「…ミチ!」
「リエナ先輩!良かった。」
駐輪所で深刻な顔をして悩んでいた女子生徒は、リエナの姿を認めて破顔した。
彼女の名は水森ミチ。リエナと同じく生徒会で、交通委員をしている。小柄で、ぴんと跳ねた後ろ髪と大きなとんがり帽子がチャームポイントだ。
「今日、何だか数が多くて…まだ、そこにいてくれて良かったです。」
「ミチノ、イウトオリ!リイナノナマエイッタラ、ツイテキタ。タンジュン、タンジュン。」
「…そうだ、今日は弁当がなくてな?どうしようかと思っていたのだが、よかったよかった。ここに焼き鳥がいるじゃないかあはは。今日は焼き鳥で一杯だ☆」
「リエナ先輩、オルス食べてもおいしくないですよ。」
とても爽やかに笑いながらオルスの首根っこを掴んだリエナを、ミチが嘆息しながら止める。
「…あんまり多くて、複雑だから…オルスの力使っても、キリないみたいですし。だから、手伝ってもらおうと思って。」
「成程、不正駐輪をここに集めればいいのだな?良かろう、1,2年をするから3年を頼む。」
「わかりました。オルス、コード43。三年生の分を集めて。」
「リョーカイ、リョーカイ。」
リエナはおもむろに目を瞑り、オルスは静かに羽ばたきをはじめた。
空間が、ぐるり、と、急に歪んだような感覚が、リエナを襲う。
二つの魔法が同時に使われたため、空間が耐え切れずに歪み始めたのだ。
しかし、それも一瞬のこと。
次の瞬間には、二人(プラス一匹)の目の前に大量の自転車が集まっていた。
「…ふぅ、少し疲れたな。後は任せたぞ、ミチ。」
「タイシタコトナイ。ミカケダオシ、ミカケダオシ。」
「そうかぁ、そんなに鳥が大気圏突入できるかどうか試したいのだな?よぉおし、手伝ってやるぞオルス。」
「…リエナ先輩、任されたからオルスにかまうの止めましょうよ。」
まさに一種即発、殺気だってにらみ合いを始めたリエナとオルスを無理矢理止め、渋々ながら離れたのを見て、ミチは自転車の山に向き直った。
ぱちん、と指を鳴らす。
すると、大気中から数多の水滴が集まって集まって、巨大な水の塊になると。
「…自業自得、よね?」
にっこりと笑い、人差し指を下に向ける。
どぉおおぉぉんっ!と、普通の水ではあり得ないような音が響き、たくさんの自転車の上に、落下した。
直撃を被った自転車達は、何十トンという水が降ってきたため…もはや、以前なんだったのかわからない物体X(仮)になってしまっていた。
「よしっ!」
「…なぁオルス、本当に私のほうが怖いか…?」
「テッカイ、テッカイ…ヤッパリ、ミチコワイ…」
先ほどの喧嘩はどこへやら、リエナとオルスは身を寄せ合って震えた。
その様子を怪訝に思ったのか、ミチが小首を傾げ、問いかけてきた。
「どうしたんですか?今から行けば、まだ一時間目に間に合うと思いますけど。」
「私はいつも遅れているから別にかまわんのだがな…否、どうでもよいことだ。さて、行くか『水の神槌(アクア・トール・ハンマー)』。」
「はい、『正義の黒(ジャスティス・ブラック)』。」
お互いをお互いの二つ名で呼び合い、相当危険な生徒会二人は、それぞれの教室へと小走りでかけていった。