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都心の喫茶店


(side:ある少年)

都心の地下に建てられた、静けさ漂う喫茶店。
僕は、その店の端に座っていた青年の隣に座らせて貰い、
話題提起として「過ちを犯した少年」の話をしていた。


そしてこれは、その話の後半部分である。


虐められていた少年はある日『闇の力』を手に入れた。
それからと言うもの、彼は狂暴な復讐魔となっていた。
自分を苦しめた人間はおろか、助けてくれなかった人間をも問答無用で消していく。

彼の周りにいた者は皆、居なくなってしまった。
彼に怯える者は逃げる。そんな人達を少年は殺す。
彼には恋人が居たが、その豹変ぶりを見た彼女は行方を眩ませた。
友人も、その行き過ぎた怒りに巻き込まれて命を落とす。
中には、彼から隠れる事に成功した者も居た。
……結果、彼の周りからは人は居なくなったのだ。



怒りを全て晴らして、ようやく正気に戻った少年。
しかし彼は、その幸せな気持ちを語る相手が居ない事に気が付いた。
彼女も居なくなった。友人も皆、殺してしまった。
それを悟った少年は、自分が犯した罪に気付いた。



「虐めとか、そういうのじゃない。
僕は皆を殺してしまった」



少年は嘆き、悲しんだ。
自分が求めていた結果は、こんな物ではなかった筈だと。
平和が欲しかったのに、自分でそれを崩したのだと。
彼は親友の亡骸の前で涙を溢し、心の底から悔やんだ。
もう、後には戻れない……




そこに現れたのは、邪悪な一族の男だった。
男は、その世界を支配下に置こうと現れたのだ。
空高くから現れた男は、力の見せしめに街の破壊を行った。

少年は、その男を暫く見ていたそうだ。

そして、遂に動き出した少年。
彼が放ったオーラは、闇ではなく光だった。
……そう、彼が手にした力は闇ではない。
その心の内をエネルギーとして扱う力だったのだ。

だが、男も負けていない。
この男は様々な場所でエネルギーを吸収していたらしく、何よりも強い力を持っていたそうだ。
その力に敵わなかった少年は、いずれ地面に叩き落とされた。


地面に倒れた少年。その目線の先には、
毒々しい雲の間から射す光。
そして、その耳に聞こえてきたのは、何者かの声。

『お前の成した罪は重い。その罪を全て償う気はあるか』

誰かの声は、そう問い掛ける。

彼は深く頷いた。
すると、雲の隙間から射す光は光線となり、彼を包み込む。

『あの男は、世界の終わりを望む者。その野望を打ち砕け。
三回だけ時を渡る力と、命を甦らせる力を与える。
この世界を滅亡より救い、光ある未来へ導いてみせよ』




少年は自らの罪を償うべく、旅立った。
今も何処かで、世界を明るい未来に導いているらしい……







「……っていう話なんだ。」

僕は、長々とした話を締めくくった。
メロンソーダが入っていたコップの中に入ったままの氷の音が、店内に小さく響く。
気付けば、時計が指しているのは午前1時37分。
こんな時間になってもまだ話を聞いてくれていた青年は、知らぬ間に新しく珈琲を注文していた。

……もしかして、僕の話を聞いていて眠くなったから、珈琲を飲んでいるのだろうか。
「えっと……ゴメンね、つまんなかったかな?」

心配そうに訊ねた。
うっかり自分の世界に浸っているような気持ちで話していたものだから、つい周りが見えなくなっていた。
その質問に対して、青年は無表情のまま答える。

「気にするな。暇が潰せて良かった……それより、聞きたい事があるんだが」


この青年、正に紳士だ。
僕が女だったら惚れていたかもしれ……ゲフン ゲフン。

しかし、彼の質問とは何なのだろうか。
僕は、彼の質問に耳を貸した。


「アーロンという少年を知らないか?捜しているんだが」

青年は机に珈琲の代金を置くと、此方に顔を向けて問う。
残念ながら、その名前は僕の身には覚えが無かった。

「アーロン?……んー、知らない……かな。」
「……そうか」


僕の返答を聞くと、青年は微かに俯いた。
その俯いた顔は、表情の変化に貧しい彼の割には、暗い雰囲気が充分に伝わってくる顔だった。



「……そろそろ俺は帰る。」「あ、僕も一緒に帰るよ」

相手を落ち込ませたような気がした僕はせめてものお詫びとして、相手の帰り道まで送る事にした。
すると、青年は無言のままドアを開ける。
とりあえず、了解という意味で受け取っておく。


相手の後に続いて地上への階段を上っていると、僕のポケットに入れていた携帯電話が鳴った。誰かからの電話だ。


「ぁーい、もしもし。  ……え、何。CBAから住宅街へ行く道?追跡?……うん、うん……おっけぃ。」


脱力的な挨拶から始まった通話だった。
しかし内容は僕にとっては重大だった。

「ごめん、急用出来ちゃった。今日は話を聞いてくれてありがとね。最後に聞かせて欲しいな……君の名前。」


電話をポケットに入れた僕は、相手とは違う方を向いた。
住宅街の方面だ。


「俺の名前……俺はアルフェルドだ。」

青年は僕に顔を向けず、先まで続く道を見詰めながら答える。
紳士ではあるが、少し愛想に欠ける青年だ……

「そっか。……見つかると良いね、アーロン。」
「……ああ。全くだ」
最後の言葉を交わすと、僕はその道を真っ直ぐ走っていった。

その時、後ろを不意に見て気付いた。
アルフェルドが、此方を向いて見送ってくれていた事に。


ー続くー