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廃墟前


俺の胃袋はもう限界だ、食料が欲しくて堪らない……
しかし、今はそんな事を言ってられる暇は無い。
サイボーグの『アル』を庇うように現れた幽霊……
その幽霊と俺は、時間の流れるままに睨み合う。

「……まず此方から名乗ってやるよ、俺はサザロス。太陽の国アポロンズフィールドの王子だ」

此処で睨み合っていても仕方がない。
俺は自己紹介をして、場の流れを変える事にした。

「……私は『エレヴィン』。アルと暮らしているの」
エレヴィンと名乗る少女……と言うか幽霊は、静かに自己紹介で返した。
ピリピリとした空気は少しずつだが薄れ、アルも涙を払いきっていた。
俺の作った柔らかい空気に乗ってくれたのだろう、あとはこの流れに乗せて上手く事を纏められれば……

こんな時にこそ、冷静なジャンが頼りになる。
「アルと言ったな、さっきは攻撃をして悪かった。……あと、エレヴィン。俺達はアルではなく、消えた冷蔵庫の中身に用があったんだ」
相手を下手に怒らせないように、そして嘘を使わずに説得する。
ジャンは、そんな優れた話術を使い、語りかけながら少しずつ前に出る。

そんな彼の言葉に、エレヴィンは黙り込んだ。
気まずそうな顔をしている……やはり、あの事件と関係があるのだろう。

「……ごめんなさい、食べ物を盗んだのは私よ。街中にある家の壁をすり抜けて、冷蔵庫の中身を貰っていた……」

よっしゃ、予想的中。
……じゃなくて、相手は俺達の予想通りの言葉を呟いた。
予想と違ったのは、相手が素直に謝罪した事くらいか。

……ところで、ノゼライはいつまで俺の後ろに隠れているのだろう。
俺はもう、エレヴィンは怖くないのだが……

それは置いておき、ジャンが相手に続けて問う。
「お前は幽霊なんだろ?食べ物が無くとも、もう死んでる訳だし大丈夫だと思うんだが」
……確かに。
幽霊は死後の人間、更に死ぬとでも言うのだろうか?

因みに、ノゼライが未だに俺を盾にしている。
よっぽど心霊に耐性が無いのだろう。
……なんて考えていた頃、エレヴィンが口を開いた。
「理由は2つ……一、アルは死んでいない、生きている。だから食事も必要なの。二、私は純粋な幽霊ではないらしい。」


「純粋な幽霊ではない……どういう事なの?」
さっきまで俺の後ろに隠れていたノゼライだったが、エレヴィンの言葉を聞くと後ろから顔を出してきた。
キッカケがあったようには見受けられなかったが、
恐らくノゼライはエレヴィンに心を開いたのだろう。

そんなノゼライ……否、俺達全員の様子を見たエレヴィンは、自分達を受け入れてくれたのが嬉しかったのか、アルと目を合わせて微笑みあっていた。

「……私達を受け入れてくれて、ありがとう。私達は、……」


すっかり怒りを忘れたエレヴィンは、今までの事を俺達に話した。
それは、こんな話だった……
※此処から少し長文です。今のうちに目の休憩、心や飲み物の準備、お手洗いに行っておく事をお奨めします。




ある日エレヴィンは、この廃墟の裏で目を覚ました。
しかしその時、彼女は既に死んでいる筈だったのだ。
何故なら、彼女の身にある事件が起きたから
その事件が元で、彼女は死んでしまった筈、と。
その事件の事をハッキリ覚えていた彼女は、自分は死んだ筈なのに何故意識があるのか、とその場で考えていた。

そこへ、一人の少年が現れた。
フードで顔が見えない、温厚な態度の少年……そう、あの少年の事だろう。

彼は、エレヴィンに話し掛けた。
不思議なのは、その話の内容……
「突然だけど……君は今日から特殊な幽霊だよ。人の力で、君はもう一度命を授かったんだ。生き返った幽霊……とでも言っておこうかな」と。

初対面で、彼女自身も知らない事を彼女に教える少年。
エレヴィンは彼を不審に思ったが、彼が指を指した地面に目を向けると、自分が電灯の光を遮っている筈なのに影が出来ていない事に気付いた。
そこで、自分が幽霊である事を悟った……

そして、事件の事や幽霊になった事で不安定を募らせる彼女に、あの少年はこう言ったそうだ。
「……幽霊である事を苦と捉えてばかりでは、その心が壊れるのも時間の問題。幽霊の力と服を貸したげるから、早く慣れちゃうと良いよ。」
それだけ告げると、彼は去っていった。
新品の巫女服と『霊力の使い方』なる本を置いて……


エレヴィンは焼け焦げた服から巫女服に着替え、『霊力の使い方』を何度も読み、その日の夕方までかかって霊力を習得した。
……のは良かったが、彼女は腹を空かせていた。
一応は幽霊という事になっているが、正しく言えば「生き返った」幽霊。
つまり、生きているのと同じなのだ。

彼女は、何か食べる物は無いかと探し回った。
しかし、例の事件の影響で、廃墟付近の店は全滅していたため、結局は夜になっても食べ物が見つからなかった。
歩き続けて、ようやく人の多い都心に着いた時も、「お金が無いなら何も売れない」。
道行く人は「あの人、影が出来てないよ……?」「お化けかもなー!」
おかげで、周りからは『ゴーストだ』と怖がられ、近付く者は居なくなった。
彼女は、ろくに人前に出る事すら出来なくなったのだ。


途方に暮れて歩く満月の下、心も胃袋も寂しがっていた。
そんな中、空で何かが眩しく光ったのだ。
見上げれば、そこには巨大な光の翼が見えたらしい。
その光は、暗がりの道の向こうへと降り立った。
何事だろう、とエレヴィンは追いかけてみた。
しかし、彼女が到着する前に光の翼は空に戻ってしまった……

翼の着陸した場所にエレヴィンが到着した時、そこに居たのは気絶したアルだった。
当時は二人とも初対面だったが、エレヴィンはそんな彼を心配して傍に寄り添った。
身体を揺らし、声をかけ、また身体を揺らし……
そして、エレヴィンの努力のおかげで彼は目を覚ました。

アルは、彼女に対してこう言った。
「助けてくれたんですね、貴方は誰ですか……?」
彼女は、相手にエレヴィンと名乗った。
目を覚ました相手に、『起きて良かった』という意を込めた目線を送りながら。
すると彼は、自分はアルだという自己紹介と共に、こんな独り言を呟いた。

「姿だけじゃなくて、名前までそっくり」

エレヴィンはその言葉が気になったが、敢えて訊ねなかった。
誰にでも、思い出したくない事や言いたくない事はあるのだと、身をもって知っていたから。



アルが意識を完全に取り戻した後、二人は路地裏の物陰に隠れて座っていた。
人目に出れば、「確かアイツはゴーストだ」「アイツなんてサイボーグだぞ」と避けられ、囁かれる。
そんな自分達は、この先どうやって食料を調達するべきか……
エレヴィンは、それをひたすら考えていた。

その結果、霊力を使って壁をすり抜け、冷蔵庫の中身を奪う作戦を思い付いた。
それを使って、今日まで生きてきた……



「……という事。食べ物を奪ってごめんなさい……」

エレヴィンは話を終えると、頭を下げて謝罪した。
アルも、エレヴィンの真似でもするように暫くしてから頭を下げる。

この空気を纏めようとしているジャンが居たような気がしたが、
そんなジャンの出番を奪って借りて俺が纏めた。

「気にすんなって、そんな事より食料は?

アルとノゼライが苦笑い、ジャンは冷たげなジト目で此方を見てくる中、
一番納得のいかなかった反応……
それは、エレヴィンが放った言葉。

「あー……ええと、目を離した隙に野良猫に持っていかれて、その……」







え?





「マジかよおおおっ!!!!!」



サザロス は めのまえ が
まっくら に なった ! ▼






































……嘘です。

絶望の淵に追い込まれた俺は立て膝を付き、暗いオーラを放っていた。
そしてノゼライも、ジャンも、アルも、エレヴィンも、
俺を見て微妙な雰囲気に浸っている。
もう、俺の腹も限界だ……サ ヨ……ナ   ラ ……




なんて事を呟いた、次の瞬間だった。


「おいおい、食い物なら此処にあるだろうが。
レトロでモダンな人気者、天下一のおでんがよォ!!」


ー続くー



※作者は、ポケモン株式会社様やtwe'lv様とは何ら関係は有りません。