食事とヒトアミラーゼ遺伝子コピー数多型の進化

背景

  • ヒト亜科の進化は重大な食事のシフトにより特徴付けられる
  • スターチは特に重要である
  • AMY1遺伝子は著明なコピー数多型を示す

結果

唾液中アミラーゼレベルとAMY1 CNV

  • 50人のヨーロッパ系アメリカ人のAMY1遺伝子コピー数をqPCR法で調べ、顕著な多様性を認めた。
  • 同じ患者群の唾液中アミラーゼレベルを調べるためprotein blotをおこなったところ、コピー数と唾液中アミラーゼレベルはp<0.001の相関を認めた。

集団間でのAMY1 CNV

  • ヒト集団を高でんぷん食集団と低でんぷん食集団にわけた。低でんぷん食集団の主な栄養源は肉や血液からのタンパク質や、果物、蜂蜜、牛乳からの糖分である。
  • 3つの高でんぷん食集団、4つの低でんぷん食集団について調べた。
    • 高でんぷん食集団とは、ヨーロッパ系アメリカ人(n=50)、日本人(n=45)と、狩猟採集民のHadzaハヅァ人(n=38)。
    • 低でんぷん食集団とは、熱帯雨林の狩猟採集民であるBiakaバァカ人(n=36)、Mbutiムブティ人(n=15)、そして遊牧民のDatogダトーガ人(n=17)、遊牧と漁業を行うYakutヤクート人(n=25)である。
  • 平均AMY1コピー数は高でんぷん食集団で高かった。
  • AMY1コピー数が6以上であるのは高でんぷん食集団で70%を占めるのに対し、低でんぷん食集団で37%にすぎなかった。
  • qPCR実験の結果を確認するためFISHを行い、結果は一致していた。

AMY1 CNVが異なる理由

  • AMY1 CNVの集団間パターンは地理的な遺伝的浮動モデルでは説明できないと考えられた。高でんぷん、低でんぷんの各集団にアジア、アフリカ双方が含まれているからである。これはnatural selectionによる違いであると考えられる。
  • ただし、ここまでのデータだけでは結論できない。
  • そこで、whole genome tile path (WGTP)プラットフォームを用いたarray CGH (aCGH)によりnatural selectionを受けていないと考えられるCNVと比較し、genetic driftであるという帰無仮説を棄却しようと考えた。これはRedonらの以前の研究で用いられたのと同じものであり、本研究の日本人集団はまったく同じ集団であるからその研究のデータをそのまま使用し、Yakutについて新たにaCGHを行った。リファレンスのゲノムも前回の研究と同じものを用いた。aCGHでは、array上26574箇所のBAC cloneとの結合について、リファレンスとのrelative intensityのlog2 ratioをとる。
  • まず、aCGH法でのAMY1コピー数がqPCR法と強く相関することを確認し、aCGH法でも、集団AMY1コピー数の平均値は日本人で高かった。
  • AMY1遺伝子上にマップされた二つのクローンは明らかに他のクローンと比較して外れ値を取り、AMY1コピー数の違いは遺伝的浮動の範囲であるとする帰無仮説は棄却された。
  • 別の日本人集団と同じヤクート集団を用いたマイクロサテライトの解析と比較しても、AMY1コピー数の違いは全分布の97%をこえる部分にあった。
  • AMY1 CNVの違いはnatural selectionによるものであると考えられる。

AMY1 CNVの違いはpositive selectionである

  • AMY1 CNVの違いは高でんぷん食集団においてpositive selectionであり、低でんぷん食集団ではneutralであったと考えられる。
  • 唾液中アミラーゼレベルが高いことが高でんぷん食環境において環境にfitする理由はいくつか挙げられる。
    • でんぷん食の消化のほとんどは口でかみくだくことによって得られるということ
    • 下痢のときにでんぷん食は口で消化することが決定的な役割を果たすこと
      • 下痢は現在でも5歳以下の死亡の原因の15%を占める!
    • 口のアミラーゼは嚥下により胃や腸に残り、膵アミラーゼと共同作業すること

進化のコンテクストにおけるAMY1 CNV

  • チンパンジー(Pan troglodytes)の調べた15検体すべてでAMY1 copyはtwo diploidしかなかった
  • ボノボ(Pan paniscus)ではチンパンジーよりもコピー数が多かったが、シークエンスを調べるとnon-functionalであると予想された
    • したがってヒトは少なくともチンパンジーの3倍のAMY1コピー数をもっており、ボノボにおいては唾液中アミラーゼ分泌がないものと思われる。
    • 唾液中アミラーゼレベルは、ヒトではチンパンジーにくらべて6-8倍高いという観察が既にあることと一致する。
  • チンパンジーやボノボは果実食であり、ほとんどでんぷん食をとらないことと一致する。
  • 新世界ザルはやはり唾液アミラーゼを分泌しないが、オナガザル(旧世界ザルでマカク、マンガベイを含む)は比較的唾液アミラーゼ分泌が高い。
  • AMY1 CNVが増えたことによりヒトはいもやくきといったunderground storage organsを食するようになった。
    • これによりホモ・エレクトゥスがアフリカに誕生し、アフリカの外に出て行くのに重要であったと考えられる。
  • ヒトリファレンスゲノムの3つのAMY1遺伝子コピーのヌクレオチド配列の違いはほとんどなく、最近の進化であることを示すと考えられる。ただしgene conversionの可能性も考えられ、容易に推定することはできない。
最終更新:2007年09月18日 23:49
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