…」
耳にかかる息にビクビクと肩を震わせながら、美佐子は否定しようとする。
「私は、脅迫され、て……」
「脅迫? ああ、写真のことかよ」
しらじらしい言葉に、美佐子は上気した面を男に向けて、恨みのこもった眼で睨んだ。
「あなたは、私を騙したわ。一度きりだと言ったのに」 

「まあ、そういうことになるかね」
ニヤニヤと。
「けどよ、最初の時のおまえは、二度目はない、約束を破ったら今度は警察沙汰にするって、
 えらい迫力で言い切ってたよなあ? 俺も、こいつは本気だと思ったから、ちゃんと
 録音テープを返したんだが」
「同じことじゃないの! あんな写真を」
「だからさ。同じことなら、なんで言ってた通り、警察に訴えなかったんだ?」
「……それ、は……」
「正直なとこ、あんまりアッサリとおまえが折れたんで、拍子ぬけしたくらいだぜ。
 確かにキツい写真だが、少なくとも竜之介のガキにゃあ害は及ばないネタだ。
 おまえの性格からして、録音テープほどの強制力はないと思ってたんでな」
「…………」
美佐子は言葉を失う。男の言い分が正鵠を射ていたからだ。
なぜ自分は、二度目の脅迫を受けた時に、当初の決意通りに警察に届け出なかったのか。
確かに、美佐子が撮られた写真は酷い内容で、数枚を見せられただけで目を背けずにはいられなかったが。
それでも、そのままなし崩しに男の意に応じてしまうことの愚かしさは、解っていたはずなのに。
そんな羽目に陥るくらいならば、と一時の恥に耐えるだけの覚悟を、自分は抱いていたはずなのに。
実際には。男が言うように、あまりにも簡単に二度目の蹂躙を受け入れてしまった。
その後は、恐れていた通りに、ズルズルと男の言いなりになって。連日のように呼び出されては
身体を与えているのだ。あれほど情熱を注いでいた店の経営も投げ出して。
改めて顧れば、茫然としてしまう。どうしてこんなにも狂った状況の中に落ちこんでしまったのか。 

男は間近の距離から、冷酷な目で美佐子の懊悩する横顔を眺めている。
なにをいまさら、と美佐子の煩悶を嗤う。
最初の日、あのホテルの一室での攻防で雌雄は決してしまっているのだと。
美佐子を屈服させ、男に従うことを選ばせているのは、痴態を収めた写真ではなく、
あの日、男によって植えつけられた記憶なのだと。
男には解っていた。すべて予定通りのことであったから。
すべてが思惑通りで、男には焦る必要などまったくない。だから、今は美佐子の詮無き葛藤を楽しむ。
「まあ、そう悩むなって。いいじゃねえか、美佐子はヤバい写真を俺に握られて、
 仕方なく言いなりになってる。そういうことにしておけば」
「しておけば、って、そんな…」
「おっと、こりゃあ口がスベったね。それは言わない約束、ってやつだわな」
「私はっ」
「だから、解ってるって。おまえは脅迫されて、イヤイヤ俺に従ってる。
 もちろん、こんなことは本当はイヤでたまらない。俺に触られるだけで虫唾が走る」
捲くし立てながら、豊かな乳肉に食いこんだ指が、固く尖っている乳首を摘みあげる。
「アッ、や、」
「こんなに乳首をビンビンにしてるのも、嫌悪からだ。決して感じてるからじゃない。
 俺なんかの手で感じるわけがない」
「や、やめ、アァッ」
玄妙な動きで、ひとしきり美佐子を囀らせてから、男は乳房から手を離して、
美佐子の背を前へと押しやった。
運転席のヘッド・レストを抱くようにして、男の顔前に尻を突き出す姿勢をとらされる美佐子。
すぐにスカートがめくり上げられ、剥き出された尻肌がうそ寒さを感じる。 

「今日はブルーか。これもよく似合ってるぜ」
ムチッと張りつめた尻の半ばを覆ったネイビー・ブルーのショーツの、深い切れ目に食い込んだ
部分を、指先で引っ張りながら、男が言う。
「なんだかんだ言いながら、こうやって洒落こんできてくれるんだから、嬉しいねえ」
「…………」
ボソボソと、聞き取れない声で美佐子が呟く。男の言葉を否定しているようだが。
しかし、男から呼び出される際に美佐子が着けている下着は、常にそれなりに見映えのいいものだった。
(たとえ、憎い男でも、くたびれたパンツは見せたくないってか。女ゴコロってやつかね)
しかし、それは“媚び”に違いないのだ。いまだ美佐子は理解していないかもしれないが。
だが、男はここでもあえてそれを追及しようとはしなかった。
「解ってるって。別に俺のための履いてきてるわけじゃないってんだろ?
 ま、普段着にしちゃあずいぶん上等で、ちいと扇情的な気はするが。
 年はとっても、そういうのに気を遣うってのはイイんじゃないの」
下卑た揶揄で美佐子を黙らせて。男は、生白く輝く尻に手を這わせた。
ビクッと、豊満な尻が緊張して、艶美な曲線が固くしこった。
男はそれをほぐすように、熟尻の表面を撫でまわし、軽く揉みたてた。
「……フ……ウゥ……」
シートの向こうに顔を落とすようにした美佐子が、鼻にかかった息を洩らす。
腰がしなって、ゆるやかな愛撫を受ける豊臀が揺れる。忌避ではなく、甘受の気色を見せて。
いつもながらの、過敏ともいえる美佐子の反応を、男は嘲笑った。 

男の冷笑を背中に感じて。
笑われても仕方がないようなザマを見せていることを自覚して、美佐子は己が情けなさに歯噛みする。
それでも、腰の蠢きを止めることができない。
臀肉の表面を羽毛で刷くような、男の指の感触がたまらない。
獣のような荒々しさで美佐子を貪るかと思えば、このような繊細な技巧をも男は兼ね備えていて。
その悪どいまでの巧緻と執拗さに、美佐子の肉体は一度も抗えたことがない。
(……あぁ……どうして……)
どうして、自分の官能はこんなにも脆いのだろうか?
美佐子を悩乱させる男の指が、ショーツにかかって。ツルリと剥き下ろした。
「あ、いや」
完全に裸にされた臀を落として、男の視線から逃がそうとする。
露わにされた部分が、どんな状態になっているか自覚できたから。
しかし、そのまま隠しきれるものではないとも解っているのだから、そんな行為も無意識の
媚態に過ぎないのかもしれない。
果たして、男の手が双臀を掴みしめて、わずかに力を入れれば、美佐子の下半身はおとなしく
それに応じて、再び白い生尻を男の眼前へと差し上げた。
内腿を軽くはたくことで無言の指示を送られれば、それにも素直に従って、おずおずと両脚を広げていく。
抵抗は無意味で時間を無駄にするだけだという諦めのせいではなく。
ほとんど無条件に、美佐子の身体は男の意のままに動いていく。 

「み、見ないで……」
弱い声で、そう訴えたのは、突き刺さる男の視線を秘裂に感じたからだが。
そう言いながらも、裸の尻を掲げた姿勢を崩しはしなかった。
「確かに、あんまり人目にゃあ晒せない有様だなあ。ベトベトだ」
呆れた口調が美佐子の胸を刺して、ブルッと厚い肉置をわななかせた。
そして、身も世もないような羞恥に炙られれば、さらにトロリと秘肉の奥から溢れるものが。
「けど、こいつは汗だよなあ? まさか、ちょいと乳とケツを撫でられたくらいで、
 妙な汁をタレ流すはずが……」
ネチっこく言葉で嬲りながら、男の指が肉厚な花弁に触れる。
ヒッと喉を鳴らして過剰な反応を示す美佐子。
男は充血した肉ビラをヌメ光らせる汁を指になすりとって、
「汗にしちゃあ、ちいと粘り気が強いようだが。……うーん、それに臭いもキツイなあ。
 こいつは、もうちょい検分の余地ありだな」
再び美佐子の秘肉へと伸ばされた手が、本格的な動きを開始する。
「フアァッ、アッ、アァッ」
親指が肉芽を剥き上げ、二指が濡れそぼる女肉を穿った。
たちまち美佐子は、陶然とした声を洩らし、フルフルと雄大な尻を揺すって、男の指戯を受け入れる。
どうして……この男の与える刺激はこんなにも鮮烈なのだろうか? 
男の指や舌には魔力じみた力があって、いつも美佐子の理性は容易く溶かされてしまう。
「ヒッ、あ、やっ、アアァ」
構えも備えも喪失して、男への嫌悪や憎しみさえも、この時には忘れ去って。
ただ美佐子は、舌ったらずな嬌声を上げて豊臀を躍らせる。
玩弄される女肉は、咥えこんだ男の指を離すまいとばかりに絞めつけ、次から次へと溢れ出る
女蜜が、指の挿送につれて、ジュブジュブと隠微な音を奏でる。 

「うーむ、美佐子の股座は汗っかきだなあ。どんどん粘り気や臭いも強くなってくるようだし」
これほどの崩壊の証しを美佐子から引き出しながら、なおも男は白々しい言葉で責める。
「な、嬲らないで……」
美佐子が血の色を昇らせた首をねじって、潤んだ眼を男に向けた。
いっそのこと、と口をつきかけた言葉を危うくのみこんで、
「ど、どこか……またホテルの部屋で……」
「ホテルで? どうしてほしいってんだ」
「こ、これ以上は、こんな場所では」
「さあて……」
日毎に、屈服までの時間を早めていく美佐子をせせら笑いながら、男は窓の外へ目を向けた。
帰宅する生徒の流れは、ポツポツとだが続いている。しかし、誰もこちらに目を向ける程度で、
広い車道を挟んだ向こう側の歩道を通り過ぎていく。
(いまいち、刺激にかけるな)
前日より生徒が多い時間帯なら、もっと面白くなるだろうという目論見は、ハズレてしまっている。
昨日は、結局この場で美佐子を犯すまでには至らなかった。
初の擬似露出プレイに激しい羞恥を示して、そのくせ昂ぶりを隠せない美佐子をいたぶることで
一応満足して、そのままホテルへと流れこんだのだった。
ホテルの部屋で、待ちわびたように男を受け入れた美佐子の狂いようは、これまでで一番だった。
その記憶にそそられて、今日もそういう展開に落ち着くか、と心を動かして。
(昨日の悪ガキどもでも、また現れてくれりゃあ面白くなると……うん?)
もう一度、未練がましく校門の方を見やった男の視線が、一点に止まった。 

(……クク、こりゃあまた。天の配剤ってやつか)
降ってわいた、願ってもない状況を活かそうと、男は手早くベルトを外して、
ズボンと下着を下ろした。
「い、いや、ダメよ」
男の不穏な動きに気づいた美佐子が、激しい狼狽を見せる。
「やめて! それだけは、こ、こんなところで」
必死な色で拒絶を訴えて、尻を引き寄せる男の手に抗おうとする。
振り向いた視界の中で、不気味に揺れる巨大な肉塊。
それは、自分の肉体を支配する男の魔力を象徴する存在だ。
その圧倒的な威力は、骨の髄まで叩きこまれている。
その灼鉄のような肉を突き入れられた瞬間に、すべての正気も理性も吹き飛ばされて、
狂ってしまう自分だと、いやというほど思い知らされている。
だから、美佐子は本気で恐れた。
こんな場所で―唯と竜之介が学ぶ学校の前で。こんな状況で―白昼の、すぐ傍を学生たちが通る車の中で。
それでも、逞しい肉に最奥まで抉られれば、噴き上がる声を堪える自信がなかったから。
しかし、剥き出しの臀肉に食い込んだ男の非情な手は、有無を言わさず美佐子の腰を下へと落とさせていく。
凶悪な姿を晒した屹立の上へと。
「いや、やめて、お願い」
美佐子の口は懸命に慈悲を乞うが。痺れたような身体は、悲しいほど弱い抵抗しか示さずに。
「ヒィッ!」
熱い矛先が蕩けた女肉に触れた瞬間には、感電したように総身を硬直させた。
ズブ、と巨大な肉傘がしとどな濡れに助けられて、狭隘な肉路に侵入をはたす。
そして、ズブズブと発熱したぬかるみの中を突き進む。
「クッ、アア……アハァ」
軋む肉の痛みすら、すでに馴染みの感覚で。苦痛さえが甘美で。
食いしばった美佐子の息は、すぐに鼻から抜けて。眉根がうっとりとほどけて。
「アッ、アア、いいっ!」
たった今までの拒絶を忘れ、ハッキリと快美をうたって。
ゆっくりと貫いてくる男に焦れたかのように、自ら臀を押し下げて、
「フン、ア、ウアアア」
深まる挿入に、啜り泣くような声を洩らして。長大な肉塊を根元まで呑みこんで、
子宮を突き上げられれば、ううむ、と生臭いうめきをたてた。 

「んア、深いぃ……」
シートに縋りついて、火照った顔を仰のかせる美佐子。
閉じられた目蓋に恍惚の色、結合の深さを確認する声には充足の気ぶり。
ズン、と男がひとつ突き上げた。
「アハァァッ」
重たい臀を弾ませた美佐子は、たちまちあられもない嬌声を迸らせて。
そして、ヘッド・レストに回した両腕で窮屈な姿勢を支えて、ゆっくりと臀を上下し始めた。
「ア……い、いいっ!」
「……ったく。これで、貞淑な未亡人のフリをしてたってんだから、笑わせるぜ」
いつものごとく、肉棒をブチこまれた途端に快楽を貪ることしか考えられなくなる美佐子を
冷然と見下して。男は再び車外へと目を向けた。
先ほど見止めたふたつの人影が、車道の向こうに立って、こちらを注視しているのを確認する。
ますます思い通りな展開に会心の笑みを浮かべて、男は美佐子の髪を掴んだ。
淫情にボケた美佐子の顔が、男の方へとネジ向けられる。
「はばかりもなくヨガリやがって。少しは場所がらを考えろや」
「そ、そん……だって、アッ、アアッ」
瞬時、美佐子の顔に羞恥と逡巡がよぎるが。その間もふりたくる臀の動きは止まらない。
「しょうがねえなあ。見ろや。あそこで、さっきからこっちを見てる学生がいるぜ。
 おまえのヨガリ声が聞こえたのかもな」
「……え、えっ?」
男の指摘に、さすがに冷水を浴びた思いで、窓の外を見やる美佐子。
確かに、車道の向こう側、通り過ぎていく生徒たちの流れの中に、
足を止めて、こちらを見ているふたつの人影があった。
「そういや、見覚えのある顔じゃねえか? あのふたり」
「…………」
男の補足を待つまでもなく、美佐子の顔は一気に蒼白となり、淫猥な身動ぎも止めて凍りついていた。
……この時間ならば、あのふたりが学校を出てくることはあるまいと。
それだけを唯一の救いと思っていたのに。
しかし、数m先から、ジッと不審げな視線を向けているのは、唯と竜之介に間違いなかった。 

「……でも、竜之介くん、本当によかったの?」
それは、共に校舎を出て校門へと向かう途中での会話。
「大丈夫だよ、一日くらい」
恒例の自主補習を取り止めて、早目に帰宅の途についたふたり。
やはり、前日に美佐子から聞かされた事情のことが気がかりで。
「だけど、この時間だと、お母さん、お友達の世話に出掛けてるんじゃないかな」
「だったら、俺たちで店を開けようか? コーヒーくらい、俺にも淹れられるぞ」
「ええ~? それは営業妨害になるんじゃない?」
「こいつは」
呑気な遣り取りのとおり、実際に何が出来るというあてがあるわけでもないのだが。
それでも、少しでも美佐子の手助けがしたくて、ふたりは久しぶりに明るいうちに校門を出た。
唯は、竜之介の口にした冗談に、ふたりで店を切りまわす自分たちの姿を想像して、
(いいかもしれない)
などと幸福そうな笑みを浮かべていたのだが。
不意に、その弾む足取りが止まった。
「……竜之介くん」
ひそめた声で呼ばれ、腕を引かれて。竜之介も唯の視線の先に停まった車の姿を見とめる。
「あの車って……」
「うん。昨日の話のやつみたいだな」
“ゴツイ外車”“全面マスキング”と、悪友どもの語っていたとおりの特徴。
「確かに、見るからに怪しいなあ」
見かけだけでなく、なんとも不穏で秘密めいた雰囲気を放っているように思えるのは、
前日に聞かされた話からの先入観だろうか?
(もしかして……いまもフラチな行為の最中なのか?)
そう疑えば、やはり興味をそそられてしまうけれど。
いかん、そんなものは唯の教育上好ましくない、とPTAのようなことを胸中に呟いて、
その場を離れようとした竜之介だったが。
「……あの車、家の近くで、何度か見かけたことがあるよ」
依然として不審車を凝視したまま、唯が呟いた言葉に、足を止められてしまった。 

「本当か、それ?」
「同じ車か、わからないけど。よく似てる。窓も黒かったし」
「いつ? いつ見たんだ」
「冬休みの間、かなあ。二、三回見たよ。見かけない車だなと思ったの」
「うむむ……」
改めて、険しい顔で車を睨んだ竜之介。
やおら、そちらへと向かって足を踏み出した。
「ちょっ!? ダメだよ、おにいちゃん!」
「唯は、そこにいろ」
慌てて引き止めようとする唯の手を振り払って、ゆっくりとだが躊躇なく、怪しい車へと歩み寄っていく。
周囲から最近の豹変ぶりを『大人になった』『落ち着いた』などと評されてはいても、
こういった無鉄砲な性格は変わっていないようだ。
とにかく、竜之介とすれば、この怪しさ満点な車が、自分たちの生活圏にまで出没していたらしい
と聞いて、捨て置きにはしておけなかったのである。 

……驚愕に固まっていた美佐子だったが、一歩一歩近づいてくる竜之介の姿に、パニック状態に陥った。
「い、いや……」
思わず高い悲鳴を上げかけて、慌てて口を押さえる。
男の股間に押しつけていた臀をもたげて結合を解こうとするが、くびれ腰をしっかと
掴んだ男の手が、それを許さなかった。
「お、おねがい!」
美佐子は蒼白な顔を振り向かせて、低めた声で必死に懇願した。
しかし、男は聞き入れない。逆に美佐子の臀を引き寄せて、挿入を極限まで深めた。
「ウゥ……ム……」
美佐子は懸命に口を引き結んで、洩れようとするうめきを堪えた。
その間にも、竜之介はどんどん近づいてくる。
(こ、来ないで!)
胸の中で叫びながら、美佐子は竜之介から眼を離すことが出来ない。怖くて出来なった。
と、不意に男が腰を掴んだ両手に力をこめて、美佐子の臀を回し始める。
ズッポリと咥えこんだ男根を中心に円を描くように。
「ウアアァッ!」
ギッチリと秘肉を満たしたモノに粘膜を攪拌されて、堪えきれぬ叫びが美佐子の口を衝く。
その声は、車まであと数歩という位置にまで接近していた竜之介の耳にも届いた。
驚いて足を止め、いっそう不審を強めた目で、車を眺めまわした。 

失態を犯した美佐子は、目の前が暗くなるのを感じた。
(聞かれた……! 気づかれた……!)
その思いこみに、錯乱しかけた時。
美佐子の背に覆い被さるようにして顔を寄せてきた男が、耳元に囁いた。
「まだ、バレちゃいねえよ。向こうからは見えないんだし。竜之介も、まさか愛しの美佐子サンが、
 こんなところで、男と乳くりあってるなんて思いもしないだろうからな」
例のごとくの嬲る言葉ではあったが、美佐子はそれに縋りついて崩壊しそうな自我を支えた。
涙を浮かべた目を、車外の竜之介に向けたまま、
「……お、おねがい、どうか、いまは、いまは……」
ほとんど聞き取れないような小さな声で、男に哀願する。
しかし、この絶好のシチュエーションを、男が手放すはずもなかった。
美佐子を宥めたのも、いまはまだ事実を暴露する気がなかっただけのこと。
「ただ、これ以上、はばかりのない声を聞かせたら、さすがに気づかれるかもしれねえなあ。
 せいぜい我慢しろや」
そう釘を刺して、今度は美佐子の臀を持ち上げては引き戻すという動きを開始した。
「…………っ!」
今度は、どうにか声を抑えることが出来た。
しかし、食いしばった口をほどけば、ただちに嬌声がこぼれてしまいそうで、
美佐子はもう男に中断を求めることもできなくなる。
竜之介は、まだ立ち去ろうとせず、美佐子を苦しめ続ける。
竜之介の存在と、女肉を抉る男の肉体と。
美佐子の意識と感覚は、そのふたつのものに占められ分断されていく 

男は、車外の竜之介の反応を窺いながら、慎重に挿送を送りこんで、美佐子を苦悶させる。
緊迫した空気の中に、ジュブジュブと湿った音が響いた。
「……声を抑えたってよ、この卑猥な濡れ音が聞こえちまうかもな」
耳に囁けば、美佐子はビクビクと背を震わせた。本当に、それを恐れるかのように。
異常な状況に、男も昂奮している。男の昂ぶりを美佐子は蕩けた淫肉で感じとっている。
ひときわ猛々しく漲った巨根に、うねる肉襞を擦られ、最奥をこづかれて。
微妙な仔細な蠢きでも、いまの美佐子の肉体に耐えがたいほどの愉悦を与えて。
(……た、たまらない……)
少しでも気を抜けば、膨れ上がる快楽に呑みこまれてしまいそうになる。
逞しい男肉を咥えこんだ臀を思うさまにふりたくって、快楽を貪りたくなる。
しかし、依然として指呼の距離に立ったまま、こちらを見つめている竜之介の存在がそれを許さない。
(もう、ゆるして)
錯乱を強める意識の中で竜之介に訴えた言葉は、自分の背信への懺悔ではなくて、
ただただこの生殺しの地獄からの解放を願うものだった。
どうか消えてくれ、立ち去ってくれ、と乞い願ったのだ。竜之介に対して。
しかし、美佐子の声なき叫びは届くことなく。
逆に竜之介は、さらに歩を詰めて。
そして、大胆にも腰を屈め鼻先をウィンドウに擦りつけるようにして、鋭い視線を巡らせたのだった。
まるで、黒塗りのガラス越しに車内の光景を透視しようとばかりに。
ヒッと喉を鳴らして、美佐子が仰け反った。
動いていた竜之介の視線が、その気配の方へと向けられて。
美佐子と竜之介は正面から見つめあうこととなる。
その瞬間に、美佐子の中で快楽が爆ぜた。 

「ーーーーーーーっっ!!」
突発的な絶頂に自制を砕かれて、大きく開けた口から迸り出ようとした女叫びは、
咄嗟に塞いだ男の手によって、くぐもった響きに変えられた。
くぐもることで、獣のうめきのような生々しい音となって、車外の竜之介の耳に届いた。
思わず、ギクリと身を反らした竜之介。
今度こそ、車中で行われている淫猥な遊戯を確信して、その眼に、あからさまな軽蔑の色が浮かぶ。
それを、美佐子は霞む視界の中に映していた。全身を硬直させ、
咥えこんだ男の肉体を食い千切りそうに絞めつけながら。
『おにいちゃん!』
不意に厳しい唯の声が、近くから響いて。竜之介の腕が後ろへと引かれる。
『っと』
『もういいでしょ!? 帰るよ』
有無を言わせず、竜之介を引っ張っていく。
『わかった、わかったから離せよ』
『もう! あんなに近づいて覗いたりして。コワイ人だったら、どうするの!?』
『平気だって。どっかの色ボケカップルだよ』
そう言って、もう一度だけ竜之介が車へと振り向く。呆れと侮蔑を目に浮かべて。
それを、美佐子は見ていた。
『シッ! 聞こえちゃうよ』
『あだだ、引っ張るなよう』
賑やかな遣り取りを交わしながら、ふたりが遠ざかっていく。
それを見届けて。
美佐子の身体から硬直が解ける。
男への絞めつけをゆるめた女陰から、ドッと熱い蜜が溢れ出して、男の股とシートを汚した。 

「ケッ。相変わらずクソ生意気なガキだぜ」
美佐子の口から手を放して、掌についたヨダレを美佐子の臀に擦りつけながら、男が毒づいた。
竜之介の無謀とも言える大胆な行動は、男からしても予想外であったのだが。
その分だけ、痛快な刺激を味わえたことに満悦していた。
「クク、それにしても“色ボケカップル”とは言ってくれるよなあ?
 その片割れが、思い焦がれる美佐子サンだと知ったら、あのガキ、どんな面をしたか」
美佐子からの反応はない。
ガックリと運転席の向こうに顔を落として。荒い呼気に背中を波打たせている
「それにしても、見つめあって昇天とは、相変わらずおアツイこったな。羨ましいぜ」
上機嫌な男が、なおもいたぶる言葉を吐きかけた時。
「……ア……アアア」
美佐子は咽ぶような声を洩らして、首をもたげた。
同時に、豊臀がゆっくりとのたうち始めて、わずかな弛緩を見せていた秘肉が男の剛直へと
からみまとわりついた。
「おっ?」
「つ、突いてっ!」
どこか虚ろな目で男を見返って、美佐子が叫んだ。
「強く…激しく、してぇ」
声を憚ることもなく求めて、一瞬呆気にとられる男を尻目に、さらに激しく白い臀をふりたくった。
「ヘッ、まだ足りねえってか。本性をあらわしてきやがったな、スベタ」
邪悪に口の端を歪めて。男が美佐子の願い通りに、ズーンと重い突き上げをくれた。
「ンアアッ! いい! イイ! もっとぉ」
たちまち感に堪えた嬌声を上げて、美佐子はさらに狂乱を強めていった。
……幸いにも。この時帰路につく生徒の流れは間遠になっていたのだが。
たまたま、この状況に通りかかったひとりの男子生徒。
学校の前に停められた車から洩れ聞こえる、嫋々たる女の啼泣に驚いて足を止めて。
見れば、明らかに上下している車体に、いっそう目を見開くこととなった。
ゴクリと生唾を呑んで、しばしその妖しい車を見つめていたが、それ以上近づこうとは思わなかった。
伝わってくる雰囲気は、若い好奇心よりも畏怖を誘うような隠微さと淫らさに満ちていたのだ。
やがて、絶息するような長い女叫びが響いた時には、男子生徒はゾッと総毛立つような怖気を感じて、
慌てて、その場から離れていった。 

……数刻のち。
運転席に戻った男のくゆらす煙草の煙が、車内に漂っている。
紫煙の香は、狭い密室の中に充満した淫猥な臭気と混ざり合う。
汗と女蜜と男精が蒸れ合った濃厚な性臭と。
そんな息苦しいような空気の底を、低い啜り泣きの声が流れている。後部席から。
美佐子はグッタリと脱力した身体を横臥させていた。
下半身は裸のまま。ムッチリと肉を実らせた太腿を重ねあわせて、
汗を浮かべた双臀の狭間から、淫汁と精液をタレ流したままで。
そんな無残な姿を隠そうともせずに、ただ美佐子は泣いていた。
狂乱のあとに、理性を取り戻せば、自分の演じた醜態が胸をしめつけて。
(……もうだめ……もう……)
何度も心に繰り返して、止まらぬ涙を横顔を擦りつけた皮のシートへと落とした。
今度という今度は、立ち直れないほどの絶望に襲われている。
白昼。こんな場所で。
すぐそばに竜之介と唯がいる状況で……快楽に流された。
竜之介と目を合わせたまま、魂消るような絶頂に達して。
その後も、さらに快楽を求めて、それに溺れこんでしまった。
もう……なにも解らない。自分というものが解らなくなっている。
(……もう……だめ……)
その思いだけが、心を占めていた。 

「おら、いつまでも余韻にひたってんじゃねえよ」
煙草を揉み消した男が、ぞんざいな言葉を投げて、エンジンをかけた。
「………………」
美佐子はノロノロと身を起こして、足首にからまったままの下着を引き上げた。
また、ホテルへでも向かうのだろうと思った。
場所を変えて、また男は自分を抱く。そして、また自分は痴れ狂わされるのだ。
いつものように。
それを、すでに当然のこととして受け入れている自分に気づく。
美佐子は虚ろな視線をバック・ミラーに向けて、男の顔を見た。
(……もう……私は、この男からは逃れられない……)
そう胸中に呟いてみる。またひとつ絶望が深まるのを感じる。
しかし、絶望は同時に奇妙な安息をも呼び起こした。
(……そう……諦めてしまえば、楽になれるのかも……)
疲れ果てた心が傾いていく。
そして、この後のことを思えば、ジンワリと身体の奥が熱くなるのを感じる。
(……私は……もう……)
だが。
男が車を向けた先は、いつものホテルではなかった。
「着いたぞ」
「……え?」
ボンヤリと思いに沈んでいた美佐子が、男の声に我に返って周囲を見まわす。
「……ここは」
美佐子の家に近い場所に車は停められていた。 

「なにを驚いてるんだよ? 家まで送ってやっただけだろうが」
男は、意外そうな美佐子とミラーの中で目を合わせて、
「それとも、行き先がホテルじゃなかったのが不満か? あんだけヨガリ狂っておいて、まだ足りねえってか?」
「そ、そんなことは……」
「じゃあ、とっとと降りろよ。可愛い娘と愛しい男が待ってんだろう。
 ま、その前に、なりを直しておいたほうが身のためだとは思うがな」
「…………」
いまだに半信半疑のまま、美佐子はバック・ミラーで、髪を整え着衣を直した。
車中という限定された状況での行為は、髪や服にはそれほどの痕跡を残していない。
無論、それは上辺だけのことで、スカートの下、ショーツの内側は欲望の残滓にベッタリと
汚れていたのだけれど。
上気が残る頬や、けぶる瞳は……誤魔化すしかないだろう。
不安そうに入念なチェックをする美佐子を、面白そうに眺めながら、
「ああ、それとな」
男が口を開いた。
「さっきも言ったが。しばらく、おまえを呼び出すのはやめにするぜ」
「え?」
またも意外なことを告げられて、美佐子は髪を撫でていた手を止めて、男を見やった。
「俺も、娘や竜之介に気づかれて面倒なことになるのはゴメンだからよ。
 しばらく逢瀬はナシにしようや」
「………………」
「どうした? 喜ばないのか? おまえの望み通りのことだろう」
「え、ええ」
確かにそれは美佐子自身が望み、男にも頼んだことだ。
たとえ、真の解放ではないとしても、喜ぶべきことには違いなかったのだが。 

「……本当に?」
美佐子の口から出た言葉は、どこか曖昧な響きがあった。
「ああ。おまえんとこに家族争議を起こしたって、しょうがないしな。
 ほとぼりを冷まそうじゃないの」
男の口ぶりは淡々としていた。まるで突然美佐子への執着をなくしたかのように。
「…………」
そう感じた時、美佐子の胸の奥にキナ臭い情動が生じた。
「ま、あれだ。もし、身体が寂しくなったら、竜之介に慰めてもらえばいいさ」
「……馬鹿なことを」
「そうかい? 無理はよくないぜ。俺のほうは、他にも女はいるから問題ないんだけどよ」
ゾワリ、と。
また暗い感情が、美佐子の中で蠢き、瞳を揺らした。
「もう準備はいいのか?」
急かすように、男は美佐子を車から下ろして。
「じゃあな」
顔も見ずに軽く手をふると、車を発進させた。すぐに辻を曲がって見えなくなった。
美佐子はその場に立ち尽くして。
しばし、男の去った方向を見つめていた。茫然と。 






 

 

 

 

-----

ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。