鳴沢美佐子1


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

住宅街の一隅、せいぜい目立たぬ位置に車を止めて。
スモークを貼ったウィンドウ越しに、その店を監視する。
それが、この数日の男の日課になっていた。
朝から晩まで。『憩』という看板を掲げたその喫茶店の開店から閉店まで。
食事と用便以外には動くことなく。車から一歩も出ることなく。
ギラギラと暗い感情を燃やした目で、店の外観を睨みつけて。
呆れるほどの勤勉さで、男は“張り込み”を続けた。
無意味な行為。その馬鹿らしさは自覚している。
「……ったく。こんなとこから眺めてたってよう!」
苛立ちが、聞くもののない呪詛となって口から洩れた。
舌打ちすると、ヒリヒリと口の中が痛んだ。屈辱の記憶。
「ガキがっ!」
毒つけば、一層やりばのない怒りが強くなった。
自分の邪魔をした“ガキ”に対しても、その“ガキ”の影に怯えて、
車から出ることさえ出来ない自分に対しても。

その喫茶店には、男の“獲物”がいた。
立地といい雰囲気といい、いかにも道楽的な店に似つかわしく、
まるで商売っ気の感じられない女主人。
ブラリと冷やかしに入った店内で、彼女の涼やかな声と柔らかな笑顔に迎えられた瞬間に、
男の中に馴染みの黒い情動が生まれた。それも、かつてない激しさで。
それほどに女は“上物”だった。
これまで自分が金と強引さにあかせて食い散らかしてきたような女たちとは、まるで次元が違うと思った。
早速、男は店に日参して、厚顔なアプローチを開始した。
同時に彼女についての情報を集めた。彼女自身は男の厚かましい接近に、
いつも困惑したような笑みを返すだけで口も重かったが。
代わりに、口さがない世間というやつが男に情報を与えてくれた。
女の名は鳴沢美佐子。未亡人の身上、それも高校生になる娘がいるというのには驚かされたが。
その事実は少しも彼女―美佐子の価値を損なうものではなかった。むしろ、その逆だった。
あの若々しい容貌の内側で熟成された肉体を思った時、男の美佐子への執着は決定的なものとなった。
(取り澄ましてたってよ、地味な格好の下じゃ、熟れきった身体が疼いてるんだろうが)
美佐子が寡婦であるという事実から導かれた短絡的な結論が、男を力づけた。
(持て余してるんだろ? 男が欲しくて夜泣きする身体を、寂しく自分で鎮めてんだろう)

その美貌は隠しようもないが。
鳴沢美佐子の印象には華美なところがなかった。
薄い最低限の化粧。清楚で上品だが、特長のない服装。
さらに店にある時は、常にシンプルなエプロンを身につけている。
地味な装いの中に、生来の華やぎを押し隠そうとしているようにも見えた。
それでも……それだからこそ、か。
猟色に馴れた男の目には、美佐子の女としての価値は、より鮮明に映るのだった。
エプロンを突き上げる胸の高さ。何気ない挙措につれて浮かびあがる腰の曲線。
そういった部分にこそ、女の本音が滲み出ている、と男は受け止めた。
彼女の示す、つれなさや生硬な態度は、ポーズにすぎない。
“貞淑な未亡人”という仮面をつけて。
心の奥底では、誰かにそれを剥がされることを待ち望んでいるのだと。
(だから、俺が、その余分な皮を引き剥がしてやるよ。
全部剥ぎとって、裸のおまえをタップリ可愛がってやる)

身勝手な憶測。しかし、男には自信があった。
連日、店を訪れての執拗なアプローチの中で。男は確かな手応えを得ていた。
どんなイヤな相手であれ、客となれば美佐子は無碍には出来ない。
男の下司で猥雑な言葉に、その美貌を、時に赤らめ時に強張らせながら。
しかし、確実に美佐子の心は揺れ動いていた。
男は、敏感にそれを読み取って、勝利の日は近いと確信していた。
いずれにしろ、最後には強引なアクションが必要だろうが。
要は、その強引さを受け入れる状態にまで女を追いやっておけばいいのだ。
予想以上の美佐子の身持ちの固さを、むしろ心地よく味わいながら、
篭絡までのプロセスを楽しむ余裕が、この時の男にはあった。






 

 

 

 

-----

ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。