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ピンポーン
「は、はーい」
呼び鈴の音色に、ちはるはあわてた声を上げる。
――ちょっと早すぎないかしら?
ちらりと時計を見やると、約束の時間まで一時間もある。
料理も手をつけたばかりで、完成するまでだいぶ待たせてしまうことになりそうだ。
――きっと、待ちきれなくなっちゃったのね。
フライパンを熱していた火を消しつつ、ちはるの頬に笑みがこぼれる。
――もっとも、待ちきれないのはどっちの『料理』なんだか……
ちはるは自分の思いつきにひとりで頬を赤くしてしまった。
佐久間ちはる。十九歳。
職業はいまのところ家事手伝い――言わばプー子さんだ。
就職難の折り、短大卒業後は水商売のアルバイトで暮らしていた彼女だったが、いい加減、夜の仕事に疲れて店を辞めたのが半年前。
これからのことはゆっくり考えよう、と生来がのんびり屋さんのちはるは、娘にはとことん甘い両親の好意に感謝しつつ、ゆったりと日々を過ごしていた。
ちはるはトトト……と駆け足で鏡台に向かい、素早く髪をととのえる。
あまり待たせてもすまないが、一時間も早くやってくる彼が悪い。
料理の途中だったから髪を軽くしばってあったが、しばし鏡を眺めたあと、結局は髪をおろすことにした。
ばさりと長い髪が波打つ。
「ふんふん……」
 前髪をととのえながら自分の容姿にひとつひとつチェックを入れる。 

 黄色のシャツにミニのスカート、それにエプロン姿。“最初のとき”と同じ出で立ちだ。改めて見ると、そんな簡素な格好のほうが余計にHに見えてくる。きっと前の記憶のせいもあるのだろうけど。
 エプロンの裾がスカートの丈を追い越しているため、にょっきりと伸びた生白い脚がエプロンから剥き出しになり、まるで下に何もつけてないみたいだ。
 おまけに薄い生地のエプロンだから、胸の丸みもシャツを押し上げているのとほぼ同じ形に突き出ている。
ちはるの胸は中学生の頃から男子生徒たちの注目の的だった。中学、高校と年月を経るたび豊かになっていく胸は、クラスのみならず、通りがかりのサラリーマンにさえじろじろと好色そうな視線を浴びせかけられるほどで、ちはるにとって嫌で嫌でたまらない時期もあった。
 水商売をするようになってからはなおさらだ。最初についたお客の第一声はまず間違いなく「おっぱい、大きいね」だの「凄くいいおっぱいだね」と胸に関しての言葉だった。
いつしかそれに返す愛想笑いも、酔ったふりをして触ってこようとする手をたしなめる技術も身についたものの、やはり、異性からは性的な好奇の眼差し、同僚の女性たちからはやっかみ半分の侮蔑を集める胸は、ちはるにはコンプレックスの塊でしかなかった。
 つき合ったボーイフレンドたちにしてもそうだ。
胸について話されると、反射的にむかっとした表情を選ぶため、極力、彼らもその話題は避けてきたし、抱かれるときもちはるはことさら胸へ執着されるのを嫌がったため、大きさに応じたプレイを要求することもなかった。
 だが、いまとなっては、その胸にもほんの少しの誇らしさが芽生えている。
 自分がきっと、魅力的に見えるだろうと思えるのは女性としては幸せだとすら感じる。
 ちはるは一回、おどけて鏡の前で一回転してみた。
 髪がふわりとなびき、エプロンの裾がひるがえって白い太腿が露わになり、乳房がたぷんと波打つ。
「うん」
 悪くない、と自画自賛してみる。
 でも、この前と同じ格好というのはいかにも誘ってるみたいだ、と思い、彼女はまたも顔を赤らめた。
 ひとりでに火照っていく頬を両手で押さえる。
 やや童顔っぽい、すっきりとした美貌をしているだけにそんな仕草が少女じみて愛らしい。
 ちはるは、前に“彼”がこの家を訪れたことを思い出していた―― 

 “彼”に駅前でナンパされたのがほぼ一ヶ月前。
 夏の盛りだった。
 ナンパに応じるつもりはなかったが、彼のあまりにもでたらめ
な性格と強引さが、結局、数分後に二人を同じ喫茶店で向かい合
わせることとなった。
 彼の無邪気そうな笑顔が、初対面の警戒心を解かせたのかもし
れない。
 彼はひとつ下の高校三年生。
 ちはるはいままで年下の男の子とつき合ったことはなかったし、
その願望もなかった。
 が、水商売でさんざん年上の脂ぎった男性たちに囲まれていた
せいか、年下で、朗らかな彼には新鮮な魅力を感じていた。
 話の流れから一回だけデートすることになった。映画館で映画
を観て、ちょっとお洒落なバーで食事をして……本来ならそこで
バイバイのはずだが、なぜか自宅で会う約束まで取り交わしてし
まった。
 自分がろくに家事もできない、みたいな言い方をされたのが気
に障って、「じゃあ、家でご馳走してあげる!」と口走ったのだ。
 酔いのせい、と考えれば自分への言い訳にもなるが、実際のと
ころはもう一度会う口実をつくりたかっただけなのかもしれない。
 そして約束どおり、彼は来て、ちはるは自慢の手料理を振る舞
った。
 挙句、これまたなぜか自分自身をも振る舞う羽目になったのだ。
 しかもキッチンの上で。
 思い出すだけで、真っ赤になってしゃがみ込みたいほどの羞恥
心に駆られる。
 自分は断ることもできたはずなのだ。
 それなのに、高校生の男の子に好きにされてしまった。
 終始彼にリードを握られつつ。 

 後ろから抱きすくめられ、キスを奪われ――
 エプロンの上から乳房を掴まれた。高校生のくせに彼は手馴れ
ていた。
(ん、くふ、ぅん……!)
 唇と舌をねぶられながら、いやらしい手つきでゆっくりと胸を
こねくり回される。
 理性が蕩かされる。たっぷりした乳房を下からすくい上げられ、
首筋に彼の唇が吸いつく。もう片方の手がスカートの奥へと侵入
を開始したとき、既にちはるの秘部は熱く潤んでいた。
(あ、駄目……立ってられなくなるぅ……)
 その言葉を幸いとばかりに、彼はキッチンの上にちはるのすら
りとした肢体を横たえ、挑みかかってきた。
 もう、拒もうとする意識は泡となって消えていた。
 白昼堂々、自分の家――それもキッチンで、年下の男の子に組
み敷かれ、貫かれる。
(あっ、おっきい――いやん、もっとゆっくりぃ……)
 自分がこれほど淫らな女だとは思いもしなかった。水商売をし
ていたって、客の口説きに乗ったことなど一度もないし、むしろ
いまどきにしては身持ちが固すぎるんじゃないかとさえ感じたこ
ともある。
(はあ、ああン、嫌ッ。駄目、ダメ、だめぇ――)
 口だけで「ダメ」だの「嫌」だの拒みながら、その実、ちはる
も彼と動きを合わせて昇りつめていく。
 彼は言葉によって女の性感を蕩かす術も心得ていた。
(ちはるさん、綺麗だよ)
(昼間だからちはるさんがよく見えるや。すっごくいい身体)
(ほら、大きいおっぱいがたぷたぷ揺れてる――)
(とっても具合がいいよ。複雑に粘膜がうねってくる感じ? キ
ュウキュウしてて、おれ、たまらない)
 あたしもよ―― 

そう応えかかったとき。
 ピンポーン
 ちはるははっと我に返った。
「い、いけない、いけない」
 ぽっと目元を赤らめ、ちはるは現実の世界へと舞い戻った。シ
ャツの下で若々しい女体が汗を噴いている。ちょっと匂うかな、
と思いつつ、これ以上待たせてもいられないので、
「はーい、ちょっと待ってて」
 ぱたぱたとスリッパの音を立てながら、玄関口へと急いで走る。
「ごめんね、お待たせ」
 長い髪をなびかせるような勢いで、ちはるはドアを開けた。 

 真っ赤な色彩が目の前に飛び込んできた。
 呆気に取られたちはるは思わずあとずさる。
 薔薇の花束だった。それも、彼の顔を隠すほどの大きな花束。
「な、なあに、これ」
 ませてるんだから、と言いつつ、ちはるも満更ではない。
 高校生のくせに、年上の女性を喜ばせようと、彼なりに考えた
末での行動だろう。一時間も前に来たのだって、ちはるを驚かせ
ようとしての子供っぽい考えに違いない。
 彼が無言のままに入って来ようとしたので、ちはるも彼を向い
たまま後ろへ退がった。
 ばたんとドアが閉められる。
 なぜかその瞬間、ぞくりとした嫌な感触がちはるの背筋を疾っ
た。
 薔薇の隙間からのぞいた、細い目つきが自分をじとっと見つめ
ているのに気づいたのはその直後だった。
「あ――あなた、誰!?」
 思わず大声が出た。
 それもそのはず――その陰湿的な目つきは決して“彼”のもの
ではなかったからだ。
「ばあ」
 とおどけた声とともに、花束の横からぬっと突き出た顔に、ち
はるは「きゃっ」と小さく悲鳴を上げて、さらにあとずさった。
 と、三和土のスリッパに足を取られ、一段高くなった場所に思
い切り腰を打ちつける。
 その拍子にたぷっと波打った乳房に、男の細い目が吸いつけら
れた。
「おれを忘れるなんて、ひどいなあ――ちはるちゃん」
 ポマードできれいに七三に分かれた髪をてかてかに光らせたそ
の男は、ちはるがかつて勤めていた店での常連客だった。















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