秘境の魔女2(20121109)

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一瞬の空白時間を得て、二人が到着したのは特に珍しくもない小さな田舎町だった。 「……ここが?」 レオルスが家の扉や屋根から飛び出る煙突を見ながら呟く。 「<秘境の魔女>とは、よく言ったものです。あの木々は結界。この小さな町が魔女たちの住処です」 周辺には何件もの民家が立ち並び、町の周りにはこの場所を守るように木々が囲っている。 結界を越えるまで何の存在も感じなかったことから、その一本一本がこの町の魔力を外に漏らさないような特別な力を持った木なのだろう。 レオルスが何となくそんなことを予想してから、思いついたようにクレイルに話しかける。 「じゃあ、ここにお前の母親の……って、おい! 囲まれてるぞ!」 「言われなくても」 レオルスが言葉を発した時点で違和感に気付いたのは言うまでもない。 二人は一瞬にして、とてつもない量の魔力に囲まれていたのである。 レオルスも合成師の中では比較的強い魔力を持っている方だが、その魔力をあざ笑うかのように、周辺を力強い魔力の流れが通過していく。 彼の身近な存在で、自分の父親とクレイルは自分よりも魔力量が多かったことを認めている。 それ故に、自分よりも魔力量があるクレイルに対抗心を持つ。 彼がクレイルをライバル視する理由の一つだった。 ところが、クレイルと同等、もしくはそれ以上の魔力量の存在に周りを取り囲まれているこの状況は、レオルスにとって初の体験であり、今までにない緊張感を彼に与えていた。 左右を警戒しながらも、圧倒的な魔力に思わず息を飲むレオルス。 空間を移動して到着したこの場に、出口はなく、前にも後ろにも地面が続いているだけで今の彼らに逃げ場はない。 そんなレオルスの前で、クレイルは平然とその魔力に立ちはだかる。 「…………」 自分では太刀打ちできない魔力同士の衝突を目の当たりにするレオルス。 それは悔しくも、今の自分には到底敵わない、クレイルという男との力の差なのである。 一方、クレイルは押しつぶされそうな魔力量に対して引け目をとることもなく、身を守るように抵抗魔力を放って辺りを見回していた。 先に動いたのは二人を周りを取り囲んでいたその<存在>たちだった。 音もなく一瞬のうちにして、彼らの前に姿を現す。 大きな帽子で頭部を隠し、その頭部から流れるように長く美しい髪が地に垂れている。 胸元と肩は露出し、女性らしさを演出しているが、代わりに下腹部から脚部へ向けて大きく広がる重厚なドレスがその女性らしさをかき消して、見る者を威圧する。 手に持つ魔力を帯びた箒が相乗して、彼女たちの存在感をより一層引き立てていた。 姿が確認できているのは、赤・青・白・緑・黒の五人の魔女。 クレイルがここに来る目的だった存在――色によって自身の力を区別している、秘境の魔女たちである。 「――ッ!」 魔力は、使い手によっては不可視の力で対象にダメージを与えることも可能である。 魔女たちはクレイルとレオルスを侵入者として構え、完全に排除する対象として魔力を放っている。 何の構えもなしにその場にいたレオルスが気圧されるのも仕方がない。 動じないクレイルに対し、魔女たちがその力をさらに強めようとしたその時―― 「待って」 魔女の一人、五人の真ん中にいた白い魔女が片手を挙げて他の魔女を制止した。 その合図で放たれていた魔力が収まり、レオルスはようやく呼吸を正常に戻す。 合図を送った白い魔女が、一歩一歩静かにクレイルに近づく。 「あなたまさか、クレイル?」 その問いかけに、クレイルは片膝を地面につき、ゆっくりと頭を下げて言った。 「初めまして……ティファレット叔母様」

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