秘境の魔女13(20121109)


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全身が翠色で身長は約二メートル、逆立つ髪の毛に血管の浮き出る身体、背中には二枚の翼を持ち、真っ赤な瞳は仕留めた獲物を凝視している。
先ほどまで幸せに包まれていた家族の空間は、一匹の翠色の魔獣によって粉々に破壊されたのだった。
クレイルの気配に気づき、魔獣の瞳が動く。
その瞳を見て、少年は一つだけ理解した。
この獣は魔力が強い母を最優先にして狙ったんだ、と。
今この場で母の次に魔力が強いのはクレイルだ。
魔獣が刃を引き抜こうとしたその時――
「……させない……!」
小さく言葉を発したイヴが自分の身体を貫通しているその翠色の刃を両腕で押さえる。
魔獣が腕に力をこめるが、華奢なイヴの両腕が押さえ込む刃は、不思議なことに微塵も動かすことが出来なかった。
刃と化した片腕を押さえ込まれた魔獣は当然身動きを取れない。
「いや……」
突然声を上げたのは恐怖のあまりその場に座り込んでいたフラメル。
「あぁぁぁッ!!」
だが、フラメルのか細い声をかき消すように、続けて叫び声を上げたのはパピメルだった。
「パピメル!?」
妹の叫び声を引き金に、クレイルは自分の足が何かの呪いから開放されたかのように感覚が戻るのを感じる。
妹たちのもとへ全力で走り寄り、動けないフラメルの変わりにパピメルを抱きかかえた、その時だった。
クレイルが触れたパピメルのうなじには、先ほど彼を襲ってきた魔力と同じ波動が発生している。
すぐにそれを確認すると……首の後ろに浅く、だが確かに魔獣の刃による翠色の傷があった。
「まさか、斬られたのか!?」
クレイルの問いに声を上げることもなく、目を閉じたパピメルの小さな身体から力が抜ける。
必死でパピメルの身体を支えるクレイルは、困惑し焦燥に駆られていた。
ところが、少年に追い討ちをかけるように、抱きかかえた妹の頭部に変化が訪れる。
「!? そんな……!」
再度、目の前の出来事を信じられなかった。
もはや信じられない連続的な出来事を拒絶したかったともいえる。
傷跡と同じ翠色が、妹の髪と瞳を染めていく。
魔界の魔力を帯びた刃で斬られた傷がもたらしたのは、魔力による侵食だった。
フラメルの目の前で、自分とお揃いだった桃色の髪色は容赦なく翠色に変色していく。
「や、だ……! パピちゃん! パピちゃん!!」
クレイルの隣で気絶したパピメルに触りながら、フラメルが必死の思いで泣き叫ぶ。
その時――辺り一帯を異なる魔力の波紋が襲った。
白金に輝く魔力の波動。
放ったのは目の前で魔獣を捕らえていた母のイヴだった。
その場の兄妹以外、魔力を受けた一帯の全ての動きが減速する。
クレイルが抱きかかえる腕の中でその波動を受けたパピメルの髪色の侵食も減速し、止まる。
不思議な現象の中で「大丈夫」と、耳ではなく頭の中に直接囁きかけてきた声は、優しい母の声だった。
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