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先に仕掛けたクレイルに向かって、レッドデスサイズは地を蹴った。
もはや魔女に目をくれず、目の前の強力な魔力を押しつぶそうと大鎌の獣が襲い掛かる。
クレイルの掌(てのひら)が、レッドデスサイズの右腕の鎌を受け流し、同時に繰り出してきた左手の巨大な拳も受けて掴んだ瞬間、異なる種類の魔力のぶつかり合いは、激しい突風を発生させた。
どちらも引くことはなく、交わった拳はどちらに傾くこともなく、やがてお互いを後方へ吹き飛ばした。
二本の足で地面を削りながら再び体勢を立て直すレッドデスサイズ。
クレイルは瞬時に地を蹴り、空中へ浮遊する。
翼を一回、二回と羽ばたかせ、ゆっくりと着地して、レッドデスサイズに触れた掌を確認して呟き
「父さんの魔力……僅(わず)かだけど感じる」
強く握り締める。
「母さんの魔力を守れたのは父さんがグリーンブレイドを消したからだ……だが、最後に残った父さんの魔力はお前が手に入れたんだな」
クレイルは怒りを自ら抑制し、父のことを思う。
「父さん、だから残ってしまったのか」
魔獣に魔力を奪われる事になった父親。
もはや身体は存在しないが、父の最後の魔力をあの魔獣が自由に使っていることは許せない。
それは自分が救い出さなければいけない。
家族として、フォローしなければいけない、と考えた。
「もう子供じゃないんだ。僕たちは大丈夫」
クレイルは静かに両手両足へ魔力を込める。
運命を決めたグリーンブレイドと言う魔獣は時を経て、レッドデスサイズと言う宿命に姿を変え、目の前に立ちはだかる。
「あなたの出来なかったことは、僕が成す!」
クレイルの魔力はさらに爆発的な増加を見せた。
帯びる力はとうに魔女のそれを超越している。
無言で飛びかかり、いくつものフェイントを繰り返して接近するクレイルを、ついにレッドデスサイズはその目で捉えることが出来なくなる。
クレイルがレッドデスサイズの背面を捕らえた、その時だった。
一直線に向かったクレイルの正面から、森の中で待ち構えていたはずのアンドッグが押し寄せる。
その瞬間に合わせ、レッドデスサイズは身体の向きを変えてクレイルを視界に捉える。
「――!」
レッドデスサイズの狙いがはっきりと理解できるその一瞬の時の中、クレイルは引くことが出来なかった。
今ここで静止して、アンドッグの相手をすれば瞬時に大鎌がクレイルを狙う。
なら、その身を魔界の犬たちに噛み付かれながらも、レッドデスサイズへの一撃を狙ったほうが効果はある。
止まることないクレイルを見て、地を蹴ったレッドデスサイズ。
アンドッグがクレイルへと触れようとしたその刹那――
「エフニディアズモス・マイア!!」
魔女たちの声と共に、五つの光がクレイルの周囲のアンドッグを襲った。
ネツァクの放った草の根が勢いよくアンドッグたちに絡みつくと、ゲブラーはそれに火を放って、対象と共に燃やす。
根が燃えつき、開放された対象を、ビナーが拘束して再び動きを奪い、身動きの取れないそれをケセドが水の刃で切り刻む。
一瞬遅れてティファレットが放った光が、跡形もなくアンドッグたちを消し去った。
「周りは気にしないで。あなたはそれだけに集中すればいい」
光り輝く魔術が通過していく中、クレイルは落ち着いたティファレットの声を耳にしたのだった。
放たれた光の中、消え失せたアンドッグを見て一瞬動きが止まったのはレッドデスサイズだった。
対象がアンドッグなのかそれとも自分か、どちらを狙っているのか不明な状態で、気にせずその光の中に飛び込むことは難しかっただろう。
だが、クレイルは違う。
魔女たちの攻撃は寸分の狂いもなく、クレイルの周辺だけを攻撃するのだと、言葉を聞かずとも理解していた。
やがて光の中から無傷で飛び出したクレイルは、一瞬の硬直で止まっていたレッドデスサイズの大鎌を掴み取り、その腕に容赦なく魔力を注ぎ込む。
大鎌が抵抗する暇も与えず、瞬時にそれを折り、砕いた。
(浅い……!)
クレイルの行動を読んでか、大鎌を引かずに左腕の拳を振ったレッドデスサイズの行動で、クレイルが破壊しようとした鎌は、先端を折る程度しか破壊できなかった。
鎌の先端を地面に投げ捨て、再びクレイルは距離を開ける。
「GUU……」
折れた鎌を見て、レッドデスサイズが小さく呻(うめ)き声を上げ、
「UUUU……GAAAAAAAA!!!」
そのまま大きく身を反らして咆哮(ほうこう)すると、自らの右腕に力強く噛み付いた。
(何をする気だ……?)
だが、クレイルが躊躇(ちゅうちょ)する必要はない。
再度飛び、追い討ちをかける様に距離をつめると、レッドデスサイズは腕から口を離し、その先端が欠けた大鎌を、足元から地面を削り取るように上空に振り上げた。
だがそのスピードは遅く、クレイルは直前で停止すると、後方へ避けてそのまま空へと浮遊する。
どれほどの力で腕を噛んだのか、振った動きと同時に黒い血液までもが空中に舞う。
その光景を上から見ていたクレイルの左足を、突然の衝撃が襲った。
「なっ!?」
『クレイル離れろ!』
呼びかけたテンペストの声で、クレイルはもう一度羽ばたき、さらに距離を置く。
左足は何かの攻撃を受ける直前、テンペストが防いでくれていたが、それでも鈍く痺れる様な感覚が残っていた。
まともに受けていたら、足が無事では済まなかった可能性がある。
「テンペスト、助かった」
『礼はいい。それより気をつけろ。やはりあの鎌、別の意思を持っている様に動くぞ』
そう言われて、大鎌を見てようやくその攻撃の正体に気付いた。
砕いた鎌の先が再生して、それがクレイルに届いた訳ではない。
折れた先端からは血液ではなく、赤黒い魔力が溢れ出ている。
それは右腕の鎌の何倍もあり、レッドデスサイズの腕に合わせてムチのようなしなやかな動きをしているが、触れれば確実に傷を負う、鋭利な姿をしていた。
そう考察を続けていたクレイルに向かって、レッドデスサイズは地を蹴って飛ぶ。
長時間浮遊できる力はないため、クレイルが上れば距離はすぐに開けられるように見える。
だが、レッドデスサイズの振った大鎌をよけた後、側面からはその伸びた魔力がクレイルに襲いかかった。
「間合いが――!」
防ごうとしたテンペストのシールドは間に合わず、クレイルの左腕と左翼を、その鎌から伸びる魔力が傷つけた。
斬られながらも、クレイルはすぐに距離を置く。
レッドデスサイズはその一振りを終えて、すぐに地に着地する。
突如開いた攻撃範囲の差。
『鎌を避ければあの追撃を受ける。だが鎌を防ぎながら接近するのも難しい』
テンペストのその言葉をクレイルが聞いた、その時だった。
「クレイル!!」
空へ向けて投げられた二本の試験管。
クレイルがそれを片手で受け取る。
「使えよ! それが最後だ!」
「レオルス……」
浮遊するクレイルに、所持していた最後のコンポジションウェポンズを投げ渡したのは、静かに戦いを見守っていたレオルスだった。
「ありがとう」
クレイルはそう言って、二本の試験管を両手に並べ、一気に砕いた。
「バッカ! おい! 最後のだって言ってんだろうが! 無駄使いすんな!」
だが、レオルスの心配をよそに、クレイルの両手からは一滴の液体も落ちていない。
ゆっくりとなぞる様に、クレイルが指でその液体を限界まで伸ばしていく。
やがてそれはクレイルの背丈と同等の長さとなり、最後に上から覆った魔力によって、一本の刀となってその身を輝かせた。