ドリーム&メモリーズ6(20121211)


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クレイルが父の事を、父と過ごした子供の頃の日々を思い出す。
目の前にいる父、3人の子を持つマグナは、顔や髪などの見た目は、現在ここまで成長したクレイルとほぼ同年代に見える。
身体に老化が見られないのは、体内に流れる魔力の影響があるからだろう。
クレイルは、父の両親についての話を聞いた事はないが、マグナが持つ魔力量や魔術の能力は何かしらの魔女の恩恵を受けていたのでは、と考えていた。
少なくともイヴと出会う前には錬金術の研究をしていたはずであり、合成師としての術の使用は不可能だったと思われる。
マティリア家は、<過去何世代にも渡って魔女たちとの関係性を築いてきた>との記録もあるので、クレイルが察するにマグナの母親か、もしくはそのさらに過去には魔女と何かしらの関わりを持っていたに違いなかった。

少しずつ、クレイルが知っていた父の記憶を取り戻していく。
だが、それでもまだ、現在目の前で起きている家族団欒(だんらん)の光景ははっきりと浮かんでこない。
クレイルに覚えがあるのは、この場でこれから起きる惨劇。
それが事実であるのであれば、父の側で微笑む母には、これから死が訪れる。
その悲劇は、どう足掻(あが)いてもこの場にただ立つことしかできないクレイルには回避できないものであった。
視線の先で父親に撫でられる<子供の頃の自分>を見て、クレイルは思う。
記憶を取り戻したが、運命が変わったわけじゃない。
だが、記憶していたその内容に父であるマグナは登場していなかった。
(だとしたら、何故……? 僕はどうして父の事を記憶していなかった?)
すると、幼少期の自分が父の手を引いて森を指差しながら言った。
「母さん、僕は父さんと一緒に森の中を見てきます」
「仕方ないな……。イヴ、すまんがあいつが到着したら待たせといてくれ」
クレイルに引っ張られながら、マグナがイヴに言う。
「えぇ、わかったわ。二人とも気をつけるのよ」
「はい、いってきます」
(父さんと一緒に、森の中へ……?)
マグナが言った「あいつ」とは、友人であるラウロスのことであろう。
記憶が正しければ一緒にレオルスもやってくるはずである。
森の中へ入っていく父と子を見てクレイルは焦燥(しょうそう)する。
(――!? 父さんは襲われる母さんとパピメルを守っていなかったのか!?)
そうとは知らずに、マグナとクレイルは楽しそうに森の中を奥へと進んでいく。
(待ってくれ……! それはダメだ! これから家族が襲われる……!)
たとえ変えられない過去だと分かっていても、抵抗せずにはいられなくなる。
これから、この場所で母が消える。
妹は魔獣の傷を受け、髪と瞳が変色してしまう。
そして、その場には父は「いなかった」と言う事になる。
(だめだ! すぐに戻――)
次の瞬間、クレイルは立っていた森の入り口から森の中へと移動させられていた。
(くそッ……!)
<自分が見ていない記憶の現場には存在できない>と言うことだろう。
自分が見ていた、正しい記憶をなぞる様に、抵抗もできずに幼少期のクレイルと同じ場所に飛ばされる。
クレイルは父と並ぶ幼少期の自分の後ろに立ち、自分では足を動かさずにただ二人の進行を見守っていた。
(…………)
しばらくして、二人は森の中心部へと到着した。
すると、マグナが歩くのを止める様にクレイルの肩を掴む。
「変だな……」
「父さん?」
「ここに1本、デカい木があったはず――」
その瞬間だった。
突然、二人の目の前の空間を裂いて翠色の<何か>が飛び出した。
(魔獣グリーンブレイド!? やはりその力で強引にこちら側に……!)
それを目にするクレイルより早く、マグナが息子を咄嗟(とっさ)に庇いながら後退する。
「クレイル! 今すぐ森を出て母さんの所へ戻れ!」
やがて翠色の何かは、割れ目をさらに抉(こ)じ開けてその顔を見せた。
空間を裂いていたのは、姿を現した「それ」の刃と化した右腕である。
いつの間にか薬品武器を複数手にしていたマグナがそれに投げ、刃物化させた武器を持って得体の知れないその存在に飛びかかった。
「……!」
父の行動を目にし、指示通りすぐに背を向け走り出した幼少期のクレイルに連れて行かれる様に、それを目にしていたクレイルも森の外へと引きずられる。
後方では、強力な魔力同士がぶつかり、吹き飛ぶ音がした。
そして圧倒的な負の魔力が後方からクレイルを追う様に波動となって訪れる。
(父さんが……押されている……!)
少年は必死に外へ向かうため、気付いていない。
姿を現した魔獣が圧倒的な力でマグナを吹き飛ばし、その隙を付いて上空に飛び出した事を。
そして、ついにその時が訪れた。
森の外へ走る少年が入り口を目にして一安心した時――魔獣グリーンブレイドが一瞬にして森の木々を飛び越えて、急降下した先、母のイヴにその刃を突き刺した。

「母さん! ……?」
少年の目の前、そして今もう一度それを目にしているクレイルの目の前で、母のイヴに翠色の刃が貫通している。
(…………父さんは、止められなかったんだ。魔獣の進行を……)
唖然とする少年を無視して、クレイルは無意識にその魔獣に向かって全力の魔力を注いだ薬品武器を投擲(とうてき)して攻撃する。
鋭く、長身の刃物となったそれが魔物を突き刺し、だがそれは空しく魔物を通り抜けて消えてしまう。
「え……?」
目の前の光景を理解できない少年のクレイルから声が漏れる。
イヴが娘を助ける為に、同じく立ち尽くすフラメルに向かって叫ぶ。
「離れてっ……フラメル、……ッ! 早く!」
(パピメル……!)
叫ぶ母のすぐそばには、フラメルに支えられながら気を失っているパピメルの姿があった。
その首は既に魔刃の傷を負っている。
やがて訪れた髪と瞳の色の変化に、泣き叫ぶフラメル。
クレイルが走り寄った所で、イヴの優しい声と魔力の光が周りの時間を止めて兄妹へ響く。
「バシリス・クリシ――」
クレイルが記憶していた詠唱と同様、そう唱えたイヴの身体に爆発的な魔力放出が起きる。
そしてその魔力を注ぎこまれた魔獣の右肩までが吹き飛び、消え去った。
「GUAAAAAA!!」
叫ぶグリーンブレイド。
クレイルが記憶していた内容であれば、ここで魔獣は森へ引き返すはずだった。
ところが、魔獣はその場で体制を立て直す。
衝撃で傾いた身体を筋肉質な二本の太い足が支え、残っている左手でイヴへと襲い掛かった。
だが、その手はイヴに触れる事はなかった。
魔獣の攻撃からイヴを守る様に広がって攻撃を受け止める真紅の防護壁。
「くたばり損ないがッ……! 人の嫁に手ェ出してんじゃねーぞ!」
そう叫びながら森の入り口に立っていたのは、腕と顔に傷を負ったマグナだった。

(父さん!?)
それは記憶を失っていたクレイルが知らない光景だった。
イヴの背後を守っていたのは、マグナのコンポジションウェポンズが発生させた盾。
その真紅の盾がグリーンブレイドの攻撃からイヴを守る。
気付いた兄妹が助けを求めて父へ叫ぶ。
「パパ!」
「父さん!!」
「――――!」
その声が届く前に、魔術を使用して一瞬で距離を詰めたマグナが、刃と化した二本の薬品武器で魔獣の両足を突き刺した。
「GAAAAAA!」
(早い……!)
記憶にない光景のため、クレイルもその動きを知らない。
マグナは目で追えない程の高速移動を行いながらも、正確な動作で魔獣の両足を同時に仕留めていた。
(母さんは、まだ生きている……! これなら――)

クレイルはいつの間にか<何かに期待>していた。
自分の知らなかった記憶、光景の中で<生存する両親を妄想>して、願ってしまっていた。
運命と過去は変わらない。
クレイルは改めてそれを肯定することになる。
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