運命というものは、突然で強引で曖昧で、必然だ。
(めんどくせぇ・・・)
暮崎秋華は顔をしかめた。目の前には三人の学生。黒いローブの制服からして魔法科の生徒だ。そうしているだけでもかなり違圧感がある。
秋華はさりげなく後ろを振り返った。・・・誰もいない。
(人払いもばっちりかよ、ごくろーさん)
密かに三人をねぎらった。・・・皮肉だが。
三人はじりじりと、秋華に近付いてきた。確実に術をかけるつもりなのだろう。めんどくせーからさっさと来いよな、なんてことを考えていると、ようやく一人が杖を上げた。目を閉じ、口の中で何かつぶやく。
杖先から光がほとばしる。それはまっすぐ秋華に向かい・・・腕に当たるとはじけて消えた。
「!」
魔法科の三人は目を見開く。のけぞるように秋華から離れると、かたまって相談を始めた。
「ちゃんとかけたんだろーな」
「かけたよー、コウモリに変えるやつ」
「動物だからだめなんじゃない?昆虫とか石とかだったら・・・」
「オイ」
三人がぎくりと振り向く。すぐ後ろに秋華が立っていた。
「俺様はお前らの魔法の実験台じゃねえ。見ろよここ、焼け焦げちまったじゃねーか!」
そう言って三人をぐるりと見渡す。
「それにしても・・・コウモリに石、だって?てめえらなめんじゃねーよ」
凶悪な笑みを浮かべた。
「ひっ・・・」
「お前らの方はそれで終わりか?だったら今度は俺様が行くぜ!こんな所にこの俺様を呼び出したんだ。少しは楽しませてくれるよな?」
「うわあああああああああああっ!」
一人がパニックを起こし、闇雲に杖を振り下ろす。それは秋華に弾かれて近くの木に当たった。木は紫の炎を上げて燃え上がる。
「危ねえな・・・。でも俺様には通じないみたいだぜ?」
今度はニカッと、歯を見せて笑う。
「てめえら、みんなまとめて殺っ・・・」
「やめて下さい!」
その場が止まった。
秋華が声の方を見て、
「げっ・・・」
とうめいた。
そこにいたのは黒い制服と腕章の集団だった。東高生徒会役員のお出ましだ。彼らには魔法科の黒いローブでもなく、普通科のクリーム色のブレザーでもない特別な黒い制服と、腕章が与えられる。
秋華の友人、道野さゆりなんかは、よくこの制服を「カッコイイ」と言っていたが、秋華自身は別にどうでもよかった。
ともかく、その生徒会が今、ここにいる。
「・・・・・・」
改めて、自分の置かれた状況を考えてみた。今自分は三人の後輩に暴力をふるおうとしていた、大人げない先輩に見えるはずだ。いや、三人にも杖の無断所持という罪は問われるはずだが、しかし・・・。
生徒会役員は全員、魔法科の生徒、である。
(めちゃめちゃ不利じゃねーか・・・)
普通科の生徒と魔法科の生徒は仲が悪い。これはもう東高の伝統とも言える。魔法科の生徒が普通科の生徒を見下し、普通科の生徒はそんな彼らに嫌悪感を募らす・・・これが代々エンドレスに続く・・・という、最悪のパターンだった。秋華はあまり意識していないのだが、クリーム色のブレザーを着ているだけで魔法科の嘲笑やちょっかいを受けたりしたことがある。
そこまで考えて秋華はくるりと回れ右をした。逃げなければいけない。しかし、
「待って下さい!」
と言う声とともに、秋華の目の前の空間が切り取られ、なくなった。
(万事休す、だ)
秋華は覚悟して振り返った。
フクロウの白バッジ(Owl White Color)をつけた女生徒がこっちを見ている。
それこそ現生徒会長、魔法科四年、【空間組み立て師】の異名を持つ、佐倉篠だった。