廃墟前


廃墟から漂う生臭さを気にもせず、俺は戦う。
相手はサイボーグ……どんな攻撃をしてくるか、分かったもんじゃない。
しかし、それでも俺は剣を構えて走る。
何故なら……

「俺は……!」

「腹が減ったんだああああっ!!!!」

「戦う理由そっち!?」

見事に突っ込まれたが、俺の言葉は正論だろう。
なんせ時間は既に真夜中、ご飯が恋しくなる頃。
奪われた食料を一刻も早く取り返したいと言うのに、こんな所で邪魔をされては、腹が減るばかりだ。
それに、銃口を此方に向けてくるような奴を素通りする事は、常識的に考えて出来ない。
避けては通れぬ戦い、という事である。

「じゃあ放っといてくれれば良いじゃないですか!」
相手は、此方に向けた銃口にエネルギーを溜めている。
一見は回避不能に見える相手の右手だったが、よく見ると狙いが定まっていない。


もう一回言うが、
銃口を向けてくる奴なんて素通り出来ない。そして、銃口を向けてきたのは紛れも無く相手。
向けてきた本人に言われても、そうはいかないのだ。

やがて、相手の攻撃が始まった。
「くっ……黒鉄の討伐者(クロムバスター)!」
相手がベタ過ぎる技の名前を叫ぶと共に、光の銃弾が襲いかかって来る。
狙いは定まっていないが、そのせいで弾が何処に飛んで来るかすら読めない。
それでも俺は剣を構え、相手に向かって走る。
……と、次の瞬間に見た物は、高速で迫る光。とうとう正面に飛んで来た恐怖の攻撃……
一か八か、俺は光を弾き返そうと剣を振りかぶった。
そこへ……

「危ないっ!!」

突然、俺の前の地面に亀裂が入り、氷の壁が現れた。
氷の壁は光弾を受け止め、粒となって降り注ぐ……
恐らく、後ろのノゼライが助けてくれたのだろう。
そう察した俺はノゼライの方を向いてみた。
彼女は安心したように息をついていたが、俺と目を合わせると微笑みを浮かべた。
駆け寄って来たノゼライと一緒に、再び光を避けながら走る。

そこへ、軽い身のこなしで攻撃を避けていたジャンも加わった。
「サザロス。剣で斬る以外の攻撃は使えないのか?」
なんだ、嫌味を言いに来たのか……
……と思っていたが、次いでジャンは語り続ける。
「悪魔と戦った時に思ったんだが、お前は火を起こす事だけに縛られてないか?」

火を起こす事だけ……どういう事なのだろう。
確かに俺は、火を発生させる魔法が得意なのだが、それ以外の属性魔法を使えとでも言っているのだろうか……
そんな事を考えながら、そして遠かった相手との距離を縮めながら、ジャンの話に耳を貸す。

「こんな魔法を使おう、ってイメージがあれば、何とか……よし。『流れ星』をイメージして魔法を使ってみてくれ」
「流れ星を?……よし、分かった!」

ジャンのアドバイスを貰った俺は新しい魔法を期待し、全速力で間合いを詰めた。
一気に攻め上がった俺に動揺した相手は、皮肉にもエネルギーのチャージを止めてしまう。
これはチャンスだ。あとは魔法が成功するかどうか……

「今だ……喰らえっ、俺の新しい技!」

僅か数メートルしか離れていない相手に向けて、俺は己の腕を振り降ろした。
もっと強い魔法を使える事を望みながら。




そしたら、どうなったと思う?



……そう、成功したのだ。


振った腕の軌道から放たれた、人の顔程の火の玉。
向かって来る火の玉を、相手は右手で弾こうとする。
「ぐぅっ……うわあああっ!!」
堅い腕にぶつかった火の玉は、その相手の硬度には負けなかった。5メートル程度だけ吹っ飛んだ相手は、うつ伏せの状態で倒れたままだ。

この勝負……俺達の勝ちは確定したのだ。
俺はトドメとして、もう一度腕を高く上げる。
新たな魔法……『炎の星屑(スターダストファイア)』の構えだ。

そんな俺を見て恐怖した相手は、叫び声をあげる。
「あ、ああっ……うああああああああっ!!!!」

……ちょっと攻撃する気が退けた。
なんせ、トドメを刺す相手が泣き叫ぶのだから。
そこへ、ノゼライが俺の攻撃を止めるよう言った。

「……やめたげて。」

彼女は俺に近付き、振り上げた俺の腕を降ろさせる。
その目は、何故か悲しげだ。何を思ったのだろう……







「アルから離れろっ!!!」


「何だ?………って うわっ!!?」

何処からか聞こえた怒声に驚いていた俺は、何者かに突き飛ばされた。
まさか不意打ちされるとは、思ってもいなかった……
廃墟の壁に勢いよくぶつかった俺は、背中を擦りながら立ち上がる。

「いっててて……何なんだよ!」
「お前こそ何だ!アルが何かしたか、アルに何の用だ、私を怒らせようとでも言うのか!!!」


凄まじい怒りを露にしている相手……だが、驚くべきは怒りの度合いなどではなかった……
それについては、既にジャンが気付いていたようだ。

「サザロスを攻撃したアイツ、何か変だ……!」
顔を歪めたジャン。
何かあるな、と思った俺も相手をよく見てみた。
『アル』と呼ばれた少年サイボーグの前に立つ相手は、俺達と歳の近そうな少女だった。
その服装は昔、アポロンズフィールドに旅行へ来ていた『巫女』と名乗る人が着ていた物と同じ……巫女服、とでも言うべきか。
そして肩の辺りまで掛かる茶色い髪、黒い目。

ここまで見ると普通に見える。だが……



電灯の光を背中から受けていると言うのに、地面に影が出来ていない

この特徴から察するに、相手は……





「ほ……本物の幽霊だああああっ!!!」



廃墟の上


「よし。これも成功、と……」
サザロス達を廃墟の屋根から見詰めるあの少年
彼は上機嫌そうに鼻を鳴らせば、独りこう呟いた。
その顔は深刻さを物語っているような陰を秘めていた。

「問題はあの二人か……上手い具合に合流するかな。」

独り言を残せば、彼は街の方へと目を移した。
よく見ると、静まった街から微かな光が漏れている。
それを見るなり、彼は再び柔らかい表情になった。
「さて……おでん食べてこよっと。」


最後に言葉を吐けば、彼は一瞬にして姿を消した……



ー続くー
最終更新:2012年06月09日 15:49