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ヘブンシティ裏通り


(side:サザロス)


「これがおでん……なんて旨いご馳走なんだァ!」
「カッハッハ!オメェ、おでんを見る目があるじゃねぇか!」

裏路地を走る おっさん 秀吉店長の『おでんカー』。
そのおでん、正に至高の料理。つまり美味。
こんなおでんを食べながら向かっているのは俺達の家。
ジャンと店長は知り合いのようで、常連らしい。
時にはジャン達の家に出前を持っていく事もあり、家まで行く道が分かるから連れて行ってやる、との話だ。

さっすが店長、太っ腹! (体型の事じゃないヨ)


「……サザロス、それ何杯目だ?」
俺の皿の量を見て、ジャンはナイフの如き目で見てくる。
「あぁ、鍋で言うと3杯かな」
「「3杯!!?」」
「一人でそんなに食べて……大丈夫なのかな?」
「うーん……こういう人は大丈夫なんじゃないかしら?」

皆が此方を見て、それぞれ過剰な反応をしてくる。
ノゼライとジャンは吃驚仰天、アルとエレヴィンはヒソヒソと何かを話している。
……皆の視線が痛く感じるのは何故だろう。

「そんなに食うと腹に毒だろ……」
呆れたように呟くジャンをもろともせず、俺はおでんを食う。
他の皆は鍋を俺の方に寄せて『ゴチソウサマ』。
おかげで俺は量を気にせずおでんを食べ放題という訳だ。



「……何だぁ?後ろのは。」
店長が窓から顔を出し、後ろを見ている。
……おっさん、前見なきゃ事故っちゃうゾ。




しかし、前を向ける筈が無かった。
そう思ったのは、俺が後ろを向いた時。
車の後ろに張り付くように着いてくる飛行物体。
その黒い影……その正体が、街灯に照らされる。




「さっきは命拾いしたな……だが安心しろ、その首は我々が忘れずに戴いていく!」


M・A・T・A・K・A・YO☆


「しつこい!悪魔の一族はそんなに俺の命が欲しいのか!?」
「我々が欲しいのはノゼライだ。お前は必要無い」
酷い。悪魔だからって酷い発言だ、俺のプライド返してくれ。
罵倒されるのは慣れていなかったのだが、まさかここまで鋭く心に突き刺さる物だとは知らなかった。
そして、狙われている本人は不思議そうな顔をしている。呑気な……

「ストーキングとは。好かない悪魔だな……おっさん、スピードを上げてくれ!」
「なんでぃ!俺ぁ、おっさんじゃねぇってんだ!!」
なんて言いながらも、おでんカーのスピードはぐんぐん上昇。
「あのっ、僕が悪魔を何とかします!」
おでんの入った鍋を持ったアルが立ち上がる。
……っておい。まだ食べきってないんだが、まさか投げつけるなんて事は
「でぃやーーーっ!!」
あああああああああぁぁぁぁぁ!!!!
俺のおでんが!!おでんがあぁ!!!
「何っ!?そんな攻撃をするとはぎゃあああああああ!!目がっ、目があああああ!!!!」
熱々のおでんが、飛来する悪魔に飛んでいく。
俺が求めし極上の料理が、悪魔の顔に向かって散り行く。
そして、悪魔は自身の目に襲いかかる熱さに耐えきれず地面に落ちた。




……さっきの悪魔はこんなに弱かったっけ?



「よくやったわね……アル」
「そう?ありがとー、エレヴィン。」
目を合わせて微笑みあう二人。
……何故だか羨ましいような気もする。こういう事は人目を避けてやってもらえないか。

「……そういう事は人目を避けてやってもらえないか?」

ジャアアアァァァン!!!何て発言を!そこは空気を読んでやれよぉ!

「そういう事って、どういう事ですか?」
アルが天然で幸いだったなジャン。
「何をっ……そういう気持ちだったわけじゃないわよ」
まぁ、エレヴィンは対応に困っているようだけど。
どうしてジャンはここまで無神経な発言をするんだ。



「ね……ねぇ、サザロス……」
「ん、どうかしたか?ノゼライ。」
「ほら、あれ……」
「あぁ、あれはただの悪魔の軍団だな。ははっ」







『『『………………は?』』』





おでんカーの背後に悪魔が大量出現。
適当に数えても10人くらいは居る。こんな事が……有り得るのか!?

「「ノゼライを渡して貰おう!!」」
ストーキング・オブ・デビル(多数)。
「コイツら……そんなにノゼライが欲しいのか?」
「無論」「ああ!」「そうさ」「嫁に貰う!」「その通りだ」
おかしいな。私欲混じりの奴がいた気がする。
悪魔のイメージがガラリと変わった気がするのは、もしかしたら気のせいなのかもしれな
「私、絶対悪魔に着いていくもんか!」
ほら見ろ。悪魔の印象がガタンと下がっている。
ただでさえ着いて行きたくない相手に「嫁に貰う」なんて言われて行く馬鹿は多分、地球上にはいない。

「「ならば、無理矢理にでも連れていく……」」
「え、それはちょっと気が退けるな……」
今の呟きは「嫁に貰う」発言をした悪魔の言葉だろう。どうせ。
「残念だな、この俺サザロスがそうはさせない!」
「……彼氏?」「恋人か?」「カップルなのか……」「リア充爆発しろ」
「悪魔共、とりあえず黙ってくれ!!」
どうしてだろう、恋人呼ばわりされるなんて。
「ち 違うっ!恋人じゃないし、今日初めて知り合ったの!!」
そして当のノゼライは、頬を赤く染めながら悪魔に反論している。
居づら過ぎて肩身が狭い。そしてジャンの不敵な笑み攻撃が痛い。


それよりも、まずは悪魔を倒す方法だ。
おでんカーのスピードに着いてくる悪魔軍団、これを相手にどう戦う?
下手をすれば、おでんカーを壊しかねない。
「よし……皆。」
ジャンが口を開く。まさか、突破口を見つけたのか!?
「奴等を倒すためのカギ……それは」
「「「おでんっ!!」」」
「……」
皆はおでんを何だと思っているんだろう。

おでんカーの荷台に乗せられたおでんの鍋、椅子、机……
おでんカーの荷台の全てが後ろに放り投げられる。
そして、その一つ一つが悪魔の顔面を潰していく。
「「「目がっ、目があああああああ!!!!!」」」
あの悪魔は落ち、この悪魔も落ち、その悪魔も落ちた。弱……




……と思っていたんだけどな。

「まだだ……俺はノゼライを貰う……!」
最後に生き残った悪魔は「嫁に貰う」発言の奴か。全力で殺ってやる。

おでんは諦めて仕方なく意気込んでいた俺だったが、ある事に気付いた。
「なん……だと……?」
「お……俺のおでんカーがあああっ!!!」
もう投げる物が無い。おでんカーは、今まさに『おでん屋 中年』と書かれた赤い暖簾があるだけの軽トラックと化してしまったのだ。
「……サザロス。どうする?」
「うーん、魔法を使うと車まで巻き込みそうだからなぁ……」
「所謂ノー・コントロールってやつか?」
「ジャンって時々酷い事言うよな……」
「くそぅ……何て事しやがるんでぃ!!」


「手伝ったげるのじゃーっ!!」

なななななな何だ!?
何処からともなく聞こえた、いかにも幼そうな女声。
清らかに聞こえた声だったが、その内に勇猛な雰囲気を秘めていた。
その声の主は何処だろう……?

そんな事を思ったりしていると、裏通りに声が響いた。
「黒い人、これでも食らうのじゃ!『震いの牙(ファングクエイク)』!!!」

技の名前と思わしき声と共に、強固な筈の地面がひび割れる。
おでんカーの進む方向に向かってヒビは迫り、そのヒビの奥からは熱いエネルギーが吹き出す。


あれ?ヤバい気がするよ?


ところが、そうでもなかった。
ヒビから獣の牙の形をした光が出現し、俺達の後ろにいる悪魔に飛び掛かったのだ。
「く……来るな!!俺はノゼライを……ぎゃあああああああああああああああああああ」
「「「うるさいっ!」」」
「……」
皆で一喝すると、悪魔は断末魔を止めて闇に溶けた。本当に静まるとは思わなかった……

「おっさん、悪魔は全員消えたぜ」
「おっさんじゃねぇ!俺ぁ無添加不適の秀吉店長でぃ!!っていうか俺の鍋と椅子と机どうしてくれんでぃゴルァ!!」
「それを言うなら『天下無敵』だと思うんだが……」
「おでんカーの話をスルーするでねぇぜオイ!?」
「ははっ、ダジャレか?ユーモアあるじゃねぇか。」
「畜生!!!」
ジャンとおっさんが言い合っている。これは客と店長っていう間柄ではない気がするのだが。
そんな事より、声の主が気になる。今の技も恐らく、その声の持ち主が使ったものだろうが……

「間に合ったのじゃーっ」
そこへ駆け寄ってきたのは……えっと、幼児?
典型的なお嬢様ヘアーと言うか、ブロンドの髪を両サイドでロールしている。
上品な感じのドレスを召した、12歳前後の少女だ。
そして頭には……耳?
彼女の頭には、三角の形をした獣の耳が生えている。
しかも、腰からは尻尾らしきフサフサな物が見える。
……こんな説明で、読者の皆様は外見を想像出来たのだろうか。
とにかく、そんな外見の獣人?は止まったおでんカーの後ろにちょこんと立っている。






「ふぅ……間に合ったみたいだね、クレア。」
「あ、マスターっ」
「マスター?それって誰……ぇあ、アンタは!?」
「やぁ、サザロス。久しぶりだね」

クレアと呼ばれた少女に続けて現れた、怪しげな服装の少年。
それは見覚えのある格好。それは聞き覚えのある声。
彼は……俺をこの街に誘った『あの少年』だ。

「サザロス……この怪しい服の人、知り合いなの?」
「ああ……俺、この人にヘブンシティを勧められたんだ。」
追跡してきた悪魔に続いて現れた二人に警戒をするノゼライ。
確かに、あの悪魔には驚いた……色んな意味で。
あと、俺の後ろに隠れられても困るんだけどなぁノゼライ。







「……随分と好かれてるみてぇだな。ったく羨ましいもんだぜ」
「だ……誰だ!俺に羨みと恨みを向けてきた奴は!?」
「「「……さぁ?」」」
嘘つけ。今、絶対に誰か羨ましいって言ったよな。盾にされている俺を見て羨ましいと言うのも可笑しいかもだけど。
「……こほん。」
あの少年は、一旦場の空気を変えようと咳払いをする。
辺りに静寂が訪れたのを確認すると、彼は話を始めた。
「僕達はね、君達を助けるために追い掛けて来たんだ。」
おい待て。お前も事実上のストーカーなのか。
「彼女はクレア。元は、僕が飼ってたミニチュアダックスだよ」
とんでもない事をあっさりと口にした……!?
「何故そんな事を、って……元いた彼女にフラれちゃってね」
名前すらろくに知らない相手が放った爆発的修羅場発言。
「少しでも元気になれると思って、飼い犬を人に変えたんだ」
友達頼れよ。


「それで……貴方、名前は?」
おでんカーを降りたエレヴィンが訊ねる。
その目は警戒心を帯びており、鋭かった。
「名前……それは秘密だよ」
「どうしてですか……?」
「教える必要が皆無だからね。」
一番気になる事は答えなかったが、アルの質問には返答を返す。


「そんな事より……君達、早く帰った方が良いんじゃないかな。寝不足は体に毒だよ。」
「そーだよ、夜更かしするとお化けが出るのじゃー」

あの少年とクレアが交互に言う。
確かにそうだ。睡魔も募ってきた事だし、今日はもう寝たい。

「それもそうだな……おっさん、そろそろ俺ん家まで送ってくれ」
「おっさんじゃねぇ!!」

「んー、まぁ……助けてくれてありがとな!おやすみっ」
あの少年にお礼を言った後、俺もおでんカーに乗り込んだ。
「またね、おやすみ。」
「またねぇ、赤いお兄さーん!」




赤いお兄さん?

……俺のイメージは、単なる『赤』なのか……









「彼等、青春だね。 僕にとっては、青春なんてもう過ぎた物だけどな……」

ー続くー