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夜。それは闇が蔓延る異界。
夜。それは恐怖が支配する無法の世界。
夜。それは最も光が輝く世界。

ナイトハンター 1章

深夜のとある公園。昼間なら沢山の人でにぎわっているその場所も夜となっては殆ど人がいない。
しかしその日は違った。
そこにいるのは巨大な蛇のような姿をした生き物、そして光の鎧を纏いし人。
互いがぶつかり合い、激しい音が響く中他の人は誰もいなかった。
ただ深い闇の中、幾度と無く光が漏れるだけである。
そうしている内に巨大な蛇は奇声を上げると共にその姿を消した。いや…消滅していった。
その後光はゆっくりと消え、あたりはまた深い闇に閉ざされた。

「ご苦労だったね、大久保君」
とあるオフィスの一室。そこで働く無数の人々。
だがしかし、ここはただの会社ではない。
ある人は言う、『あの会社は化物の巣窟である』と。
ある人は言う、『あそこは何かの秘密結社なのだ』と。
そしてそれらはすべて事実である。
現在電脳生物、通称『デジモン』と呼ばれる生物が各地に出没している。
とはいえ一般の人々はその存在を知ることはない。
彼等はデジモンが公の場に出る前に保護、もしくは撃退をしていた。
しかし最近ではデジモンが人々を襲う事件が急増していた。
そのような事態に対応するため、彼等は会社の中にとある部署を設置した。
それが彼、大久保 武(おおくぼ たけし)の所属する『対電脳生物撃退課』、略して『電撃課』である。
「いえ、的確に仕事をこなしたまでです」
「謙遜することはない。君の活躍はわが社でも有名だからね」
武は2年ほど前に入社したばかりの新人であった。
しかしその戦闘技術の高さを見込まれて電撃課に配属となった。
以来日に日にスコアを伸ばし今では課のエースにまで上り詰めていた。
彼としてはとんでもない出世である。当然給料もうなぎのぼりに上昇、他の同期と考えられない生活をしていた。
「ところで…君、とある公園での襲撃事件は知っているか?」
「襲撃事件?いえ、存じ上げておりませんが?」
「そうか…」
武の返答を聞いた上司は考え込むようにうなった。
「何かあったんですか?」
「いや…こちらがその事件を察知する前、いや起こる前に何者かによって目標が倒されているのだ」
そのことを聞き驚愕する武。
通常、デジモンは普通の武器では傷つけることが出来ない。
故にデジモンを倒せるのは同じデジモンか対デジモン用に改造された武器を使うしかない。
そしてデジモンの存在が殆ど知られていない今、その武器を扱っているのはこの会社しか存在しなかった。
「デジモン同士でぶつかり合ったとは考えられませんか?」
「私もその線で考えているが…とりあえず我々の知らぬ何かがあるということだけは覚えていてくれ」
「了解です。それでは私はパトロールに行ってきます」
上司に礼をした武はオフィスから出て行った。
「…まさかとは思うが…『奴』が現れたというのか?」

「お、大久保じゃねぇか!」
「あぁ、荒井さん」
外を歩いているとひげを生やした中年の男が彼に声をかけた。
彼はフリーのカメラマンでこうして外を歩いては写真を撮っているのであった。
そして彼はデジモンの存在を知る数少ない人の一人でもある。
以前からの古い付き合いである武はたまにさまざまな情報を聞いていた。
「ようよう、ちょっと小耳に挟んだんだがよ…聞きたくねぇか?」
「何か情報でも?どっかにデジモンが現れましたか?」
「いや、最近各地に出没しているヒーローの噂だよ」
「ヒーロー?何かの特撮番組の登場人物ですか?」
「いやそれがよ…話を聞いてみるとどうやらデジモンを倒して回ってるようだぜ?」
「はい?!デジモンを?!」
信じられない情報に思わず耳を疑ってしまう武。しかし荒井がこのような時に冗談を言わないことは武が一番良く知っていた。
だがそれでも信じられない。いや、信じたくなかった。
もしその存在が本当ならば今までの行いが無駄になってしまうと思えたからだ。
「それって…どういうことですか?」
「あぁ、名前は『ナイトハンター』。真夜中に現れては化物退治をしてるって噂だが…多分その化物ってデジモンのことだろうな。ま、あくまで噂だがとりあえず覚えておいてくれよ」
「は、はぁ…」

そして夜、武はいてもたってもいられず外に飛び出していた。
もしかしたら会えるかもしれない。そんな想いが武の頭の中にあった。
だが歩いても歩いてもそのような気配はどこにもない。
そうしている内にあたりは暗闇に包まれた。
「…やはり無理か」
そう思い帰ろうとしたその時、どこからか悲鳴が聞こえた。
急いでその方向へと駆け出すとそこには倒れた女性とマントを羽織った男がいた。
「お前…何をしている!」
「何を…とは心外だな。私はただ食事をしただけだ」
男はさも当然のことをしているかのように話す。だがその表情には邪悪な笑みが映っていた。
「お前…デジモンだな?」
「だとすれば…どうする?」
「決まっている!お前のような人に危害を加えるデジモンはここで倒す!」
すぐさま腰のホルスターから銃を抜き発砲する。だが男は闇に紛れその姿を消した。
突然消えたことに戸惑う武だが、突然後ろから衝撃が加えられその場に倒れた。
「ぐっ…つ、強い…」
「私が強いのではなくお前が弱いのだ。今までどんな奴等を相手にしていたかしらんがその程度で私に勝負を挑むとはな」
武は今まで苦戦したことは多々あったが負けたことは一度も無かった。
それ故にこの敗北は彼のプライドを大きく傷つけた。
「く…」
「さて、小腹が空いた。男はあまり好かんが致し方あるまい」
男は武の頭を掴んで持ち上げる。
そしてその長い牙で武の首に噛み付こうとした。
「クッ…この俺が…」

だが彼の首が血に染まることは無かった。
その前に男の腕が切断されたからである。
「グガアアアアアアッ?!」
男は絶叫と共に悶える。その一瞬の隙をつき武は男から離れた。
「だ、誰だ…一体…」
「…ヴァンデモン、完全体クラスか。珍しい奴がいたものだ」
暗闇の中、何か光が見えた。
それは棒…いや剣の形に光っており、それを誰かが持っていた。
「少々遅れたが…まだたいした被害でもなさそうだ」
「き、貴様…何者だ!」
ゆっくりとその姿が見えてくる。
それは黒いコートを着た人間であった。
「…ナイトハンター、闇夜の狩人だ」
その声と共に体が光り輝き、その姿が変質する。
光が止んだとき、そこには白い鎧を身に付けた男が立っていた。
「…ヴォルフモン」
「グ…貴様?!」
ヴァンデモンはすぐさまヴォルフモンに飛び掛る。
ヴォルフモンもそれに応戦していた。
そして武はただ見ていることしか出来なかった。
「あれは…まさか…『スピリット』?」
彼がかつて、上司から聞いた話である。
人間の中には10人、スピリットと呼ばれる魂を体内に持っているという。
原因は定かではないが一つ言えること、それは『人間でありながらデジモンと対抗できる存在である』ということ。
そして恐らく、ナイトハンターと名乗った男がその内の一人なのであろう。
「まさか…本当に存在していたなんて…」

一方、ヴァンデモンとヴォルフモンとの戦いは一方的であった。
すでに片腕を失ったヴァンデモンにとってヴォルフモンの攻撃をすべて受けることは不可能である。
故に徐々に追い詰められ身体に無数の傷ができていた。
「グググ…このままでは…『ナイトレイド』!」
突如現れた無数のコウモリがヴォルフモンを襲う。
だがそれを光の剣で次々と切り裂きヴァンデモンに詰め寄った。
「あ…」
「…虚無の闇に消え去れ、『リヒト・ズィーガー』!」
ヴォルフモンとヴァンデモンが交差する。そして…
ヴァンデモンは叫び声と共に闇の中へと消え去った。

「…すごい」
武はただ呆然とその戦いを眺めていた。
まだ戦い出してから日の浅い武にとってこの戦いはまさに神秘的なものだったのだ。
「…そ、そうだ!お前!」
武が声を掛けるとヴォルフモンは進化を解きながら振り向く。
その顔は暗闇でよく見えない。
「お前…お前が公園の事件を解決した…」
「…名は」
「へっ?俺か…俺は大久保武。…お前は?」
「…ナイトハンター、それが今の私の名だ。しかし…大久保、武か…」
暗闇の中に微かに見える瞳は武を懐かしむように見つめていた。
「…武、お前はもっと強くなれる。精進を怠るな」
そういうとナイトハンターは夜の闇に紛れ見えなくなった。
恐らく今追いかけても追いつくことは出来ないだろう。
「ナイトハンターか…いつか、また会えるかな」

…これは、夜の狩人と少年との最初の物語である。