ヴァネッサ・オースティン

ヴァネッサ・オースティン/Vanessa・Austin

年齢:24 職業:闇医者 性別:女 レベル:7 メイン:聖職者 サブ:魔導博士 エクストラ:背教者 追加サブ:- 種族:魔族
参戦回数:-回 タグ:帰3 身長:- 体重:- PL名:ペンネ
イメージソング:月光花/紅空恋歌

「死んで無いなら私の患者だ。死神に手出しはさせねえよ。たとえ犯罪者だろうがな」


外見
 病的なほどに青白い肌、脱色したかのような白髪を持つ妙齢の女性。
 鮫のようなギザギザの歯と、よく浮かべている愉悦を感じさせるような笑みは見るもの不安にさせる。
 外出時は黒い長袖の、顔を隠すようなフードを夏でも着込む。その服の内側にはメスや鉗子などの医療器具が並んでいる。
 診療所内ではもっぱら清潔な白衣に身を包んでいる。外出時でも白衣の時でも、胸に掛けられた銀のロザリオを外すことはない。
 黒衣の下に隠された背には、巨大な魔法陣を模した烙印が押されている。

人物
 空島で活動する闇医者。その診療費は高額だが、法外というほどでは無い。
 旧市街の元診療所らしき施設を勝手に借りて医療施設を開いている。
 患者が悪人だろうと貧乏人だろうと、動物だろうと不死者であろうと決して選り好みをせずに治療を行う。ただし、悪魔だけはお断りの看板を掲げている。
 性格はざっくばらんとしており、口調も荒く開放的。不敵な笑みをいつも浮かべ、患者に対しても丁寧な対応をすることはない。
 魔法使い免許も医師免許ももたない正真正銘の犯罪者だが、そのことはまるで感じさせない雰囲気を持った女傑である。
 料理は得意だが、自分の食べる分についてはひたすらに雑。3食ニョロニョロで済ませることもある。地上にいた時は3食携帯食料だったのでこれでも改善されている。

オースティン診療所
 旧市街に文字どおり生えている一軒家の診療所。
 見た目はボロいが内部は清潔。2人までなら入院できるスペースが設けられている。
 待合部屋にはヴァネッサが持ち込んだ聖母の彫像が堂々と置かれている。朝早くに訪れたのならば、その像に祈っているヴァネッサの姿を見ることもできる。
 ヴァネッサは2階で生活している。ただし、その部屋は雑多で足の踏み場もなく、食べ物のパッケージが転がっていることなどザラ。
 本人曰く「3か月に一回ぐらいは大掃除しているがいつの間にか散らかっている」とのこと。
 診療スペースは同一人物の住居と思えないほどに片付いている。

来歴
 小学生の頃まで暁月市に住んでいたが、下校途中に悪魔崇拝者の教団に誘拐され、生贄の烙印を押される。
 そして2年間を囚われの身のまま過ごす。数か月に一人ずつ減っていく同じ境遇の者たちを虚ろな目で見続けてきた。
 2年目の「ある日」。教団のアジトに教会所属の対悪魔戦用異端審問組織"オルレアンの火刑台"によって、教団は壊滅する。
 悪魔の生贄の烙印を押されたヴァネッサもまた、いずれ悪魔に魅入られる者として消される……はずだった。
 ヴァネッサを発見した"オルレアンの火刑台"の一員、壮年の騎士ロッソ・シャルトルージュはヴァネッサの存在を隠蔽。彼自身も"オルレアンの火刑台"を抜け、背教の逃亡者となる。
 組織を抜ける者には死を。その鉄の掟を破ってまでヴァネッサを助けた理由は、彼自身の最期まで決して伝えることはなかった。

 その後、ロッソに匿われて暁月市へと帰り着いたヴァネッサが見たのは、かつて自身が過ごした街に存在する巨大なクレーターだった。
 帰るべき場所を亡くした彼女は、その後も半ば無理やりのようにロッソに追従した。
 自分に付いてくるといずれ教会の追っ手に殺されるとして、何度も置いて行かれそうになったがその度に何をしてでも見つけ出し、ついて行った。
 根負けしたロッソは、ヴァネッサに最低限身を守るための聖職の術と、かつて学んだ医術のすべてを伝える。
 そして何よりも、神の教えを。
 ある日も、「ある日」も。

 それから月日が過ぎて、「その日」。
 ヴァネッサは、寄り添うべき人も失った。
 教会から背教者として見咎められ、もはや身一つとなった彼女は、かつて自分が過ごした場所の果てで、自らの信念を貫く。
 ただ一人の師の教え通りに、命を繋げるために。

+ 活動記録
+ ゴリラVSオバチャン
  • 患者1名入院。早急な対処の必要あり。延命治療を行う。
  • 違法使い1名を捕縛。
+ 蹴球怪獣
  • 何も変わらなかった。
+ 天国に一番近い島
  • 不死者を抹消。
+ ワタシハカモメ
  • 盗賊団を排除
  • 死神と遭遇
+ 不正の温床
  • ランデルの一員を排除
  • 感謝状を受け取る。違法使いカモフラージュのために診療所に飾る。
+ 仄暗い旧市街の中で
  • 違法使いを排除
  • 義肢を作成する
+ 偏執病のストロベリー
  • 負傷者の治療
  • 患者(ともだち)のケア
+ G&R4 ”闇医者”シオドアの後悔
  • 緊急オペを一件
  • 同類を一人殴る
+ 不死者達の王都記録 第六話 「拝啓 母上様」
  • 不死者の殺害
  • 不死者の救済

+ カルテ
  • 夜桜クロエ
 共犯者。エキノコックスに注意。
  • 百鬼冀求
 偏食の傾向あり。希望の中毒には気をつけろよ。
  • ベル
 ただの常識知らず。
  • 長谷川
 要注意。九城出身者。肝臓の検査が必要。考えが読めない。これだから探偵ってやつは。
  • とみかみ
 零落神。栄養不足の可能性あり。国生みは私のいないとこでならやってくれていいぞ。
  • アスタ
 苦労人。サービスしておいた。
  • シュバルツ
 警戒。ああいう目は見たことがある。
  • 百合谷葵
 暁月市出身者。過去の思い出にすがりついても何も変わらねえんだよ。
  • 青空真昼
 バカなガキ。人を見る目は養ったほうがいいぞ。
  • 林崎壮真
 青いガキ。早死にしないうちに帰るんだな。
  • デス穂
 死神、安楽死が得意、悪魔使い。役満だ。
  • 名無しの赤毛
 詳細不明。注意。
  • ステラ
 無知。暴力に訴えやすい。
  • 久遠レイ
 英雄志望。素質はある。
  • 風祭左京
 元男性。死亡する度に何かを奪われていく。
  • 月門之人
 大食い。健康体。
  • 槇島亮治
 最大警戒。ランデル勤務。可能な限り近づくな。警戒はされていない様子。この調子を継続する。
  • エコー
 警戒。ランデル勤務。猫。アイスを食う時はゆっくりとだ。
  • ユーリ
 要注意。傭兵気質。警戒されているようだ。薬学の知識あり。
  • 日陰
 狐っぽい。エキノコックスに注意。
  • 天都
 冷静。使える人物になりえる。
  • アイン
 少年に見えるが老成している。本質はどんなものやら。
  • 芦原凪
 警戒中。飄々として見えるが実際は異なる。
  • 定礎
 ……よく、分からない。建築系の魔法なのか?
  • カモミール
 常識人。いい目を持っている。独自の交友を持つ。
  • 魂魄
 警戒。殺人鬼。患者。
  • カスガイ
 不明。妙な違和感がある。
  • デビット・小林
 無頼。太刀筋は見事。

PickUp

+ あの日
 「あの日」は美しい月の夜だった。その横顔を朱に染めることに罪悪感を覚えるほどの。
 異端審問組織"オルレアンの火刑台"の一員、ロッソ・シャルトルージュは本日の目的である、教会を思わせる建造物の前で深いため息をつこうとして、慌てて口を閉じた。
 そのような府抜けた姿、あのおっかない上司であるセレスに見つかりでもしたら大事だ。周囲に自分以外の人間の姿はないが、気を付けるに越したことはない。
 「怒らなければ美人なんだがね……」
 ぼやきながら、任務について頭の中で確認を行う。今日の任務は悪魔崇拝の教団の殲滅。いつも通りに処理し、いつも通りに帰って、いつも通りに質素な食事、風呂を済ませて本を読んで就寝する。それだけだ。
 そのために、彼は十字架を模した歪な形の銃を構え、ヘッドセットのスイッチを定刻通りに入れた。
 「時間だ。アンデレ1はポイントCへAhead。アンデレ2はその場で待機」
 「jud.」
 凛と張り詰めた声が耳元に響き渡る。予定通りの伝達と応答。指示されたとおりに進撃し、指示されたとおりに古めかしい扉を開ける。
 教会裏手の……悪魔教団の拠点を教会と認めたくはないが、裏手の扉を開いた先には一人の男性がいた。
 「だ、誰だおま――」
 「悪いね」
 男性が声を上げる前に、慣れた手つきで首筋にナイフを突き刺す。男の口から風切り音のような声が漏れて、一呼吸後に鮮血が噴き出す。男は何が起こったのかを把握することもできずに一瞬で絶命した。
 対魔法使い戦で気を付けることは、相手に状況を把握する時間を与えないことだ。魔法使い、特に上位の相手はいかなる状況に対しても必ず対応してくる。だが、対応できるがゆえに、完璧な対応を行おうとして思考の隙が生まれる。彼ら悪魔・魔法使い専門の異端審問官にとってみれば十分すぎるほどの隙だ。彼らは、人がいれば誰であろうと殺す訓練しか受けていないのだから。

 異端審問組織"オルレアンの火刑台"。
 大聖堂直下の暗部組織であり、公に知るものこそいないが存在だけはまことしやかにささやかれている。
 その任務はただ一つ。魔法、悪魔に関するものを全て殺しつくすこと。
 それは目撃者とて例外はなく、彼らの処理した事件が伝わるのは、失敗したときだけだ。
 その組織の一員たるロッソは、人を一人殺した後だというのに表情一つ変えることなく交戦を報告して周囲を確認する。
 件の悪魔教団の人数は14人。たった殺害したのが仲間だとするならば、残り13人。
 もっとも、彼らにとって数は意味を成さない。何故ならば、彼らの殺害対象は「この場にいる自分たち以外の全員」なのだから。
 周囲に見えるのは釜土に大鍋、包丁など。水場もあり、どうやら厨房のようだ。
 悪魔的儀式に使えるようなものも見えるが、いかに悪魔崇拝教団といえど、外部からドア一枚隔てた場所で儀式を行うことはないだろう。ならばやはり厨房か。
 視界内のクリアを確認し、彼は二つある扉の片方を選択し、先へと進む。施錠されていたが、たやすく解除する。
 経験上、厨房の付近には悪魔儀式場が多い。「生贄」をより楽に保存でき、「解体」も容易だからだ。先に儀式場を潰すために、彼は教会の中央へと向かうルートは選択せずに端を回るような扉を選択した。
 ビンゴ。正直言うと当たってほしくなかった。地下へ続く階段だ。鍵がかかっていたことからも分かっていたが、どうやら儀式場か生贄の保管所が近いらしい。血と鉄、そしてカビの混ざり合った嫌な臭いが深淵を思わせるような深い階段の底から湧き上がってくる。
 慎重に階段を下りる。一歩降りるごとにひんやりとした空気が体を冷やす。
 「頼むから何も出ないでくれよ……」
 先ほど一人の人間を躊躇無く殺した人間と同一人物とは思えない、情けない声を出しながらゆっくりと降りる。狭い階段では前後からの奇襲に気を付けなければならない。同時に襲い掛かられでもしたら最悪だ。慎重に慎重を期すぐらいでちょうどいい。
 結果だけ言うのならば警戒は杞憂に終わった。彼は拍子抜けするほどにあっさりと最下層にたどり着き、周囲に敵影が存在しないことを確認した。
 そう、敵影は。
 「……敵であったほうが、助かったんだけどね」
 呟きながら覗きこむのは鉄格子の奥。地下は鉄格子がいくつも並ぶ空間になっており、どう見ても地下牢だった。床にこびり付いた黒色の染みの意味は、考えないほうがいいだろう。
 その牢屋の一つの中にいたのは、一人の全裸の少女。年のころは12,3歳といったところだろうか。
 頬はやせこけており、元は美しかったであろう黒髪も、脂が浮いてギトギトになっていた。
 落ち窪んだ赤い瞳は、ロッソのことすらも視界に入らないというように虚空を見つめている。
 そして何よりも目を引くのは、病的なまでに白い肌を持つ背に浮かんだ、火傷の跡。
 「生贄の刻印、か」
 生贄の刻印。それは、悪魔使いが用いる禁術の一つ。魔法に適性がある子供に刻み込むことで、悪魔との親和性を高める忌むべき魔術。刻み込まれた対象は通常1か月も持たずに発狂して死亡するが、彼女の状態を考えると幸いにも……幸いといっていいのかは分からないが、親和性は高かったらしい。
 「…………」
 ロッソは、支給品の銃に魔弾を込める。魔弾の名は"獄炎弾アイム"。26の軍団を率いる公爵、アイムの力を封じた魔弾であり、その殺傷力は彼の持つ魔弾の中で最も高い。
 せめて、苦しまずに――。神の信徒である前に背教者であるロッソが彼女のために祈れることは、それだけだった。
 "オルレアンの火刑台"の掟に例外はない。出会ったものは、一人残らず殺す。悪魔の生贄として連れてこられた一般人であろうと彼らが躊躇うことはない。それも刻印持ちとなれば猶更だ。いずれ、大きな悪魔召喚の触媒にされるか分かったものではない。
 だが、引き金に指をかけようとしたところで、狭い地下牢にか細い声が響く。
 「……あ」
 少女の目に、光が差したように見えた。幻影だ。そう割り切って、ロッソは引き金を引こうとする。しかし、背教者として鍛えた聴力は、続く少女のか細い声までも詳細に聞き取った。
 「……帰り……たい」
 あと数mm、指を動かせば弾丸は少女を焼き尽くすだろう。だが、引けない。ロッソの頬を汗が伝う。
 "オルレアンの火刑台"の掟は絶対だ。背教者としての機密中の機密の力と情報を持つ彼らには命令違反も脱退も許されない。死ぬまで神のために尽くす。それが彼らの選んだ道だ。
 罪なき子供を、殺害してでもその道を外れることは、できない。
 「長い間、幽閉されていた。正気のはずがない」
 「……生きたい」
 独り言を。自分を納得させるための独り言のつもりだった。返答されるとは思ってはいない。
 「僕は味方ではない。君に終わりを与えに来たものだ。神を信じているのならば、天国での幸福は約束されるだろう」
 「死に、たくない」
 何故、この少女はこのような状況で、生きる活路を見出しているのだろうか。ロッソには、理解ができなかった。
 「どうして生きたいんだ?」
 故に、ロッソは問いかけた。肉体も精神も完全に疲労しきっている少女に対して。当然、まともな答えなんて期待していない。どのみち、もう少女を殺すつもりだ。
 しかし少女は、小さく蚊の鳴くような声であったが確かに答えた。
 「まだ、死んで、ないから」
 地下室に轟音が轟く。音は反響し、少女とロッソの鼓膜を揺らす。
 ロッソの銃からは煙が立ち上がり、眼前の鉄格子を焼き尽くしている。
 煌々とした火の明かりが、少女とロッソの姿を鮮明に照らし出した。
 「ロッソ」
 「ロッソ・シャルトルージュ。僕の名前だ。君の名前は?」
 一言一言、区切るように少女に向かって告げる。屈み込み、少女の手を取って。
 「……ヴァネッサ」
 「そうか。いい名前だ」
 いうが早いか、ロッソはヴァネッサの身体を自分の外套にくるんで肩に担ぐ。人の命とは思えないほどに軽い。
 「ああ、セレスに怒られてしまうね。やれやれ、とんだ拾い物だ」
 そして、一足飛びに階段に向かって駆け出す。ヘッドセットはその場に放り投げた。カツンといい音がして滑って行った。
 「謝罪の言葉を考えておかねばならないか。もっとも、聞いてくれるかは疑問だが」
 そう言って走る彼の顔には、闇の中だというのにくっきりとした微笑が浮かんでいた。

+ ある日
 「三食カップ麺はやめろって言ってるだろ!」
 断崖絶壁に周囲を囲まれた丘の上の一軒家。そこに大声が轟いた。
 「いや、聞いてくれヴァネッサ。最近のカップ麺は体にいいんだ。そういう研究結果が出ていてね」
 「んなわけねーだろ! お行儀よく汁まで飲み干してよお! どんだけ塩分含まれてるのか知らねーのか! 今に高血圧で死ぬぞ!」
 「全ての食べ物は神の恵みだ。残すなんてとんでもない」
 「飲みたいだけだろ! 都合のいい時だけ神様出すんじゃねーよ!」
 子供のように言い合っているのは、50は過ぎているであろう壮年の男性と高校生ほどの年齢の少女。少女の前には食べつくされたカップ麺の空き容器が積まれている。二人の様子を見守るように、石で出来た中型のマリア像は微笑んでいる。
 少女は全身を隠すような長い袖のフード服に身を包んでおり、机を叩いて怒りながらもどこか楽しげにしている様子がうかがえる。
 「だ! か! ら! 今日からカップ麺禁止な! 神に誓えー! 早く誓えー!」
 「!? 待ってくれ、それじゃあ僕は明日から何を食べればいいんだ」
 「……わ、私の手料理、とか?」
 「主よ……」
 「泣くほどか!? 泣くほど嫌なのか!?」
 大げさに両手を組んで祈りを捧げる壮年の男性、ロッソ。二人の様子はどこにでもいるような親子にしか見えなかった。
 「まあ、仕方がない。ヴァネッサの料理の才能が開花するか、僕の胃が敗北するかのどちらかに賭けるとしよう」
 「よっしゃ! 言い方は気に入らねーけど神に誓えよ! 破ったら罰な!」
 勝ち誇ったように笑顔で腕を組むヴァネッサ。未だ血色は悪いものの、年相応に成長した体はいまや美人といって差支えのないレベルに達していた。
 「罰か。どんな罰かな?」
 その言葉を待ってました、と言わんばかりにフフンと鼻を鳴らし、ヴァネッサは意気高く指をロッソへと突きつける。
 「魔弾の使い方教え「駄目だ」
 最後まで言い切る前に、ロッソの言葉が割り込む。
 「何でだよ! 教えてくれたっていいじゃねーか!」
 再び強くテーブルに両手のひらを叩きつけるヴァネッサ。テーブルが揺れ、花瓶が横倒しとなる。花が茎まで露出し、澄んだ水が流れ落ちる。
 「駄目なものは駄目だ。この技術は、人を殺すためのものだ。絶対に教えられない」
 ロッソは強い口調で言い切る。その迫力は、先ほどまでの情けない男性の姿とは違う。威圧感に、ヴァネッサは多少怯んだが、続けて言葉を紡ぐ。
 「んだよケチ! 魔弾があれば、悪魔殺せるんだろ!」
 「悪魔を殺せるなら、悪魔なんていなければ私は皆とあんな別れをせずに済んだんだ! そうすれば今頃は!」
 色素の薄い肌に朱が混じる。明らかに激昂しているが、本人は気が付いていな。それに対してロッソは穏やかな様子で告げる。
 「今頃、皆と共に暁月市の事故に巻き込まれて死んでいるだろうね」
 ヴァネッサが固まる。赤い瞳に映るのは、言いようの無い憤怒。
 構わずに、ロッソは続ける。
 「いいかいヴァネッサ。僕は君を犯罪者にするために、ましてや死なせるために助けたんじゃない。君がそう求め訴えた。それに答えたんだ」
 「目先の欲望にとらわれてはいけない。その先に待つのは、破滅だ。かつての僕がそうであり、今なお歩んでいるこの道が――」
 「くそったらああああああああああ!」
 花瓶が、カップ麺の容器が宙を舞う。ロッソをして、テーブルがひっくり返されたのだと気が付いたのは花瓶の水を頭から被ってからだった。
 「んだよくそっくそっくそおおおおおおおお!!!」
 叫びながら、服の中に手を突っ込んで取り出したのはメスや鉗子などの医療器具。本来はケガや病気の治療に使うそれらだが、乱雑に投げただけでもそれなりの殺傷能力は発揮される。ヴァネッサは遠慮なくそれを全力でロッソに投げつけた。
 「ま、待ってくれ、危ないから」
 それらを片手でいなすが、数が数であるのでヴァネッサに近づくことができない。
 「死んでたって、いいんだよ! あそこに帰れないなら別に、生きてたってなあ!」
 叫びながら、メスの一本を投擲する。それは弧を描いて天井にぶつかり、弾かれた勢いでもって軌跡をある方向へとむけた。
 部屋の中に静かに陳列されているマリア像へと。
 「あ……」 ヴァネッサがそれに気が付くが、既に手を離れたそれを同行することは彼女にはできない。
 瞬間、疾風が走る。
 ロッソが前傾姿勢をとり、コンマ1秒にも満たない時間でマリア像の前に移動する。そして、片腕をガードするように突き出して、メスを腕で食い止める。
 メスは勢いよく刺さり、僅かに血が滲む。
 ヴァネッサは、何も喋れないでいた。ロッソがマリア像を大切にしていたことは知っている。だけど、謝ることもできずに口を開いて閉じてを繰り返しているだけだった。
 「死んでたっていい、か。その言葉は、聞きたくなかった」
 ケガをしているのに、気にした様子一つ見せないロッソに腹が立ったのか。それとも売り言葉に買い言葉、未だ収まらぬ腹の虫を沈めたかったのかは分からない。普段の彼女であったのならば、ロッソ譲りの医療の知識をひけらかすために颯爽と包帯を取り出しただろう。
 「ンだよ……そんなに神様が大事かよ」
 言ってはいけない言葉だと分かっていても、彼女には止めることはできない。
 「いいんだよ死んでたって! 私は、どうやら神様にも見放されてるみたいだしな!」
 「くたばれクソジジイ!」
 真っ赤になった顔で、瞳に感情を溜めながらヴァネッサは駆け出した。
 追いつこうと思えば追いつけるだろうが、ロッソは後を追おうとしない。その事実が杭のようにヴァネッサの心に突き刺さりながら、彼女は自室の扉を開き、全力で閉めた。
 扉が閉まる大きな音を聞きながら、ロッソはゆっくりと地面に腰を下ろす。
 「やれやれ……年柄もなく興奮してしまったようだ」
 興奮した様子など露ほども見せていなかったロッソだが、実際の心境は異なっていた。
 彼もまた、ヴァネッサの発言に聞き逃せないところがあったのだ。
 「……また、三食カップ麺生活かな?」
 ヴァネッサが落ち着いたらまた話をしよう。そう考えながら、ロッソは部屋の片づけに取り掛かった。

+ その日
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最終更新:2017年01月05日 17:20
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