鳴沢美佐子4


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美佐子は、広い部屋の壁一面を使った巨大な窓の傍に立っていた。
窓の外は、晴天の空だった。
視線を下に向ければ、如月町の眺望が広がっている。
ステーション・ホテル。最上階。
スペシャル・スウィートの名をつけられた部屋。
過剰に豪奢な部屋の窓辺に立ちながら、贅沢な眺めには背を向けて美佐子は立っていた。
差しこんだ午前の陽光が、豊かな黒髪を輝かせている。
光は、白い肩や滑らかな背肌をも照らしている。
冬の空を背景にして佇む美佐子は、一糸もまとわぬ全裸の姿だった。

あの後……男はすぐに美佐子を連れ出して、車に乗せた。
『憩』は臨時休業を余儀なくされてしまった。
(ただでさえ、お客さんが少ないのに……)
その上、急に休んだりすれば、ごくわずかな常連客まで離れてしまう。
車が走り出す時に、美佐子がボンヤリと考えていたのは、そんなことだった。
それは、逃避による自己防衛といえるものだったろう。
それを自覚した時、美佐子は軽く頭をふって、キュッと唇を噛みしめた。
(そんなことで、どうするの)
しっかりしろ、と自分を叱咤した。
この朝に、突然美佐子を襲った変事は、悪夢のようなものではあった。
しかし、ここで弱気に落ちきってしまえば、いくらでも悪い展開を呼びこんでしまうのだ。
美佐子にとって、最も恐れる事態は、唯や竜之介を巻きこんでしまうことだった。
それだけは、避けなければならない。
(私は、あの子たちを守る……守りとおしてみせる) 

この局面においては、美佐子に逃げ道はない。
いま……自分の隣りで上機嫌で車を飛ばしている忌まわしい男の望みを受け入れざるを得ない。
考えただけで怖気が走るが……そのことについては覚悟を決めた。
男に促されて店を出る時に、美佐子は、これは一度限りのことだと男に約束させた。
いかにも簡単に了承した男を、信用はできないが。
しかし、必ずその約束を守らせなければならない。
一度だけ、数時間の忍従を代償として、自分と子供たちの周辺から、
この卑劣な男を排除しなければならない。そう美佐子は意を固めた。
……やがて、車が如月町の中心地に入った頃には、
美佐子はキッチリと背を伸ばして端座して、真っ直ぐに前を向いていた。
どこか、殉教者のような冷たい落ち着きを、その横顔に湛えて。
車の目指す先がホテルであるとわかった時にも、それは崩れなかった。
ただ、心の中に、
(……こんなことなら)
昨夜、竜之介と結ばれてしまえばよかった……という悔いを
よぎらせずにはいられなかった。 

男は事前に部屋を予約していたらしかった。
それについても、美佐子はどうとも感じなかった。
生まれて初めて足を踏み入れる豪華な客室のようすには、少しだけ物珍しさを刺激されたが。
それだけであった。
美佐子は、感情を凍りつかせるべく努めた。
これからしばらくの苦痛の時間を、人形となって耐えるために。

「まずは乾杯といくか?」
部屋に入るなり、上着を脱ぎ捨てた男は、運びこませたワゴンからボトルを取り上げて、
美佐子に示した。最高級のシャンパン。
だが部屋の中央の佇む美佐子からは、なんの反応も得られず、男は軽く肩を竦めると、
シャンパンの栓を抜いた。小気味のよい音が静かな室内に響いた。
祝祭に相応しいはずのその音は、いまの美佐子には自分と無関係なものと聞こえた。
男は無造作に酒を注いだグラスを手に、豪奢なソファに腰を下ろした。
ここへの道中の浮かれた色は消えて、部屋に入ってからの男は、
悪落ち着きとでもいった冷静さを見せていた。
一口グラスの酒をあおると、
「じゃ、脱げよ」
ひどく簡単に命じた。 

美佐子は目に力をこめて、正面から男を見つめた。
「一度きりよ。今日、この場かぎり」
改めて念を押した。
「わかってるよ」
「今日ここを出ていく時には、録音したものを返してもらいます。
 そして金輪際、私にも子供たちにも近づかないで」
「OK、OK」
「約束が破られたなら、今度は警察に訴えるわ。本気よ」
「わかったって。俺も警察沙汰だけはカンベンだからな。約束は守るぜ」
その代わり、と今度は男が威圧するような目を美佐子に向けて、
「今日、ここではあんたは俺の言いなりに動く。俺の指示には全て従う。いいな?」
「…………」
硬い頷きを、美佐子は返した。
「けっこうだ。じゃあ、脱いでもらおうか」
「……ここで?」
「そうだ。ああ、もっと窓の方へ寄りな。明るいとこで、鑑賞したいからな」
「…………」
美佐子は深く思い息をついて。己の中で最後のスイッチを切り替えた。
静かに窓辺へと歩んだ。
少し狭窄したように感じる視界に、窓の外の光景が入ってきた。
明るい空と、恬淡とそこにある街並を見ると、こんな時間にこんな場所で
肌を晒そうとしている自分という状況が、現実と隔絶してしまったように思えた。
美佐子は、微かに震える指先をシャツ・ブラウスの胸元に伸ばした。
美佐子の服装は、店にある時の姿からエプロンを外しただけの軽装だった。
男に急かせれた為に、上着も着ていなかった。
「後ろ姿も悪くないがよ。まずは、こっち向きから始めろや」
背後から指示がかかった。
フウ、と。またひとつ息をついて。美佐子は体の向きを変えた。
深くソファに腰を下ろして。真正面から鈍く光る目で美佐子を凝視する男がいた。
美佐子は、あえて男と目を合わせたまま、胸のボタンを外していった。 

そして今、窓からの眺めを背景にして、全裸で佇む美佐子がいた。
両腕は体の横に垂らしているから、その眩いような裸身の前面は隠すところなく、
男の目に晒されていた。
豊かな胸も、くびれた腰も、かすかに脂肪をのせた滑らかな腹も、その下の黒い翳りも。
過去には、夫と竜之介以外の男には見せたことのない剥き身の姿を晒して。
それでも美佐子は、毅然たる態度で立っていた。
視線こそ、目の前の男から逸らされて下向きに固定されているが。
見るなら見ろ、とでも言いたげなその姿は、肉体の量感ともあいまって、
どこか見るものを圧倒するような力があった。
(いいねえ)
陶然と、男は内心に呟いた。
この状況で示す美佐子の気丈さが、男を喜ばせていた。
脱衣の際、美佐子は最後まで躊躇を見せなかった。
ブラジャーを外して、重たげに実った乳房をあらわにした時も、
ショーツを下ろして、艶やかに光る叢を晒した時も、その内心はどうあれ、
美佐子の手は一度も止まることはなかった。
(そのくらいの歯応えがなくっちゃあ、楽しめないからな)
いまは、そんな美佐子の強さを味わおうと、男はあえてゲスな揶揄や品評を言葉にせず、
無言で美佐子のストリップを鑑賞したのだった。
(それにしても……)
この肉体の見事さはどうだ、と男は嘆息する。
円熟と瑞々しさの絶妙のバランス。
ノーブルな涼しげな美貌を裏切るような肢体の量感は、予想以上だ。 

男は渇いた喉に酒を流しこんで、
「悪くねえな」
内心より随分と控えめな評価を、美佐子に告げた。
「18の娘がいる年増のカラダとしちゃあ、悪くない」
「………………」
「これだけのカラダが、十年も男日照りが続いたんじゃあ、
 持てあますのも無理はねえなあ」
「………………」
「だからって、娘と同じ年のガキをたらしこむのは、どうかと思うがね」
無反応だった美佐子だが、この言葉には、キッと男を睨みつけて、
口元がなにか言いたげにわなないた。
だが、懸命に感情を抑えて、
「……早く済ませて」
低く呟いたのは、そんな言葉だった。
「あん? 催促か? 裸を見られただけで、もうその気になっちまったのか?」
「早く終わらせて解放してと言ってるのよ」
吐き捨てるように、美佐子が言うのに、
「早くしろたってなあ。それには、俺をその気にさせてもらわなくっちゃ。
 なにか? 自分が裸を見せりゃあ、それだけでどんな男でもサカリがついて、
 むしゃぶりついてくるとでも思ってたか? 
 そいつは自惚れが過ぎるんじゃねえの、あんたくらいの年代の女としちゃあ」
すでに股間のモノを痛いほど突っ張らせておきながら、男は嘲笑してみせる。
「残念ながら、18のガキほど飢えちゃあいないんだよ、俺は」
「…………」
男の言葉は、美佐子の意識せぬ自尊心を傷つけ、さらに、愛する青年との年齢差という
最大の泣きどころを抉る。
感情が波立たされて、平静を保つことが困難になっていく。

「だから、早く終わらせたいってえなら、俺がその気になるように努力するんだな。
 つーわけで、後ろを向きな。尻のカタチを見てやるからよ」
「………………」
自分はどっかと腰を据えたまま横柄に指令する男に、美佐子は無言で従う。
とにかく、少しでも早くこの恥辱の時間を終わらせたいという思いで。
美佐子の視界には、再び空が映る。その明るさが胸に痛くて、美佐子は目を伏せた。
「髪が邪魔だな」
男が注文をつける。美佐子は大きな三つ編に束ねた髪を身体の前へと流した。
蒼いような白さのうなじが、片側だけ晒された。
しばし室内に沈黙がとざす。
静寂の中で、しかし美佐子はハッキリと男の視線が突き刺さってくるのを感得する。
顔が見えないことで、逆に視線の圧力が、舐めるような執拗さが強調されて迫ってくる。
美佐子は唇を噛んで、粟立つ嫌悪に耐えた。
「いい尻だ」
ようやく男が口を開いた。感に堪えたような率直な口調で。
作為的な嘲侮を忘れるほどに、美佐子の豊臀の官能美は男を魅入らせた。
たっぷりと肉を実らせながら、弛みを見せず張り切って。
腰のくびれから勢いよく張り出したラインにも、いささかの崩れもなく。
厚い双臀の肉がムッチリと寄り合って作る切れこみは深く陰影を刻んで。
その上方には、秘密めいた小さなえくぼがふたつ、彩りを添えている。
まさに、この貞淑な未亡人が地味な装いの下に隠し持っていた爛熟の女体を、
象徴するかのような肉のパーツだった。
男は、そこから視線を外すことが出来なかった。
(絶対逃がさねえぞ、この女は)
目の前の女の価値を再確認して、改めて胸中に呟いた。 

当然、男には「一度かぎり」の約束を守る気など毛頭ない。
そんな約束、信じる方がバカだろう、と思っている。
美佐子が宣告した「次には警察に届ける」という言葉は虚勢ではないだろう。
ズルズルと脅迫者の意に従う愚を犯すよりは、犠牲を払ってでも禍根を断つという強さが、
美佐子にはある。
いまの美佐子には、ある。
(要するに、そんな気概がなくなるまで、メタメタにしてやればいいってことよ)
至極簡単に男は考えている。それが出来るということには、少しの疑いもない。
過去の経験と、自分の能力への自負からくる確信だった。
(まあ、いくら気丈なようでも、しょせんは良いとこの奥さまだな。甘いんだよ)
男には、木石と化してこのあとの行為に耐えようとする美佐子の覚悟など、
ハナからお見通しだった。
なんにもわかっちゃいない、と内心でせせら笑う。
美佐子は感情を殺すことで、与えられる汚辱を耐え忍ぼうとしている。
望まない情交、という行為における心身の苦痛と嫌悪に対してだけ身構えている。
美佐子にすれば、当たり前の認識なのだろう。
身を許す相手が、憎んでもあまりある男なのだから。
(どれだけ自分が考え違いをしてるかは……まあ、この後ジックリと思い知ってもらうさ)
それを美佐子に思い知らせるための武器―ズボンの前を異様なほどに盛り上げた逸物を
片手であやしながら、男は長い舌でペロリと唇を舐めた。 

その時、向こうむきの美佐子が身じろいだ。
無防備な背中を見られ続ける不安と、焼け付くような視線の圧迫に耐えかねたのだ。
「もう……」
「こっちを向けとは、言ってないぜ」
振り返ろうとする美佐子をピシャリと制して、さらに男は続けた。
「そのまま、前に屈んでみな」
「……え?」
半ばまで身をねじった姿勢で動きを止めたまま、美佐子が聞き返した。
「腰を折って、上体を前に倒すんだよ。脚はそのままだぞ。膝を曲げるな。
 両手で足首を掴んでみな」
「…………なっ!?」
細かな指示で男が自分にとらせようとする姿勢を理解した美佐子が、
眦を吊り上げて、今度は完全に男へと向き直った。
「早くしろ」
「なぜ、そんな格好をしなければならないの?」
「俺が、それを見たいからさ」
「そんなことに、なんの意味があるの?」
「そうすりゃ、そのデカいケツの分厚い肉がパックリ左右に割れて、
 あんたのオマ×コもケツ穴もよーく拝めるようになるって意味があるのさ」
「なっ……!?」
「わかったら、早く言われた通りのポーズを決めてみせろや」
「イヤよ」
「イヤよ、ときたね。じゃあ、その気になるまで待たせてもらう」
男は悠然とグラスに新しい酒を注ぎ足して、
「時間はたっぷりあるからな。夜まででも、なんなら明日の朝まで待ったっていいんだ」 

そう言われれば、窮するのはまたしても美佐子の方だった。
美佐子には時間の制約がある。今日この場での出来事を隠し通すために、
唯や竜之介が学校から帰るまでには家に戻っていなければならない。
多少遅れても言い訳は効くだろうが、美佐子の心理とすれば、
どんな些細な異変の徴候も子供たちには見せたくなかった。
しょせん、彼我の力関係はあまりに不均衡で、美佐子には弱みばかりがある。
どこまでも、その弱みにつけこんでくる男への怒りが沸く。
怒りは沸いて、しかしその感情にはなんの効力もない。
「…………」
美佐子は再び男に背を向けた。
その後に、さすがにしばしの逡巡があって。
そして、美佐子はゆっくりと体を折っていった。
いまの自分の無力さ、情けなさをイヤというほど噛みしめながら。
「……くっ……」
上体を倒し頭を下げて。その姿勢では転倒を避けるには、
いやがおうにも両脚を開かざるを得ない。美佐子は半ば捨て鉢な気持ちになって、
両足を横ににじって、脚と脚の間隔を広げていった。
「ちゃんと足首を握るんだぜ」
美佐子の決死の思いもしらぬげに、男が念を入れる。
キリリと歯噛みしながら、美佐子は垂らしていた両手を白い脛に伸ばした。
そして、恥辱の極みといったポーズが完成する。
豊かな両の乳房は逆しまになって垂れ下がり。
首筋や顔は、物理的にも心理的にも昇った血で紅くそまっていた。
曲げるなと言われたって、どうしても両膝は浅く曲がってしまう。
自然、尻を後ろに突き出すかたちになって。
その厚い肉づきは、男の言葉通り“パックリと”ふたつに割れて。
女体の一番の秘密である場所が、完全に暴きたてられている。
強めの暖房設定で裸でも暑いように感じていた室内の空気が、
その部分だけは、やけにヒンヤリと撫でて流れるように美佐子には感じられた。

「こ、これでいいのでしょう!?」
美佐子は屈辱の涙を滲ませた双眸をキツく閉じて。
叫ぶように男に確認した。
「けっこうけっこう。年の割にゃあ、なかなか柔軟だな」
「も、もう……」
「そのままだ。姿勢を崩すなよ」
許しを求める美佐子の声を冷徹に遮って。
やっと、男はソファから腰を上げた。
グラスを置き、代わりにシャンパンのボトルを持って。
ゆっくりと美佐子に歩み寄った。
しかし、端近までは寄らずに、1mほどの距離を置いてしゃがみこむ。
「おお、絶景だな」
美佐子の屈辱の姿態を眺めるのに、この場所がベスト・ポジションという選択だったようだ。
「こうして見ると、やっぱデカいケツだなあ。これが熟女の貫禄ってやつか?」
確かに、わずかに見上げるかたちとなる美佐子の豊臀は、その姿勢のせいもあって、
圧倒的な量感を誇示していた。
「しかしシミひとつなくてツヤツヤ光ってるとこはいいねえ。
 まさに“ムキ玉子みたいな”ってやつだな。白く輝く巨大な尻だ。
 ただ、尻肌が白いだけ……肛門のまわりが黒ずんでるのが目立つんだよなあ」
「い、いやっ」
男の酷い言葉に、美佐子は泣くような声を上げて掲げた尻を戦慄かせたが、
姿勢を崩しはしなかった。維持を命じられたことよりも、
屈辱のポーズ自体に拘束されているというような、奇妙な自縛の状態に陥っていた。
どう体を逃がせばいいのかわからない、という混乱が生じていたのだ。
それをいいことに、男はさらに辛辣な検分を続けて、
美佐子の心をグサグサと抉りたてていく。
「肛門自体は慎ましやかだな。ちょっとシワが深い気がするが。
 痔の徴候はないようだしな。綺麗な顔してイボ痔持ちじゃあ艶消しだからなあ。
 ただ、意外に濃いお毛々がケツ穴のまわりにまでチョボチョボ生えてるのは
 ちとダラシない気がするな。不精ヒゲみたいでよ。これだとクソの後も
 拭くのが大変なんじゃねえか? 昨夜、あのガキにはなにか言われなかったのかよ?
 愛する美佐子さんの、ケツ毛問題について、竜之介クンからのコメントはなかったのか?」 

「マ○コは、ちょい下ヅキか。カタチはそう崩れてねえなあ。
 色も年のわりにゃあ、鮮度を保ってら。年のわりには、な。
 土手は高いね。モリマンってやつだ。いいんじゃねえの、スキモノらしくて。
 しかしなあ。全体に使いこんでないのはわかるが、それでも、なかなかに
 淫らなマン相だぞ、こいつは。
 俺は心が広いからよ、“その澄ました顔とのギャップに萌えェーッ!”ってことに
 しといてやるけどさ。ちょっとサギっぽいよ、これわ」
「………………」
美佐子は、もはや羞恥の声を上げる気力もない。
ただ、両の足首を掴んだ手に力をこめて、気死せんばかりの恥辱に耐えていた。
と、同時に。美佐子は困惑し混乱する。
これは……なんなのだろうか? この男はいったいなにがしたいのか?
この密室にふたりきりになってから、ここまでの男の振る舞いは、
美佐子が予期していたものとは、あまりにもかけ離れていた。
美佐子が予期し覚悟を固めていた展開―すぐにも、男が自分をベッドに押し倒す、
それを自分は受け入れて、しばしの苦痛に耐える。
そして男が欲望を果たしたら、すぐに脅迫の材料である録音テープを受け取って、
美佐子は部屋を出る。そして、日常に帰還する。
すべてを合わせても、一時間もあれば事は済むだろう、というのが美佐子の目算だった。 

それは、確かに甘すぎる計算と言えただろう。
たった一度、それも一時間に満たない行為で赦されるなどとは。
だが、それが亡夫との経験から導かれた美佐子の常識だったのである。
(実は、これでも、「こんな男だから、シツこいかも知れない」と考慮して、
 長めにみた時間設定だった。美佐子は純粋な交接自体はほんの数分で終わるものだと
 いう認識を持っていたのだ)
美佐子にとっての不幸は、これまで亡き夫を唯一の相手として、
他に比較の対象を持たなかったことであった。
だから。自分を裸に剥いておきながら、指一本触れようともせず、
淫らな姿勢を強要して、それを眺めるだけという男の行動が美佐子には理解できない。
理解不能な思考の持ち主に、これ以上はない無防備な姿を晒している。
ここまで男に対しては、その悪辣な遣り口への憤りと下卑た人間性への嫌悪しか感じていなかったのだが。
自分は……なにか根本的な考え違いをしていたのかも知れない、と。
そんな不安が、ヒタヒタと美佐子の胸に迫ってきていた。 

男が距離を詰める気配があった。
暴かれた尻の狭間に触れられて、美佐子は身を強張らせたのだが。
「アィッ!?」
突如走った鋭い痛みに、憚ることも忘れた叫びを洩らして、前へと倒れこんだ。
「な、なにを!?」
倒れた姿勢から背後を振り返ると。
男は二本の指に摘んだものを鼻先に寄せて、しきりに匂いを嗅いでいた。
「くんかくんか。うん、便の付着はなし。便臭もしないようだな」
美佐子は突然の痛みの理由を知る。
なんと男は、さんざんアゲつらっていた美佐子の肛門周辺の陰毛を引き抜いて、
臭っているのだった。
「……な……」
あまりに異常な行動に、美佐子は抗議の言葉すら出せずに呆然と仰ぎ見た。
男は検分に満足すると、フイッと摘んだ毛を吹き飛ばして、美佐子に立つように命じた。
「…………」
すでにして、グッタリとした疲労を感じながら、美佐子は立ち上がった。
男が美佐子の細い首に手を伸ばす。
ついに、忌まわしい手に肌身を汚される悲痛に美佐子は肩を強張らせて、目を伏せた。
しかし一方で、ようやく男が理解の範疇の行為に移ったことに、
安堵のような思いを感じてもいた。
だが、それは尚早な判断であった。 

男は美佐子の頤を掴んで、顔を仰のかせた。
深い諦念を浮かべて、薄く瞑目した美貌にゾクゾクとした愉悦を味わいながら、
「お近づきのしるしに、一杯いこうや」
と片手に下げたボトルを掲げてみせる。
「あんたの為に用意したんだ。イケるクチだろう? 知ってるぜ」
「…………」
美佐子が目を開けて、男の手の高級酒を見やった。
いっそ、アルコールの助けを借りて……と迷う色が目に揺れた。
しかし、男は気を惹かれたようすの美佐子をよそに、自分でラッパ飲みにあおると。
酒を含んだ口を、いきなり美佐子の唇に重ねたのだった。
「ン!? ムウーッ!!」
虚を突かれた美佐子だったが、咄嗟に口を引き結んで、拒絶に喉を鳴らして首を振った。
男は酒ビンを床に落とすと、両手で美佐子の頬を押さえこんで、さらに強く唇を押しつけた。
そのまま口に含んだ酒を吹きかける。それはほとんどが美佐子の口には入ることなく、
顎に流れ、胸元へと滴っていった。
酒を全て吐き出しても、男は唇を離さなかった。
ガッチリと両頬を押さえた手の力に、美佐子は抵抗の動きを止めていたが。
依然として口だけは、キツく結び合わせている。
男は無理にそれをこじ開けようとはせずに、一度口を離すと、舌を出して、
チロチロと美佐子の唇を舐め始めた。
微妙な刺激に、ビクッと反応を示した美佐子は、さらに口元に力をこめた。 

男はさらに長く舌を突き出して、その動きを大きくしていく。
唇を外れて、その外周部を舐めずり、そのままツーと頬をせり上がる。
唇と同様にキツく閉じられた美佐子の目元は、少し腫れぼったかった。
舌は、その下縁を擽り、目蓋の上から美佐子の眼球を転がすように舐めまわした。
「……ッ!」
また美佐子がビクビクと反応する。男の胸に突っ張った両腕が力ない抵抗を見せる。
男は、律儀に左右の目蓋へ舐めずりを行って、異様な感覚に美佐子を戦慄かせた後、
今度は鼻スジを伝って舌を下ろしていく。
カタチのいい小山に噴き出した細かな汗を舐めとって。
さらには荒い息をつく鼻孔にまで舌先は侵入する。
「フウウッ!?」
これにはさすがに顔をふって逃れようとする美佐子の動きを封じて、
これまたキッチリと左右の穴を味わいつくした。

顔面を周回した舌が、再び唇へと戻ってきた時には。
美佐子の顔は惨憺たる有様になっていた。
赤く上気し、額にはビッシリと汗が滲んでいる。
淡い口紅も、薄い化粧もまだらに剥げ落ちて。
代わりに塗された男の唾液でテラテラと光っていた。
そして汚される美貌同様に、その精神も追いつめられていた。
顔中に薄気味悪い舌の感触を味合わされ、生臭い唾を塗りたくられて。
その異様な感覚は耐えがたかった。
舌の這った部分から、肉が腐蝕していくような気がする。
鼻孔に塗された唾液の臭いが直接脳に届いて、神経を苛む。
クサイ、キタナイ。
この穢れは、二度と落ちないように思えてしまう。
蝕まれていく……。

美佐子を悩乱させる男の舌は、再び美佐子の口唇に狙いをつける。
それだけはさせまいと、美佐子の唇は断固として侵入を拒んだが。
ならば、と。男は口の代わりに必死に空気を貪っている鼻を摘む。
「………………ハァッ」
たったそれだけの行為で、あっけなく結界は破られる。
すかさず侵入した男の舌ベラは、すぐに美佐子の舌を絡めとった。
「……フ……ムウウ……」
慄き逃れようとするのを許さずに。巻きつき擦りたて、裏も表も撫でくりまわす。
舌の根が引き攣るような激しい攻撃は、同時に玄妙な技巧を持って、
繊細な肉を刺激する。
「……フム……ンンッ」
閉じられたままの美佐子の視界が白く発光する。
こんな口舌への愛撫を受けたことはなかった。
それは、美佐子からすれば、口吻と呼べるようなものではなかった。
かつて美佐子が夫と交わした口づけと、今のこの行為が同じものであるはずがない。
口を舌を……犯されている。そう形容するのが相応しい。
しかし。
「……フッ……フン……」
それは一方的な凌辱でありながら、亡夫との愛情の交歓としてのキスとは
比較にならないほどの刺激を美佐子に与える。
なにも考えられなくなる。
唇は弛緩して、舌は侵入者に従順になっていく。
男が多量の唾液を流しこめば、美佐子はそれをのみこむしかない。
確かな嫌悪はあって。注がれるものが毒のように思えて。
ああ、これで身体の内側からも蝕まれるのか、という絶望を感じる。
だが、コクコクと鳴る喉は、美佐子の意識ほどには、
流れこむものを忌避してはいないようだった。

タップリと、美佐子の甘い舌と口腔の粘膜を味わい尽くして。
ようやく男が口吻を解いた。
解放された美佐子は、軽く咳きこんで、その後にゼイゼイと喉をあえがせて空気を貪った。
顔も、首筋や胸元の白い肌にも血の色を昇らせている。
薄く開いた両目には、潤みがあった。
「楽しんだようだなあ。久しぶりの男の舌の味を」
「……だ……誰がっ……」
久しぶりどころか、初めて経験するような口戯だったのだが。
得意そうな男の言葉に、美佐子は荒い呼吸の下から反駁した。
「あら? フンフン鼻を鳴らして、俺のツバを美味そうに飲んでたんじゃなかったかよ?」
「……そんなことは……」
「じゃあ、これはどういうわけよ?」
そう言って男は手を伸ばして。呼吸につれて揺れている美佐子の乳房を掴んだ。
「アッ」
「おら、ヨガる前に見ろよ、これを」
顎をしゃくったのは、掴みしめた柔肉の中心。
「……!?」
視線を下ろした美佐子の目が見開かれた。
「尖ってるなあ。ビンビンだ」
男がせせら笑う。
事実、美佐子の乳首は固く尖り立っていた。
色を濃くしてプックラと盛り上がった乳輪から、年相応に肥大した乳頭がピンと頭をもたげている。
(……どうして……こんなに)
「なに、驚いたような顔してんだ? 別に不思議でもねえだろ。
 あんたは俺の舌に口ん中ネブられて、すっかり感じちゃったって。それだけの話だろうが」
「………………」
茫然とする美佐子の胸に男の言葉が響く。
男の言う通りなのか? では、あの口戯のさなかに覚えた身もよもないような感覚は……
性的な快感であったというのか?
こんな男に口と舌を嬲られて、私は―私の身体は、それを快楽として受け止めてしまったというのか?
孤立無援の戦いの中で、己が肉体までが自分を裏切っていくのかと、美佐子は脅えた。

造反の徴候を示す美佐子の乳首を、男の指がクリクリとこねまわした。
「アァッ!」
高い声を洩らして、背筋を反らせる美佐子。
男はなおも乳首を押し揉むようにして、美佐子を鳴かせながら、
「この調子じゃあ、下の方もシッポリとお湿りがきてるんじゃねえのか?」
意地の悪い笑みを浮かべて訊いた。
「そ、そんなことは……アン!」
「怪しいもんだな。どんどん、化けの皮が剥がれてきてっからな。
“貞淑な未亡人”の美佐子サンはよ」
鼻で笑って。しかし、男は“お湿り”については確認しようとはせず。
弄んでいた乳房からも、あっさり手を離した。
「膝をつけ。俺の前に跪くんだよ」
「アッ……」
美佐子の肩を押して、強引に跪かせた。そして手早くベルトを外して、
ズボンを脱ぎ落とした。
「わかるだろ? 次はなにをすりゃあいいのか」
「…………」
居丈高に命じるも、顔を横に反らしたままの美佐子に、
「おら、いつまでもグズグズしてんじゃねえぞ」
頭をわし掴んで、無理じいに前を向かせる。
美佐子の甘い口を味わい、肌に触れて、さすがに男も逸る欲望を抑えられなくなっていた。
「目を上げろよ」
「…………」
抵抗というよりは、気弱い逡巡といったものであったが。
どうせ美佐子は屈服を選ばざるをえない。
美佐子は視線を男へと向けて、
「……え」
間の抜けた声を上げて、固まった。

男は上は着衣のまま、下はブリーフと靴下姿という滑稽な格好で仁王立ちしているのだったが。
美佐子を凍りづかせたのは、ブリーフの前を突き上げた異様なまでの膨らみだった。
「……な、なんなの?」
驚愕のままに洩らした言葉を、頭上で男が笑った。
「なにって。男のまたぐらにナニがついてるか知らないわけじゃねえだろが」
「……そんな」
そう言われても、美佐子には信じられない。
目の前の巨大な膨張が、男の肉体の一部だとは、どうしても思えなかった。
「なんだあ? 疑ってんのか。失敬だなあ、詰め物なんざしてねえぞ」
「…………」
「パンツを下ろしてみろや。そうすりゃハッキリすんだろうが」
「……え?」
「脱がせろっての」
ホレ、と腰を前に送る。不気味な膨らみを鼻先に押しつけられて、
美佐子はヒッと喉を鳴らして、仰け反った。
「ああ、もう、いちいち世話のやける女だなあ」
男が両腕を伸ばして、美佐子の頭を抱えこんだ。
そして、突き出した股間へと美佐子の顔を擦りつけた。
「い、いやっ!」
「おらおら、どうよ? ちゃんと固い肉棒があるだろが。わかるだろ」
「やめて、やめてっ!」
美佐子にすれば気が狂いそうな汚辱だった。
男のその部分は、布地越しにも鋼のような硬度と高い熱を、美佐子の面に伝えてきた。
そしてムッと息詰まるような強い性臭が鼻孔に入ってきて、
美佐子の脳髄を揺さぶる。
「うりゃあ、世話をやかせるカマトト年増は、躾てやらねえとな」
「やめて、するから、言われたとおりに、するから」

「言われたとおりに? どうするんだ」
「脱がせる……あなたの下着を脱がせるわ」
誓わせて、ようやく男は美佐子の頭を放した。
「アァ……」
美佐子は泣くような声を上げて、両手で頬を覆った。
「なんだよ、汚いもんでも擦りつけられたみたいによ。
 いいか。もうおまえが清純ぶって、いちいち勿体つけんのにも飽きたんだよ。
 これから、おまえがなにをすりゃあいいのか、教えとくからな。
 速やかに行動に移すんだ。」
いいな? と男は美佐子の膝を蹴った。項垂れた美佐子が小さく頷くのを確認して。
「一度しか言わねえから、ちゃんと覚えろよ。
 まずは、パンツを下ろして、俺のチ○ポと御対面だ。この後タップリ世話になるんだから、
 よーく御尊顔を拝しとけってんだ。
 それから、手で挨拶だ。不精はすんなよ。両手で捧げ持つんだ。
 それで。生のチ○ポを、目で見て手で触れれば、どれだけの代物か解るだろ?
 その感想を聞かせろ」
「………………」
項垂れたまま、かすかに首を左右に振りながら、美佐子は男の言葉を聞いていた。
様々なかたちで与えられる執拗ないたぶりに、反抗の気概は尽き果てていた。
「それから、口で挨拶だ。まずは舌でペロペロ舐めまわしてもらうぜ」
その言葉には、美佐子は一瞬身を固くしたが。顔を上げはしなかった。
「念入りに唾を塗したら、咥えるんだ。デカいからな、気合を入れにゃあ、
 太刀打ちできねえぞ」

一通り指示を出し終えて。わかったか? と美佐子に確認する。
美佐子は、また小さく頷きを返した。
疲弊した美佐子の意識には、とにかく早く全てを終わらせたい、
という思いしか残っていなかった。
「ようし、じゃあ始めてもらおうか」
「…………」
美佐子はノロノロとした動きで男の腰へと両手を伸ばした。
威圧するように突き出た膨らみが、いやでも目に入る。
美佐子は慎重にその部分には触れないように、ブリーフの上縁へと指をかけた。
しかし、そのまま引き下ろそうとすると、前部を突き上げたモノがどうにも邪魔になった。
苦心の末、布地が伸びるほどに引っ張って、ようやく勃起を外すことに成功する。
ブルン、と重々しく揺れながら、男の肉根がその全貌を現した。
「………!」
美佐子は息を呑んで、現れ出たモノを見た。
解放された肉塊は、ブリーフ越しにうかがえたより、さらに巨大さを増していた。
本当に、生身の一部とは信じられないような大きさだった。
そして、その様相もまた、美佐子を驚愕させる怪異なものだった。
野太い茎の部分には、浮き上がった血管によってゴツゴツと節くれだって。
その先端には、瘤のような肉の冠が赤黒くテカリ輝いていた。
張り出した傘の部分は、凶悪なまでに高い段差を形作っている。
そんな凄まじい肉の凶器を、間近に眺めて。
美佐子は、本能的な恐れ―畏怖の感情にうたれて、ブルリとその腰を震わせた。







 

 

 

 

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