秘境の魔女27(20121109)

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うつ伏せていたフラメルは、何かの気配でうっすらと瞼(まぶた)を開ける。 「う、ん……?」 パピメルの傍で目を閉じ、昔を思い出しながら少しだけ眠ってしまっていたことに気付いて、今度は瞼をはっきりと開く。 フラメルもクレイル同様、母の最期を目の前で見ている。 幼かったフラメルは母が消えたその後、何日も泣き続けた。 夢の中で鮮明に再生された遠い記憶はあの日の涙まで再現させ、目尻から溢れ出た涙は音も無くフラメルの頬を伝う。 (泣いてたってしょうがないじゃんか……!) その場に立ち上がり、勢いよく袖で顔を何度も擦る。 「パピちゃん、大丈夫だよ。お兄ちゃんとレオ君がきっと何とかしてくれるから」 目を覚まさない妹にそう言いながら、パピメルの額にあるタオルに触れる。 すでに取り替えてから時間が経っていたので、タオルが温くなってしまっていた。 そのままそれを手に取り、再度冷水につけてパピメルの額に乗せる。 そこでフラメルは、起きる直前に気付いた気配の事を思い出し、入り口へ顔を向けた。 部屋の入り口には大きな本棚が置いてあり、中には隙間も無いほど大量の本が詰まっている。 フラメルが取り出した本をどんなに雑に置いても、次の日にはパピメルによって整理され、綺麗な本棚に戻るという、姉妹共用で使用しているものである。 その本棚から、落下したと思われる二冊の本が床にあった。 (誰かが部屋にいた?) 急に不安を感じて部屋を見回してみるが、部屋にはフラメルと眠っているパピメルしかいない。 フラメルが恐る恐る落ちていた二冊の本を手に取ろうとしてしゃがんだ、その時だった。 「わっ!」 唐突に、一冊の本がフラメルの目の前で開いて浮遊する。 目の前で起きた現象に思わず声を上げる。 ぱらぱらと開いたページの中には、魔女が記した謎の文字が羅列されている。 「これ……ママの本……?」 フラメルがその文字を目にして、それが自分の母親の物であると判断したのは直感的なものだった。 ゆっくりと上下する本の下に手を添えて本を受け止める。 もう一冊も動き出すかと思い、触れることに躊躇するが、何も起こらなかったので左手で持ち上げて裏返し、表紙を見てみる。 「これはちっちゃかった頃にパピちゃんがいつも持ってた絵本、かな?」 白い表紙には可愛い動物たちが描かれている。 ページの中には紙で作られた動物が折り畳まれていて、ページを開くとそれが立体になってページ上に飛び出す仕掛けが付いている絵本である。 フラメルが絵本を本棚に戻そうと、本棚へ目を向けると (変だ……) 目にした先にある本棚には、隙間無くびっしりと本が詰まっている。 もちろん、この二冊の本が入っていたはずの隙間が見当たらない。 仕方なく、二冊の本を持ってフラメルが再びパピメルの元へ戻ろうとしたところで、外から羽ばたく翼の音と同時に大きな影が家のすぐ近くへ降下してきた。 それを目にしたフラメルは、持っていた本をベッド脇の椅子に置いて玄関へ走る。 急いでドアを開けると、そこにはラストテンペストから降りる二人の姿があった。

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