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前回のあらすじ
自らが戦う意味とルーチェモンがデジタルワールドを破壊する理由。この二つを愛は、夢なのか現実なのかもわからないまま、聞き覚えのある声を持つ『誰か』から問われる。
そして、愛を人質に、パルモンの前に現れたマイケル。パルモンのデジコアに埋め込まれている『秘伝書』もとい『テスタメント・チップ』は、ピコデビモンから進化したデビモンによって奪い取られてしまうのだった。

第三十一話 不機嫌なパルモン

朝食の用意ができた、というわけで、信一達は案内のゴツモンを先頭に廊下を歩いていた。
ちなみに、ゴールドブイドラモンはいつの間にかフレイドラモンになっていた。本人曰く、この姿が一番落ち着くらしい。
昨日は戦いが終わるや否や眠りについたため、長時間眠ることができたうえに、久しぶりに屋根のあるところで眠れたので、皆、すっきりとした面持ちである。
一名を除いて。
「頭がガンガンするぅ……」
大きなあくびを何度もしながら、おぼつかない足取りで、愛は進んでいた。足元で歩いているプロットモンが心配そうに見上げている。
「愛、やっぱり寝てたほうがいいんじゃない?」
パタモンを頭にのせた信一が愛の顔を覗き込む。疲れの色は見えないが、とにかく、非常に眠たそうであった。
愛は強く首を横に振った。
「今日はパルモンに色々質問をするんでしょう。あたしだって、パルモンに訊きたいことがあるもの」
そして、とってつけたように
「お腹も減ってるしね」
と、弱々しく微笑むのだった。

信一達が案内された部屋は、昨日と同じく、無駄に大きなあの部屋だった。
昨日の戦いの爪あとは嘘のように消え去っている。少年が壁に空けた穴もなければ、ソウエンが天井に空けた大穴もない。すっかり元通りだ。
いや、そんなことより、部屋に入った全員が一番に感じたのは、部屋中においしそうな匂いがたちこめていることだった。
「はやくいらっしゃい、冷めちゃうわよ」
部屋の中央に置かれている食卓に、すでにパルモンがついており、手招きしている。こころなしかパルモンの顔色が悪いようだ。まあ、もともと緑色であるから、なんとも言えないが。
信一達はというと、パルモンの顔色なんかに気づく気配もなく、近づくにつれ、どんどん強くなっていくいい香りに、歩くのがじれったくなってゆき、いつの間にか小走りで食卓に近づいていた。
そして、そこに並べられている湯気を出している美味しそうな食べ物の数々を見るなり、素早く席に着き、いただきます、と言ったのかどうかもはっきりしないうちに食事にかぶりついていた。愛も眠気なんか吹っ飛んでしまったかのように目の前のおにぎりをほうばっている。
その様子を見てパルモンは思わず苦笑した。
「昨日は夕食を食べていないものね。無理もないわ。さてと、ゴツモンはあの手袋を持ってきてくれるかしら?」
「はい。……あの、なにに使うのですか?」
すると、パルモンは意味ありげにフレイドラモンを一瞥して、
「長年行方不明になっていたあのチップがようやく見つかったわ」
と言うなり、自分も食事に手をつけ始めた。

ゴツモンが、妖しげなオーラを放つ黒い手袋を持ってきた時には、食事はあらかたなくなっていた。所要時間5分といったところか。
「パルモン様、おまたせいたしました」
ゴツモンが恭しく差し出した手袋を「ありがとう」と言って受け取ると、パルモンは早速はめた。パルモン独特の手の形にちゃんと対応してあるようだ。
「突然だけど、フレイドラモン、あなた、もしかして、昔のことを憶えていないんじゃない?」
満腹となり、幸せそうなため息をついていたフレイドラモンは、そう言われるなり、はっと真顔になってパルモンを見つめた。
「なんで、そのことを知ってるんだ」
「あなたが、デジメンタル・チップを持っているからよ」
「デジメンタル・チップ?」
耳慣れない単語に全員が首を傾げる。
「そもそもデジメンタルの説明からしなきゃだめね。デジメンタルっていうのは、古代種のデジモンをアーマー進化させることができる力を持ったアイテムよ。ちなみに、アーマー進化っていうのは、デジメンタルを使った進化のことね。
そして、デジメンタル・チップは、全てのデジメンタルのデータをそのままチップに記録して、デジコア――デジモンの心臓部に埋め込めるようにしたものよ。デジメンタルっていうのは複数あるから、チップにまとめることによって、そのチップ一つですませようとしたってわけなんだけどね。まあ、便利は便利だけど、とんでもなく負担がかかるのよ。チップを埋め込まれたデジモンの体に。だから、フレイドラモンに昔の記憶がないのもそのせいだと思う。チップの負担があまりにも大きくて、本来、記憶の保持に使われるはずのような部分までもが、チップの負担を請け負っていたんだと思う」
一息にそこまで言うと、パルモンが今度は、一言、一言噛み締めるように言った。
「このままだと多分、記憶喪失程度じゃすまなくなるわ。だから今から、あなたのデジコアからチップを取り除く」
「そんなの無理よ」
プロットモンが咎めるような声を上げた。それに続くようにして愛も、
「デジモンの心臓部ってことは、デジコアって体の中にあるんでしょ。そんなところからどうやって取り出すのぉ?」
と、あくびをしながらもっともな疑問を投げかける。
そのとたん、パルモンの顔があからさまに歪んだ。
なにか思い出したくないことでも思い出してしまったかのように。
「パルモン様、どうかなさいましたか?」
「なんでもないわ……」
心配気なゴツモンの問いかけをさらい退けると、パルモンはいつもの調子に戻っていた。
「まあ、アイが不思議がるのも無理ないわね。普通はそんなことできないもの。でもね、先代のワイズモンがとても便利な物を作ってくれたのよ。それがこれ」
そう言って、パルモンは自分がつけている黒い手袋を信一達に見せた。
「これは、デスハンドっていって、相手の体を傷つけることなくデジコアに触れられる優れものなの。これを使えば、ばっちりチップがとれるわ」
この時、ゴツモンはパルモンの異変に気づいていた。
感情を押し殺したような、淡々とした話し方。愛から質問されたときのあの反応……。
先代のワイズモンのころから仕えているため、パルモンとも長い付き合いになるが、こんなことは始めてだった。
「……あの、パルモン様。お加減がよろしくないのでは?」
パルモンは表情を全く変えず、小さく口を動かす。
「そんなことないわよ」
そんなことないわけがございません!
危うくゴツモンはそう叫ぶところだった。それほど、パルモンの今の返答はぶっきらぼうな響きがあったのだ。
しかし、自らの主にそんな失礼を侵すわけにもいかず、またもや、何事もなかったかのように話し始めてしまったので、ゴツモンは無理矢理その言葉を飲み込んだ。
「そういうわけだから、早速作業を始めてもいいかしら?」
まるで、一緒にお茶をいかが?とでも誘うかのように気楽に言うパルモンに、今から自分のデジコアを触られるフレイドラモンはドギマギしながらパルモンに問う。
「本当に大丈夫なんだろうな」
すると、パルモンは肩をすくめ、ため息をついた。
「けっこう痛い。……さぁ、さっさとやるわよ」
「え、ちょ、ま、待ってくれ。痛いって……」
フレイドラモンが言い終わらないうちにパルモンは右腕をフレイドラモンの胸の辺りに突っ込む。
「いっでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
こうして、フレイドラモンの疑問は自らの身をもって解決された。

フレイドラモンの絶叫がブリンプモンの中で響き渡っていたころ。
天に浮き、聖なる光を放つ白い城のような建物――サンクチュアリと呼ばれる神の宮に、場違いとしか思えない、黒い堕天使が吸い込まれていった。
堕天使はデビモンであり、その背にはパートナーであるマイケルを乗せている。
デビモンは本がびっしりと並べられた部屋にたどり着くと、マイケルを降ろし、ピコデビモンに退化した。
どうやら、図書室のようで、部屋の中央の大きな円の机には、12枚の翼をもつ天使が読書に興じている。
自分に近づいてくる存在に気づくと天使は顔を上げた。
「やあ、よくここがわかったね。戻ってきた、ということは『秘伝書』は手に入ったわけだ」
「どうにかね。でも、正式名称は『テスタメント・チップ』っていうらしいよ」
そう言って、マイケルはズボンのポケットに入っていた親指の爪ほどのチップを手に乗せ、天使に見せる。
すると、このサンクチュアリの主であり、デジタルワールドの神でもある、天使、ルーチェモンはあどけない顔で笑い、言った。
「これで、僕の望みが叶う時がぐんと近くなった」

つづく