ドリーム&メモリーズ21(20121211)


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真っ暗闇の空間で、パピメルは目を開ける。
黒猫のぬいぐるみがパピメルを飲み込んで、どれくらい経ったのだろう。
(手足が……)
いつの間にか、手足は拘束されている。
手錠や足枷などではなく、周りの壁と同じ黒い何かがパピメルの四肢を捕らえて離さない。
(ティーチとエールではないと言っていた。だったら、あの人たちは一体……?)
パピメルが手足を外そうともがくが、拘束されているその何かが緩むことはない。
(魔獣……魔獣と言っていた)
パピメルも魔界や魔獣の話は聞いたことがある。
合成師としての知識を得るために魔女とその力の存在を知る時、それに反する魔界の存在も一緒に知るからだ。
(魔獣……)
俯きながら考えて
「グリーン、ブレイド?」
無意識に口から漏れたその言葉に、パピメル自身が驚いて顔を上げた、その時だった。
突如音もなく、目の前に現れた扉から黒く変化した二人が現れた。
二人が扉から出ると、その扉は再び音もなく消えていった。
現れた二人、黒く染まったティーチとエールを睨みながらパピメルが言う。
「あなたたちは……一体何者なの?」
「「……」」
すると消えた扉の代わりに、その場に姿見が現れた。
パピメルが飲み込まれる前にあの場にあった大きな鏡。
パピメルは映っていた桃色の髪と瞳の自分を思い出す。
その様子を見て、目の前の二人が静かに言う。
「グリーンブレイド。あなたは今、確かにそう言ったわ」
「君はどこかで覚えているんだ。昔の自分を……」
「昔の、過去の私?」
パピメルが顔を上げると鏡には壁に捕らわれている自分の姿が映っている。
が、次の瞬間鏡面がスライドしてそこに映っていたものが切り替わった。
そこに映ったのは――幼い姿の自分を抱えて泣く、姉のフラメルと隣で悲痛な表情をしている兄のクレイル。
「姉さんと兄さんと……わたし……」
その鏡の片隅には、白い帽子と、草の上に散らかった鮮血が見えている。
(その、白の帽子は――)
パピメルの理解が及ぶ前に、その映像は消えてしまい、再びその場の景色を映すただの鏡面に戻った。
「私は……どうしてこうなったの」
変わらず、パピメルに向けて怪しい笑みを浮かべたままの二人に問う。
最初に口を開いたのはエールだった。
「かつて私たちは、グリーンブレイドによってあなたの中に仕込まれたの」
「仕込まれた……?」
続けて、ティーチが言う。
「そう。君の成長と共に、ゆっくりと確実に僕たち魔獣が復活の時を迎えるために」
明かされる真実にパピメルの思考が追いつかない。
忍び寄る恐怖が、パピメルの周囲を取り囲む。
「じゃあ……魔獣グリーンブレイドは、ずっと私の中に……?」
パピメルが小さく呟いたその言葉を、ティーチが拾う。
「正しくは、<グリーンブレイドから生み出された別の魔獣>ですがね」
「魔界の門が開いたら、こちらの世界であなたは一番早く魔獣となるのよ。好きなだけ暴れていいわ」
「そう。やがて門から現れる仲間のためにも、魔獣となった君には周囲を整えておいて欲しい」
「……整える?」
「邪魔する者は全て消せ、と言う事です」
「あぁ、もう少し話がしたかったけど……ごめんなさいパピメル。もう時間がないの」
「門が開くまであと少し……最後に僕たち二人が君を取り込めば終り」
暗闇の中で、二人の真っ赤な瞳がさらに光を増す。
「最後に僕らの本当の名を教えておきましょう。僕の名はチート。君を騙した」
そう名乗った「チート」の身体が溶け出し、やがて一つの黒い塊になった。
「私の名はライ。あなたに嘘をついた」
同じく名乗った「ライ」の身体も溶け、塊は鈍い音を立てて地面へ落ちる。
やがて<二人の塊>が一つに集まり、引きずられている様に動いてパピメルへ近づき
「「さようなら、パピメル」」
そう言って、パピメルを取り込もうと、形を変えて大きく広がった。
黒い絶望が少女を襲う。
それを見ていたパピメルの心は、既に感情を閉ざしていた。
目の前の光景をただ一方的に見つめる。
これから、自分の身体が魔獣となる。
そうなってしまったら、この身体はどうなるのだろうか。
最早何もかもが手遅れだった。
広がったそれに包まれ、痛みもないまま自分が消えていくのを、目を瞑って過ごそうと諦めた、その時だった。
「―――――」
誰かの声がパピメル耳に届いた。
聞き覚えのある優しい声。
それと同時に瞑っていた瞼を通り抜ける程の眩しい光がパピメルに届く。
諦めて閉じていた瞼を、ゆっくりと開くと、そこには白い女性がいた。
いつの間にか拘束は解け、真っ暗だったその空間が真っ白な空間へと変化している。
取り囲んでいた絶望は、最早微塵も気配を残していなかった。
「……ごめんね、遅くなって」
広がる真っ白な空間の中、パピメルの目の前の人物が言う。
「あ…………」
うまく声が出ず、返答できない。
パピメルはただ、空から来た女神の様な、その白い姿に目を奪われる。
聞き覚えのある声が、パピメルの脳内を駆け巡った。
そして
「久しぶりね、パピメル」
自分の名を呼ばれ、それを引き金に言葉を発したが
(お、かあ、さん)
その一言は口から出ず、喉の奥で止まった。
パピメルが目の前にいるその女性の姿を思い出す。
いや、覚えている。
何度も抱きしめられたその細い腕。
何度も頭を撫でられたその綺麗な手。
甘えても甘えても、それでも甘え足りなくて困らせたりもした。
あの頃……まだ小さかった頃も、自分はそんな風に呼んでいたのだろうか。
<大好きだった、母親を>
違う。
あの頃、自分が呼んでいたのは――
「ママッ!!」
絶望で凍りつき閉ざされていたパピメルの心が溶け、母親に強く抱きしめられた温もりは、パピメルの瞳から大粒の涙を溢れさせた。
「覚えていてくれてよかった……おかえり」
娘を抱きしめる母の瞳からもまた、止まることなく涙が流れていた。
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