悪魔達の侵略19(20130104)

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シールドを破ったレッドデスサイズは、止まることなくティファレットへ迫る。 ところが、容赦なく振り下ろしたその腕の大鎌がティファレットに触れる前に、何かを察知して停止した。 「テンペスト! 撃て!」 シールドを破られたのを見て、声を上げたのはクレイルだった。 魔女たちのシールドが突破された場合に備えて、自分の隣にテンペストを待機させていたのである。 テンペストが放った魔力は一筋の光となり、ティファレットの真横を通過してレッドデスサイズへ直撃する。 だが、その攻撃を察知していたレッドデスサイズは、その大鎌で正面から攻撃を防ぎ、押し戻されながらも耐え凌(しの)いだ。 「受け止めた!? 一体どれほどの力を持っているんだ……!?」 「助かったわ、クレイル!」 驚きを隠せないクレイルにティファレットが声をかけ、間髪いれずに次のシールドを繰り出す。 四人の魔女も、すぐにティファレットに加勢し、シールドは再び状態を取り戻した。 「ティファレット! このままじゃ押し負けるぞ! どうする!?」 体制を取り戻し、再びシールドを破壊しに迫るレッドデスサイズを見て、ケセドが叫ぶ。 「せめてあの子達だけでも帰さなきゃね……全員全力でシールドだけに魔力を使って!」 ティファレットの声で、魔女たちの繰り出すシールドは、さらに強固なものに変化した。 「パピちゃん、大丈夫?」 フラメルがそっと、パピメルへ声をかける。 「…………」 「お、おい。大丈夫かよ……?」 無言のパピメルを見て、思わずレオルスも心配そうに言う。 目の前で起こる激しい戦闘。 光景は違えども、それはパピメルが幼い頃に目にした巨大な魔獣と魔女の戦い。 パピメルの脳裏に、悲劇の光景が再び蘇る。 テンペストの放った攻撃は魔獣を消すに至らず、攻撃を受けたことでさらに荒ぶったレッドデスサイズが再び魔女たちを攻撃している。 もしこのまま長引けば、あの光景が再現されてしまうのではないかと、パピメルに不安がよぎる。 魔女たちがシールドを再び展開してから数分、その不安は徐々に現実へと近づいてきたのだった。 シールドが再び破壊され、もう一度魔女たちが体制を立て直そうと全員がレッドデスサイズを攻撃する。 だがその攻撃を物ともせず、魔獣は前進を続ける。 その時、パピメルの隣でフラメルが呟いた。 「ママ……?」 「?」 パピメルがフラメルへと目をやると、突然、フラメルが持ってきた魔導書と絵本を取り出して地面へ広げる。 すると本は、その場で浮かびながら眩い光を放ち始めた。 「姉さん、これ……」 「今、ママがここにいた様な……そんな感じがしたの。だから急に気になって……」 フラメルの言葉を聞いて、パピメルがそっと本に触れながら言う。 「今、この本が反応しているのって、ママの力なの?」 「ママが仕込んでいたってことなのかな? 叔母様なら使えるかも」 フラメルとパピメルがお互い顔を合わせて頷く。 勝利が約束されたわけではないが、救えるかもしれない。 姉妹はすぐにそれを手に取って、クレイルとティファレットの元へ走った。 三度目のシールドを張り、手加減することなく魔力を注ぎながら耐えるティファレットは、後方から近づいた懐かしい魔力の存在に、思わず振り返る。 「イヴ姉さん……?」 だが近づいてきたのは姉ではなく、姉の娘二人。 フラメルとパピメルが、本を手にティファレットの元へ走ってきた。 この状態で何を考えているのかと、ティファレットは声を荒げた。 「だめよ! 下がっていなさい! 傷つけるわけには――」 と、そこまでティファレットが言い放ったその時、フラメルとパピメルが持つ二冊の本は、激しく光を放った。 姉妹がそうしたわけではなく、本が勝手に地面へと落ちる。 二冊の本の間には一枚の白い羽根。 その羽根がティファレットへと触れた瞬間――小さな魔方陣が一つ、ティファレットの足元に発生した。 「イヴ姉さんの力……!?」 その魔方陣からまるで白い炎が燃え盛るように強力な魔力が発生し、ティファレットから発生していたシールドを補強していく。 瞬く間に、魔女たちのシールドは強靭な魔力で保護されたのだった。 「あなたたち、いったいどこでこの本を……?」 驚きを隠せないティファレットが姉妹に言う。 「気づいたら、部屋にあったんです。でも、きっとママが助けるために用意してくれていたんだと思う……」 「そうね、ありがとう。あなたたちも助けてくれて」 ティファレットが姉妹に微笑みかけながら言うと、フラメルとパピメルは、ティファレットにうっすらと母の面影を感じて微笑み返した。 ティファレットは、すぐに姉妹を自分から距離をとらせる。 フラメルとパピメルがそれに従い、再び距離を置いたのを確認すると、幾度となくシールドへ攻撃を繰り返してくるレッドデスサイズへ向けて、魔女たちが攻撃を開始した。 シールドへの魔力を使用しない分、魔女の攻撃魔力はより一層強力なものへと変化している。 ところが、レッドデスサイズは魔女たちの攻撃に正面からぶつかり、弾き飛ばした。 「ビナー! 駄目か!?」 「操れない。こんなの始めて」 ビナーが放つ魔力は、レッドデスサイズに届く前に、相手から放たれる魔力に相殺されて消えてしまう。 「こっちも相性最悪だねぇ、ヒヒ。炎は効かないってか」 ゲブラーが放つ炎は、レッドデスサイズを燃やすことなく、その体の表面で消えてしまう。 「くっ……長く拘束できる相手じゃないわ……!」 ネツァクの魔術による拘束も、一瞬しか動きを止めることができなかった。 「あの鎌さえどうにかできれば……!」 ケセドの魔術によって切り裂こうと、水を刃にして放つが、レッドデスサイズの鎌はそれを全て打ち消した。 本体とは別に、鎌自体に強力な魔力が備わっている。 自動防御にも等しい正確な動作で、鎌が本体を守護する様に動く。 「ティファレット! もう時間がない! このままじゃ開きっぱなしの門から次の魔獣が来てしまう!」 叫ぶケセド。 「ヒヒ……お前がそのボウヤを守りたいのは分かるが、本人の意思も大事なんじゃないかね?」 ケブラーのその言葉に一瞬ティファレットの表情が硬くなる。 「叔母様……?」 クレイルがゲブラーの言葉を聞いてティファレットを見る。 すると、ティファレットは観念したように、一本の瓶を取り出し、呟いた。 「……そうね、全てお母様の言うとおりに……」

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