東海道魁星

東海道魁星(とうかいどう かいせい)

年齢:46 性別:男 レベル:4 紋章:知識
メイン:戦士 サブ:錬金術士 エクストラ:悪魔使い 追加サブ:- 種族:幻想種(怪異)
参戦回数:-回 身長:176cm 体重:2.5kg PL名:フラー
イメージアイコン:※1

   「ならば生きてみろ! 解答は其処にある!」

  「ホーリーライトはらめぇ!! 解脱しちゃぁう!!!」


外見
 赤色のマントを羽織った黒灰色の骸骨。身長は成人男性並みで、スリーサイズは上から61-5-40。
 首からは赤色の紋章をネックレスとしてかけている。黒色の革靴を好み、タキシードもたまに着る。

骨格
 五体満足。特に強固なのは骨盤で、おおよそ1.5kgの上半身を戦闘時でも安定して支えている。
 骨は本人の意志で取り外し可能で、大笑いする時はカタカタと下顎骨が揺れる。

来歴
 狂骨に分類される骨の怪異。
 元は恨み辛みを生きる糧として動き続ける存在だった。
 だが、動き続ける間に彼は考え始めた。
 「何故俺は生きているのか?」「何を俺が成せるのか?」「何処が俺の死に場所なのか?」
 そう東から西へ彷徨い続け早四十六年。
 天之川諸島に今は行き着き、ギルドの一員として、アイドルオタクとして活動している。
+ プレストーリー
+ 済-カイ異の誕生
+ 人の終わり
 全て終わったのだ。怪僧は誰も居なくなった仏間の畳を擦りそう思っていた。
 先刻は息子の知人達で溢れていたこの座敷が、やけに広々く感じる。

「私があの時、説得を、できていれば……」
 擦っていた掌に、いつの間にか力が篭もる。落ち始めた夕日も、少年の写真が飾られた仏壇も、何も応えない。
 只々時が過ぎていくそんな時だった。庭先でシャリン、と錫杖の輪同士が擦られた音がした。
 怪僧はハッとしたように音がした方を向き、そこに居た袈裟を着た老僧に対し正座で迎えた。
 老僧の黒い袈裟は彼が歩く度に柔らかい光沢を見せ、織物の質の高さが伺える。
「お久しぶりです、お師匠」
「うむ。……冥福を祈っても?」
 勿論、と怪僧は仏壇への道を譲った。お師匠と呼ばれた老僧は手を合わせ、暫く眼を閉じた。
 厳かな静寂が流れる。老僧は静かに眼を開けると、膝を浮かせて怪僧と向きあう様に座り直す。
「話は聞いた。呪いを受けた息子を、自ら殺めたと」
「……はい」
 怪僧は両手を畳に添えて頭を下げる。
「間違ったことに法力を使ったとして、破門も、覚悟しております」
 その言葉を受け、老僧は柔らかな笑顔で首を振った。
「力を求むる少年が悪鬼に出会ったは不運、人の心を弄びし悪鬼は正しく畜生」
「人をこれ以上殺めさせないため……そなたは最上とはいえないが、良き選択をした」
「数日の暇を出そう。ゆっくり休みなさい」

 怪僧は頭を下げたまま、はい、と重々しく了承した。
「お師匠、一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」
「なんだね?」
 面を上げ、心痛ぶりを隠そうともせずに
「もし……もし同じようなことが起きた時。近しきものが道を踏み外していた時です」
「私は、同じ選択肢を選ばずに済むのでしょうか?」
 老僧はふむ、と怪僧と眼を合わせたまま、皺の中に眠る眼孔を鋭くする。
「それは、分からん。君の長男――と、その者は違う。考えていることも、知っていることも、歩んできた道も」
「人の道は不可思議なものだ。私と君は家族でもなんでもないのに、あの洞窟で偶然顔を合わせてから……今こうして話をしている」
「全てを受け止め、道を狭めず、現世を生きるのです」

「私は……私は……彼の人生を終わらせた。まともに骨すら回収してやれずに」
「それも、事実だ。どうせだ、吐き出してしまいなさい」
 お互い歳は四十を超える。そんな二人が、仏壇の前で唸り、話し続けていた……。

+ 怪異の始まり
『終わってなぁい! この怨み、晴らさずにいられるか!』
『父さんめ、僕を、僕を傷つけるなんて! あいつは父親失格だ!』
 誰かが作り、見捨てた山奥の井戸の中で、何かが叫んでいる。
 掠れた声は人のモノではなく、月夜が照らす白もまた人の肌ではない。
 屈辱と憤怒が入り混じった叫びは井戸の中で反響し、空へと届かんとしている。
 そんな梟も近づかぬその井戸に、草を踏み分けて近づく仮面の女が一人。
「…………狂骨」
『絶対に、こ。ア、ガガガ……』
「井戸に落ちたモノが、激しい怨みに身を委ねた時」「怨み以外を捨て、“化ける”」

 絶叫、狂喜、慟哭。様々な声が井戸の奥底で鳴り響く。女はそれを聞き遂げると、茂みへと消えていった。
 それが止んだ数瞬後、サラサラと何かが溶け、カタカタ、と音が鳴り始める。
『クカ、クカカカカ』『クッカッカカカカカ!』
 狂った笑いが響き、ガシリガシリと細い手骨が井戸の隙間を掴み登る。
 白き骸骨が登り切る。前世の未練を、記憶を全て捨て、怨みのみを片手骨に。

『快刀乱麻を断つものは! 乱麻の心をいざ知らず!』
『生者は進み続け、死者は忘れられる! だが、骨はここにある!』
 錆びた刀を掲げ、頭蓋骨はカタカタと揺れる。

『我が骨髄に染みた恨みを晴らすため!』
 ――全てを始めよう

+ 未-カイ錯する時
+ 未-不カイな封印
+ 開-二カイ目の骨生
 ――15年前、東北

 骨にチクチクとした痛みが貼り付いている。実際に床の檜材にささくれがあるわけではない。
 今神社の中で話を聞いていて、その神聖な空気に妖怪として耐えられないからだ。
 気を抜けば足骨が浄化して溶けてしまうかもしれない、そんなことを思っていた。
「もう一度契約内容を確認する」
 相変わらず厳つい顔をした怪僧は、淡々とした口調で言い直し始める。
「一つ、人を殺すべからず。一つ、名前を偽るべからず。一つ、一ヶ月以内に東北地方より離れること」
「この三つの内どれを破っても、貴様に激痛が走るようになっている」
 俺は黙って右手の平にある五芒星の呪いを見直した。全くもって忌々しい。

「何か質問は?」
 頭蓋骨をポリ、と少し掻いてから俺は聞いた。
「一つ目は分かる。俺ぁ人を殺したんだしな。今あんたによって消滅されてないのが不思議なぐらいだ」
「それで?」
「問題は二つ目からだ。名前? 俺に大層な名前はありゃあせんよ」
「それは先ほど申請した」
 怪僧は懐から一枚の紙を俺に手渡した。
「貴様はこれから『東海道魁星』と名乗れ」
 吊り下げるように書類の角を摘まんでその名前を見る。
 東海道魁星。とうかいどうかいせい。その名前を復唱した後、怪僧へと眼窩を向ける。
「俺が適当言ったやつじゃん」
「如何にも」
「何? 何なの? 俺に恩でも着せようってわけ? 幾人も人を殺した俺を?」

 静寂の時間が流れる。怪僧はこの質問には何も答えなかった。
「かと思えば? この東北から出て行けって?」
 両手を広げて呆れを表現しようとする。
「そうだ」
「まぁこれはいいけどさ。こんな神聖臭いとこ居られるかっての」
「ならば決まりだな」
 怪僧は俺に赤色のマントと路銀を幾らか渡してきた。
「二十年過ぎた今でもここでは貴様を知るものが居る」
「ああ」
「お互いのためだ」
「ああ……」
 知ってることを再確認され、俺は気だるげに答え始める。
「関東でも関西でも適当なとこへ行って、コツコツと励むがいいさ」
「ああ……うん?」
 その時、何となく思ってしまった。「こいつは骨とコツコツを"か"けているのではないか?」と。
 いやまさかこの堅物の怪僧に限ってそんなことはないだろう。
 だが、その落差が、何気なさが、俺の内に可笑しさをこみ上げさせたのだ。
「ク……クカカカ……」
 突然笑い声を出し始めた俺を怪訝そうに怪僧が見る。
「カッカッカッカカカカカ!」
「何が可笑しいッ!!」
「だってお前、骨の俺に、コツコツとか、カカカカ!」
「カーッカカカカカカカカ!」


「二度とこの街へ来るなッ!」
 般若の顔で神社から追い出された。鳥居が遮っていた日差しが眩しい。
 石階段を二三段降りてから一度振り向いてみた。まだ般若の顔だ。
 結局あいつは、なんで俺を殺さなかったか、なんで俺を放したのか、教えてくれなかった。

 一つ分かっているのは、俺が二回目の骨生を手に入れたってことだけだ。
 麓へ続く石階段を全て下りきった後、燦々と輝く太陽を仰ぎ見る。今だ眩しい光が俺に降り注いでいる。
「ッカー、日差しが目に染みるぜ。……目はないんだけどな!」
 まずは東海道を南に、東京でも行ってみるか。

+ 開-必然のカイ逅
+ モンド・シュナイダーという男
――13年前、東京

 向かい合わせて置かれた二つのベージュ色のソファー。灰色の壁、申し訳程度に置かれた観葉植物。
 そんな殺風景な個室で、二人の男女が向かい合って座っている。
「なるほど、それでひとりでに骸骨が動いているのを見たと」
 白いシャツの上に青いジャケットを羽織った男、モンド・シュタイナーはメモを取る。
 ここ『金嶺魔法事務所』の応接室で、四級の魔法使いである彼は依頼人より事情を聞いていた。
「はい。家に帰る時、ちょっと寄り道してみよっかなって思ったら……」
 今にも泣き出しそうな顔で小学生ほどの身長の少女は話す。路地裏で骸骨が動いていたと。
「ふんふん。その骸骨は君や他の人に何かした?」
「なにか……?」
「襲いかかってきたりとか、呟いていたとか」
「いえ、なにも」
 ほぉん、と相槌を打ち、モンドはソファーにもたれかかった。
「こ、怖かったんです。襲われるかもしれないって、すぐに逃げて……」
「うん……うん」

 モンドは暫し思考に耽った。受けるべきかどうか判断するためだ。
 少女の言う通りならその骸骨は何かしらの怪異だろうが、善玉か悪玉か、話だけでは判断がつかなかった。
 それに彼女は見た印象では普通の少女だ。まともな調査資金も持ち合わせていないだろう。
 こんな小規模の魔法事務所に頼ってきたのも、幾つかの魔法事務所に断られたからかもしれない。
 だが、と彼は少女の涙が溜まった眼を見た。
 誰かが泣いている。それだけで調べてみるには十分だろう。
「分かった。調べてみるよ」
「ほんとうですか! ありがとうございます!」
 少女が笑みが浮かべたのを見て、モンドはニカリと笑った。
「あのっこれが依頼料ですっ」
 そう言って少女はテーブルの上に財布の中の小銭をジャラジャラと置き、列を整える。
 どう考えても通常の相場には満たない、が。
「それで十分さ」
 モンドは少女に微笑みつつも、自身がメモ帳に描いた絵を見る。少女の話から再現した、骸骨の立ち絵だ。
 成人男性ほどの身長、紅いマント、黒く淀んだ骨。お前は一体何者なのか。
+ 地下水路
「こうやって格好つけるから出世できないんすかねぇ」
『分かってるなら受けなくたっていいじゃなぁい』
「いやいやそういうわけにもっすねぇ」
 所長の金嶺と電話でやり取りをしつつ、モンドは夜の地下水路をぺちゃぺちゃと歩いていた。
『明日他の事務所と合同の依頼があるけど、あなたが怪我したら他の子に回すからね』
「へーい……」
『で、その骸骨はそこの地下水路で多数目撃証言があるわ。時刻は安定しないけど。もうちょっと調べてみなさい』
「あいあいさー」
『どうやら同様の依頼をした人が他の事務所にも居るそう……早い者勝ちね』
 こうした幾つかの連絡をした後、携帯電話を切り、ショルダーバッグの中に入れる。
 点滅を繰り返す電灯が辺りを不安気に照らしている。勢いよく嗅げば鼻がひん曲がりそうな匂いが漂っている。
 早く終わらせよう。そんな思いがモンドの頭の中を駆け巡っていた時だった。
「う、うわぁ!!」
 知らない男の叫び声が、前に見えるT字路の右側より響く。モンドは腰につけた剣の鍔に指を当てつつ、駆け出した。
 幾度かの剣戟による金属音の後、ぺしゃりと水が跳ねる音がした。誰かが倒れたのか。
 モンドがその通路に辿り着いた時、彼の予想通りの光景が広がっていた。

+ 黒灰色の骸骨
 軽装鎧の男が尻餅をついたまま、うわ言を口走っている。剣は直ぐ近くに転がっているが、手足が震えている。
 その彼を、一体の骸骨が見下ろしている。
 襤褸ついた深紅のマントが揺らめき、黒灰色の頭蓋骨が薄暗い世界と溶け込んでいる。
 生気が感じられないその姿は、冥界より来た死神と言っても納得するほどだ。
 その異形はパチャリ、と片刃の片手剣を地面に叩かせ、新手であるモンドに頭蓋骨の眼窩を向けた。
「……!」
 事前に聞いていたモンドでも、背筋が凍った。骸骨の眼窩の向こうには暗闇しか無く、覗けば覗くほど不安がよぎる。
 だが、恐れてばかりではいられない。まばたきを一回し、骸骨の全身を見据え、前に進む。
「なぁ、あんた、俺達の言葉わかるか?」
 剣を鞘より抜きつつ、問いかける。モンドとしては答えは期待していなかった、が。
「分かるとも。英語はちょっとだけだがね」
 骸骨は顎骨を上げ下げしてそう答えた。モンドは驚き、またまばたきをした。
「……なら、なんでそこの男に尻餅をつかせた?」
「そいつがいきなり斬りかかってきたから、応戦した。正当防衛っつーんだろう?」
 なるほど道理だ。モンドはそう思い少し剣を下げた。
「や、やめとけ! その化物の言葉は聞いちゃいけない! 強い! 逃げろ!」
 尻餅をついていた男がそう叫ぶ。振り向いて彼の顔を見るが、青褪め、視線が定まっていない。
 眼前の骸骨に必要以上に怯えていることが分かる。モンドは視線を骸骨に戻した。

「じゃあもう一つ質問だ。お前は自らの意志で、俺達人間を攻撃するか?」
「いいや、しない」
 骸骨の即答に対し、モンドは言いよどむ。
 研ぎ澄ませようとしていた戦意が鈍り始める。怪異と言うにはあまりにも常識的なのだ。
 修羅場を幾つか潜り抜けてきたモンドが弾きだした結論は、撤退だった。

 骸骨から視線をそらさず、尻餅男の肩を担ぐ。尻餅男は怯えつつも、立ち上がり、一歩骸骨から遠ざかる。
 こうしているとヒグマと相対したことを思い出すな、とモンドが思案していた時、骸骨が話し始める。
「だが……そうだな。お前は、そいつより強いんだろう」
 尻餅男とモンドを交互に指さした後、剣をモンドの頭へと突き刺すように向ける。
「ちょっと手合わせに、付き合ってくれねぇか?」
 骸骨の淡々とした頼み事には、首を横に振るには惜しい気迫があった。
 地獄の階段からゆっくりと登ってくるかのような、闘技場の門が開きだすような、そんな悠々たる剣幕だ。
 任務はほぼ終わった。後は報告だけ……そう理性が告げた瞬間、モンドの血が騒ぎ出す。
「いいだろう。その手合わせ、受けよう」
「お……おい!」
 尻餅男が声を荒げるのをなだめつつ、モンドは己の片手剣を握り直した。
 丸みを帯びた鋼鉄の柄が良く馴染む。
「ところで骸骨さんよぉ、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「何本先取?」
 1? 2? 指を立ててモンドはそう聞いた。
「…………」

+ 真剣なる手合わせ
 激しい金属音が水路に響く。
 骨剣による鋭い一撃を、モンドが片手持ちのラウンドシールドで防いだ音だ。
「くっ……!」
 剣撃の勢いを殺しきれず、モンドは仰け反り体勢を立て直す。
 赤マントの骸骨はその隙を逃さず、二撃目、三撃目と高速の突きを繰り返す。
 どちらが優勢か、誰の目にも明らかだった。戦いの主導権は骸骨が握っている。
「おいおいおい……何食ったらそんな丈夫なっ骨にっ」
 戦いの中の軽口を塞ぐように、容赦無い連撃が襲いかかる。
 更に踵骨を固定したまま、背骨を軸に左へ一回転。薙ぎ払いだ。
 地面よりの力が伝わりつつ、人体には不可能な軌跡が描かれる。
 曲芸じみた薙ぎ払いと隙がない王道の突き。尻餅男の言っていることは事実だったのだ。
「お前も、大したことないのか?」
「……っ、何クソォ!!」
 次だ。モンドは構え直す。
 骸骨は突きを繰り返す。剣山が飛び出してくるような高速の突きは、先ずは凌ぎきるしかない。
 モンドは最も力が篭った一撃を盾で跳ねあげるように上へ弾く。
 渾身の弾きは、骸骨の右腕骨を空中へと浮かび上がらせる。
 だが、それで終わりではない。腕骨を降ろす勢いとともに、背骨を中心に上半身を左へ回す。必殺の回転斬りだ。
 モンドも自ら作った隙を見逃さない。右手に握りしめた片手剣が空を貫く。
 大仰な薙ぎ払いと神速の突きは交わらなかった。モンドの剣が胸椎を捉え、砕かんとしていた。

+ 決着……?
 剣先は胸椎に当たりはした。が、胸椎は突かれた勢いに従い、一個だけ抜け落ちる。
「なっ」
 骸骨の上半身は回転力を損なわず、骨剣は円弧を描いてモンドの胸を斬り裂いた。
 胸当てがヒビ割れ、皮膚に大きな切れ込みが入る。
「が、はっ……」
 モンドの胸から、口から、鮮血が飛び散り水路に満ちていく。それと同時に支えを失った骸骨の肋骨がドチャリと地に落ちる。
 モンドは手で庇いきれない傷を抑え呼吸を整え始めるが、ついに膝を折ってしまう。
 骸骨は肋骨の内側に足骨をひっかけ、ふわりと空中へと蹴り投げて元の位置に戻す。
 ガチリ、と骨がはまった音が終了のゴングのように地下水路に響く。
「一本勝負で――俺の勝ちだ」
 骸骨はそう言い残し、踵を返して歩き始める。立てられていない二人がまるで眼中にないように。骸骨に眼はないが。
「……おい、待てよ」
 剣を杖代わりに、モンドはよろりと立ち上がる。骸骨は立ち止まるが、振り向かない。
 肺をやられたのか掠れた声でモンドは話しだす。
「さっきのは、引き分けだぜ? ――お前も肋骨を落とした」
「なに?」
「血も流れねぇ体で強がってんだろうが、砕いた俺には分かる。致命傷だってな」
 歩けはするが、回転斬りなんかできやしない。そうモンドは付け加え、ふらつきながら骸骨へ近づいていく。
「……だから、なんだ」
「だーかーらー……がほっ」
 咳で飛び散った血が水路に落ちる。
 骸骨は静かに振り向き、間合いも気にせず近づき続けるモンドを眼窩に捉えている。
「引き分けだよ! ドロー、相討ち、イーヴン! お前と俺は同等! 俺にとっては大事な事実だ」
 モンドは己の血で濡れた唇を吹き、早口で話し始める。
「お前のほうが重傷だ。早く病院に行け」
「あっ、その顔骨は引き分けを認めてねぇな? こう見えてもまだまだ動けるっての」
 駄々をこねる人間と静かにいなす骸骨。水路に賑やかな声が響き出す。

+ 水路問答
 この二体の口論を見ている者が一人いた。怯えて尻餅をついていた男だ。
 尻餅男は傷まみれの二体をただただ見ていたが、己の腰からナイフを手にし、震えながら骸骨へ向ける。
 その左右非対称な笑みからは、先程から感じているだろう恐れと獲物を見るような喜びが窺える。
「おい……もう話はいいだろ? 早く討伐しちまおうぜ、こんな骸骨」
「うん?」
 尻餅男が口を挟んだ途端、モンドは口論を止め、尻餅男を見る。
「話も聞いたし見もした。こいつぁただの戦闘狂の幻想種だ。十分討伐対象、だろ?」
 訝しげな目で見ていたモンドだが、戦闘狂、と聞いたらなるほど、と頷く。
「確かにそりゃそうだ。何で俺に勝負を挑んだんだ?」
 骸骨は暫し沈黙し、顎骨に手を当てた。
 まるで己にはない脳髄から何かを思い出すかのように、答えを導こうとしていた。
「……ただ、戦ってみたかったのかもしれない」
「そら見ろ! 俺達人間とは考え方が根本から違うんだ、だから……」
 そこから先をモンドの血塗れの手が制す。
「質問を変えるか。お前さんは、何のために動いている?」
 骸骨は空を仰ぐように頭蓋骨を上へ傾ける。上空には水路の仄かな明かりがあるだけだ。
「それは、分からん。俺の道程は戦い、何者かを殺すことに満ちていた」
 ぽつりぽつりと、モンドの顎先に募った血が己の重力で水路に落ちている。
「驕り、葬り、そして封印された……なのに、殺すことを封じられたまま、解き放たれた。
 何故かも分からなかったが、自由を喜んだ。ああ、その喜びも束の間だった。
 働く人を、道行く人を、怯える人を見て、分かり始めたんだ」
 愛おしげに、骸骨は剣身を手骨で擦る。モンドを斬った証である血痕が延びる。
「人は、持っている。培ってきたんだ。技術を、信用を、知識を。
 俺は、何も、残っていなかったんだ。戦いしか、残っているものが……ああ……」
「はっ、人を斬り伏せて次は同情を誘うかぁ? 救えねぇな!」
 尻餅男は石を投げつけるように、唐突にナイフを頭蓋骨へと放り投げたのだ。
 魔力を伴ったナイフは直線を描き――

+ 別れと出会いと赤マント
 ――空中で止まった。正確には、モンドの左手がナイフを制したのだ。
 横目一杯に広げられた左手をナイフが貫き、鮮血が傷口より滴る。
 更に増えた痛みに苦しみ脂汗を流したモンドが、尻餅男を睨む。
「制しただろ、さっきもな」
「ひ、ひぃっ」
 敵が増えたという予想外の事実に、尻餅男は怯え、後ずさる。
「いいか、お前さんが金を手にしたいのは分かる。だがな」
 息を整え、眼を一瞬瞑り、再び尻餅男を見る。
「あんたが怯えてるのはあんたの早とちり、俺達の決闘はお互いの合意、あんたが口とナイフを出す義理はない」
「俺は傷ついたが他に傷ついたものは報告に上がってない……理屈は骸骨の味方だ」
「つまりだな、誰の依頼であろうとも、これ以上討伐しようってんなら」
 燃えるような紅色の眼光と、濃赤色の左人差し指が尻餅男を捉える。

「俺は、お前を、訴える」

 数瞬の静寂が、水路を包む。
「そうなりたくないなら……退がりな」
 粗方を聞いた尻餅男は、苦々しげに舌打ちと歯ぎしりをした。そして彼は重い腰を上げ立ち上がり、振り向き、去っていった。
 ぱしゃぱしゃと水音が消えていくのを聞き届けた後、モンドは小さいため息をつく。
「訴える、だと? 殺すなどではなく?」
「ここ日本は法治国家だからな。これは誰にとっても、大事な事実だ」
 ニヤリと笑うモンドを見た骸骨は、クカカ、と顎骨を揺らす。
「それよりもだ、戦いしかないんだって?」
「ああ。俺が言ったことに、偽りはない」
「じゃあ良い職紹介してやるよ。戦いで人を守れて、金も得られる、そんな天職をな」
 魔法使いっていうんだけど、とモンドはポーチの中の携帯電話に手を伸ばした。
 そして、血が至るとこに付いたことを後悔した。
「だが、信頼してくれる者が」
「俺が推薦してやるよ。ああそうだ」
 119を押しながら、出血で顔が青くなりつつあるモンドが骸骨と目を合わせる。
「名前はあんの? マイネームイズ骸骨じゃあ収まりが悪いだろ」
「……俺の名前は」
 骸骨は、己の右手骨をじっと見る。
 それに呼応するかのように、右手の平にある五芒星が紫色に光りだした。
 骸骨は手を握り直し、モンドを再び見据える。明かりがはためく赤マントと、動き始めた顎骨を照らす。

「東海道魁星、だ」

+ 未-趣味のカイ拓
+ 未-彼女は深カイ系アイドル、アンコウちゃん!
+ 未-新たなる世カイへ


+ 参加セッション
05/01 梅酒 水底の思い出 ターニア/マルグリット/暁はじめ/古鐘捧之助/東海道魁星
05/05 リース 生まれた意味と名前の価値 シャル/ザナ/天海大地/東海道魁星
05/06 はきの 新人魔法使いの引率 東海道魁星/畑山 楼季/セレナ/竜胆大地/樹多村彩
05/09 オレンジ Nightwalker 名無ゴヨウ/兎丸/東海道魁星/孤門秀司/大宰府龍次郎

+ 仕事仲間
マルグリット
 いい子なんじゃない? 錬金術も確かに身についてるし未来あるよ。

古鐘捧之助
 頑張ればツッコミとして大成しそうなんだけどねぇ。こいつめんどくさがるんだろうなぁ。

暁はじめ
 こいつのドツキツッコミは効いたぜ……! 聖職としても信頼できる男だ。

ターニア
 快活で信頼できる魔道少女だ。それに骨を使役する奴に悪いやつはいな……結構いるけどこいつは違うな!

ザナ
 冷静な聖職少年ピエロ。そして内に熱い夢を抱えてるらしいな。がんばれよ?

シャル
 快活なバ……数を踏んでそうな少女戦士。錬金戦士って被ってない? 俺は人の皮被ってないからいいけどさ。

天海大地
 お巡りさん!! こいつ! 俺の肋骨の隙間を縫って撃ってきました!! ポリス!!!

畑山 楼季
 知識、実力、ツッコミ。三拍子揃ったすげぇ好青年。皆も見習ったほうが良いぜ?

樹多村彩
 ご存知、ないのですか!? かつてトップアイドルとして活躍するも突如引退しヴェスペリアへ辿り着いた超次元シンデレラ、彩様です!

竜胆大地
 こいつ本当に21? 依頼人いたわったり依頼以上のことに関わりだす大人の雰囲気あるんだけど。

セレナ
 信頼できる、理性ある探偵だ。俺が今まで見てきた探偵はいきなり思考放棄したり推理放棄するからな!

大宰府龍次郎
 生真面目な拳闘青年だな。化物にも毅然と立ち向かっちゃってまあ、骨のあるやつだぜ。

名無ゴヨウ
 半裸の駄弁り聖職者。同じ怪異だけあって気ままに暮らしてるみたいで、波長も合ういい男だ。

兎丸
 胡散臭い着物の占い師。ただ魔力調節の上手さは本物みたいで、俺みてぇな直ぐ枯渇しちゃう骨にゃあぴったりだ。

孤門秀司
 のろりくらりと過ごしてそうな……職業なんだっけ? 仕事はきっちりこなす信頼できる男だ。

PickUp

硬くなった骨で守り、鋭い剣で敵を斬る。

キャラクター情報

+ キャラクターメモ

※1:ここよりお借りしました。ありがとうございます。

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最終更新:2016年09月22日 02:41