プロローグ いわゆる1つの萌え要素
「メイド喫茶!」
開口一番、彼女が言った言葉がそれだった。
本日の定例会、議題は「文化祭の出し物について」、だ。ここ魔界立東高校では、近々文化祭が開催される予定になっている。そこで、我ら生徒会も何か企画事をやろうという会長の提案で、俺たちはこうして放課後の生徒会室に集まっているわけである。と、まあここまで説明すれば、先程の台詞の意味も分かってもらえたのではないかと思う。つまり、
「文化祭ではメイド喫茶をやる!」
と、いう訳のようだ。発言主の暮崎秋華生徒会長は、眼鏡の奥から今日も不敵な光を放っている。
「あの、お言葉ですが」
「何だよ絵馬。文句でもあんのか」
そう言って鋭角15度の視線を俺に突きつける秋華会長。ちなみに、絵馬っていうのは俺の名前。辰巳絵馬。本編での語りを務めさせて頂きます。どうぞよろしく、ってのは置いといて、
「何故にメイド喫茶なんですか。普通の喫茶店とか……」
「甘い!!」
一刀両断。
「そんなんじゃ生徒の心は掴めねえ!この学校にはな、お帰りなさいませ御主人様♪と言われてみたい奴がごまんといる筈だ。この俺様のように!」
あんただけじゃねえのか。
「そいつらのハートを鷲掴みにし、ベスト企画賞は俺様が頂く!」
あんた個人がかよ。会長は長い三つ編みを大げさに揺らし、人差し指でびしりと天井を指す。副会長の霧生弥生先輩は、黒板に綺麗な字で「メイド喫茶」と書き込む。おいおい、良いのかよ。
「良いんじゃないですか。儲かりそうですし」
目に円マークを浮かべて言うのは、会計係のヴェナス=リイナ。
「リイナがそう言うのなら、私も異論は無い」
双子の姉であるヴァレル=リエナも賛成のようだ。
「面白そう!」
頭に鍔広トンガリ帽子を乗っけた水森ミチは楽しそうに言う。
「私もメイド服着てみたいかも」
俺の隣に座っている深森えみるも同様。待て待て、お前らマジか?反対意見が出ないことに本気で焦り始めた俺は、遅れて登場した霧生カイ先輩の姿を見てほっとした。生徒会メンバーの中でトップの常識力を備えた彼なら、まともな意見を出してくれる筈だ。
「悪い、クラスの話し合いが長引いてさ」
もっともな言い訳を口にしつつ、カイ先輩は黒板に目を移し、
「メイド喫茶?へー、良いんじゃねえの」
最後の砦はあっさりと陥落した。「よっしゃ、決定!!」と会長は叫び、生徒会の出し物はメイド喫茶に決定してしまった。マジでか。呆然としていた俺に向かい、カイ先輩は苦笑いで、
「俺たちもメイドやんのかな?」
死んでもやんねえよ!あんた一人でやれ!そこで、ふと疑問が頭に浮かぶ。
「ところで、経費ってどこから出るんすか?」
「それなら心配無用」
会長はにっと笑うと、ポケットから札束を取り出す。しかも結構な厚さの。ど、どこからそんな大金が。まままさか!
「生徒会費からちょろまかしたんじゃ……!」
「そんなんじゃねえよ」
心外だ、と言うように顔をしかめ、
「カツアゲしようとしてた不良から逆に巻き上げてやったんだよ」
……。どっちにしろ黒い金だった。やれやれ、とにかくこの日の会議はこれで終了。俺は何だか憂鬱な気分で生徒会室を後にした。