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廃墟前


空腹に苦しむ俺、そしてそれを見下ろす皆の前に、一人の男が現れた。
太い体型にゴツい顔、そして『軽トラック』とやらに乗ってきていて、そこの荷台に積まれているのは鍋。

「腹の減ってる奴ぁ、
今すぐ手を挙げろぃ!」

一体、誰なんだ……コイツは。




「……あんた誰?」
俺は、思わず本音を口にしてしまった。
その反応は当然だろう、いきなり大声と共に登場されたのだから。
すると、その男は呆然とする俺や皆にニカッと笑い、
「俺か?俺は秀吉ってんだ。おでん屋『中年』の店長とは秀吉さん、すなわち俺の事だ!」


……ボケ寄りの俺が言える事ではないだろうが、この男は 変な奴 変わった人である。
ジャンだけは面識があったのか動じていないが、
ノゼライとエレヴィンはドン退きしているし、アルはドン退きを超えて怯えてしまい、エレヴィンの後ろに隠れている。
ところでアルを見ていて思ったんだが、何処かで見た風景な気がするのは気のせいだろうか……

……まぁそんな事はいい。
「お、俺は腹減ってるんだ!」「私も!」
「じゃあ俺も。」「私達も……」「え……僕も?」
事もあろうか、5人の意見がピッタリ合った。そりゃ戦った後だし、腹が減るのは当たり前だが。
そんな俺達の、合唱のような返事を聞いた おっさん 秀吉は、片手に勢い良く力を込めてガッツポーズをした。

「よっしゃ!究極のおでん、軽トラの荷台にたっぷりあるぜぃ?お前等は特別だ、タダで食わせてやらぁ!」
実に気前の良い話をするなり、高笑いをする秀吉。
彼が運転席に座りエンジンをかける頃、俺達は荷台に乗せられた椅子に座っていた。
そこに、大きな机に乗せられた、おでんの鍋……
秀吉さんマジおでん神。


しかし、この『おでんトラック』は何処へ向かうのだろう?



黒い場所

「総帥…… オーロラ の居場所が分かりました。」

此処は、見渡す限り暗くて不穏な場所。横は上には宇宙が、下には紫色の床が広がる空間。
そして、何処からか声は聞こえてくる。その声の持ち主は、サザロス達が倒した悪魔とよく似た……否、まるっきり同じ容姿の悪魔。

悪魔の言葉に次いで聞こえるのは、マントに包まれた男の声。

「……よくやった。邪魔は入ったか?」
悪魔に背を向け、ひたすら向こうの闇を見詰める男。彼が情の無い声で相手に訊ねると、悪魔は頭を下げ、かしこまったような口調で答えた。
「はい、残念ながら……加えて、最近は 謎の人間達 が此方に妨害を加える活動をしている、との報告もあります。」
「知っている……俺も前、作戦を実行した時に人間に邪魔をされたからな。」
悪魔の言葉に付け足すように応答をすると、男は静まり返った闇の中に息をフゥッと吐いた。そして男は悪魔の方へと振り向き、邪悪な者を連想させるような赤い目を送った。

その顔は、単なる男の顔ではなかった。
彼もまた、悪魔同様に黒い肌を持っていたのだ。



「何が目的かは知らないが……俺達の邪魔をした事、きっと奴等に後悔させてやる……」





都心の喫茶店


此処は、都心の地下にある隠れた名店。
木製の部屋に灯された小さな明かり、
何処からか流れるピアノのフレーズ。
そして、その店の端で珈琲を飲む、黒いコートの青年。


「今晩は、メロンソーダ貰えるかな。」

僕はこの喫茶店に入り、すぐに好物のメロンソーダを注文した。
なるべく煩くしないように、小さな声で。
店のマスターは静かに返事をすると、大きなコップを持ってきて、鮮やかな緑色をしたメロンソーダをコップに注いだ。
そして、終いにバニラアイスを乗せて、僕に差し出した。


僕は席を探した。しかし、深夜だからか客は少なく、ほとんどの席が空いている。
何処で飲もうか……僕はそう考えさせられたが、そこに一人で珈琲を飲む青年を見つけた。
一人で飲むのはどうかと思った僕は、彼の傍に近付いた。

「君の隣、座ってもいいかな。」

僕の声を聞いた相手は、無言で珈琲を机に置いた。
そして、此方を少しだけ見ると、彼は前を向き直して言った。

「構わない。……だが、俺と話してもつまらんぞ」

彼は大人びた青年だった。見た目も、話し方も。
正直、スルーされてしまうのではないかと心配だったが、彼の言葉を聞いて安心した。

「ありがとね。僕いつも独りだからさ、たまには誰かと話したくてね。」
僕は呑気な微笑みを見せ、相手の隣に腰を下ろした。
相手はというと、此方の事を気にかけていないようだ。
言葉を呟く事はないし、此方を振り向く事もない。
僕の耳に入って来るのは、珈琲を飲む音と音楽だけ……
流石に居づらい。そこで僕は、話題提起として提案をした。

「……そうだ。ある少年の短い物語でも聞かない?」

僕はメロンソーダを一口飲み、相手の方を向いた。
アイスが溶けたメロンソーダは、甘くてクリーミーだった。
そして、相手の残り少なかった珈琲は無くなり、彼はようやく此方に目を向けてくれた。
相手の目線が此方を向いた瞬間、僕は「今だ」と言うように即刻話し始めた。

「……ある時、世界の何処かに一人の少年が居たんだ。」





少年は昔から虐められっ子で、周りからは暴力を受けていた。
勿論、仲間も居た。
しかし、肝心な時に限って居なかった。
止める者もほとんど居らず、彼も抵抗出来なかった。


虐められる事に対して悲しみを覚えていた彼だったが、やがてその心は 悲しみ から 怒り へと変わった。
「虐められたくない」という真っ当な心から、
「虐めてくるあの人達にやり返してやりたい」、
「自分を不快にさせた奴等に復讐したい」、
そしてとうとう「殺してやりたい」と、どんどん歪んでいった。
そして、転機の時を期待して、ひたすら我慢した……



ある日、本当に転機が来た。


いつものように虐められていた少年は、我慢出来ずに怒りを露にした。
全身に満ちた力のままに従う少年は大きな叫びをあげ、目は明るさを完全に失い、両の拳が震える。


その時だった。
彼の怒りに呼応した闇の槍が、部屋の床から飛び出したのだ。
そして闇に貫かれた虐めっ子は、一瞬にして命を失った。


「この力があれば、ムカつくアイツらに逆襲できる……」
彼は、何の予兆も無く突然手に入れた闇の力を使いこなし、自分の敵を片っ端から殺していった。
果てには、「自分を助けてくれなかった」として、仲間の命をも奪っていった。

遂に彼は、狂気に囚われてしまったのだ。






ふと、少年は正気に戻った。
復讐を果たしきり楽になった彼は、喜びに溢れていた。
しかし、彼は後に気付く事になる。



自分が犯してしまった罪の重さを……



ー続くー