秘境の魔女26(20121109)

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「見つけたは見つけたんだけどよ、これどーすれば……あちち!」 今度は実ではなく、枝を素手で掴んで無理矢理引っ張ろうとしたが、レオルスは再び悲鳴を上げて手を離した。 果実の特性を知っているクレイルから見た、レモンに翻弄されるレオルスの姿は何とも滑稽(こっけい)だった。 「それに素手で触れるのは、流石に危険でしょう」 「枝でも無理だし、どーすんだよこれ……持ち運べるか?」 触れた手から熱を飛ばす様に、腕を振りながら言うレオルスの前で、クレイルが徐に水筒を取り出す。 「魔力を帯びるティアラレイクの水は、水温が変わりません。ここにレッドホットレモンを入れてしまいましょう」 クレイルが水筒と一緒に取り出した小さなナイフでレモンを枝ごと切り取り、直接水筒の中に収める。 とぽん、と水の中へ果実が落ちる綺麗な音が響いた。 高温のレモンが落とされた水筒の中、ティアラレイクの水は全く変化を起こさなかった。 水温は湖で採取してから一度たりとも温度を変えていない。 「……それ、先に言っとけよ」 レオルスが明らかに不機嫌な顔で、火傷した手をさすりながらクレイルを睨む。 「フフ……果実の特長を聞かれませんでしたから、知っているのかと」 クレイルが水筒の蓋をしっかりと閉じ、笑いながら言う。 言ってから、自然と笑みを浮かべたことを悟られない様にレオルスに背を向けた。 クレイルは今、自分でも完全に無意識に笑んだのである。 パピメルが倒れ、家を出てから精神を張り詰めっぱなしだったクレイルは、ここまで何かに追い詰められる様に行動していた。 妹を救う為にと切迫してくる焦りは、彼がいつも持つ心の余裕さえも封じて、がむしゃらに行動させていた。 クレイルとは正反対の性格のレオルスが見せる可笑しくて一生懸命な行動は、本人からすれば大真面目であるが、それを見るクレイルの心には少しだけ余裕が生まれてきていたのである。 (ありがとう) 心の中で一言だけ呟く。 レオルスの行動を馬鹿にしたのではない。 焦るだけでは何も解決しない。 そう自分に言い聞かせて、クレイルは静かに水筒をしまう。 「……何だよ? 急に黙り込んで」 「いいえ、何でも」 「まぁ、とにかくこれで残りの素材はあと二つだな」 その通り、とクレイルが頷く。 「一旦家へ戻りましょう。任せてきてしまったガーネットハーブも気になりますから」 「OK、じゃあ入り口で!」 そう言いって、レオルスが魔術を使って山を駆け下りる。 クレイルも同じ魔術を唱え、レオルスを追う形でティアラレイクの山を下りていった。

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